※黒子と黄瀬
※捏造
黄瀬の事は、入部する前から知っていた。中学生にしてすらりと伸びた手足と整った顔。モデルをしている学生など、自分が通う学校内ではどう探していても彼以外いなかったし、何と無く、目に止まっていた事が多かったのかもしれない。自分は、どうやら影が薄いらしく気付かれにくいみたいだと発覚したのはまだ中学一年に入って間もない頃だ。それが入部していた部活であるバスケで利点になるなんて、この時は思ってもみなかったのだけどー。
「どうやら、ゴミを捨てるのは僕の当番みたいです。という訳で、捨ててきます」
「おー、頼んだぜ、テツ」
「はい」
部活のゴミ当番として溜まったゴミを焼却炉へ持っていく為、体育館から離れて歩き出した時に視界に光が入り込んだ。…正確には明るい色の何か。視界の隅に感じた明るい光の正体を探してきょろきょろしてその正体をすぐに知った。数メートル先でサッカー部が練習試合をしていたのだ。それ自体は何もおかしい事なんてない。至って日常的な風景そのものだ。ただ、その部員に交じって同じくサッカーボールを追い掛ける、黄色の髪の青年がいた。まだ小学生から数ヶ月の青年と呼ぶには幼い彼らの中で彼は異質に映った。それが、モデルをしている噂の少年だと気付いた。あれで同じ染色体を持つなんてやっぱり世界は不思議なものだと思いながら当初の目的を遂行する為、その場を離れた。彼の前にはサッカー部の部員が立ちふさがっていて彼が其処からボールを奪うのは難しいと思われた。その部員のゼッケンには三年である事がわかるようになっていた。三年対一年ということか、と頭の片隅で思いながら歩き出す。焼却炉から戻りさっきの場所を見ると彼のチームが逆転勝ちしていた。さっきみた時は五点差があったのに、と彼を見た。不思議と彼は笑っていなかった。
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「それで、テツは部活参加に遅れてしまったという訳かい」
やはり部活開始の時間には間に合わなかった。主将である彼が笑顔で鋏を向けてくる。ちょっとしたホラーである。
「はい。すみません。少し気になった人がいたものですから」
気になった人、というワードに反応したのは、青峰だ。にやにやとからかう様な顔をして、お前でもそうゆう感情あんだな、驚きだなと言うのだ。
「…それ、青峰の想像してる様な感じじゃないんじゃねーの?」
「んだと、灰崎ぃ」
がみがみと怒鳴り散らす青峰、それに応戦するように反応する彼らにやれやれと黙っていた緑間が「いい加減にするのだよ、お前ら!」と声を出す事で部活の開始が言い渡された。勿論喧嘩をしていた二人は練習量を倍増させられて顔を蒼白にしていたのだが。
「ゴミ捨て忘れるなんて黒子らしくないのだな。どうかしたのか」
走り込みの最中、気になったらしく緑間が話しかけて来た。どうかしたのかと尋ねられてふと思い返すがこれといった事はなくてただ本当に忘れていたのだろうと思う。それだけの偶然。
「本当にただ、忘れていただけです。…それにさっきの気になる人っていうのは…男の人だからそうゆうのじゃないですし」
「なんだ、そうなのか?青峰ではないが、俺や赤司もお前にはそういった類の感情がないのではないかという話題が結構あるのだよ」
単なる話題で然したる必然性も無いがな、と彼は言う。確かにこれといって嬉しい悲しいなどの感情がない訳ではないがどうも自分は顔に出にくいのかもしれない。
「…緑間君、同じ学年の黄瀬くんって知っていますか?」
「ああ、知っている。モデルをしている男だろう」
「ええ、彼がサッカー部の助っ人としてさっき試合していたんです」
「―ほぅ」
「ゴミ捨て場から戻ったら逆転してたんです。喜ぶべきなのに彼は詰まらなさそうな顔をしていました」
それが少し気になったんですと言えば彼は少し考え込む様な仕草をしてそう言えば、と走りながら言う。器用なものだ。
「スポーツ万能なのだと、噂では聞いた事があるのだよ」
思った通りにしかならなくて詰まらないのかもしれないのだよ、と彼は言った。そうかもしれない。けれど、少しあの表情が気になったのだとは誰にも言わなかった。
それから、彼がバスケ部に入部してくるのは驚きでもあったけれど新鮮だった。彼は極力バスケに力を入れているらしかった。仕事とのブッキングがあったとしてもバスケを取って試合をしにくる。それだけ、このスポーツが好きなのだと彼を見て思った。そして、めげずに何度も何度も青峰に挑む姿は見ていて面白かった。そのうち、彼の能力が模倣だと知った。それであの表情にも納得がいってしまった。直ぐにマスターしてしまう、その能力ゆえにいつも本気で楽しめないのかもしれない。けれど、と思う。今はまだ彼の笑顔が明るいままでいてほしいと願う。
「まだ、僕の気持ちの整理もまだですし」
「?黒子っち、何か言ったスか?」
「いいえ、特には」
「ふぅん。いつでも聞けるっすからね」
にっこり笑うその笑顔と雑誌なんかで見る(あくまで自主的に見た訳ではなくて彼に見せられたのだ)彼とは大分、違う笑顔だった。
「…あの」
「ん?何スか」
「雑誌とは違うんですね」
そう言うと彼は少しああ、と答える。
「あれ、表面上のスから。愛想笑い、みたいなもんスよ。でも黒子っちたちとの笑いはそうゆんじゃないんス。心から楽しいんスよ」
だから、スよと言う笑顔が酷く脳裏に焼き付いて離れなかった。
「高校を卒業したら言いたかったんです」
「あの、黒、」
「僕、黄瀬くんのこと好きみたいです」
そうして彼のぽかんとした顔にちゅうとキスを落として、だから君も好きになって下さいというと琥珀の目からぽろりと涙が溢れて返事の代わりに少しだけ強い抱擁をしてくれた。
メモリー、メモリー。
END
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