※うたプリ
※作品未プレイ
※人様のを見聞きした程度
※腐/捏造
※四ノ宮那月と来栖薫
彼とは、兄へ会いに行った時に知り合っただけだった。知り合っただけでこれと言って特別に親しくしているという訳でもない筈だ。それにほぼ初対面の人間に可愛いと連呼しながら骨が軋む程に抱きしめられたあの衝撃は未だにややトラウマ気味なのだ。彼は、本当にカワイイものが大好きなのだと、実感した。そう、今は数ヶ月後に控えた来栖薫の双子の兄である彼の舞台の衣装について見て欲しいとの彼からの要請(要請じゃなくても大切な片割れの願いならば出来る限り協力するに決まってるのだけど)で彼の一人暮らしのマンションへ訪れていた。
「…あ、薫く〜ん!!」
「ヒッ!…あ、あのっ離して下さいっ」
「え〜こんなに可愛いのに…」
「那月いい加減にしろよ。俺はお前の欲望を満たすために弟を呼んだんじゃねーよ」
がしりと小さいのに、大きな彼を引きはがしてくれた彼は大丈夫か?なんて聞いて来る。間違っても翔ちゃん小さいのに凄いねなんて言ってはいけない。途端に機嫌が急降下だ。別に小さいままでも彼はカッコいいのだから気にしなくてもいいのにとは思うのだけど、彼より数センチ高いのも彼からしたら屈辱らしいので何も言わない。うん、ありがとうとだけ返事をするのに留まる。
「早速で悪いんだけど見てくれるか?一応カメラマンに写真撮って貰った奴なんだけどよ」
何枚か候補があるらしくその中から一つに絞りたいのだと言う。どれも彼らしくていいのではないのかと思うけれど。
「どれも翔ちゃんらしいんじゃないのかなぁ」
「まぁな、スタイリストが俺をイメージしてやってくれてたんだけど、こうなんつーかしっくりこなくてさ」
だから、小さい頃から一緒だったお前なら何かあるかと思ってさ。悪いな、薫なんて言うのだから首を横に振りながら構わないと呟く。彼のイメージは俺様な感じのキャラクター。けれど、小さい頃からの彼のイメージは白。服を見ると白を基調にした衣装があった。軍服のようなものだけど、それが一番彼らしいようなものに見えた。細部には色々細かな色の衣服が組み込まれていていいんじゃないかと思えるほどだ。
「…僕ならこれかなぁ」
「……そっか。サンキューな!」
ほっとした彼の顔を見ながらもしかして彼はその一押しが欲しかったんじゃないかと思ってしまったけれど、まぁいいかと思い直して出されていたお茶を飲む。少しだけ寒くなった季節に暖かいお茶は体に染み渡った。その横でにこにこしながら聞いている彼にはどうなのだろうかと、見ると視線に気づいたらしい那月さんはにっこりと笑みを浮かべてどうかしたんですか、薫くんと聞いて来る。
「いえ、あの四ノ宮さんはどうなのかなって」
呼ばれたのは自分だけでなかった事実と先程から意見を言っていない彼に疑問を感じながら聞けば彼があのですねぇ、とのんびりした言葉をする。それが彼の彼らしい仕草ではあるのだけど。
「どれも翔ちゃんらしくて選べなかったんですよ〜」
「え?」
「那月のやつどれ見せてもカッコいい、可愛いってそればっかだったんだ」
だから薫に頼んだんだよ、と彼は若干疲れたように呟く。そうゆう訳だったんだなと理解した。可笑しいと思ったのだ。医者として生活している自分にちょっと聞きたいから時間を作れないかなんて。医者がどんな仕事かを嫌という程理解している兄にしては少し疑問的だった。そういう訳だったのだ。
「…たく、こうなんなきゃお前は薫を誘ったりしねーからな」
「?」
「……だって、薫くんて可愛くて可愛すぎて」
そして彼は俯いたかと思うと急にかばりと顔をあげてそしていつもの彼の動きとは反した動きで抱きしめて来た。それはいつも出会うとやらかす可愛い物を抱きしめるそんなものではなくてぎゅうと愛する人を抱きしめるそれに、酷似していてー。
「あ、あのっ」
「てめ、那月…っ!」
暴走すんな、この野郎と後ろで翔ちゃんが叫んでいる。きっと今一生懸命になって剥がしにかかっているのだろう。そう言えば彼らしくない。そっと彼を見ていると彼の目と目がぱちりとあった。いつもの柔らかな色じゃなくて熱の籠った目であった。あ、と思った時には遅かった。ちゅと唇に柔らかなそれが重なったのだった。
それが悲しくも初めての口づけだったというのは事実に変わりないのだった。
最低の雰囲気のキス
でも本当は嬉しかったなんて言ってやらない
END
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