※マギ
※学パロ
※シンドバッド=歴史の教師
※ジュダル=2年生、ちょっと訳あり留年(実際は18歳)
就職に困るこの時代、運がよくもこのシンドリア学園に赴任してきたのは、つい先日の日の事だ。大学で教育学部を専攻しながらも確固たる就職口はかつては簡単に見つかっていたらしい場所は殆どなくこのまま塾の講師のバイト止まりかと困っていた時に、知り合いである男にこの学校が教師を募集しているのだと教えてくれたのだ。いつもは無口でこつこつと自分のペースで進めて行く彼にしては珍しくその情報は有り難かった。
「なんでそんな情報お前が知っていたんだ?言っちゃ悪いが、お前友達少ないだろ」
「…先輩、何気に失礼っすよね。妹が、」
「妹?マスルールお前妹いたのか?」
赤い髪の青年、基後輩であるマスルールは少し頬を赤らめて頷いた。あ、照れている。そう思った。マスルール曰くその妹とは血の繋がりはないが兄妹同然に育った年下の他人らしい。その彼女が通うのがその学園だという訳だ。
「その妹さんに今度上手い飯屋でも連れて行ってごちそうしないとだな」
「…いえ、結構です。モルジアナは人見知りが激しいので」
それに、先輩酔うと手出すじゃないっすか。モルジアナまでそうされちゃ俺は彼女の親に殺されますよと言うのでその話は無しになった。それに、募集しているだけでまだ採用じゃないっすよという言葉にでもきっと採用するよという言葉に彼が相変わらずっすねと彼が返した。結果、その試験、面接は見事に採用という結果になったのだ。酒の席でマスルールの友人の一人であるシャルルカンが実は同じ学校に一歩先に就職を決めていたという事実が発覚して少しむかついたのは記憶に新しい。さてさて、自分が採用されて実際に働く季節は春ではなくこの寒い季節である為何だか不思議な感じがするなぁと電車に揺られながら思う。ふと、視界のすみに見覚えのある何かが映り込んだ。それは、これから向かう学校の制服の一部、否制服を着た男だった。男に見覚えがあった訳ではなくその制服に見覚えがあっただけなのだが。
「ん、やめ、」
よくよく見ればその男子生徒は己の手をどうにか使って逃げようとしているみたいだった。相手は胸に膨らみのない男だ。(確かに顔立ちは綺麗だが)それに変な気を起こす輩がいるとは思えない。が、どう見てもあれは痴漢という行為に間違いないだろう。困っている人を見捨てるなど自分には出来る筈もなく、電車が止まったのを見てそれをしていたであろう手を掴んで捻り倒した。
「うぁ!何するんだ、お前!」
「お前男だろう。相手が誰だか分かっているのか?何なら警察に突き出してやろうか」
その言葉で青ざめた男を置き去りにして被害者であろう男子生徒の手を掴んで電車から駆け下りた。気づけばその駅は丁度降りる駅のホームだった。
「はな、せよ…」
「おっとすまん。大丈夫か?」
顔を俯かせているその男子生徒は珍しく長い髪を三つ編みの様にしていて後ろ姿だけならば女性と間違うかもしれないそんな姿をしていた。
「あー、最悪…よりによって登校の日に痴漢かよ」
ため息を着いたその男子生徒が顔を上げた。赤い瞳が酷く熱っぽく見えた。どきりとした胸の高鳴りをごまかす。
「まぁ、こういう日もあるさ。」
「あのなぁ。…まぁいいや。兎に角ありがと、おっさん」
もう会う事もないだろうけど、とすたすたと歩いて行く彼は人の溢れ買えるホームで不思議な程に人にぶつからずすいすいと歩いて行く。それよりも、数年しか違わないのにおっさん呼ばわりされた事がショックだった。今日は同じ職場であるシャルルカンと飲みに行こうと決意して歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
「では、シンドバッド先生貴方は2年の歴史を承けもって貰います。丁度、この教科担任の教師が寿退社してしまいましてね」
初老の男性教諭はそう話す。それで募集ね、と心の中で呟く。2年か。一番楽しい時期だなと思う。修学旅行や文化祭体育祭全てにおいて心置きなく楽しめる時期だ。
「はい、宜しくお願いします」
「ああ、そうそう。この学年少しだけ問題がありましてね。D組にジュダルという生徒がおります。その生徒の出席に関しては何もしないで下さい」
「は?」
「彼は少々問題児なのですよ。だから、例えその席に座っていなくとも出席としておいてください」
これは学校の総意なのですよと念を押されてその場は頷くしか無かったのだがそれを知ったのはすぐだった。
「初めまして、今日から歴史担任のシンドバッドだ。宜しくな」
ふと、顔を上げてそして視線を感じてそれを辿るとそれに行き着いた。
「「あ」」
あの人をおっさん呼ばわりした生徒がジュダルという生徒の席に座っていたのである。その後は何とか授業を終えて黒板の文字を消している中そのジュダルは近づいて来て話したいんだけど言って来たのだ。
「ジュダルってお前だったのか」
「ああ、教頭とかに言われた?問題児だって。」
にやりと笑うその姿にいたずらっ子なガキ大将を印象受けた。
「まぁな、お前何不良なのか」
「はは、直球だなぁ。シンドバッド面白いな!いいよ、教えてやるよ。」
そう言うと彼はダボダボなカーデガンをぷちぷちと外し、着ているYシャツまでも外し出す。おいおい、何してるんだという言葉を口に出そうとして止まった。目の前の白い肌には痛々しい程の傷跡が残っている。
「…病気なんだよね。いや、違うな。病気だったんだよ、俺。本当はもう18なんだぜ、俺。生まれつき心臓が弱くてさぁ」
「今は?」
「ん?手術後経過観察中って奴だよ。けど薬を飲んだりでまだ身体を動かせるのは少ないからあんまり出れないんだよ。だから学校にはそう言ってるんだよ」
ま、教頭は心配性なんだろ。一年前に彼奴の授業中に呼吸困難になったもんだからよ、と笑う彼は酷くはかなく見えた。そしてその白い肌に触れたいと唐突に思った。その時に気づいたのは教え子に対する恋慕にちかいもの、だった。
←