※ バレンタイン企画リクエスト
※ ザガンと白龍
※ パロディ
甘くなりませんでした…すみません。中途半端な感じのジンのキャラがいたりしています。アモンがザガンの祖父だったりします。
「いいですか、白龍。貴方は練家の跡取りとして教養と知識を磨かねばなりません。」
幼い頃から自分を鍛えてくれた母のような姉はそう言った。告げられた少年―というには些か大人びている彼、白龍は姉を真っ直ぐ見据えた。幼くして自分と姉だけになったあの時から姉は一切の我侭をせず、贅沢も遊びも全て自分の為に切り捨てて生きて来た。本当は有名な大学への進学が決まっていたのだ。女性でのその大学の進学は一族の中では稀でそれだけ姉が類稀な成績を残していたことで誇らしくもあった。それでもそれを目前にして自分と姉を残して父も母も兄も皆、火事で死んでしまったのだ。
「白瑛、お前はまだ若い。白龍を育てるのは荷が重かろう。我々が白龍を育てよう」
「いいえ、叔父上。私が白龍を守るのです。白龍には跡継ぎとして生きて行かねばならぬのです」
そう言い切って、大学進学の道を閉ざしてまだ幼かった自分を育ててくれた。15になったその冬に、姉はそう告げた。
「姉上が間違った事など俺に言いませんからね」
「ふふ、優しい子。…その知識や技術を教えるのは私では残念ながら力不足。其処で嘗ての父の部下だったという方が連絡を下さったのです。話をしたら快く白龍の家庭教師を引き受けて下さったのですよ。」
「そんな…申し訳ないです」
「御礼は追々という話でしたから…兎に角今度の土曜日会う事になったので白龍、そのつもりでいるのですよ」
「はい」
家庭教師をしてくれるという御仁は一体どんな方なのだろうかと、思いながらその日は眠りについた。でも、きっとその教師もこの顔を見たらショックを受けるだろうなと傷に触れる。辛うじて生き残った自分には火事の後遺症として焼け跡が今も生々しく残る。
++++
「はじめまして。私が貴方の家庭教師となるザガンだ」
ぺこりと頭を下げた男は、どうやら異国の人間らしく背丈は大きく筋肉質な身体をしていた。
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
「では、白龍しっかりやるのですよ」
そう言い残して姉は退室をし、部屋には彼との二人になった。くるりと彼はこちらを見て上から下まで見定めるように見る。その目には不思議なほどに目が離せなくなっていて不思議な人だと思う。初めてなのに何処か懐かしい気がした。
「―じゃあ、始めようか」
「は、はい」
彼は教師として立派な人物で教え方も文句の付けどころがないほどに上手だった。元々そんなに理解力は悪くない。それでも、彼は分かりやすく解説をしてくれる。こんな立派な部下がいたなんて父は人材に恵まれていたのだなと今更に思う。
「…ありがとうございました」
「いいや、僕は先生の頼まれた事をしてるだけだよ。あ、白龍くん」
何かに気づいた様にそっと声を掛けられて顔を上げると目の前に、睫毛がふれあう程に近くに彼の美しい顔が其処にあった。驚いて声をあげようとして、唇が塞がれる。初めての感触は少し肉の薄い、それでいて少し南国の果実の様な柑橘の味がして。驚いていると彼はにっこりと笑って今日の授業料だよと言う。
「んなっ」
「ああ、言い忘れてたけど。私は、異性よりも同性の君の様な華奢な身体の方が好みなんだ」
だから、君が女と勘違いされたとかじゃなくて私が明確に君がタイプだったんだよねと衝撃の言葉を告げる。そのままにぱたんと部屋の扉が閉まる。見送りなんてそれどころじゃなかったし、何よりも。
「なんで、拒否できなかったんだ…」
あの衝撃のキスが思った程嫌でもなくて逆に思い出して身体が熱くなる様な、そんな感覚に成るのだから困ったものになってしまったのだ。
「ふふ、あの人の息子だから期待してたけど期待以上だったなぁ。」
「どうかしたのかザガン」
「うるせーよ、じじい」
「じじいは真実じゃがお前の祖父じゃぞ。なんという口の聞き方をしとるんじゃ」
そんなんじゃお前、恋人できないぞと言うおせっかいな祖父の説教はまだ終わりそうにない。はぁとため息を付きながら考えるのは今日会った生徒の少年だ。数年前に旅行に行っている間に消えてしまった先生たちは火事に巻き込まれていたというのはそれから数週間して知った。その葬儀で先生の秘書をしていたという人物から渡された手紙には彼の家族の事が書かれていた。其処で彼が末の息子を跡継ぎへと据えているのだと知った。そして、彼を見た。先生への面影が残った瞳ときっと兄に似たのだろう身体のパーツは好みだった。
「―きっと、彼は私を好きになるさ」
あの口づけの後彼は一瞬どきりとした顔をした。その何も知らない少年を己の手で染めて行く感じがたまらない。それに、彼はもう自分のものなのだと、ザガンは呟く。
「―先生はずっとずっと俺を好いていてくださったのですね」
そう呟いた彼の声を聞くのはそう遠くない未来の話。そっとキスをした唇を思い出してザガンはふふと笑みを浮かべたのだった。
君はきっと僕を好きになる
END
←