※マギ
※転生ネタ
※アリババと白龍
「本当は、もっともっと貴方と話もしたかったと言ったら貴方は信じて下さいますか…?」
「は、白龍…!?なに、そんなこと言うんだよっ」
それじゃまるでこれが最後みてぇじゃねぇかよ、という彼の背後はごうごうと炎が燃えていた。これが俺の最後か。友と思える様な彼に最後を見てもらえるならそれでもいいかもしれないと、迫り来る死の足音にそっと、瞳を閉じる。
「はくりゅ、行くなよ!」
「泣き虫なのは俺で十分です。だから、幸せな世界を築いて下さい。アラジン殿、彼を支えて下さい…俺が言うのもおかしな話かもしれませんが…」
「うん、約束するよ。アリババくんは僕が支えるよ。だから、お兄さんもアリババくんを見守っておくれよ」
そう言う彼の言葉は優しく身に染み渡る。まるで暖かい温もりに包まれているかのような感覚だ。彼の言う通り、復讐に捕われなければもう少し生きていられたのかもしれない。それでも、十分すぎる程に自分は生きたのだ。兄二人が命をかけて生かせてもらったその数年後も十数年後も生きているのはきっと彼らのお陰で。ただ、残念なのは二人と父を殺した母を殺せなかったことだ。それでもいい、きっと目の前の彼らが自分の代わりに終焉を与えるだろうから。
「白龍さん!しっかりしてください!」
「そうだよ、モルさんだって皆君が笑うのを楽しみにっ」
「―本当は、モルジアナ殿のお子さんを見てからにしたかったのですが、俺はやはり弱かったのかもしれませんね…」
初恋だった彼女は今は美しく戦士としてシンドリアに貢献している。今はふっくらと膨らんだ腹部には彼女と彼女の師匠でありながら八人将の彼との間に出来た新たな命が宿っているという。ああ、もう力が持たない。ごめんなさい、アリババ殿。本当は俺は貴方が憧れだったんですという心の告白を最後に意識は次第にフェードアウトしていった。
+++
「アリババ!朝だぞ起きろ!」
「カシム、痛いっての!」
「俺は女じゃねーんだからそんなに優しく起こせねぇし。大体、お前の母ちゃんだった似た感じだろ」
「う…でも、マリアムは優しかったじゃんか!」
「マリアムはな。けど年頃の男の寝起きをやらせる程俺は腐ってねぇからな」
「とんだシスコン野郎だな、カシム」
分かったらとっとと起きろ、という従兄弟の声に重たい腰を上げた。部屋の外からは彼の妹である彼女と母親の会話が聞こえて来る。あの夢の後にはそれが少しだけ優しく聞こえる。
あの夢。炎、赤、血、木、薙刀、喧噪。火傷の顔の少年。夢はずっと見続けている。今回はやけにリアルで声もしっかり聞こえた。いつもはあんな光景でなくて顔の見えない少年と稽古したり冒険したりする夢だった。不思議な感じがしつつも、朝ご飯を食べるために支度をする。朝は食べないと駄目よとはマリアムの言葉だ。マリアムは横にいるカシムの妹で長いこと闘病生活だったが数年前に完治している。カシムとマリアム、アリババ、母。それがこの家の風景だ。カシムの親はカシムが幼い頃に事件に巻き込まれて亡くなっている。元々、そうなっても仕方ない親だったんだとカシムは言う。借金塗れの生活をしていたらしい。それでも今は全うな生活をしているのは今通う学校の教師である彼のお陰なのだろう。
「そういや、アリババ。今日新しい転校生やってくるんだぜ、知ってたか?」
「―何で知ってんだよ」
「ピスティ先輩が教えてくれたぜ」
「あの人一体何処からそんな情報入れてるんだろ。…あ、やべっ時間ない!」
「急げ、アリババ!」
「分かってる!行ってきます!!」
校門の前には生徒指導の教師が立っている。真面目な顔の青年。ジャーファル先生だ。にっこり笑いながらもう少し早く来なさいねという。二人して頭を垂れながら校門を潜ると顔なじみの連中がいた。
「よぉ、アラジン」
「あ、カシムくん。ね、知ってるかい?今日転校生が来るんだよ」
うきうきと言ったような顔の彼にカシムが朝のやりとりをする。すると彼は僕はもっと凄い情報があるよとにっこり言う。
「おい、チビ何してるんだよ」
「あ、ジュダルくん!ね、あの話は本当なのかい?」
「あ?」
「転校生の話さ」
「ああ、今日の転校生は、俺の親戚だって事か?」
にやりと笑いながら言う。ま、親戚だからって親交があった訳じゃねーけどなと彼は笑う。その時チャイムが鳴り、皆で急いで席に着席すると後ろからのそっと入って来たのは教師であるシンドバッド先生だ。普段は真面目で男女共に人気の先生である。…が、たまに羽目を外すらしくそれは酷い有様という噂だ。
「あーみんな席についてるか?」
「シンドバッド、ついに視力までいかれちまったのかよ」
「ちょっと言ってみただけだろ!全く…あ、転校生が来たんだ、皆仲良くするように!どうぞ。」
皆の視線がその人物へ集まる。其処にいたのは顔の半分が変色した少年だった。全体的に肌の白い、少年。その時見えたのは、あの夢の光景。まさか、とどくりとする。
「はじめまして。練白龍と言います。以前は煌学園にいましたが一身上の都合によりこちらでお世話になる事になりました」
ぺこりと一礼をする仕草が夢の中の少年と重なる。どくどくと心臓が五月蝿い。どうしたんだろう、こんなの初めてだ。
「席はアリババくんの隣だ。…いいね?」
「…はい」
「宜しくお願いいたします、アリババ殿」
その言葉の温度も声の早さも全てがあの夢の少年の発する声のそれと同じで、信じられないくらいに少年の事が愛しくてたまらなかったのだ。
(…生まれ変わったらどうか俺を友としてみてくれますかと囁いたあの少年の笑みと同じ笑みで彼は笑う)
あの夢の少年にずっとずっと触れたかった。ずっと話したかったのだ。
「ああ、宜しくな、白龍」
「ええ」
にっこりと笑みを浮かべて彼の手を握った。
END
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