※忍足と日吉
※×よりは+の雰囲気
女の子が泣くのは、別におかしな事ではないと、思う。むしろ、ロマンチックだとさえ思う。男に振られたとか、初恋が実らなかった事実に涙するなんてことで、泣くのは見ていて胸が締め付けられる感覚さえ感じる。小説や漫画だったら此処で好いた男が側にいるならそれはそれで良い。
だけど、男が泣くのはあまりというかかなり嫌だ。むさ苦しいだけやろと思っていた筈だ。それは今も変わらない。氷帝の中では恐らく一番のロマンチストだと自負している筈の、この忍足侑士が、男の涙にときめくなどあってはならない。それは、はっきり言ってもありえへんやろ。
控えの選手で負けてしまった二年の準レギュラー。日吉若は、対越前リョーマで彼に負けてしまった。それに涙を流したのは悔しい思いからで決して恋がらみの涙ではなくロマンのかけらもない。皆の前でも、そして部室の中で一人になった今も、その涙はまるで宝石か何かの様にきらきらしている。まずい場面に出くわしたものだとため息を着いたら気配を感じたらしい、日吉が振り向く。
「…忍足、先輩…どうかしたんですか」
「どうかしたんは、自分やろ、日吉」
泣き顔なんて見たくないのだと彼の濡れた目もとを拭う。こいつは、後輩としては全く可愛げがない。皮肉ばかり言うし、褒めたりなんてしない。それが日吉若という人間なのだろう。だからか。わからないけれど、いつもの様に済ました顔でいて欲しいと願ってしまった。
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「お早うございます」
あれから何かが変わる事はない。いつもの先輩と後輩の関係。その線上にいるだけ。可愛くない後輩と関西弁の先輩。その関係はそのまま並行していくと思っていた筈だったのだが、どうしてこうなるのだろうと自分の腕の間にいる後輩を見下ろす。どんなに見ても女の様な膨らみや柔らかさは見当たらないのだが、何だか安心してしまうのだ。
「なぁ、キスしたいんやけど」
そう、言った。場所・部室。時間・夕方六時ジャスト。部活の終わった直後。全く雰囲気もへったくれもない、その場所で。いつも仲間と話したりする日常的な風景の一つのこの部屋で。まぁ、日常的な風景の中だからこそ、かもしれないが。
「いつから外人になったんですか、忍足先輩」
どうして、こんな可愛げのない、というか全然違う答えしか返さない後輩を好きだと思うのか。嗚呼でもそれも悪くはない。全然違う答えを返す後輩に顔を近付けてキスをした。ちゅ、とリップ音を立てれば何をされたのかを理解されたらしい彼が頬を赤く染めて睨む。残念ながら、あまり効果はない。いつもなら、もう少しは威力あったかもしれないが。
「あんた、頭でも湧いたんですかっ」
怒鳴る彼に再度キスをした。ますます赤くなる顔を見て、止まらなくなる。
そうだ、あの瞬間から、彼が好きだったのだ。
べたぼれ
何とか恋仲になったら、跡部から二ヶ月の部室の掃除を命令されたのは、八つ当たりやろと思ったのはここだけのハナシ。
END
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