※ 黒子と黄瀬
※ バレンタイン的な話
※ 捏造
そもそも、黒子テツヤと黄瀬涼太の通う学校は離れていていて当日中に会うなんて事は部活のエース級ともなれば厳しいものがあって、それは不可能でしょうねと言われていた。けれど、それでも当日に会って話したかったんだと言えば相手は怒るのだろうか。
誠凛高校の校門の前でいつものメンバーがハードな部活動を終えて出てくるのを待つ。とはいえ長時間ではそうそうなくてコチラも部活動があって速攻で電車を乗り継いでやってきたので(今日は部活が珍しく早く切り上げになったのは幸運だった)そんなに長い時間を待っているという訳でもなかった。それでもきっと、とバックに入れた正方形の立方体の物体は産まれて初めて自分で作ったものだった。
「あら、黄瀬君じゃない。どうかしたの、って聞くのもおかしいわね。黒子君ならまだ体育館にいるわよ」
もう顔を覚えられている監督に声を掛けられて、ついでに目的の人物の居場所も教えて貰って礼を言いながらその体育館へ向かうことにした。そろそろ通行人の視線が自分に集中しているのに気づいて来た。一応自分はモデルであって紙面を飾る人間であるのでやはり女性で知っている人物もいる訳なのだ。
「…黒子っち!」
はやる気持ちを抑えきれずに叫ぶと其処にいたらしい在校生の女性が悲鳴を上げる。不審者ではないと知っているようだったけれど、それでも見られた事に恥ずかしさはあるらしくてちらりとコチラを見て走り去って行く。
「…あー黒子っち、ごめん。お邪魔だったみたいッスね…」
そりゃそうだ。彼だって高校生だし、それなりに恋愛だってしたいお年頃だろう。彼が気づかないだけで彼は女子からも人気もあるのだから。
「―別に、お邪魔なんかじゃありませんよ。黄瀬君、ちょっと待っていて貰えませんか」
今しがた帰る支度をしたばかりという彼はどうやら戸締まりの鍵を持っていて。当番だったのかと思う。けれど、じゃあさっきの女子は?そう思うと良くない方へどんどん考えが進んで行く。待たされている間も、もしかしたら女子からのは黒子っちへの本命チョコじゃないのかとか。告白されたんじゃないかなんて考える。
そう言えばいつもセットでいる火神っちがいない。どうしたのだろうかとキョロキョロしていると身支度を終えたのか黒子っちが火神くんならもう帰りましたよ、という声がする。
「おわ、吃驚したっすよ〜一緒じゃないなんて珍しいッスね」
「ああ、家族から連絡が入ったみたいで、配達を受け取りに早めに帰りましたよ」
そう言えば彼は帰国子女のアメリカ育ちの青年なのだった。バレンタインでもなくても家族から仕送りがあるのだろうかと思っていると下からくいくいと引っ張る力を感じてみると彼がじっとこっちを見上げている。
「黒子っち?」
「黄瀬くん、部活は大丈夫だったんですか」
「あー今日は早めに終わったんで、こっちに着いたのがちょっと前だったんス」
いつもだったら黒子っちの帰った頃担ってたスね〜と言えばそれでだったんですねと1人で納得した彼はそっと手を差し出して来た。
「チョコ、ください」
「え?」
「黄瀬くん、知らないかもしれませんがー」
ごにょごにょと耳元で言われてくすぐったさを感じていると彼はべろりと舌を差し込んで来た。突然のそれに驚いて腰が抜ける。それに気分をよくしたらしい、彼はそのまま甘噛みしてくる。これは、この流れはよくない。慌てて立ち上がろうとするものの彼の案外強い力で敵わない。
「黄瀬くんのどこもかしこもチョコの匂いがするんです」
そう言えば昨日仕事がぎりぎりまであった所為もあって作業を終えたのは朝に近くて急いで寝てしまったのだ。そして今日の部活も終わった後はシャワーも浴びずに来たのだ。はっと恥ずかしさで身体が熱くなる。
「―で、でも、黒子っちさっき女の子から貰ってたじゃないッスか」
だったら、男の俺なんかのチョコはいらないんじゃないんスかと言えば、彼ははぁとため息を付きながらさっきの包みを出した。其処には、小さなメッセージカードとして宛先の人物の名前が書いてあった。Dear T.Kagamiと書かれているそれにはっとして見れば彼は分かりましたかと言ってそっと手を握って来る。
「僕は相棒へのチョコを預かっただけですよ。それに僕が欲しいチョコは黄瀬君からのものだけですよ」
そう嬉しそうに言う彼に敵わないとそっとその箱を差し出した。味なんかの善し悪しは分からない。もしかしたら口に合わないのかもしれないという不安が押し寄せて来る。
「―目的も果たせたので、帰りましょう」
「え?」
「だって、黄瀬君の手作りのチョコを食べるのは黄瀬君の前で僕の部屋で食べたいので」
幸運な事に金曜日はそっちもこっちも部活は休みですからと言った彼はそっと優しく唇にキスを落としてくれたのだった。
君からのチョコしかいりません
END
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