※ 無我マニアと金太郎
※ 捏造
「うわぁ、大きい兄ちゃんやなぁ!」
最初の言葉は酷く純粋な言葉だった。それなりに、世の中を見て聞いて体感していた(そんな偉そうな事を言っても自分はまだ未成年なのだけど)2個下の後輩であろうその少年はきらきらと輝いた目を向けて来た。何しろ、出会ったのは部長である白石から説明を受ける前、コートの隅で昼寝をしていて起きたばかりの時だったのだ。
自慢ではないが長身でそこそこ気の利いた言葉を言える自分は、それなりにモテた。九州にいた頃もそれなりに、肉体関係だけの女友達だっていた(桔平の方がそれは盛んだった。金髪で優しい桔平は女性にストライクだったらしい)。だから、中学生になってデートが何をするのかという疑問を抱くこの少年が酷く綺麗に映った。実際に彼は恐らくは穢れを知らないのだろう。小学からの知り合いらしい財前に「なぁ、デートって何するん?」なんて聞いている風景。それはもしかしたら微笑ましく映るのかもしれない。けれど、その風景を見ていて唐突にその真っ白な彼が欲しいと思った。こんな、事を願うなんてどうかしていると何度もごまかそうとした。何しろ相手は自分と同じ身体の器官を持つ男だった。確かに彼はまだ声変わりのしていない女性ともとれるだろう高音の声でいる。だが、自分は一応は異性愛なのであって同性愛者でもないのだ。このままではいけないと思いふらりと部へ出なくなって歩いていてみたりしてもやはり思うのはあの赤い髪の少年の事だった。
「あーっ、千歳やぁ!なぁ、なぁいつ来るん?」
「金ちゃん…」
街の中で自分を見つけて嬉しそうに駆け寄る彼は本当に真っ白な紙なのだろう。それも皺一つない新品の紙の様な。染められる前の零の状態。性欲処理ならそこらで声をかければ適当に処理出来るだろう。そんなにご無沙汰という程でもない筈なのに、身体の熱はずくずくと存在を主張するかのように身体の中で広がって行く。
「…金ちゃん、部活は終わりばい?」
「おん、わいが今日掃除当番やったからもう最後やで」
「なぁ、金ちゃん。賭けしてみるばい?」
「賭け?」
勝ったら何かくれるんか?ときらきらした顔で言う彼には残念ながら期待には添えられない。けれど、この熱はどうにも収まりそうにもなかった。きっとそれを行ってしまえば彼は自分を今までのように同じ部活の兄ちゃんの様な先輩とは慕ってはくれないだろう。拒絶して、離れるだろう。それでも良かった。彼の中に自分を刻み込めるならば、それでも。思考がどんどん暗く汚い感情が身を纏う。
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部室の部屋の鍵はあって無い様なものだった。ちょっとしたコツを使えば鍵などなくても部屋の中に入れる。がらりと入れば其処には誰もいない。念の為に静かに、鍵をかける。なぁ、賭けって何やるん?と興味津々の彼は先程、この部室が施錠された事は気づいていない様子だった。
「賭けはな、金ちゃんが俺を嫌うかどうかたい」
「?わいが千歳を嫌う訳ないやんか」
怪訝な顔で返事をする彼にこっそり仕込んだジュースを差し出す。話長くなりそうだから、それを飲みながら聞いてくれるかといかにもな台詞を並べて。勿論単純である彼がそれを信じない事はなく、そのままそれを一気に飲み干してしまう。中学生の自分がそれを手に入れられるなんて世の中はやはり宜しくないのだろうと頭の隅で思う。所謂媚薬というものがそのジュースには紛れ込んでいるのだけど。
「…俺は金ちゃんが好きたい」
「おん?おおきに、わいも千歳の事好きや、で…??あ、れ?」
はぁはぁと息苦しいのか荒い息をしてどさりと倒れた彼にごめんなと額に唇を落とした。それに、苦しいのかなに、と舌ったらずに反応する彼にするりと服の裾から手を差し込んで腰から腹、腹から胸へと手を滑らせて行く。すべすべとしたその肌は思いのほか白くて、焼けにくいのかもしれないと撫でながら思う。白い肌に二つある頂を摘んで刺激を与えると息苦しさは益々酷くなる様で、「ちとせぇ」という悲鳴に近い声がする。ごめんな、もう止まれない。身体のあちこちにキスを降らせて、唇にキスを落とす。キスという認識があるらしい彼は顔を髪の毛の様に赤く染め上げる。ああ、そんな顔をすると勘違いしてしまう。
「ん、ぅ」
「むぞらしかね、金ちゃん」
下肢にローションで濡らした指を入れてゆっくりと解す。今までにこんなに丁寧に女を抱いた事など無い。それほどに彼が欲しくて愛しくてたまらない。早く欲しいけれど、傷つけたくなくて卑怯な自分を許せなくて、ゆっくりと殊更に丁寧に中に入る。いつもなら欲望のままに動くのに、今はこうしていたい。苦しいのだろう彼の動きに合わせて中が収縮して中にいる自分を締め付けて来る。ゆっくりと動いていけば小さな声で助けを請うようにシャツに縋るような手に愛しさが高まって、意識が真っ白に染まった。
「金ちゃん、ごめん、」
「どうして謝るんや。…別に嫌やないし」
あの後、薬が抜けた彼に事情を説明すると彼はそう告げて、だから、わいは千歳をずっとずっと好きでおるよ、と言うものだからますます彼が愛しくてぎゅうと抱きしめてその温もりに胸が熱くなった。
賭けは負け
END
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