※謙也と金太郎
※みんなが似非
※捏造
※財前と金太郎が微妙に幼馴染的関係
本当に、いらつく後輩やと思ってた。腕はあるのは認めるが、その他がてんで駄目だったのだ。いらつく言葉ばかりを投げつける後輩。そんな奴がはっきり言うと苦手やった。けれど不思議な程に、一個下の後輩である財前はその金太郎に、憎まれ口を叩きながらも結局は最後まで面倒を見る事が多かった。彼らは小学からの付き合いらしいから何か事情があるのだろうかと思ったのが切欠だった。
「財前、お前むかつかんのか。あないな事言われて苛つかない方がおかしいっちゅー話やで」
「はぁ。そんなの苛つかない方がおかしいとちゃいますか。」
練習試合でまたしても彼の勝利に終わったその風景は見慣れた物だ。その中で汗を拭いながらも聞けば、財前はスポーツドリンクを飲みながらため息をついた。冷めた後輩はそのまま嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている彼を見てま、一応俺も心配性なんすわ、と呟いた。
「…何いうてねん」
「俺と金太郎の付き合いは小学6年の頃なんすわ。その前の彼奴を俺は知りませんけど、彼奴友人おらへんかったんです」
「は、何冗談言って…」
笑い飛ばしてやろうと思ったけれど彼の目は真剣そのもので冗談ではないものだった。それにしても信じられない言葉だったのだ。彼の周りは基本的には誰かしらがいる。一氏にしろ小春にしろ銀にしろ白石にしろ。純真で単純でまだ弟の様なそんな彼の周りには誰かが集まる。だから彼の言葉は信じられなかった。
「……まぁ、早い話が金太郎のアレが原因ですわ」
アレ、と言われて指したそれはいつもの見慣れた風景だ。試合ではそれを繰り出すまでもなく相手選手がやられてしまう。それが大車輪山嵐だ。自身の身体の回転にかけて繰り出すそれは大抵の人間ならば腕が使い物にならない。それが何かあったのだろうかと聞いていると財前は、俺もその現場を見ていた訳じゃないから憶測ですけど、と前置きして口を開いた。
「彼奴、体育の授業も、帰り道も、学校の行事全てにおいて一人やったんですわ。おかしいと思ってたら偶々近くにおった奴が遠山に近づいたら身体が壊れてしまうから近寄らん方がええって言っとったんで」
何かして怪我でもさせたんやろうとは思うて。それから、知り合いになってからちょくちょくは構ってて。だから心配性になったんかもしれんなと呟いた。それから彼の事を目で追う事が増えたのは言うまでもなくて。それを指摘されて否定したら部長である白石は否定せんでもええやんかと笑っていた。けれど、彼の描いている様な優しい感じの事情なんかじゃないのだとは優しい部長の彼には言えなかった。
「おい、金太郎の所為で遅くなってもうたやろ」
「堪忍やで、謙也!」
掃除当番であーだこうだと揉めている間に辺りは暗くなってしまい、一応彼は後輩な訳で彼の家まで送り届けるために歩いている中、ふと隣の彼の肩がびくりと震えた。寒いのかと思って声をかけようとした時だった。声を掛けられた。
「忍足先輩、お疲れさまです!」
「おう」
「ひ、遠山っ…!」
「あ、…ごめん」
「おい、いくで」
明るく挨拶してきた後輩とその横にいたその友人らしい男は、最後は急ぎ足で駆け抜けて行く。そして残された自分と金太郎。いつものような元気など欠片もない。しゅんと項垂れる彼の頭をぐりぐりとしてやり、いくでと一言かけ、手を握って彼の家とは逆方向に歩き出した。そして、彼の好きなたこ焼きを差し出した。本当は気の利いた言葉があればいいのだろうけれど、生憎自分はそれを言う様な度量は持ち合わせていない。取りあえず食べ物でもいいから笑っていて欲しかった。彼に落ち込んだ顔などは似合わないし、そんな顔は見ていたくなかったのだ。
「謙、也?」
「金太郎に落ち込んだ顔は似合わないっちゅー話や」
笑えと言えばそのたこ焼きと自分の顔を交互に見て何かを感じ取ったのか、おん、おおきになと笑う彼の笑顔にどきりと胸が高鳴ってそれをごまかす様に頭をくしゃくしゃと撫でて彼を送り届けた。
「おおきにな、謙也」
「おう。…そうや、おまじないしてやるさかい、目閉じ。」
それは小さな頃にされた事だ(けれどそれはする場所は違った)。そっと彼が目を閉じたその瞬間にその柔らかな唇に自分のそれを重ねた。それは驚く程に柔らかくて、少しソースの味がするキスだった。
俺が好きになるまじない
END
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