※スピードスターと金太郎
へたれ、浪速のへたれ。最近、自分に言われた言葉の主要部分はそれだけである。へたれ、へたれと呪いのように、部活では謂れ、クラスでも何故かその事実が広まり、女子からは残念な目で見られる。(別に誰に何を思っていようとどうでもいいが、こう言われ続けるのも嫌なものである)大阪というところがいかに恐ろしいかを身を以て経験している、忍足謙也、四天宝寺中学テニス部。
「お、どないしたんすか、謙也さん」
どうやら顔が変だと言いたいらしい。毒舌な後輩がぽつりとそのままやとほんまにへたれ先輩って呼んであげましょうかと言うものだからぶちりとどこかで何かが切れる音がして、気づいたら後輩を追いかけていた。が、それなりに頭のいい後輩は、あほらしいと何処かへ姿を眩ましてしまった。この怒りを発散出来ず、結局コートに戻る。
「あ、おった!謙也ー!」
赤い塊が突進してくる。そのままだと、凄いダメージが、と思う間もなく腹にどんという音と衝撃が来る。この少年・遠山金太郎はにっこりと笑って今日、一緒に帰ろうなぁなんて首を傾げて言う。ああ、かわええと抱きしめてやると照れているのか顔を少し赤らめて大好きやでというもので。はっとすると部長である白石が呆れた顔をしながら、部活中はいちゃいちゃせんと!と部活活動の合図をあげたのだった。
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「お疲れー」
部活をした後はぐったりする。それなりに身体も頭も使うので他の事にまで気が回らなくなるのは誰もが同じで。小さな小さな後輩と一緒に歩いて帰路につく。そもそもこの後輩とは一応恋仲という奴なので一緒に帰るのも幸せな時間ではあるのだけど、だけど。どうもこの少年は、幼いからか恋愛知識が疎い為に中々どうやっていいかが分からないのが本音で、それが冒頭のあだ名にも近いそれになっているのだろう。
けど、と分かれ道の其の前に木陰に入ってぎゅうと抱きしめてやると汗とほのかな石鹸の匂いが鼻を霞めた。それは至って普通の事なのに、心臓が五月蝿いくらいにどくんどくんと鼓動をしていて、ああ変態とちゃうんか、自分と自問自答してしまうほどで。
「謙也、どないし、んんっ」
けど、暗闇の中で見上げて来るその目が、自分の何かを衝動的に動かしたらしい。気づいたらその小さな少年にも近い後輩に、キスをしていた。それもちょっとしたキスではなくて貪るような、キスである。
「ん、は、っ」
「…ん…」
「は、ぁア、け、ん…にゃ、や…っ」
ぴちゃぴちゃと舌を絡めて全て貪るようなキスをする。それだけ自分がこの少年に飢えていたということか。苦しそうにもそれを拒否しないでいる彼に申し訳なさと、受け入れているようなその姿が嬉しくて、ますますキスは止まらなくて、ちゅ、と耳の後ろへ吸い付いて、赤い華を散らして、再びキスをする。
「…ごめんな、」
「なんで、謝るん?」
「辛かったやろ、怖かったやろ?」
「息出来なかったんはそうやけど、怖くなかったで。やって謙也がわいを怖がらせる筈ないって知ってるからな!」
そう照れた様に言う彼に、叶わないとばかりに、ぎゅうと抱きしめて大好きやでと囁いた。
汚名返上
END
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