※テニス
※宍戸と日吉
※氷帝の学校システムに捏造あり
中学を卒業したのは少し前なのに大分前の様な気がしているのは、自分だけかもしれない。それだけに、この部活の風景が別の物に見えていた。高校へエレベーター式なので中学の部活動の報告も割と直ぐに耳に入ってくる。だけど、やはり見たり聞いたりというそれだけでは心許なくて結局実際の風景を見る為に岳人とジローで行ったのだ。跡部にも誘いはしたのだが、俺様は忙しいんだよで一蹴された。だが跡部はあれでいて実は世話焼きだ。どうせどこからか様子を見てるのだろう。一年前は跡部がいた定位置に今は日吉がいた。与えられた練習だけでなく日吉自身が考えたメニューも組み込まれているようだ。そして終盤には日吉や他のレギュラーメンバーと部員同士の試合をしている。勿論、部長である日吉も加わる。成長してんだなと、日吉を見ながら思う。
「なぁ、日吉あんなに柔らかく笑う奴だったか?」
岳人が不思議そうに言う。ちらりと日吉を見ると最初の頃とは違って柔らかい笑みを浮かべていた。けれど、それは別に変わらない笑顔だと思う。いつだって見ている笑みそのもの。自分だけが知っている、笑みを。
「別に変わらねぇだろ、」
「そうか?」
首を傾げながら言う岳人には悪いがやはり恋人の長い間独占していたその笑みを見られるというのは想像以上に詰まらないし、ムカついた。確かに、この前のデート(とは言ってもお互いにテストが近くて何処かの店に行くなんて無理で結局若の家の部屋でテスト勉強になったのだが)の時に部員が遠慮している様に感じるのだと相談を受けた時に笑えとは言ったが。やはり言うんじゃなかった。そう思いながらも、汗を拭う若に踏ん張れよと声を掛けてやればいた事におどろいてそしてふ、と笑った。その顔が酷く恋人としての顔で、どくりと肌が粟立つのを感じた。そういえば彼とは恋人らしい事など御無沙汰だ。今日、彼の前で聖人君子でいられるだろうかと不安になりながらそのラリーを見たのだった。
「今日、宍戸さん何処か具合わるいんですか?」
帰り道、岳人もジローも気を利かせたらしくて気付いたらいなかった。まぁ、明日は休みだからと二人で自分の家へ向かう。今日は、若の親は仕事先の関係者に呼ばれて翌日まで戻らないらしいので夕飯へ誘い、二人で家に向かっている最中という訳だ。
「別に普通だぜ?どうかしたのか」
「途中、先輩達に入って貰った時に少し様子が違っていた様に見えたのでもしや具合でもと」
「あー、まぁ…な。」
ガチャと家の鍵を開けて入る。礼儀を徹底しているらしい彼は誰もいない部屋にしてもお邪魔しますという声をかける。
「で、さっきの話だけどよ」
「はい。」
心配そうな若には悪いのだが、全く深刻な事ではないのだ。他所の人間からしたら呆れるだろう。
「…あんまり笑うな」
「?俺に無表情になれという事ですか?別にいいですけど」
「いや、そーゆんじゃねーんだけど」
「宍戸さん?」
あぁ、言いたい事は頭の中体調でチカチカとランプの様に点滅をしてるというのに。上手く言えやしない。
「笑って欲しいのは、俺の前だけっつーか…」
そう言えば彼は何と無く理解し、そしてやはり恥ずかしさを感じたのか頬を赤く染める。久しぶりの恋人にむくむくと甘く疼きが湧き上がる。
「っ、わり、若…抑えられない」
後で何でも文句でも聞いてやるから、だからお前と一つになりたいのだとそう告げれば彼は少し目を見開いてこくりと頷いてくれた。其れが、益々止まらなくなって日吉をそっと押し倒して、久しぶりになる薄い唇に己のそれを重ねる。それはいつだって同じものであるのに変わりないのにまるで瑞々しい果実を初めて食べたみたいに無我夢中になって貪る。薄らと染まる頬も欲に濡れた瞳も全てが愛しくて、ぎゅうと強く抱きしめた。
独占
END
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