注意 ・赤司は二重人格です(原作ネタバレ?) ・「オレ」が一人称で「黒子」呼びの赤司は自分が二重人格の自覚なかった(捏造) ・「オレ」が一人称で「黒子」呼びの赤司は「僕」一人称で「テツヤ」呼びの赤司の記憶を持っていない(捏造) ・「僕」一人称で「テツヤ」呼びの赤司は全部の記憶を持っている(捏造) ・人格はわりと入れ替わったりする(捏造) 重要 ・赤司と黒子はラブラブ これは 新婚物語 です。 黒子テツヤは後悔している ボクと赤司君は駆け落ちしました。 どう頑張っても赤司君とボクでは一緒に居られないからです。何が悪いのか? この世界だ! そんな気持ちでボクと赤司君は高校卒業と同時に家を出て二人暮らしです。もちろん、親の許可なんかもらってません。勝手に行方をくらませました。若かったんです。青春の暴走です。 ボク達は二人でいれば何もいらない、二人でいられないなら死んだっていい、そんな情熱的な気持ちがあったかどうかは覚えていませんがフィクションに憧れる子供のような逃避行を繰り広げました。 それが一年と半年ほど前のことです。 現在、ギリギリ未成年な二人です。 そんなボクは懐かしい東京の我が家に帰りたい気持ちでいっぱいです。 全てを捨てて駆け落ちまでしたのにひどいと思います? 裏切ってると思います? これが現実というものです。 赤司君のことは好きです。 その気持ちに変わりはありません。 これだけは本当です。 本当に、本当です。 でも、無理なことってやっぱりあるんです。 恋人と結婚相手って違うんですよね。 そのことが一緒に暮らしていてよく分かります。 分かってしまいました。 住む世界が違う人っていますよね。 ボクと赤司君のことです。 違うことは知ってましたが違いすぎるんです。 分かっていたのにココに来るまで、こうなるまでボクは本当の意味では思い知ってはいなかったんです。 二十四時間一緒にいて初めて知る相手の姿があります。 人を観察して分かったつもりになっていましたが、赤司君はボクの考えもしない場所にいました。 ボクが見誤ってしまった理由はきっと赤司君の優しさからです。これまでずっと気付かずにいたのは赤司君がボクに対して遠慮をしていたからです。たぶん。あれでも。 もっと早く赤司君が化けの皮を剥がしていたらボクは駆け落ちの誘いになんか乗ることもなかったはずです。 やられました。 いいえ、赤司君は無意識なので悪いのは彼自身であるのか謎なところです。ボクがもっと赤司君のことを理解していたらこんな苦行の中にはいなくて済んだと思います。 何の話かって言ってしまうと恥ずかしいことですが、金銭的な問題です。 お金の価値観が合わないと一緒に暮らすことはできないのだとボクは知りました。 今まで赤司君はボクに歩み寄ってくれていたんです。 たぶん、あれでも。頑張って。 言いにくいですがズバリ言わないといけません。 「赤司君、ボク……そろそろ限界だと思うんです」 「おは朝でみずがめ座は引っ越し予定を立てるといいって言っていたね。そうしようか」 そっちじゃなくて、赤司君と一緒に居るのが割と限界です。ごめんなさい。死が二人を分かつまでなんていうのはロマンチックな幻です。ボクには無理です。 というか今にも死にそうです。 「テツヤはお金のことを心配していたけれどお金はあったらあったで厄介事があるから、その都度ちゃんと使い切った方がいいんだよ」 そんな詭弁に騙されるボクじゃないです。 もう目が覚めました。 赤司君とはやっていけません。 「使い切ったらご飯食べられません」 ボクは間違ったことなんか言ってません。 それなのに赤司君は聞き分けの悪い子供を諭すように「テツヤは分かっていないね」と言いながら鞄からお財布を取り出しました。 以前見たときは二つ折りにできないぐらいにパンパンになっていたお財布がぺったんこです。 長財布がいいと言いながらボクが持っていたお財布を使っている赤司君はおかしいです。 自分のお財布はオーダーメイド品で身分証明にもなってしまう品物だと赤司君はボクのお財布を使っています。 ボクは外に行かないのでお財布とかいりませんけど、そういう話じゃないです。 根本的に赤司君はおかしいです。 「手元には二千円。これが僕たち二人の全財産だ」 お財布からお札を二枚チラッと見せてくる赤司君に危機感はありません。この人はいつもそうです。 宵越しの金を持たないって江戸っ子ですか。 「引っ越せないじゃないですか」 「このままなら、そうだね」 何を余裕の態度を見せてるんですか。 おかしいです。 一カ月前は二百万円以上あったじゃないですか。 どんな使い方してるんです。 本当、赤司君は頭おかしいです。知ってます。 金遣い荒いなんてものじゃないです。 何に使ったのか? もちろん知ってます。 知ってますけど認めたくないです。 ボクがいま使用中の背面拘束肛門晒し台とか凌辱M字開脚診療台とかお仕置ギロチンチェアとかがそれぞれ十万円から二十万円ぐらいの品物だっていうのは請求書を見たので知ってるんです。 何を買っているんですかね、この人。 久しぶりに広い部屋を借りてくれたかと思ったらこれですよ。ほとんど器具置場じゃないですか。 舐めてんですか。 広いベッドがいいと言ったら一部屋全部にマットを敷いてどこで寝ても大丈夫とか言い出すようなそんな赤司君です。個室のネットカフェに連れて行ったせいでこんなことになったんです。自宅をネットカフェやSMクラブみたいに改造するのはやめてください。 狂ってる。 人の発言を曲解して受け止めるのもやめて欲しいです。 ちゃんとどういう意味なのか分かっているくせに酷い人。 ボクが本格的に拗ねる前に対策を取り出すあたりが憎々しいです。 次々に届く大型の家具に恐れをなしてボクが返品しようとしたらお仕置きタイムです。早速、活躍ギロチンチェア。 効果のほどについてはコメントを差し控えます。 現在、赤司君が好き勝手やっているのが答えです。 「二千円もあれば十分だ」 「パチンコですか?」 「競馬にしておくよ」 そう言って赤司君は出かけてしまいました。 お金が無くなったらギャンブル。 これぞ駄目人間です。 どう見ても駄目人間です。 これで負けないところが悔しいですが格好いいです。 必ず稼いでくるというのが分かっているのでボクもうるさく言えません。勝負運が強すぎます。 とはいえ、恋人をお尻を高く上げた状態で放置プレイとか高度すぎです。 台に手と足が繋がれているのでボクは違う姿勢が出来ません。それなのに赤司君は余裕の放置。 愛が足りないとしか思えませんね。 まったく許せないです。 「バニラシェイクを買ってきてもらわないと割に合わないです。メール、めるめる〜」 携帯電話はちゃんと手元にあります。 赤司君は心配性なので火の元の確認や脱水症状や栄養失調には気を付けていろいろと首を動かせばなんとかなる範囲に物を用意してくれます。気配り上手さんです。 ちなみに携帯電話の名義はボクでも赤司君でもありません。人目を避けているので自分の名前で申し込むことはできません。バイト先も基本的に偽名です。 名前を辿って赤司君の家の人が追いかけてくるかもしれないからです。というか、未成年って保護者の同意抜きで契約書にサインって出来ましたっけ? ボクはよく分かりませんが赤司君はどうにかして足がつかないようにしていると言っていました。 そこは信じるしかないです。 疑ったところでボクにはどうしようもないことです。これの困るところは失くしたり、壊したりしてもサポートセンターから連絡があったり、警察から連絡があったり、修理ができたりがしないことです。 なくなったら、壊れたらそれっきりです。 元に戻ってこないので大切なデータはいれられない、そんなところです。 何気なく撮ったとはいえ、残すつもりで撮った画像が消えてしまうのは悲しいです。 だから、失くしたり壊したりしないように気を遣っています。 ボクが元々に持っていた携帯電話は赤司君と一緒に行くことになった時点でへし折られました。 せめて画像データだけでもプリントアウトしたいとSDカードを持っていたのですが捨てられました。 正確に言うなら赤司君の画像だけはプリントアウトしてボクにくれました。 テツヤ二号の写真も欲しかったのですがわがままですね。 「次は本屋さんのバイト三カ月ぐらいはやってみたいです」 呟いてみます。 赤司君が盗聴器を仕掛けて自分がいない間のボクの行動を把握しているのはすでに知っています。 駄目人間です。 いろんな意味で赤司君は駄目な人です。 ボクを信用できないのかとか叫びたくなるのは全部、過去のことです。 今はすでに悟りの境地です。 「赤司君はボクのこと嫌いなんですかね〜」 心にもないこと言っておきます。 痛いぐらいに赤司君の愛は伝わってきます。 文字通りに痛すぎることがあるのが一番の問題です。 「好きならボクにバイト許してくれると思うんですけど」 ボクは家に帰りたいです。 赤司君のことは好きですが、限界です。 家じゃなく、外に出たいです。 窓も全部ガムテープで塞がってます。 見た目からして息苦しいです。 新鮮な空気が吸いたいと思うのはおかしいことじゃないです。 「赤司君は家から一歩も出してくれないから、ボクって嫌われてるんですねー」 棒読みすぎです。白々しい自覚はあります。 馬鹿じゃないので赤司君だってボクの企みは分かっているはずです。 『黒子、次は一緒に書店で働こうか。今、ちょうど知り合った方と話が弾んだんだ。駅に隣接する書店のオーナーらしいんだよ』 分かっていても、こうやってボクの望みを叶えてくれる赤司君のことが好きです。 「電話、いいんですか?」 競馬場で集中する時は赤司君は電話に出てくれません。 メールも見るだけで返信くれない非道な人です。 愛が足りません。ボクよりも馬がいいって言うんですか? 最低です。 『あぁ、書店のオーナーが三カ月分の二人の生活費を前もって貸してくれると言ってくれているよ』 そんな都合のいい本屋さんなんかあるんでしょうか。 初めて聞きました。そんな好待遇。 裏はないんでしょうか。 そこは本当に本屋さんなんでしょうか。 疑わしいです。怪しいです。 赤司君はどんなルートで職を手に入れているんでしょう。 「色仕掛けですか?」 『何を言っているんだい?』 「いえ、なんでもありません」 オーナーが女性でも男性でも赤司君の魅力にコロッとたぶらかされるんじゃないですかね。ボクみたいに。 「いつ帰ってきますか?」 縋るような響きで吐き出す声の甘さが自分でも意外です。 思ったよりも限界が近いみたいです。 目の前がチカチカしてきます。 呼吸もつらくなってきました。 バニラシェイクも後回しでいい気がするぐらいに赤司君が恋しくなります。 見た目はちゃっちいので外れないかと足を動かしてみますが拘束は緩みません。手も同様です。赤司君に外してもらう以外に方法がないです。 『少し話を煮詰めたいところだけど……そうだね。マジバに立ち寄ったらすぐに戻るよ』 電話越しに微笑みが見えるようです。 声だけで分かりますが赤司君はやっぱり格好いいです。 ボクを背面拘束肛門晒し台に括り付けた人とは思えません。思えないも何も別人だと考えるべきみたいですけど。 赤司征十郎は二人いる。 その事実を知っていてもボクはいまいち分かっていませんでした。違うといっても赤司君は赤司君という意識が抜けずにいました。 知ると識るは違います。 ボクは後になってからそれを理解しました。 頭でわかっていても感覚が理解しないんです。 ボクの中の赤司君はやっぱり最初に会った彼で好きなのも彼だけという気持ちでいましたが、もう一人の赤司君も赤司君は赤司君なので、なんというかボクは結局は弱いわけです。というか、ぶっちゃけて間違えたりしました。 本人曰く、出たり入ったりを繰り返していた時期にボク達は付き合い始めたらしいのでどっちと付き合っているという言い方もおかしいらしいです。詭弁っぽいです。 付き合った時は赤司君が二人いるだなんてボクは知りませんでした。 騙し討ちです。 普通、ちょっと相手が違って見えてもそれは気のせいだと思ってしまいます。というか、思いました。 違っててもこれはこれでいいかもしれないと赤司君に対してフィルターをかけたボクは考えていたんです。 ボクは人と付き合うなんて初めてだったんです。 これは仕方がないことです。 エッチな時の赤司君は強引なんだとか浮かれていました。 話が微妙に噛み合わないのもボクが緊張していたり、赤司君も混乱しているんだと都合よく解釈していました。 本来は噛み合わない歯車が変に噛み合ったことでボクは赤司君の変化も何もかも見落としていたんです。 いつにない積極的な赤司君とか甘えるように近寄ってきてくれる赤司君に戸惑いつつも喜んでしまったんです。 大間違いです。 それは赤司君ですけど、赤司君じゃありません。 冷静になれば顔つきからして違うので見分けるのは簡単なのにボクの目は曇り切っていました。 レギュラーになれたり赤司君と付き合いだしたりで色々と浮かれていました。その上、黄瀬君が入ってきて青峰君の才能が開花したりしてボクは赤司君の様子が変わっていくことに気付ける余裕がありませんでした。 言い訳です。 ボクは目先の不安や快楽に誤魔化されていたんです。 赤司君のことを何も見てはいなかったんです。 そんな過去のことはいいとして、問題は今です。 今のボクと赤司君についてですが当然愛し合っています。 二人の赤司君を受け入れるつもりがなければ駆け落ちなんてしません。 愛し合っているんですがどうも愛情に偏りが生じています。もっと早く気付くべきでした。 ボクは一人で赤司君は二人です。 赤司君からの愛情が重くなるのは当然でした。 「何がダメなんでしょう……」 慣れないながらに二人暮らしを頑張ったつもりです。 でも、ダメだったんです。 すでにボクの気持ちは決まっています。 ボクを黒子と呼んで一人称がオレの赤司君はとてもとても優秀です。どんなぐらいに優秀なのか説明も不要なぐらいに優秀です。何でもできる人でした。 でも、多少はマニュアル人間というか正攻法な人です。口にすることがいつもとても正しいです。格好いいです。好きです。 バイトなのに一週間で正社員に指示を出すベテランバイトさんになって社員どころか経営に参加して欲しいとまで言われだしたりしました。 異常ですがそこまではいいです。 ギリギリですけれど、このぐらいなら赤司君の優秀さはボクだって分かっています。予想の範囲内です。 負け惜しみじゃありません。本当です。 赤司君は優秀です。 そうは言っても調子に乗った赤司君は手を広げすぎます。らしくないですが給料に釣られたのかもしれません。 活躍しすぎた結果として仕事は辞めることになったり、引っ越しを余儀なくされました。 理由としては単純に赤司君の存在が人目を惹きつけすぎてしまったからです。 ボク達はあくまでも駆け落ち中です。 ほとぼりが冷めるまで潜伏しないといけません。 今、家の人間に見つかって離れ離れになるわけにはいかない、そういう気持ちでした。 いつになったら帰ることができるのか分かりませんが永遠に色んな街を転々として暮らすわけじゃないと赤司君は言っていました。まあ、ボクは騙されたんです。 ほとぼりは冷めそうにありません。 赤司君のおウチのことを知れば知るほど家に帰った瞬間に一生会えなくなることが分かってしまいます。 男同士以前の問題で赤司君にはしがらみが多くありすぎるようでした。本人は何とかすることはできるけど努力は現実的じゃないと投げていました。家族と話し合うのが嫌みたいです。その話題にボクが口を挟むことはまだ出来そうにないので二人して人目を忍んで生きていくしかないんです。 話は変わりますが赤司君は微妙に迂闊な人でした。 そのことをボクが指摘すると人格が入れ替わりました。 ボクのことをテツヤと呼んで一人称が僕になった赤司君。 早い話が赤司君は逃げたんです。逃げやがったんです。 どう見てもあれは逃亡です。 ボクの追及に対して言い訳できなかったんです。 それを責める気持ちはありません。 いいんです、別に。 今のボク達だってそもそも親や周囲を説得することから逃げてこうなっているんです。ただ反論できないならできないで赤司君が悪いということで次は気を付けましょうで終わりです。終わりにしてもらいたいです。 自分のことを僕と口にする赤司君はそんな気持ちを持ち合わせていません。彼は自意識過剰な完璧主義者でした。 ボクが赤司君の考えに異論を持つということが許せない心の狭い人です。間違っていないんだから自分の言うことは全部YESと答えろという独裁政治。 オレ赤司君が持ち合わせていた朗らかさも爽やかさもまるでなく目を見開いて威圧するように見下ろしてきます。 背景にゴゴゴみたいな擬音を背負っているような赤司君にボクが不満そうなところを見せると即座にスイッチオン。はい、始まりました監禁生活! 一週間でボクは両親とおばあちゃんがいる我が家に帰りたくなりました。赤司君と一緒に来たことを後悔中です。 その気持ちは今も継続しています。 つまり結構早い段階で赤司君との駆け落ち生活に無理があるとボクは悟ったわけです。 それなのに未だに一緒に行動しているのは、一言でいえば愛です。それしかありません。 もう一言付け加えると義務感と罪悪感です。 赤司君が人格を交換するタイミングがどういった時なのかボクは気付いてしまいました。 そうするとボクはなんだか動けなくなっていました。 監禁だったり軟禁だったりボクの自由を奪っていても赤司君はボクのことを愛してくれているんです。 ボクを喜ばせようと思って色々と考えてくれているんです。頭がおかしいとしか言えないのに一生懸命な姿がどうにもグッときます。 それでも不満は溜まります。 毎日一緒だからこその不満です。 月に一回ぐらいの頻度なら耐えられたと思います。 便宜上わかりやすく赤司君をオレ赤司君と僕赤司君と分けて考えてみますね。 二人とも赤司君はボクを愛してくれています。 これは間違いありません。 愛し方に多少の違いはありますが一番問題になるのはお金の使い方です。オレ赤司君はお坊ちゃんとして暮らしていたので少し世間知らずです。お金の使い方は派手ではありませんが基本的に最低ラインが高い場所にあります。 標準的な庶民の感覚を知らない人です。 貧乏暮らしとかできません。 このあたりはボクが頑張ればいいと軽く考えていました。 正直言って、駆け落ちに了承した大部分の理由がボクが赤司君に世界を教えたいなんていう驕った考えからです。 買い食いなどほぼしない赤司君。 ゲームセンターにだって行きません。 すぐにコツを覚えてしまう赤司君ですけどボクが教えてあげるなんていう珍しいシチュエーションが現れたりするんです。ゲームセンターは最高です。 学校で使う機会がなければ赤司君は電車やバスの乗り方すら知らないんです。知らなくても生きていける人なんです。お抱え運転手がいるおウチに生まれて不自由はいっぱいでもいろんなものを与えられて育った赤司君。 そんな赤司君と橋の下で新聞紙にくるまるサバイバル生活を想像してボクはテンションを上げていました。ダンボールで家を作ることもボクには楽勝です。ダンボールだってすぐに集められます。学校の行事でやりました。赤司君は裏方などやったことがないから絶対に知りません。 見たら構造を理解したとかそんなチートな話はいいです。 とにかく駆け落ち当初、ボクは赤司君に頼られたいばかりに夢見がちだったことは否めません。 仕事も住む場所もすぐに見つからないと思っていたら即断即決で決めてしまった赤司君。かわいくないです。 最初に住むことになった街はその場の勢いでボクが決めたので赤司君が手を回していたということはありません。 ボクはなかなか働き口が見つからなかったので主夫です。 この段階ですでに予定が狂ってます。 ボクが赤司君を養うという夢のシチュエーションからズレています。 落ち込むボクを励ますためにバリバリ働く赤司君。 格好いいです。 でも、望んでいたものと違います。 人生の厳しさとか挫折感にくじけそうになる赤司君を支える気だったボクのやる気は空回りです。 世間知らずでバイトをしたことのない赤司君に頼られるのがボクの理想でしたが早くも崩壊です。 バイトをしたことがなくても赤司君は人を使った経験がありまくりです。根っからの指示出し人間です。 普通、バイトなら使う側ではなく使われる側です。 こんなの絶対におかしいです。 赤司君は人を見る目があるのか業績重視だったり、自分が自由に動けるような職場を見つけるのが上手です。 潰れそうなお店に自分を売り込んで住み込んだりと赤司君はやり手でした。 ボクは甘い汁をすするだけの生活。 楽ですが求めていたものとは違います。 そうは言っても赤司君の金銭感覚はやっぱりおかしいのでボクの出番です。 主夫として家計に口出す権利があります。 他にやることもありません。 洋服はオーダーメイドの一点ものが当たり前だと思っていたようです。ボクはTシャツ一枚千円でいい人なので高そうな布の服を一張羅ではなく何点も買ってこられても困ります。ブランドものは顔を覚えられると困るから街のお洋服屋さんで布を取り寄せさせて作ってもらった、ってなんでですか。隠れ潜む気がないです。 服もですが食べ物も基本的に赤司君の求める水準は高いです。カップ麺とか食べて事がない赤司君ですが何故かインスタントのお味噌汁は作れます。 いや、お湯を入れるだけですけどね。 見たことあるって言ってました。 どこにそんな機会があったのか謎です。 ボクは赤司君が働いている間にスーパーに行っていろいろと買い物をしました。主夫らしく一円でも安いものを求めてさ迷い歩いたんですが迷子になりました。 仕事が終わった赤司君が見つけてくれたんですけど知らない街で家に帰れなくなるのは恐怖です。 そして、その日はご飯も作れませんでしたので散々です。 翌日に朝ごはんを赤司君が作ってボクを起こしてお仕事に出かけました。赤司君の作ってくれた朝ごはんを食べながらこのままではいけないとお弁当を作ってこっそりと届けに行きました。 こういう時に影が薄いのは便利です。 ミスディレクションで誰にもバレないように赤司君にお弁当を届ける作戦! それは見事に成功しましたが赤司君は職場の方に普通に紹介してくれました。恥ずかしいです。 わざわざ隠れた自分が恥ずかしいです。 夕飯の買い出しはボクが赤司君の仕事上がりを待ってから一緒にスーパーに行くことになりました。 そして、特価のセール商品を買おうとするボクに対して高級食材を選び出す赤司君。何もわかっていません。 抗議したら口に入れるものはケチってはいけないと諭されました。悪いのはボクですか? セールをしてるスーパーですか? どんな料理の腕を持っていても食材がダメだと活かせないみたいな話を赤司君はします。遠回しにボクが作ったお弁当にダメ出ししてるんでしょうか。 腕がなくてマズい飯だから普通よりも高い食材を使って料理したらマシな味になるって言われてるんでしょうか。 被害妄想をこじらせたボクは調理の鬼となり茹で卵を作り続けました。 コレステロールがどうとか言われたのでカボチャプリンっぽい感じに茹で卵を加工しました。怒られました。なかなか楽しい日々でした。赤司君はなんでも自分で出来る完璧人間だったのでボクは不満が募って「赤司君が自分でやればいいじゃないですか。ボクなんか必要ないです」とかかわいくないことを言いました。さすがに失言だとは思ったんですが全然主夫っぽいこと出来てなかったので苛立ってたんです。本当に家に帰りたいと思ったわけじゃないですが、軽口で言っちゃったわけです。 『実家に帰らせてもらいます』 そしてどうなったかといえば赤司君の人格交代です。 ボクのせいですか? 違うって言ってください。ごめんなさい。ごめんなさい。 あまり思い出したくもない日々を経てボクと赤司君二人の駆け落ち生活は続きます。 通販を覚えた赤司君は食材配達を使うようになったのでボクはスーパーにも行きません。ボクが考えて買った食材にケチをつけられたりしないのでいいですけど温めるだけとか焼くだけのものって料理なんですか? 一から作れと言われたら大変かもしれませんがそのぐらい赤司君のために覚えます。 焼いただけの冷凍ピザを有り難がられても微妙な気持ちになるだけです。逆に悲しいです、ボクは。 「ただいま。黒子、起きているかい」 寝れるわけないです。 「気づいたら二週間経っていたんだけど――」 たぶん、主人格であるのは今ボクの目の前にいる「オレが居ない間、大変だったね」と気遣ってくれている赤司君です。さっきまで居た金遣いが荒いギャンブラーは今の赤司君にストレスがたまり過ぎると現れてきます。本人にそのつもりはないんだと思います。 無意識的な欲求とか強迫観念だったりとか人格の違いはスイッチのオンオフが確かにあるものの、このオレ赤司君は分かってません。僕赤司君の記憶もないみたいです。僕赤司君はオレ赤司君の記憶を持っているらしいのでややこしいです。 「随分とかわいがられていたみたいだね」 「ちょっといろいろと買いすぎだと思います」 「全部試した?」 「一回ぐらいしか使ってないのもあります」 手と足を解いて欲しいと言う前にお尻を撫でられました。 「この入りっぱなしのは気持ちいいの?」 「振動が単調なので正直あんまりです」 「そう」 前立腺をマッサージしつつ会陰部に刺激をくれていたアナルバイブを引っこ抜かれてしまいました。 ドライオーガズムを飽きるほどに与えてくれたバイブともこれでお別れです。オレ赤司君は道具全般が好きじゃないみたいです。ベキバキ壊れる音がします。僕赤司君はボクに快楽を教えるのが趣味というか生き甲斐だと口にしますけど半分以上は嘘です。これは絶対にオレ赤司君が嫉妬するところまで脚本に織り込み済みです。 「黒子、こんなくだらない玩具よりもいいものをあげるよ」 そう言ってボクにとっては慣れ親しんだモノが入ってきたりするわけですが、これは予定通りです。 オレ赤司君が表に出てくれば二十四時間休みない放置プレイから解放されます。 エッチなことは夜やる方が燃えますよね。 2013/10/5 |