※千歳と金太郎
世間がバレンタインデーでチョコの数=モテるステータスだと喚く中、自分もチョコを貰っていた。母と妹、クラスから数人、多分知らないけれど学年も違う人からも。知らないのだけど朝ロッカーを開けたら入っていたのだ。けれど、貰っても嬉しくない。こんな事を言ったら世間の男に背中から刺されそうではあるのだけど、それでもはっきり言って嬉しくないのだ。だって、自分には恋人がいるのだから。昔なら喜んでいたのかもしれないが、今は違う。恋人と言っても、そんなにそれらしい事などしていない、友人、後輩の延長線上の地点にいる。数ヶ月前から恋人と呼べる関係になって初めてのイベントだった。そして期待もしていたのだけど。
「千歳!見てみて。わい今日こんだけ貰うたで!千歳は??」
「あーうん…そんなになかとよ、金ちゃん…」
「千歳、機嫌悪ない?」
「そんな事なかとよ、金ちゃん。」
ただ、現実に幻滅してるだけだ。この目の前の少年、遠山金太郎は、自分の恋人ではあるが悲しい事にイベント毎に何かをするという事は皆無だったのだ。寧ろ、されて喜んで騒いで終わりだ。現に、彼は貰ったらしいチョコレートを抱えてにこにこしている。しかも何気に彼は人気らしい。手に溢れている数が彼の手の中にはあるのだ。そして、恋人としてのイベントを色恋を知らない無垢な13歳の彼にそれを求めるのは酷なのかもしれない。それでもやはり恋人なのだからと空想しても予想しても良いだろう、と思う。テニスには通用しても自分の恋愛には才気煥発の極みは全く意味を成さなかった。それでもこのゴンタクレが好きなのだ。(重症、ていうことばい、といつだったか桔平が自分と金ちゃんを見て言っていた)
「…金ちゃん…むぞらしか」
そう言って自分よりも一回りも小柄な彼の体を抱きしめた。彼らしく高い温度が伝わってくる。その体温をじかに触れたいし溶けあえればどんなに幸せなのだろうかと思うけど、それはまだ早い。まだ時期ではない。時期が早い時にそうしたらきっと彼は壊れてしまうのではないか。そんな程に心配で未だに彼とは抱きしめるだけ、手を繋ぐだけの可愛らしい関係に留まっていた。最も、夢の中では何度も何度も其れ以上のことをしでかしているのだけど、そんな事を知られて怖がられるのは不本意だし、彼にはゆっくりと知って行って欲しいのだから。そんな事を考えていたら彼がもぞもぞと身じろぎをしてよっしゃ、と呟く。
「…千歳、あんな、目閉じてくれんか?」
「え、いいけど…」
唐突に彼から言われて目を閉じると唇にぷちゅと可愛らしい音がした。これは、と目を開けると其処には彼の髪色に負けない位の顔色をした彼が其処にはいた。
「き、んちゃん…どうしたと?」
「光が言っとった。もう大分経つんやからキス位当然やろって…やから、わい!…んっ」
こんなに可愛い彼に気使わせてしまったようで。そっと抱きしめて気、使わしてしまったみたいでごめんと言う彼に我慢出来なくて気付けば彼にキスをしていた。貪欲な程に幼い唇を食んで、舐め上げてぎゅうと抱きしめた。
最高のバレンタインに
取り敢えずナイスなアドバイスをした後輩には御礼をしなければ、と思い後日、甘味のお菓子をプレゼントしたらにやりと笑われた。
END
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