※黒子と黄瀬
※数年後
高校のインターハイを最後に、彼等とは殆ど、会うことが減った。それでも、日常生活の中に彼等の姿を認識する事は出来た。青峰は、アメリカのプロバスケットチームに入って活躍、その彼をサポートする為に彼の幼馴染の彼女も今はアメリカでモデルをしている。そして、シュートに拘りがあった緑間。彼もTVに何度か出ている。タレントではなく、弁護士としてだ。彼の独特の喋り方は、番組では面白く扱われて少々可哀想ではあるが、元気なのは変わりない。独裁者のようだった赤司は、京都の料亭で働いている。その近くの和菓子屋でこれまた紫原が働いているのだ。料亭は、時々旅の番組で何度か取り上げられている。キセキの世代のその中で今を知らないのは黒子と黄瀬だった。赤司さえ聞かされてはおらず二人動向は謎だった。
「全く、どうして分からないのだよ」
「うるせーな、俺よりもお前の方が詳しいだろ。俺は活動してんの外国なんだから」
「そうゆう事ではないのだよ!」
「…にしても、あの黄瀬がお前らにメールの一つもやってないのが信じられないんだけどな」
モデルをやっていた華やかな黄瀬と彼の教育係だった黒子。中学時代は黒子に対して熱烈な表現をする黄瀬と冷めた対応の黒子という図がいつもの風景だった。
高校以来会わなくなった黄瀬がモデルを辞めたのはそれから数ヶ月後の話だ。
「…あれ、青峰?」
ふと話の中で懐かしい声がした。高校時代に出会った黒子の新しい光、火神だ。くるりと声のした方を見ると其処には火神がいた。そうか、と緑間が呟く。
「お前、黒子がどうしているか知っているのか?」
「黒子の?どうしてるっつーか、この前行ったけど」
「何処に」
「だから黒子の暮らしてる所だよ」
「結局、何してるんだよ、あいつ」
「小説家だよ。この前、本屋に本が出てたぜ」
「…火神、その家へ案内して欲しいのだよ」
「まぁいいけど」
そうして案内されたのは、割と普通のマンションの一室だった。黒子が仲間の誰にも気づかれないようにひっそりと暮らすのはやはり影だからだろうか。そう思いながらも火神の後ろに続く。そして、まるで自分の家の様に鍵を持っている彼に疑問を持っていると彼はあれでも小説家ってーのは生活が乱れるからって様子見するんだよ、俺とかがな。高校からの腐れ縁がここまでくるともうおせっかいみてぇだぜとは彼の弁である。
「…火神くん、どうかしたんですか、っ、」
気配に気付いたらしい彼が姿を現して、そして彼等を見て一瞬固まった。黒縁の眼鏡の奥の瞳は相変わらずガラス玉みたいだった。
「…まぁ、ずっと隠せる筈ないのは分かっていましたから。」
そうぽつりと彼は言った。取り敢えず、お茶でもどうぞと出て来たお茶、菓子に思ったよりも外に出かけているのかと彼を見ると黒子は僕が買って来たものじゃないんです。と答えた。
「それよりも黒子、黄瀬はどうしているのだ。黄瀬、高校以来全く連絡がないのだよ。アドレスは生きているようだが…」
そう緑間が尋ねれば、黒子は黄瀬君は今は一般の企業で働いてますよ。事務職ですけど、と淡々と答えるものだから青峰は黄瀬のやつ、連絡寄越さないなんてどうゆうつもりだよ、と呟く。
「黄瀬君が君達に連絡しなかったのは、今の姿を見られたくなかったからでしょう。」
「おい、黒子」
「…?言っている意味がわかんねーんだけど。テツヤ、どうゆうことだよ」
「高校のあの後、大きな事故があったのを覚えていますか?」
その言葉に緑間がもしかしてバスの横転事故か、と言う。
「残念な事にそのバスには黄瀬君がいたんです。彼は足に大怪我をして、腱に傷を受けました。」
その様子を見ながら緑間がしかし、と遮る。その記事なら新聞で読んだ。だが、そのバスは高校の送迎バスでもなければ、東京行のバスでも無かった。加えて言うなら、インターハイの時期でもなかった。運転手のよそ見運転と濃霧による最悪の条件で事故が起きていた。
「ただの旅行バスですからね。…僕と待ち合わせして、乗り合わせていたバスだったんです。高校最後に火神君と僕と黄瀬君で、温泉に行こうと言う話で、彼だけモデルの仕事で遅れていたんです。」
遅れていなければ、彼があのバスを乗る事は無かったのだ。人は遅れていると分かると出来るだけ早く目的地につくようにと行動してしまう。彼も同じでモデルの仕事から直ぐにあったバスに乗り込んだ。そして、旅行バスに乗り込んだという連絡をして数十分後に彼は横転事故に巻き込まれたのだ。
「その時になって、黄瀬君がいなくなる事の恐怖を感じました。何しろ、連絡を受けた時の彼の姿は全身包帯で巻かれていたので」
「黄瀬も、あれ以来バスケもモデルも辞めたんだよ」
だから、まだ彼に会わないでくれますか。そう懇願するように言った彼の顔は見たことが無くて頷くしか無かった。
「ただいま、黒子っち」
君を失いたくなくて、君から笑みが消えるのが怖くて僕は過去の仲間にも鎖を掛けた。まだ、彼の体にその傷が癒えるまでは。
「おかえりなさい、黄瀬君」
二人だけの鳥籠
END
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