※鳳と日吉
※×よりは+、→の色がかなり強いです
※捏造
彼を見たのは、初等部の入学式の時。丁度隣のクラスで列を挟んだ横並びに彼がいた。明るい鷲色の髪の、切れ長な瞳が周りのクラスメイトとは全く別の人に見せていた。ちらりと、視線を感じたのか瞳を向けた彼は自分を一瞥してそして再び前を向いた。大人っぽいその姿に、「友達になりたい」と思った。クラスが別だから話す機会もなくて運がないなと思っていたけど、神様は中途半端にチャンスを与えたらしい。
「日吉若だ。宜しく」
クラス委員の集まりで自己紹介の席でそう言ったのは彼だった。その時に、彼が日吉若という名前なのだと知った。彼は他の学年の先輩よりも大人びていた。背丈と、制服のカラーなどで彼が一年生であるのが分かる程度で、憧れはますます強くなった。けれど、強くなってクラス委員でだからと言って、自分から進んで声をかけるなんて芸当は自分には不向きだった。だから、本当に連絡事項のみの会話しかしなくて、いつも話した後に自己嫌悪に陥っていた。
「…鳳だったか、お前」
「?う、うん」
「…お前、俺に何か話があるのか。いつもじっとみてるだろ」
気づいていた。恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じる。周りの人間が面白がるだろうけど、日吉はそんな事を言わないで次の反応があるまでじっと待っていてくれた。ぽつりと、呟く。「憧れだったんだ」と。
「お前、変わってるんだな」
そんな風に言われたのは初めてだ。俺は思った事を言う。それは誰にも指図されたくないからだ。それが生意気だと映るらしい。だから、尊敬するとか憧れるなんて俺には縁のない言葉だと思ったんだと、日吉はぽつりと呟いた。夕焼けの日差しが部屋に入り込んですごく、儚いイメージを与えた。それからだろうか、彼と連絡事項以外でも口をきいて、話をするようになった。
「ー鳳、お前日吉と仲いいんだって?」
中学入学してすぐ、だった。彼と同じテニス部に入って、それでも彼との交友関係はそれとなく続いていた。その時に、同じ学年の仲間にそう、言われてうんそうだよと言うと彼は、顔をしかめた。彼奴、生意気なのに友達いやがるのかよ、最悪だな。お前も明日から彼奴と関わるなよ、と言う彼になんで?と聞けば至極単純な言葉が返って来た。
「あいつ、生意気だからだよ。泣くのとか見てみたいだけ」
それに対して、反論が出来なくて心が弱いのだと、実感した。其の日から日吉に対する対応は変わったけど、日吉は殆ど態度を変えなかった。いつものように淡々と練習メニューをこなし、練習試合でも相手の仲間を打ち負かしていた。代わりに、一年のいらだちは高まっている様で、練習試合でも勝てないしで彼はこっそりと日吉の靴に針を仕込んだのと笑った。
「なんで、そんなこと…!」
その日は、日吉はいつもと違った。動きが鈍かった。それでも練習試合には勝利したのは彼の実力だからだろうかと思いながら彼を見ていると、先輩にあたる、向日先輩が大きな声を上げた。何事だと見れば日吉の足下は赤い血がコートに広がっていた。これには、部長の跡部も険しい顔をして彼の元に走りよる。
「…日吉、どうかしたのか」
「別に、なにも」
業を煮やした部長によって足が曝されて、それに宍戸先輩が一年集まれ!とかけ声をかけた。結局、日吉は誰がやったかは言わなかったけれど、部長の方では誰がやったのかなどは見当がついていたらしくて翌日にはその一年が退部していた。その強さを見て、もっと日吉を知りたくてその感情が恋だと知るのはそう遠くない日で、それでも今は、背中の彼の温もりが愛しかった。
憧れ=好き
END
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