※アリババと白龍
※甘くならなかった上に中途半端です
※捏造
「白龍くんは料理は何が出来るんだい?」
シンドリアに来て何回目かの食事の時だったかそれを尋ねられた。シンドリア国王シンドバッド王に。何故そんな事を聞くのか不思議だったけれど、もしかしたら彼の国王は何かを考えているのかもしれないと思って、ありのままを応えた。
「俺は、姉白瑛から己で出来るようにとある程度の事を教えて貰いました。料理は一通りは可能です。ただし、俺の住んでいる地域のものに限ります。」
「そうなのかい」
「…ですが、教えて貰えれば甘いものもいくつかは」
そう控えめに言ったのは少しだけ懐かしい思出が蘇るからだ。まだ父上も兄上も生きていて、まだ自分は青く馬鹿だったあの頃のことだ。
「なぁ!だったら白龍も作れるのか?チョコレート菓子」
今まで黙って食事をしていたアリババ殿がそう食いついて来て何事かと彼を見ると彼は期待に満ちた目を向けている。
「―あの、どういう…」
「ああ、煌ではそういった風習がないのかもしれないね。僕も初めて聞いたんだよ!明日はチョコレート菓子を貰える日なんだよ!」
「アラジン違うだろ!」
「??」
「白龍、明日は色んな人が世話になってる人とか好きな人とかにチョコレート菓子をあげる日らしいんだ。白龍はどうかなって思ってさ」
どうやらシンドリアでは何かイベントがあるらしい。真面目すぎるとは煌の神官である彼の言葉だが、どうやら自分はイベントに疎い。けれど留学しているのだから文化も体感してみなければと思うもののそもそもチョコレート菓子が何か分からない。あとで調べてみようと目の前の薫製に意識を集中させた。幸い、まだ午後の時間はあるのだ。
+++
「あら、白龍ちゃんじゃないの。どうかしたのかしら」
「忙しい中すみません」
「いいわよぉ。どうせ私なんて与えられた任務なんてないもの。」
「…紅玉殿はチョコレートというものをご存知か」
彼女は女官や召使いの女性に囲まれている(武人としても彼女は皇女なのだから当然だ)のだからもしかしたら知っているのかもしれないと聞いてみた。彼女は自分が料理を出来るのを知っている。くすりと笑ってまた新しい料理を作るの?と教えてくれた。
「出来上がったら私にもちょうだいよ?」
「ええ。」
簡単なやり取りをして、厨房の一角を借りてアリババ殿の言うイベントに間に合う様にチョコレート菓子の制作が始まったのである。
+++
「白龍皇子、本国から文書が届きましたよ」
声を掛けられたのはもう夕刻に近い時間で時間の流れはあっという間だなとつくづく実感しながら頷く。何とか形にはできたものの、これがいいのか悪いのか分からず小分けに分けて南国の果物の干し物を上から散らしたものを包んで籠にしまった。
「白龍、風呂にいくぜ!」
かりかりと手紙の返事を書いているとアリババ殿が入って来る。相変わらずだなと思いながら頷いて道具を手にして向かうと何かに気づいたらしい、彼がくんくんと犬のように鼻をひくひくとさせている。
「アリババ殿?」
「ん〜なんか白龍から甘い匂いがすんだけど…」
いつももしてるけど今はもっともっと甘い匂いがする、なんて何か聞いてはならないような言葉を聞いた気がしてフリーズする。
「あー、我慢出来ない!」
「へ?うわっ!」
気づけば彼が自分を抱きしめていた。その甘い匂いをくんくんと嗅いでいる彼の吐息が予想以上に熱くてどきりとした。うわ、これは予想以上だ、と心の中で叫んでいた。
「は、アリババ殿っ、も、いい加減にっ……ひゃっ」
「…あっ、悪い!」
苦笑い気味の彼は漸く拘束を解いてくれる。でも心無しか顔が赤いような気がした。どうかしたのかと尋ねれば彼は熱いからだよと訳の分からないテンションで風呂のある方へ走って行ってしまった。
時々彼の謎のテンションには未だに慣れない。慣れようとは思わないけれど、彼の側にいるアラジン(本当に神官殿とは真逆のようなマギだ)殿は吃驚しないのだろうかと青髪の少年を思い浮かべたのだった。
+++
「さ、今日は男共へ私たちからのチョコレートよ!心して食べなさいよ!」
「心してっつーか、去年と同じじゃねーか!」
翌日の夕方に、八人将であるヤムライハ殿とピスティ殿が可愛らしい籠からチョコレートの入った箱を皆に配っている。どうやら八人将の中ではこの日は女性がチョコレートを振る舞う日らしい。いつもは魔法魔法と言っているらしい彼女も今日ばかりは甘い匂いを纏っている。昨日は自分がそうだったのだろうなと思いながらもきょろきょろしているアリババ殿へと向かう。
「アリババ殿」
「おっ、白龍お前どこに行ってたんだよ」
「少々所用がありまして。…これをアリババ殿に」
差し出したのは本当に一口大の菓子だ。此れなんかをこんなイベントの日に配るなんてと少々申し訳なさが襲う。けれど失敗をしなかったのがそれしかなかったのだ。他のは形が納得いかなかったりで上手く行かなかったのだ。
「…うわぁ、すげぇ!」
「そんな大げさですよ」
「でも、俺どんなのよりもお前のそれが一番だと思うから!」
にっこり笑う彼にああ、敵わないなと笑みを浮かべたのだった。
END
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