赤黒童話パロディ。 年の差・パラレル・エロラブ。 注意:赤司父捏造含みます。(サンプルに父の出番はありません) マッチ売りの黒子サンプル 黒子テツヤはマッチ売りだった。 どう考えても無理な仕事だ。 黒子は生まれながらに影が薄かった。 どんなに「マッチいりませんか」と呼びかけたところで誰も足を止めてくれない。小さな子供が一生懸命に仕事をしているのだから哀れんでもらおうと思っても無理だ。存在に気付かない人間に優しくしようなどという人はどこにもいない。寒くなってきた外の空気に黒子は死を覚悟した。 「バニラシェイク……最後に」 そんなことを言いながら黒子は冷たい石畳に倒れこむ。 まだ夕方なのに黒子の視界は暗くなっていた。この頃、ろくにものを食べていないのだから仕方がない。貧血だ。 誰かに抱き起されて黒子は目を開ける。 少し童顔に見える紳士が黒子を見下ろしていた。 「いりませんか?」 「貰おうか」 そう言ってもらって黒子は安心する。 マッチなどそんなに高いものじゃない。 ある程度、経済的に余裕があるのなら黒子が籠いっぱいに持っているマッチを一人で買ってくれるかもしれない。 全てを売らないと黒子はどこにもいけない。 「家に帰れないんです」 倒れている子供がかわいそうだと思うのならいっそのことマッチ全部を買い占めてくれないだろうかと身なりのいい紳士に思った。まだ若いようだが着ているものが庶民とは違う。黒子の頬を撫でる手袋の感触は一流品だ。黒子も先日まではそこそこの規模の屋敷に住んでいた。両親が強盗に殺害されてからというもの不幸は続いた。最初は祖父母の家だったが同居している黒子にとって叔母にあたる人間は黒子のことをあまりよく思っていなかった。財産を自分が全部貰うという理由で叔母は祖父母の面倒をみるという名目で暮らしていたらしい。黒子の存在は財産を減らす上に面倒でしかない。子供の扱い方を分からないと祖父母に説明をして黒子を施設に入れてしまった。 施設の人間は優しかったがいろいろな意味で緩かった。 財政をきちんと管理する人間がおらず次々と身寄りのない子供を引き取ってはその日に食べるものもない。子供を飢えさせるぐらいなら引き取る子供を減らせばいいと思ったのだが施設の管理人は慈悲深かった。 苦難もきっとみんなで乗り越えられる。そういう精神論である程度の年齢の子供たちには仕事を与えていた。黒子の仕事はマッチ売りである。無理だ。全然売れなかった。それでも誰も黒子のことを責めはしない。黒子が手を抜いているとは言われない。そんなこと考えもしないのだろう。施設は善人しかいない場所だった。だからこそ、悪人に貪られていたような気もする。そもそも施設の財政が圧迫されたのは施設を立ち上げた創始者の財産の半分以上を騙し取られてしまったからだ。 黒子は自分の影の薄さを利用して盗みダメでも奪われた財産を回収することが出来るのではないかと思ったのだが施設の人間はみんな平和主義者の善人だった。争いごとを好まない。お金がなくてもなんとかなるという緩い考え。実際はどうにもならない。支援者でもいれば善意のままで非営利な運営をしていても平気だったかもしれないが今はもうお腹を空かしていない子供の方が少ない場所だ。子供が安心して過ごせる場所という触れ込みだった施設が見るも無残。みんな他所へと移されていった。飢えるよりはいい。だが、残念なことに黒子は忘れられた。何の手続きも取ってもらえなかった。居場所がない黒子は途方に暮れて残されていたマッチを持って街へ出た。 マッチが全部売れたところで今日の宿が手に入るかも分からないが祖父母の家に戻る馬車代ぐらいにはなるはずだ。 かわいそうな身の上話でもすれば目の前の紳士は力を貸してくれるだろうかと黒子は唇を震わせる。 「大丈夫かい? この季節に裸足で出歩くなんて馬鹿なことをしたね。こんなに身体を冷たくして、死んでしまうよ」 浅ましい考えが恥ずかしくなるほどに真正面から心配されてしまった。靴はボロボロの履いていても石畳の冷たさの分かるような穴の開いたものを黒子は持っていた。フラフラと歩いていたせいで多分なくなってしまったのだ。靴は黒子の足に合わせたものではなく施設の年上の子供からもらったお下がりだ。 「おいくつですか?」 問答無用で全部のマッチを売りつけようとした黒子は気持ちを切り替える。人を食い物にするような考え方はよくない。親切な人を騙すようなことはできない。そう思って黒子はマッチの個数を聞いた。 それが黒子にできる精一杯だった。いくら心配してくれた優しい人でも無料でマッチを渡すことはできない。 「今日で二十になる。……実は今日は僕の誕生日なんだ」 「おめでとうございます」 「うん、だから誰にも止めさせるつもりはない。今日は一つだけなんでも言うことを聞いてくれると父も言っていたからね」 「はい?」 「名前はなんて言うんだい?」 「黒子テツヤです」 「行こうか、テツヤ」 黒子に歩き出す体力などないので青年に持ち上げられているだけだ。マッチの入った籠と一緒に黒子は青年に馬車に乗せられた。普通の馬車とは違う。過剰な装飾。庶民が触ることを許されない細工物がそこかしこを華美に彩っている。祖父母の家まで送ってくれるのだろうか。それはないだろう。目の前の男のことを黒子は知らない。知り合いではない人間の馬車にどうして自分は乗せられているのだろう。これからどこに行くのだ。 「あぁ、すまない。自己紹介がまだだったね。僕は赤司征十郎。これからよろしくね」 何をよろしくするのか黒子は分からなかったが「赤司」の名前に心当たりはあった。このあたり一帯を治めている大地主だ。領主とでもいうのかもしれない。 貴族の道楽なのか。 (ボク、売り物じゃないんです) マッチに付属するものと思われたのだろうか。 黒子は声が出ないと口を動かしながら思っていた。 半開きの口の中に何かを入れられた。 「元気になるための薬だよ。家に帰ったら豆のスープでも飲もう。胃に優しい、あたたまるよ」 そう言って赤司は優しげに黒子の頭に触れた。 「お風呂にも入ろうか」 それは助かる。もう何日も黒子は風呂に入っていない。 施設の設備はもう使えなくなっていた。 水道もガスも止められている。マッチでお湯を作り出したとしてもそれを身体を洗うことになど使いたくない。マッチがなくなれば黒子は冷たくなるしかないのだから当たり前だ。マッチは売り物であり自分で使うものではない。 赤司に抱きしめられて感じるぬくもりは本当のものだ。 自分はマッチに火をつけてしまったのかと黒子はぼんやりと考えながら意識を遠のかせていった。 (略) 「結局、赤司君はマッチをいくつ買ってくれるんですか?」 「そうだね、じゃあ今日は三つにしようかな」 「今日は?」 「テツヤが僕の言うことをもっと頑張って聞けたらマッチを貰う数は増やそうかな」 「でも、そんな……大きいのは、無理ですよ」 赤司は黒子の中に自分のモノをまだ入れる気だ。 もう諦めて欲しい。ショック死する。 「テツヤの身体が育つまで待つよ」 「急に大きくなったりしませんから、……手じゃまだ物足りないですか? どうしたらいいんですかね」 「そんなにマッチがなくなって欲しい?」 「だって、ボクはマッチ売りですよ? マッチを売るのが仕事じゃないですか」 「子供は元気なのが仕事だと言うけどね」 「元気なだけだと死にます」 「死ぬのっ?」 驚いたような赤司に黒子はうなずく。 「元気がいいということはその分、ご飯を食べるということです。一食べ物がない場合、一番先に死にます」 「僕はテツヤを飢えさせたりしないよ」 「そうですか。マッチ買ってくれますか?」 自然なセールストークだと黒子は自分に惚れ惚れした。 「買うけれど……テツヤは暮らしの心配などする必要はないからね?」 「マッチは消耗品とはいえ、大量に必要なものでもないと思いますけど赤司君はそんなに買ってくれるんですか?」 それとも赤司はマッチ一つの値段を勘違いしているのだろうか。黒子は相場以上とるつもりはない。 「テツヤはそんなにお金が必要?」 「家に……帰れないなら自活するしかありません」 「立派だね。けれど、衣食住は僕が保証するというのを聞いていたかな? 一緒にここで暮らそう」 「マッチは?」 「売りたいなら売りに行ってもいいよ」 「宿泊費は?」 「いらないよ」 「赤司君はとってもいい金持ちですね」 「全然、褒められてる気がしない」 黒子が「道楽息子ですね」と言っても苦笑されるだけで怒られはしなかった。 「褒めてます。絶賛です。ボクは運が悪いと思っていましたがそうでもないようです。今日、明日には死なないようで安心しました」 「もっとテツヤには安心して欲しいんだけど、まあいいか」 赤司は黒子のおでこにキスをしてネグリジェを着せた。軽やかな素材は透けていて服の役割など出来ていないが布団をかぶってしまえば気にならない。室内はあたたかく、隣に赤司がいるのでベッドの中は熱いぐらいだ。部屋の照明を消したのでこのまま眠るのかと思えば赤司に胸を揉まれた。このマッサージに何の意味があるのか考えていれば「気持ちいい?」と耳元で囁かれたので「揉むなら肩にしてください」と返した。肩がこっているわけではなかったが胸を揉まれても仕方がない。 黒子の切り返しに赤司は「それは想定外だ」と笑った。 続きは本編で! 発行:2013/5/3 |