帝光赤黒ラブラブ。特殊ネタ。
童貞な感じの赤司君と百戦錬磨臭のする黒子。
注意:赤司父捏造含みます。(直接父の出番はありません)


黒子テツヤが調教するまでもなく淫乱だった件について
サンプル



 どうしてこうなったのか、まずはその説明が欲しい。
 誰だってそう思うはずだ。赤司も強く思った。
 こんな現実間違っている。
 そう赤司が叫ばなかったのは黒子に慌ててるところを見せたくないというただそれだけのプライドからだった。余裕の態度を崩したくないのは弱みを見せたくないからだ。
 処世術ではなく好きな相手に醜態など見せたくない。それだけが理由だった。なんとも分かりやすい。仮に口を開いても質問など出来ずにひっくり返った震え声だけが出るだけかもしれない。そのぐらいに今の赤司は動揺している。黙っていたほうがマシだ。赤司はそう結論付けたがもっといい対処法があるのかもしれない。経験を積んだ大人ならこんな時にどういう風に対応するのか分かるのだろうか。
 それなら父親でも車の運転手でも何でもいいので教えて欲しい。黒子が見てないなら土下座だってしたっていい。こんな時にどう反応するのがスマートで男らしいのだろう。
 さっぱり分からない。想像がつかない。
 そもそも黒子は最初からおかしかった。
 思い詰めていた。
 もしかしなくても自分と付き合うことが黒子にとって重荷になったのだろうか。迎えの車の中で黒子が顔を赤くして俯いていたことに赤司は気付きながら対処できなかった。
 その時点で自分の家ではなく黒子の家に送り届けるべきだった。夕飯を一緒にできないのは残念だったが機会ならいくらでもあるだろう。焦ることはない。そう思っていていい。そのはずだ。けれど、赤司は子供だったのだ。
 黒子と離れがたかった。もう少しだけ傍にいたい。そんなことを思ってしまった。黒子自身が帰りたいと言ったなら無理に引き止めることはしなかったが自分から黒子を遠ざけるようには出来ない。それは赤司の弱さかもしれないし美点であるのかもしれない。欲しいものを欲しいと言えないことは不幸だ。何かを求めた時に躊躇わずに欲しがって手の中に閉じ込めるのは間違ってはいない。けれど、タイミングというものもある。今回は仕切り直しをした方がいいと頭で分かっていた。それでも心はまるで納得できずにこのままでいいと意地を張り自分の気持ちを赤司は優先する。結果として黒子に負担をかけてしまったのかもしれないと後悔しても遅い。赤司が悪かったとしてもここまで異次元に叩き落されるほど悪いことをしたのだろうか。配慮が足りなかったというのならもっと口で説明するべきではないのか。文化人なら気持ちを言語化するべきだ。自分が何を思っているのか伝えられないのは乳飲み子で卒業しておかないとただのコミュニケーション不全が出来上がる。
 把握する受け手側の理解というのがあるのは当然だ。
 赤司の感受性が未熟で黒子の言動を解析しきれないのなら責任の所在は赤司にあるのかもしれない。
 赤司が黒子を呼んだのだからその点で黒子の面倒は赤司が見るべきかもしれない。
 夕飯がなんであるのか聞いている赤司の服の裾を掴んで黒子が首を横に振る。
 どうしたのかと思えば「食べるのは後ででいいですか?」と言ってきた。食欲がないらしい。学校から出てからずっと口元を押さえることが多い黒子に連想するのは車酔い。運転手は一流で乗り心地はいつも通りで赤司としては悪くないと思ったのだが、緊張から敏感になることもある。赤司にとっては日常でも黒子にとっては異常だったかもしれない。家の車を呼ぶのではなくタクシーにすればよかったと赤司は自分の気遣いのできなさを恥じた。
 赤司の自室に招き入れて黒子は落ち着かないように周りを見渡す。どうしたのかと思えば「布団はないんですか」と聞かれた。寝室が別にあると答えれば行きたいという。この時点で気付けたのなら赤司はこんな風に混乱状態にはならなかった。気付けるはずがない。分かるわけがない。
 キングサイズのベッドを見せて少し恥ずかしくなりながら「いずれはこれに見合うように大きくなるからと、両親が」と無駄な言い訳をしてしまう。
 紫原が二人眠っても平気そうなベッドに見合うようにはさすがに赤司もなれないだろう。大切なのは心意気だ。態度が大きければオーラで誤魔化せる。自分よりも背が低い人間に見下されるという矛盾にみんな苦しめばいい。そんな赤司の内面の言い訳など黒子には聞こえないのでまるで取り合ってくれなかった。少しだけ切ない気分になりながら黒子と会話が噛み合わないこと自体は珍しいことではないので赤司は特に気にしなかった。独特の世界観を持っているように見える黒子を赤司は急かすことはない。個性は尊重するべきで人の合わせるものではない筈だ。恥じらうように「言い難いんですが」と口にする黒子に赤司は微笑みかける。
『お前のすべてをオレは受け入れているよ』
 そんな歯の浮いた台詞を口にした赤司の横っ面をひっぱたくように黒子は躊躇なく服を脱いだ。ここで出来る大人は慌てず騒がずまずは「バスルームはここじゃないよ」とでも言うべきなのかもしれない。そして黒子がシャワーを浴びている間にゆっくりと打開策を練ったりする、そういうのが洗練された大人の態度というものだ。赤司は見た目には動じたところを出さないものの死ぬほど驚いた。
 腰が抜けて座り込まなかったのが奇跡だ。
 黒子の肌を初めて見たわけではない。
 驚いているのはそこではない。ロッカールームで着替えているところなど何度でも見ている。たとえ黒子が自分の後ろにいたとしても鏡を使って赤司はちゃんと見つめていた。それが恋人の義務であり権利だ。人の上に立つものとしてチームメイトの健康を把握する責任がある。黒子が好きで仕方がなかったとかそういう当たり前の理由であっても自分自身に言い訳をするのが男だ。心の中であってもいつ何時口に出すか分からないことは復唱しておくに限る。
 心の中で繰り返す。
(これはおかしくない)
 いいや、おかしい。どこからどう見てもおかしい。
 気が狂ってるんじゃないのかと黒子の手を取り正気を確認する作業から始めるべきだ。
 服を脱いだ黒子は裸ではなかった。服を脱いでいるのだから裸と表現するべきなのかもしれないが下着を着ていたら下着姿、水着を着ていたのなら水着姿。なら、裸に絆創膏を貼っていたら絆創膏姿と言うべきなのだろうか。
 どうなのだろうか、赤司にはさっぱり分からない。
 理解不能だった。黒子の行動様式の真意が読めない。
 乳首と思しき場所に貼られた絆創膏はどんな意味があるのだろう。乳首ガードという単語が瞬時に赤司の頭の中にひらめくが口に出すことはない。言葉にした瞬間に認めることになるからだ。目の前の絆創膏を認めてしまったら世界が変わってしまう気がする。黒子が絆創膏を乳首に貼る世界に生きているのなら赤司もそうするべきなのかもしれない。絆創膏程度で二人の間に溝ができるなどあってはならないことだ。絆創膏などありふれて見慣れている。取り立てて騒ぐほどのものでもない。だが、乳首を守護してどうするつもりなのだ。乳首ガードの有効性を赤司は考える。世界は広い。赤司が知らないだけで乳首を守らないといけない日があるのかもしれない。きっと多いだろう。月に一回の乳首休めの日。その日は乳首を空気に触れさせてはいけない。そのために絆創膏を貼るのだ。実際のところどんな理由があるのかは知らない。宗教上の理由かもしれない。教義は絶対だ。黒子自身理由を知らなくても教祖に乳首に絆創膏を貼るように言い渡されていたのなら言う通りにするしかない。宗教を頭から否定すると大体の場合、関係は険悪になる。
 誰でも自分が信じているものを否定されれるのは嫌だろう。赤司も父親が「今日から赤司家はタイ料理オンリーだ」と言い出した時は猛反発した。海外に出張して気に入ったらしいが冗談ではなかった。タイ料理に恨みはないが毎日となると話は別だ。いくら日本人の口に合わせようとも他国の料理を食べ続けるられない。日本人なら和食を食べていればいいのだ。湯豆腐三食でいい。無駄に香辛料ばかりつかった濃いめの味付けはその土地で食べるならともかく日本で常食するものではない。そう訴える赤司に父は微妙な顔で「今日、四月一日だ」と言った。知ったことではない。エイプリルフールを本気でとった赤司のことを笑うでもなく困ったように見つめる周囲のことを思い出せば絆創膏を乳首に貼っている黒子の姿に対して優しい気持ちにもなれる。和食が塩分を控えめにすれば世界最高の料理だと語り続けたことは黒歴史でも何でもないのだ。そう、赤司は後悔していない。他国を下に見ることはないが今でも和食最強だと思っている。
 黒子が確固たる意志をもって乳首に絆創膏をしているのなら赤司が何かを口出しすべきではない。宗教戦争が勃発してしまう。赤司は黒子と争う気はなかった。
 腕を組み見定めるように赤司は黒子を見つめた。
 赤司の視線に全身を朱に染めていく黒子。それを眺めるのは良いような悪いような赤司にとって中途半端な状態になった。泳いでいる黒子の視線は何かを期待している。言い出せないものがあるのは辛うじて赤司にも汲み取れるが宗教的な理由以外でどうして黒子が脱いだのかという根本的なものが解明できていない。つまりは手詰まり。今の黒子の普通の人間との差異は目につくのは絆創膏だが「怪我でもしたのか?」とそんなことを言ってしまうのは不味いだろう。もし、怪我ではない場合、黒子に恥をかかせてしまう。宗教的なものならば人の不理解など慣れ親しんだものかもしれない。だが、赤司なら分かってくれるかもしれないと黒子が期待していた場合それを裏切ることになる。だからといって知ったかぶりをして底の浅さを露見させるのも最低だろう。このまま無言で何も触れないのもよくはない。無視されたと黒子が傷つくかもしれない。では、どんな対応がベストなのか。
「それで、お前はどうしたい?」
 これが赤司にできる精一杯だった。他にどんな発言をすれば事態が収まるのか想像ができない。
 母を口説き落とした父親のマル秘テクニックの数々を聞き流さずに覚えていれば良かった。こんな時への対処法もきっとあったに違いない。それが大人の経験だ。百聞は一見に如かずとはいえ知識がゼロなのとおおよその内容の把握をしているのでは対応する場合の柔軟さが違ってくる。
 今の赤司に圧倒的に不足しているのは経験だった。
 経験は積むことでしか得られない。今の赤司は何も手に入れていない状態だ。黒子と恋人になったとしても恋人に慣れたわけではない。
 黒子テツヤが何を考えどうしたいのか赤司は未だに分かっていない。予想はつくがそれは絶対ではない。
 バスケにおいて奇襲をするための立ち位置を黒子に望んではいたが私生活においてもこんな風に予想外の方向から攻撃されるとは思わなかった。赤司は今にも死にそうだ。
「……赤司君」
 縋るような瞳の色にもう少し助け船を出してやりたいところだったが的外れになってしまっては困る。これからのことを考えて今の内に黒子の考えを聞いておきたい。最初さえ押さえてしまえば後は楽だ。ゲームの掴みは序盤が大切だ。自分のリズムというものを崩してはいけない。
「ほら、自分の口でちゃんと言うんだ」
 言って貰わなければ赤司には黒子の気持ちが分からない。
 どんな言葉がこぼれだしても赤司は受け入れようと思った。心の狭い男はろくでもない。余裕を持たないのは敗者ばかりだ。勝っている人間は分かっている。驚くような真実などそうそう転がってはいない。
 あたたかな赤司の眼差しに照れながら黒子は口を開く。
「赤司君のおちんちんをください」
 聞き間違いだろう。それ以外に考えられない。
 正気であるならそんな言葉は言えない。つまり今の黒子の台詞は赤司の聞き間違い以外にない。そうじゃないとおかしい。黒子の正気を疑うのか自分の耳を疑うのか。冷静になろうと赤司は一回咳払いをした。何かを待つような黒子の視線に耐えられずに否定を得るための言葉を吐き出す。いま、自分が聞いたものを否定したい。嘘だと聞き間違いだったと証明したい。手っ取り早い方法は決まっている。
「もう一度。……もう一度だ、黒子」
 空耳してしまった元の台詞はなんであるのかちゃんと聞かなければいけない。それが赤司の義務だ。
「分かりやすく言ってくれ」
 そんな切り替えをされると思わなかったのだろう黒子は目を丸くした後に覚悟したのか最初よりも大きな声で同じ台詞を叫ぶ。そう、同じだ。まったく同じだった。
「赤司君のおちんちんをください」と黒子は言った。聞き間違いだと思った赤司が間違いだったのか。それとも黒子の普通の言葉が赤司には変換されて聞こえてしまっているのか。赤司が知らないだけで「おちんちん」というのは男性器を示す言葉ではなくもっと別の意味を含んでいるのかもしれない。あるいは赤司の去勢をこの場でしようというのだろうか。自分の陰茎が切り取られることを想像して赤司は冷や汗をかいた。落ち着くべきだ。さすがに発想が突飛すぎる。そんなわけがないと笑い飛ばしたいが黒子の瞳は真剣そのものだ。ハサミでチョッキンなんていうことは同じ性別を持つものとして絶対にない。そう信じたい。信じないとやっていられない。だって、普通に考えて痛いどころではない。ショック死するかもしれないだろ。そのぐらい黒子も分かっているはずだ。そもそも赤司の性器を切り取って黒子は何をするつもりだ。サバトか。男性器を食べる風習がある民族の話を聞いたことがあるような気がして赤司は身体を震わせる。
 理由はいろいろあるらしいが一言でいえば宗教上の儀式だ。男の象徴を切り取ることでこちらの尊厳を破壊しようとする。人間性すら否定された気がする恐るべき儀式。荒々しい人間の男性器を切ると温厚な人間に変わるらしい。男というのは攻撃的で縄張り意識が強い。逆に女は協調性が高く共感能力に秀でている。去勢された男は両方のいいところを持ち寄った完全生命体だとかなんとか聞きかじりの知識が頭の中を埋め尽くす。黒子の目当ては竿なのか玉なのかそれもまた問題だ。どちらであってもなくなるのはごめんだが黒子のために選ばないといけないのだろうか。
 鳥肌を誤魔化そうとする赤司に対して黒子はまたもや「おちんちん」を連呼だ。これはテロ行為だ。黒子がテロリストであるのなら要求は何だ。こんなやり方で赤司を言いなりにさせて何を目論んでいる。素直にお願いできないのだろうか。人のことは言えないが未だに幼さが残りすぎている黒子の両頬を左右に思いきり引っ張って言葉を止めたい。そうしたら「おひんひん」と呂律が回らなくなるのか。実際に黒子は言っていないのだが想像だけで赤司は倒れそうだった。これは確実に赤司を殺しにかかってきている。
 手持無沙汰なのか内股気味の黒子に赤司はどうするべきなのか。口の中が乾いていく。声帯を振るわせるべきなのだが身体に力が入らない。無重力の中を漂っているのか、ジェットコースターに乗せられて吐き気がしているのか。
 昔に高熱を出した時と同じ状態だ。
 言葉だけで赤司をここまで追い詰める黒子はやはり只者ではない。防音は完璧で誰かが盗聴している事もない赤司の寝室だったが響く言葉を理解して赤司の視界は揺れる。どうやら真っ直ぐに立っていないらしい。それも仕方がない。足に力が入らないのだから倒れるしかない。いいや、赤司はそんな不甲斐ない男ではない。愛する恋人を前にして倒れることなど出来ない。なんとか赤司は踏みとどまる。唇を噛みしめて無意味に手を前方に押し出した。ただ単にバランスをとるための行動だが黒子は肩をはねさせた。これで何も発言しないのは頂けない。格好悪すぎる。赤司の維持しているイメージにそぐわない。
「そうじゃない! もっと、艶っぽくだ」
 思わずビシッと部活の時のように指示を出す。手を前に出したポーズに引っ張られてそれっぽいことを口に出したが赤司の頭の中は未だに混乱状態だ。よく分かっていない。
 息を吸って吐いて、痛いぐらいに高鳴っている心臓を赤司はなんとか制御しようとする。焦っていることを黒子に悟られてはいけない。どうしてか赤司はそう思った。
 赤司が必死に状況を把握しようと努める一方で黒子は「その通りです。さすがは赤司君」とブツブツと呟く。
 何が原因で黒子はこんな状態になったのか。赤司との仲が不満だったのか。愛情の形は目には見えないから触れ合うのは分かりやすい。抱き合えばぬくもりは確かにあると理解できる。言葉では足りないものも多い。それなら赤司は自分の表現力が不足していることを黒子に詫びるべきなのかもしれない。身体で。
「まだ早かったね。……黒子、無理はするな」
 もちろん男なので赤司も性的なことに興味はあったが焦るものではない。これは逃げているわけではなく黒子のためを思っての言葉だ。身体が出来きっていない状態で無理をすれば日常生活に支障をきたしてしまう。全力でバスケをやるのなら他の事は切り捨てるべきだ。寝ても覚めてもバスケット。そういう生活に幸せを感じているタイプだと赤司は勝手に黒子を見ていたが実際は違っていたのかもしれない。とはいえ、不満だとしてもこのアピールは失敗だ。
 自分たちの年齢、体力、そういうのを見極めるのも大切だ。今日明日で大事件が起こり二度と会えないということもない。身を滅ぼすというのは自身の限界を見極め切れていなかったがために起こる悲劇であると赤司は感じている。出来ないことをやろうとしても仕方がない。自分が出来る最大限で事に当たればいい。その考え方のどこに間違いがあるだろう。ないに決まっている。
「そう急ぐものでもないよ」
「赤司君は焦らしプレイが好きなんですか!」
 ピンと来たという顔をされるが違う。
 赤司の性癖はいたってノーマルだ。
 というよりもアブノーマルなものを知らないと言える。
 異常性欲など持ち合わせていないし、人に言えない変態趣味にも興味がない。黒子とのことは赤司にとって例外的な行動だったが問題ないはずだ。自分が欲しいと思ったものを順序立てて手に入れている。それだけのことだ。気後れはない。
「艶っぽいって……どういうことでしょう」
 恐る恐る聞く黒子に赤司は少し考えて「色気がある、そういうことかな?」と返す。
 具体的に言うと黒子がリストバンドで汗を拭いている時やバニラシェイクを飲んでいる唇や動く喉。出会った頃と比べて喉仏が出てきたことなど実感するとえもいわれぬ気持ちになる。喉を指でなぞってしまいたい。喉に艶めかしさを感じているのか赤司自身断言できず、分からないことだが視線を外したくて、外せない。そんな気持ちだ。吸い寄せられてしまう。誘蛾灯を思わせるのは黒子の方に主導権を握られてしまうからかもしれない。今もまた赤司は訳のわからないものに巻き込まれて混乱の最中だ。
「色気ですか。血塗れになって横たわりましょうか」
「今とても色気と相反する言葉が聞こえたんだが」
「死体って色っぽくないですか?」
「しなやかな肢体なら色気があるかもしれない」
「問題は肉付きでしたか……」
 どちらかといえば問題は漢字変換だ。したい、違いだ。黒子の頭の中で正常に思考する能力が失われている。誤作動が起きているのに本人は気付かない。これは不幸なことだ。どうやって真人間に戻すべきか赤司は考えたがこれはこれで一つの経験なのかもしれないと開き直る。混乱して驚いている場合ではない。今の内に慣れてしまえばいい。
 慣れて、馴染んで、そして、経験を積んだ赤司がきっちりと黒子を導ければ、終わり良ければ総て良し。そう、大切なのは結果だ。成果を出せれば先程までの自分の狼狽えっぶりなど気にする必要もない。幸いまだ黒子には赤司が戸惑っていることは勘付かれていない。このまま何食わぬ顔で進めばいい。ただ、どうしてこんな態度に出たのかという理由はちゃんと聞こうと思う。それと絆創膏。どうにも気になって赤司は手を伸ばして黒子の乳首に貼られた絆創膏を剥がす。思った通りどこも怪我などしていない。あえて言えば黒子の乳首は赤司のものよりも腫れ上がっているように見える。男の乳首は盛り上がるのだろうか。自分は真っ平だ。ロッカーや水泳の授業での他の男子の胸を思い出そうとするが記憶にも残っていない。以前見た黒子の乳首はこんな風ではなかったと思い出して赤司は首を傾げたくなった。どうしたのだろう。
 ツンと勃って存在を主張する乳首というのは不思議なものだ。絆創膏に何か秘密があるのかと蛍光灯に透かすようにすれば「部活の後につけたばかりです。食べますか?」と聞かれた。聞き間違いや言い間違いを期待したいところだがそんなことも出来そうにない。
「おちんちん」が聞き間違いではなかった段階で赤司は賢者のごとく悟りを開かなければならなくなった。何でも受け入れると言い放った代償だ。赤司は黒子の右側の胸の絆創膏を剥がしたのだが黒子が自主的に左側の絆創膏を剥がして赤司に渡してきた。
「食べていいです」
 誰が食べるかと叫んでゴミ箱に捨てるべきなのか微笑みながら礼を言って口に入れるのか。よく考えなくても絆創膏は食べ物ではない。食べ物ではないものを食べる時はどういう心境なのか。それ以外に口にするものがなくて空腹を紛らわせる。無人島に漂流してしまった時、そういう事態になれば腹の足しに絆創膏ぐらい口に入れて耐え忍ぶかもしれない。ガムのように。口の中に何かを入れていれば飢えは一時的にしのげる。あくまで仮定である。最終手段としての食べ物以外の摂取だ。まずは本当に無人島であるのか、食べ物が何も存在しないのかそういったことを探し当てるべきだ。もっと言ってしまえばいついかなる時でも災害に備えて携帯食料は持ち歩くべきだ。紫原はいつもお菓子を持ち歩いて食べている。他の食料も時々はストックしている。あれが賢い人間の在り方だ。
 人は絆創膏を食べる必要はない。
 絆創膏を口にするのは人間の尊厳への挑戦だ。
 本当に差し迫りこれしかないという時まで選択肢にすらあがるものではない。それが食べ物としての絆創膏。食べ物ではないものを口にしないとならない状態は異常だ。普通なら回避する。赤司の考えは何もおかしいところはない。
「オレではなくお前が食べるべきだろう?」
 本当は食べるべきは絆創膏ではなく夕食だ。
 夕食を後回しにすると黒子が言ったので従ってしまったがお腹が空いているなら服を着込んでご飯にしよう。
 それが一番だ。
 落ち着いて空腹を満たせば考え方も通常の状態に戻るだろう。神経が逆立ってしまっておかしな行動に出る人間には赤司も覚えがある。厳つい顔をした中年たちが揃いも揃ってバニーガール姿をしたのを赤司は見たことがある。宴会芸なのかと思って見なかったことにしたかったがボンレスハムのような太ももは瞳に焼き付いて離れない。今でも時々夢に見る。
 脳に糖分が回っていないからロクな考えにならないのだ。
 赤司は食事の重要性を思い知らされた。
 声をかければすぐにあたたかい夕飯が用意されるだろう。今日の夕飯は鯖の味噌煮と刺身の盛り合わせと玉子豆腐とシラスのサラダ。味噌汁はしじみらしい。魚介類系でまとめてくれたのはいいのだが、生物と火が通っているものを一緒に出すのは赤司の趣味に反する。
 時々、なぜこのラインナップなのかと献立に対して文句をつけたいのだが調理しているのは自分ではないし、給料を払っているのも自分ではないので何も言わず赤司は黙々と食べる。良い子を気取っているわけではない。自分が当主として家の全権を握った時にはいま雇っている料理人は首にしてやると決めていた。それは代替わりの風景としてお馴染みらしい。父も祖父から家督を譲り受けた時、初めにしたのが料理人の交代だったというのだ。食の欲求というのは意外に根深いものだ。
 黙々と食べ続ける赤司が許せないぐらいに苛立ったのは炊き込みご飯があまりにも醤油だった時だけだ。具の味などしないただの茶色の飯。それは醤油ご飯だ。炊き込みご飯はもう少し味わい深いものであるべきだ。醤油の味でご飯を汚染してせっかくの風味豊かな食材が台無しだ。と、そういうことを赤司が主張したら父が激しく落ち込んだ。
 気まぐれに調理場に立って作ってみたらしい。変な時間の使い方をする男が自分の親だと考えると恥ずかしいやら悲しいやら様々な感情に襲われるが絆創膏ほどではない。
 茶色のご飯を作り出して息子に食べさせるのと自分の乳首につけていた絆創膏を食べさせる行為はどちらが異常か。
 普通に考えて後者だ。
 絆創膏は食べ物ではない。
 ここは無人島でも何でもない平和な日本だ。
 飽食の時代である。食べ物などいくらでもある。
 生ごみの袋を開けて溢れかえる残飯を思えば飢えることはありえない。特殊な状況下なら飢えるかもしれないが都心で無人島気分に浸るのは自分から状況をセッティングしない限りは無理だろう。
 事実、赤司が一声かければ五分後にはあたたかな夕飯が用意されるはずだ。それなのに絆創膏。喧嘩でも売られているのだろうか。それならまだいい。仕掛けられているのは喧嘩ではない。挑戦されて試されているのは愛だ。どんな反応を黒子が期待しているのかはともかくとして間違いないことは一つだ。黒子に悪意はない。その瞳に赤司への恨みや憎しみは見て取れない。
 だが、好意から絆創膏を食べさせようとするだろうか。逆に自分がつけていた絆創膏を黒子に食べさせたいかと言えばそんな気持ちには一切ならない。赤司が食べさせたくならないとはいえ、黒子の中では赤司に絆創膏を食べさせる行為が愛の成就なのかもしれない。そういう宗教の人なのかもしれない。宗教とまとめてしまえば何でも片付いてしまう気がしたがよく考えずともそれは思考の停止だ。
「……すみません、捨てますね」
 とてとて、とかわいらしい擬音が付きそうな歩き方で黒子はゴミ箱を目指す。絨毯の毛が長いので残念ながら無音だがその仕草は文句なしにかわいい。惚れた欲目だ。黒子が何をしてもかわいい。自分の絆創膏を食べさせる気はないと思ったが黒子が喜んで絆創膏を口にしていたとしても気持ち悪い、近づきたくない、金輪際話しかけるなといった否定の気持ちなど起こらずにそういうこともあるだろうと広い心で受け入れてしまいそうな自分がいる。
 これが愛のなせる業なら罪深いものだ。
  
 

 
 
 
「ひ、っ、ぁぁぁ」
 息を吸い込んで何か言いかけた黒子は何も言えないまま絨毯をつかんで耐えるように頭を下げた。そんな尻だけ見せつけられても赤司としては困ってしまう。振動する機械を動かすのをやめて黒子の尻を打つ。思い付きから出た行動だったが黒子は顔を上げて赤司を見た。なんだか正解を引き当てた気がする。叩けば叩くほど黒子の声はよくなっていた。呼吸も覚束ないほどに夢中になっている。赤司が手を振り上げる空気を察して身体に力を入れる黒子。何とも言えない気持ちになる。嗜虐癖なかったはずだが伺うような黒子の瞳に口元が緩んでしまう。
 痛いのが気持ちいいのか。振動が堪らないのか。赤司とこういった風に触れ合っているのが心地いいのか。黒子がどう思って喘いでいるのか考えるのは楽しいかもしれない。
 戸惑いや対応に困ったことも全て水に流して赤司は上半身を支えきれずに絨毯に身体を押し付けてしまっている黒子の貧弱さをなじる。言い訳をするように開く口が何かを言う前に赤司は尻を叩いた。黒子のなめらかな双丘はすでに赤く腫れ上がってしまっている。それがかわいそうでかわいい。熱を持った赤い臀部。このまま切り上げて椅子に座らせたい。中腰の姿勢でぶるぶると震えるのが想像できる。車の中でおかしかったのは尻の中に機械を入れていたからだろう。赤司の隣で平然とした顔でずっと楽しんでいたのだ。何もしないで見ていれば黒子の腰がゆっくりと動く。絨毯に腰を押しつけている。ケダモノのようだ。毛繕いではない。黒子は快感を得るために腰を動かしている。無意識なのか意識的なのか分からないが淫らだ。汗が流れて絨毯に染み込んでいく。そのことを黒子はどう思っているのだろう。絨毯には汗以外のものでも染みが出来ている気がする。そのことを指摘すれば恥ずかしがるように黒子は首を左右に振るが絨毯に爪を立てながらも赤司が触れることを拒まない。
 浅く早くなっていく呼吸に黒子が達するのが分かる。
 ビクビクっと大きく痙攣する黒子を見て赤司は我に返る。
 絨毯に染みができたことは問題ではない。ガピガピになってしまっても匂いが残っても自分の部屋なので誰にも文句は言わせないが見上げてくる黒子の視線はこれで終わりではないと告げている。そうだろう。黒子が射精しただけでは不公平だ。当然、赤司も、という流れになる。黒子の緊張したような肩の筋肉をなだめるように赤司は撫でた。
「バスルームに行こうか」
 逃げてはいない。興味がないわけでもない。ただ物事には優先順位がある。欲望よりも夢がある。初夜はベッドの中だ。断じて床でするものではない。風呂に入って仕切り直しをするのが正しい選択だ。これで流されてすぐそこにベッドがあるにもかかわらず床で行為を始めだせば一時は満足するかもしれない。欲望を吐き出してスッキリするだろう。だが、後から落ち込むのが目に見えている。後悔から嫌な気分になるに違いない。思い出はいつでも美しくあるべきだ。初めてキスをした日のことを赤司は目を閉じて生々しく思い出せる。これからすることも全部、何度でも思い出していくことになるはずだ。赤司は過去を振り返るたびに暗い気持ちになる気はない。
 仕切り直しとして夕飯を食べてもいい。まだ、夜は更けてない。黒子の気持ちを尊重しながら自分の意思も曲げる気はない。赤司は強気だった。一瞬で終わった。
「帰ります」
 立ち上がって黒子が口にした一言で赤司の中の感情は決壊した。格好良く余裕を持っていたいという気持ちはダストシュートに落ちたらしい。そのぐらいに強烈な台詞だ。
 あふれ出る「どうして、なんで」といった疑問。ずっと続いている欲望への誘い文句に全力で応えたくなった。据え膳食わぬは男の恥だと赤司だって知っている。大切にしているからこそ紳士な行動をとったがそれが黒子には無用の長物だというなら投げ捨ててしまわないといけない。
 気を遣っていたつもりで無意味なことをしていただけだと黒子の態度に気付かされる。黒子が望んでいるのは何よりも今すぐにという即物的なものだ。美しくはなく脆く醜いかもしれないが、だが、いい。それでもいい。黒子が望むのなら許したいと思う。度量の広さを見せつけるいい機会だ。そんな風に一瞬で自分に言い訳しながら自分のシャツに袖を通そうとする黒子の腕をつかむ。
 脱いでは着て、そして、最後には破かれるシャツは今日一番の被害者だ。家宝のように大切に保管しておくので許して欲しい。足をもつれさせている黒子をベッドに転がす。
 筋力があれば投げ飛ばすようにベッドに連れていくことが出来たのだがまだ赤司には無理だった。高校卒業までに黒子を片手で吹き飛ばせる筋力を得ようと思った。目標が着々と出来ていく。そのことに赤司は喜びを見出していた。
 泣いても笑っても喘いでも今日は家には帰さない。


続きは本編で!

発行:2013/4/21
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