赤黒パラレル。特殊ネタ。
3月24日配布の無配冊子より。


赤司君は天才かもしれない




 こんにちは、黒子テツヤです。ボクは死神をやっています。
 みなさんは死神というのがどんな職業であるのかご存知でしょうか。人を死に導く天からの使い。ボク達は地獄の使者なのでしょうか。よく分かりませんね。
 実はボクは半人前です。どこにいっても使えないと言われてしまい転職を考え中です。分かっているんです。死神という職業が全然、向かないのです。今日もまた人を殺し損ねました。誰をどうやって殺すのかとスケジュール帳に書いてあったりするのですがそれはベテランの仕事です。ボクのような半人前は好きにしろと放っておかれてしまうのです。


 最悪の考えですが子供なら殺しやすい気がしました。とにかく死神として一人ぐらいは人間を殺したいのです。どうして人間を殺したいのかといえばそれが仕事だからです。現在科学の普及で先進国で人が死ぬことが少なくなりました。
 言ってしまえば人間の数が多すぎるので適度に死を撒き散らさないといけなくなっています。死神の仕事はたくさんあります。ボクもいつまでも半人前ではいられないのです。
「緑間、それはなんだ?」
「おは朝のラッキーアイテムなのだよ」
「昨日は持っていなかった気がするのだが?」
「毎日ラッキーアイテムは違うのだよ」
「そんなものか」
「お前もおは朝を見たほうがいい。この頃、オレの周りで変なことが起こる」
「階段から落ちたのはお前の不注意ではないのか?」
「誰かに受け止められた感覚があったのだよ」
「へえ」
 鳥肌を立てる緑間君にボクは「早く死んでください!」と叫びました。中学生になったばかりの子供にかわいそうだとは思いますがボクも仕事です。妥協できません。
「おは朝のアイテムを必ず持つようになってから変なことは減ったのだよ」
『減ってませんよ。キミは怪我しそうになってるじゃないですか。なんで、そんなにあほなんです! 昨日はぬいぐるみのせいで前が見えなくてトラックに突っ込みかけたでしょ』
 ちなみにボクの声は普通の人間には聞こえないし姿も見えません。だからこそ、言いたい放題できます。少し切なくなることもありますが文句を言えば気分は晴れます。
『死ぬならちゃんと死んでください。複雑骨折なんて痛いですよ。あんなトラック、轢かれても重体になるだけで死なないんですからね! 分かってますか、緑間君?』
 こんな風に指摘しても緑間君には聞こえないので意味はありません。人間たちはみんなそうです。死ぬならあっさりさっぱりぽっくり死んで欲しいです。痛いのは誰でも嫌でしょう。
『死を馬鹿にしないでください。人間は結構頑丈なんですよ』
「オレも同意見だな」
『赤司君もそう思いますか? 二階から落ちても人は骨折する程度なんですよ………………え?』
 思わず赤司君を見る。
「赤司もそう思うか。おは朝は偉大なのだよ」
 緑間君の相槌にボクは変に照れくさくなりました。自意識過剰ですね。一瞬、赤司君と会話したのかと思ってしまいました。緑間君も赤司君もとても優秀みたいですがそんな事死神のボクには関係ありません。サクッと死んで頂きたいです。
「願掛けというのは思いが深ければ深いほど効力がある」
「天は自ら助くる者を助けるものだ」
『天ではありませんが死神様がずっと見てます』
「それはいいね」
「だから、人事を尽くすのだよ」
 赤司君に褒められたのが嬉しかったのか緑間君は得意げにハエ叩きを振ります。その姿に憐れみを感じてしまうボクは死神に向いているとは言えません。
「では、な」
 緑間君は自分の教室に戻るらしいです。ボクは着いていこうとしましたが殺せる気がしないので躊躇ってしまいます。
『どこかに殺しやすい人いないでしょうかね』
「誰でもいいのかい?」
『半人前を脱却したいです』
「人を殺せたら一人前なのか」
『ベテランさんに聞いたら三百年前ぐらいの人口に戻したほうが人間を管理しやすいという話です。戦争で一気に減らす案も出ているんですけど逆に人口増えてしまうんですよね』
 溜め息を吐きながら顔を上げれば赤司君と視線が合いました。どういうことでしょうか。いま、間違いなく、赤司君と会話をしてしまいました。それが勘違いではないと赤司君の視線がしっかりとボクを捉えていることで言えます。
「名前はなんて言う?」
 未だかつて死神の名前をたずねてくる人間などいませんでした。姿が見えたりする人間は子供なら時々いますが、怖がったりボクの職業を聞くと近づくなと言われます。
「名前がないなら勝手に呼ぼうか?」
 明らかに見えています。その上、こんな風にコンタクトをとろうとするなど何者でしょうか。赤司君は普通の人間とは一味も二味も違います。
『黒子テツヤと言います。職業は死神をやってます』
「死神か、緑間のことは殺せそうかい?」
『難しいですね。緑間君は大怪我をしやすいみたいですけどなかなかタフなんですよ。でも、占いを真に受けて重傷を負いそうでハラハラしちゃいます』
「重傷じゃダメなんだ?」
『え? だって、痛いですよね』
 赤司君はまさか緑間君のことが嫌いなんでしょうか。
「死ぬのは」
『痛くないです。ボクは安楽死主義です。優しく殺します』
「それなら老人はどうなんだい」
『よく物を喉に詰まらせてしまうので背中を叩いて出してあげています』
「放っておけば死ぬんじゃないのか、それ」
『ボク達、死神が定義する「死」とは生命活動の完全な停止です。酸素欠乏により脳の機能が損なわれる程度では「死」とは言いません』
 社会的に死んでしまったり身体が動かないけれど生命維持装置で延命している場合などは死神的に死とは言えないのです。なら、その中途半端に陥る前に妨害するのも死神の仕事です。簡単に言えば殺せる状態にしておかないと無理ゲーになるのです。死の直前で詰んでしまったら話はそこまで。死ぬ前まではどんな殺し方でも出来るように健康でいて欲しいです。不健康な人間は殺し方が偏ってしまいます。
「完全なる死か。それは少し興味があるね」
『……そうですか。未だに誰も殺せてないんですけれど』
「黒子は実体を持つことは出来る?」
「出来ますよ。でも、ボクは半人前だから人間にあまり認識してもらえないんです。目立たないこと自体は死神としてはいいんですけど……結構、淋しいんですよね」
 試しに普通の人間の身体になって帝光中学の制服を着てみせます。こんなことは自由自在です。
「ただ、身体があるせいで動きは制限されてしまいますね」
「ずっと人の後ろに居続けられないとか?」
「そうです。このままだとボクが直接ナイフでも持って寝込みを襲ったりするしかないです」
「――黒子、オレを殺してみないか」
 難易度が高そうなボスクラスがどうしたんでしょうか。
「赤司君はボクのために死んでくれるんですか?」
「そのつもりだ」
 力強い断言にボクは思わずときめきました。子供とは思えない貫禄です。赤司君が真剣なのはよく分かります。
「オレの命をお前に渡そう。その代わりお前はオレが死ぬまで傍にいるんだ」
「はい、死神ですから当然です。赤司君を殺すのはボクです」
 そうしてボクたちは約束しました。
 一方的にボクだけが得をする取り引きに気後れする気持ちがありますが一人前になれることは嬉しいです。赤司君ほどの人をボクが殺せたのなら胸を張って一人前になれる筈です。

 お家の事情のせいか赤司君の敵は多いみたいです。
 毒を盛られたり、轢き逃げされそうだったり、通り魔に遭遇したり赤司君は日々、大怪我との戦いでした。時には本当に死にそうだったのですがそんなことボクが見過ごすはずがありません。まったく、許せないです。
「赤司君を殺すのはボクだって言ってるじゃないですか!」
 生傷の絶えない赤司君に抗議すれば微笑まれました。
「反省してください。ちゃんと無事にボクの元に帰ってきてください。五体満足じゃないと許さないです」
 五体満足ぐらいじゃダメです。傷一つない状態じゃないと気に入りません。完全なる死は死神であるボクの領分です。
「テツヤが浮気しようとするから……」
「ちょっと、火神君のことを殺せそうかと思っただけです」
 チーズバーガーをあれだけ食べ続ける火神君はコレステロールがおかしいことになっています。油いっぱいの手料理を食べさせ続ければコロッといけるんじゃないのかとついつい料理本を片手に研究してしまいました。別に赤司君を殺すことを諦めたわけじゃありません。本当です。
「浮気だ。テツヤの初めては僕のものだと決まっているのに」
「赤司君は死ぬ前にやることが多いんです。中学では帝光を全中三連覇させるまで殺せませんし、高校では洛山を優勝させるまで赤司君を殺すわけにはいきません」
 輝かしい思い出を胸に死ぬのが一番美しいです。火神君が食べながら死んでしまったらそれはそれで美しいです。食事制限して生き延びてしまったらそれは火神君ではありません。
「ねえ、テツヤ。ボクは腹上死したいんだけど、いつになったら試してくれるんだい。そろそろいいだろう」
 赤司君は命を軽んじる傾向にあります。もっと自分を大切にしたらどうなんですか。死んだら元も子もないですよ?
 死神であるボクが言うことではありませんが赤司君はまだ若いんですから自分を大切にしてください。
「一番幸せな時に死ぬのがいいならお前に触れた時だろう」
 果たしてボクは赤司君を殺せるのでしょうか。
2013/3/30
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