6/30に配布した黄黒ペーパーの加筆版。
恋愛中毒ラブホリックの内容です。


バカップルの謎会話





唐突に黒子は黄瀬の着替えを横目で見ながら言った。


「ボクの大切な黄瀬君は大きすぎると思います」


黄瀬にとってはあまり唐突でもなかったが周りの空気は固まった。
まさか黒子の口からそんな、そういった無言の意思が読み取れた。

「ボクの大切な黄瀬君が縮んだり擦り切れたりねじれ飛んだりすることを想像するととても心が穏やかになります。縮んだり擦り切れたりねじれ飛んだりしませんか?」

「オレは想像しかけて気絶しそうっスよ」

自分を抱きしめてガタガタ震えだす黄瀬。
それに対して黒子はいつになく力強い動作でロッカーを閉める。

「黄瀬君は何が不満なんですか!」

バンッと大きな音を期待したのだがロッカーは飛び出たタオルのせいできちんと閉まらず勢いに反して音は出ない。
黒子は舌打ちをした。

「不満なんかないよ。黒子っちのこと愛してるよ」

「違います。ボクたちの交際の深度についてです。
 ボクの大切な黄瀬君は不満に思っています。
 そのぐらい分かっているんです」

「そりゃあさあ、
 黒子っちは『三十秒で済ませな』とか無茶言うから。
 せめて『三分待ってやる』ぐらい言って欲しいっスよ。
 三分でも……ちょっと勘弁だけど。短いっスよぉぉぉ」

「黄瀬君は……ボクの大切な黄瀬君は早さと回数ならどちらを重視するというんですか」

「黄瀬君はわがままっスから、より長い時間、何度でも黒子っちに触れていたんスよ。許してっ」

「今のウインクは減点です」

「かわいくないっスか? 女の子にスゲー受けたんだけど」

「それは『うわっ、こいつうぜぇ』みたいな意味です」

「ウザいと思ったの!? 黒子っちは、ウザいと思ったの??」

「ウザいは一般論です。ボクは引き裂かれろと思いました」

「意味がわかんないっ」

「ボクは黄瀬君のことをウザいなんて思ってません」

「そうっスよね。良かった〜」

 安心したように笑って黄瀬は着替えを再開する。
 近くで聞いていた緑間と赤司と紫原と青峰はお互いを横目で見ながら「ウザいよりも酷い評価なのになんで笑顔!?」とそれぞれ心の中でツッコミを入れた。



『黄瀬には言葉が伝わらないのだろうか』

 心配になってついヒソヒソと赤司は周りに話題を振る。

『伝わってて無視してんじゃない〜』

『あいつにそんな頭ねえだろ』

『青峰、口が過ぎるぞ。だが、オレも同意なのだよ』

『黄瀬も馬鹿じゃない。言葉を文字通りには――』

『いや、赤ちん。黄瀬ちんはバカだよ』

『オレとテストの点、同じぐらいだろ』

『それは青峰、間接的に自分を貶めているのだが……』

『オレが勉強できないのなんはかみんなが知ってる本当のことじゃねえか』

『開き直るんじゃないのだよ』

『結局いまの二人の会話はなんだったんだ?』

『マジに取り合う必要はないと思うけど〜』

『黄瀬のことをテツが褒めてる時点でネタ』

『オマエら、ちょっと酷いのだよ』

『そうです。心から褒める時は全力です』

『それがすでに……』

『って、黒子。なぜオマエが混じっているのだよ』

『キミたちも本人を前にしてよく噂話ができますね』

『黒子、実際のところはどうなんだい』


『なにがどうなんでしょうか』

 赤司に言われて黒子は首を傾げる。

「ボクの大切な黄瀬君が立派だというのは誰もが認める事実だと思います」

「いきなりっ!! 黒子っちのそういうテロリストなところ、ス・キ!」

 隣にいた黒子が後ろにいたことに驚きつつも黄瀬は嬉しそうに黒子にくっついた。

「黒子っち、愛してるっ」

「黄瀬君、みんなが『うぜえ』って顔してます」

「恋人が居ないから僻んでるんだ。オレは黒子っちのモノなのに全くみんな、諦めが悪いっスよね」

「黄瀬ちん、愛されキャラ気取り?」

「気取りじゃなくて事実っスよ」

「え? あ、ごめん。ギャグ? 面白くないから別のにして」

「紫原っち、厳しすぎ」

「そうでもないのだよ。よく黄瀬相手に向き合ったものだ」

「緑間っち、何その言い方」


 唇を尖らせて不機嫌をアピールする黄瀬に赤司は穏やかな顔で告げる。


「みんなお前が黒子にもてあそばれているんじゃないのか心配しているんだ」

「黒子っちと遊べるオレに嫉妬の炎!?」

「脳内お花畑だと会話が成立しないね〜。もう諦めよう」

「酷いことを言うのはやめるのだよ」

「本当のことだし」

「確かに黄瀬君は物事を楽観的に解釈しすぎることがあります。正直ついていけません」

「テツ、大変なのか……」

「黄瀬君は恐ろしい人です。
 ボクにあんな事までさせたにもかかわらず足りないと欲張りです」

「あんなことって……ペットボトルのキャップを開けて貰っただけじゃないっスか」

「そんなものを重労働扱いかっ」


緑間がツッコミを入れるがどんな風に黒子がペットボトルのキャップを開けたと思っているのだ。
恥ずかしくてしばらくは黄瀬の顔を見れなくなるようなものだった。
これも表面的な言葉だけで物事を見てはいけないという事例の一つだ。





帰り道。


「黒子っちの大切なオレに触りたくないって言うからペットボトルになったんじゃないっスか」

「ボクの大切な黄瀬君を口の中で舐めたり吸ったりし続けると顎が痛くなります」

「黒子っちの大切なオレだから仕方ないよ」

「いくらボクの大切な黄瀬君だとはいえ疲れてつい噛みついてやろうかと」

「やめてよ、黒子っちの大切なオレなんだからっ」

「大切な場所ですから優しくしてあげたくもありますが、何よりも辛いです」

「そんなに苦労かけたっスか?」

「ペットボトルは……その、ダメです」

「視覚効果として最高だったのに……だめ?」

「歯を立てていいなら」

「それじゃ痛いじゃないっスか」

「痛くないです。ペットボトルじゃないですか」

「黒子っちの大切なオレが小さくなっちゃう」

「ボクの大切な黄瀬君は小さいぐらいがいいです。
 慎ましやかなサイズになってください。そうしたらボクも舐めるのが楽です」

「黒子っち、そんなに口でペットボトルの蓋を開けるのイヤっスか!?」

「裸になってキミの腿に挟んだペットボトルの蓋を唇を使って開けるのは至難です」

「やってくれたじゃんっ」

「アレは最終的に歯を立てました」

「うそっ!!」

「だって、唇だけじゃどう頑張っても無理ですって。次はないです」

「黒子っちの唾液でぬめぬめしていくペットボトルに超興奮したのに……」

「だから、ボクの大切な黄瀬君に必要なのは録画映像ですって。
 ボクがペットボトルを出し入れしたりする映像を楽しんでください」

「いやいやいやっ!!!
 なにそれ、ずるいずるい」

「あ、黄瀬君がペットボトル使いたいなら別に勝手に使ってていいですよ?
 ボクに遠慮しないでください」

「そんなペットボトルの使い方、一生するつもりないからっ!!」

「ちなみにペットボトルよりも栄養ドリンクサイズが楽そうですね」

「やったことあんの!? ちょ、ちょっと黒子っち!!!」

「口に入れるにしても栄養ドリンクぐらいがいいです。
 ボクの大切な黄瀬君はサイズダウンしませんか?」

「黒子っちの大切なオレは大きくなるばかりっスよ」

「そうですか、なら仕方がないです。黄瀬君は自分の手を使ってください」

「無理無理。オレはそんなんで満足できない人間なんです!! 黒子っちが協力してくれないとダメなの」

「仕方がありませんね。恋人として力を貸しましょう」

「黒子っち、格好いい!!」

手を挙げて喜ぶ黄瀬に黒子が「黄瀬君は子供みたいですね」と溜め息吐く。
無邪気な笑顔に対しての感想かもしれないが子供は絶対にこんな悪知恵は働かない。
そのことを黒子はゆっくりと思い知ることになる。


2013/07/11
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