※無我マニアと金太郎
※微妙にいたしてるニュアンス
誰もが、西のスーパーゴンタクレルーキーこと遠山金太郎はそのまま、テニスの道に進むのだろうと思っていた。無我の境地を発動した越前とほぼ互角だという実力は恐らくどこでも通じる筈だったのだ。けれど、彼は高校卒業後テニスの道には進まなかった。スポーツジムのトレーナーとして社会人として働いていると、いう事実に周囲の人間は驚いたらしかった。それは彼を一目置いていた同じ部の部長や別の部長でさえもが驚くほどであった。
「…なぁ、金ちゃんどないしてテニスの道に進まなかったん?」
久しぶりの皆で集まった飲み会の席で部長であった白石は彼に聞いた。彼は金太郎が自分に心を開いているという自負があった。それはあながち間違いでは無かった。けれど、その反応は彼の思い描くそれとは大分違っていた。
「ん〜白石にはちょっと言いたくないねん」
堪忍なぁ、とあのゴンタクレは笑ってビールをぐびぐびと飲んで財前と騒いでいた。その姿はあまりにもいつもの、学生時代のそれと変わらないでいるのに、どうしてだろうと思っていると側にはぁとため息をつく声がして振り向けばそこにいたのは千歳だった。
「おう、千歳」
「ああ。白石久しぶりばい」
相変わらず、彼の九州の訛りは治らなかったらしいがそれは彼らしいのだ。彼も金太郎と同じくトレーナーとして社会人だったのだと思い出した。もしかしたら彼の事を知っているのかもしれないと、金ちゃんの事なんやけどと言えば彼の目が少しだけ細められた。けれど、それは一瞬のようであったのかいつもの大らかな彼の表情が其処にあった。
「ああ…金ちゃんには少し辛い思出かもしれんとね。」
「辛い、思出やて?」
「ああ、何や、白石聞いてなかったと?金ちゃん、高校卒業後に怪我で故障してそれが上手くいかなくてテニスの道じゃない俺と同じ道に来たばい」
俺の目と同じたい。桔平は気にしてるから今は言わんばい。金ちゃんの場合は誰の所為でもないやて笑って、それから俺の所きよった。それで働き口紹介してくれんかって言って来たから知り合いの事を話して今は其処で働いてるはずばい。
「…そうなんやな。あの頃から一番懐いてたんは金ちゃんやからな」
もしよかったらもう少し、金ちゃんの事面倒よろしゅう頼むわと言えば千歳は少し驚いた顔を見せた後に微笑んで勿論ばいと言って笑った。
++++
「…ん、ふぅ…」
「…ん…」
暗闇の中でも、お互いの熱は留まらず、そのままに互いの腹に吐き出す。それは慣れた風景になりつつある。それを教えたのは自分だというのに。幼気な彼にいけない遊びを教えた気分である(それよりも質が悪いかもしれない)。
「千歳は、ずっと側におってくれるんやな」
前みたいに、皆わいの側から離れるのは、辛いねん、だからずっとおってくれるのは嬉しいねんと情事後の気怠い雰囲気のままに言う彼が酷く儚くてそっと壊れ物を扱うように抱きしめてキスをした。
「大丈夫ばい」
それは、自分と彼のお揃いの呪いのようにしみ込むのだった。
重なり合う言霊
END
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