ハメ撮りそれはロマン。
悲惨なところは一切ないエロアホ話。


ハメ☆ドリ
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 その日、黄瀬が医務室を訪れたのは黒子が居ると聞いたからだ。体育の時に軽く接触事故が起きて怪我をしたのだと黒子と同じクラスの子から聞いた。一緒に部活へ行こうと思っていたので黄瀬は黒子を訪ねて医務室の扉を開けた。
 その時は本当に何も考えていなかった。待ち受けているものなど何一つ知らないままに黄瀬は心構えもなく医務室に踏み込んだのだ。そこが人外魔境になっているなど想像することもない。無知ということは罪なのだ。
「……? 黒子っち?」
 無意識に声をひそめて呼びかけたのはいつもとは雰囲気が違うと思ったからだ。その理由はすぐ分かった。ベッドの方から荒い人間の息が聞こえてきた。誰かが苦しんでいるのだろうか。医務室では静かにするようにと黒子には言われている。なるべく静かに黄瀬はベッドへと近づいた。
 パッと見て黒子は部屋の中にいない。
 ベッドは仕切りがあり誰がいるのか分からない。
(人違いだったら気まずいっスね)
 そっと仕切りの隙間からベッドの中を覗けば目を疑う光景があった。激しい頭痛に苛まれる。現状を認識できないのだ。見間違い。妄想。
(――うそ! うそだ……こんな、の)
 嘘じゃないと嫌だと叫びたくなった。
「あ、……っ、誰か来たら、……どう、するんですッ」
「来ないよ。来ても見なかったことにするだろ」
 見なかったことには出来ず黄瀬は立ち尽くしていた。
 ジャージの上をまくりあげて下半身は何も着ていない状態の黒子が赤司に涙目で文句を言っていた。抗議の言葉は甘い誘惑にしか取られずに赤司の手は止まらない。黄瀬もまた黒子が抵抗しているようには見えなかった。
 学校でまずいだろとか。これから部活だろとか。黄瀬の頭には浮かばない。真っ白になった頭は赤司の手によって黒子が漏らす喘ぎをただ聞いていた。すすり泣くようにしながらも黒子の足は完全に開いて赤司を受け入れる体勢になっている。何に対しての分からなかったが黄瀬は認められないと首を振る。ベッドとベッドの間にあった仕切りに頭をぶつけてしまう。もちろん、音に気付いたのか黒子の声が止まる。ここで逃げ出してしまえば楽になれたかもしれない。黄瀬の足は床に貼りついてしまったように動かない。視線もそらすことができなかった。
 動けない黄瀬を見て薄く赤司が笑ったような気がした。
「見たいなら見てて構わないよ」
「構います。黄瀬君、このことは忘れてください」
 床に落ちているらしい下着を拾おうとする黒子を赤司は止めた。何をするのかと思えば黄瀬に対して見せつけるように黒子に足を開かせた。勃っている黒子の性器が揺れる。
 恥ずかしそうに前屈みになる黒子に視線はそらせない。
「黄瀬君……見ないでください」
 涙を浮かべながら上目遣いで言われてしまえば逆に引き寄せられる。近寄れば怒られた。
「何を考えているんですか、キミは」
「二人ともこんなところで何してんスか!!」
 悪いのは自分ではない。そう思い直して黄瀬は言い放つ「学生の領分は勉学っスよ!! エッチは二十歳になってから!」心にもないことだった。
「赤司っち、黒子っちから手を放してよ」
「見ることの許可はしたが口出しを許した覚えはないな」
「黒子っちだって嫌がってるじゃないっスか」
「黄瀬君、早く出てってください」
「赤司っちダメッ!!」
「見たいか?」
「出ってください!」
 黒子に枕を投げつけられて黄瀬は呆然とする。
 二人が付き合っていたなど知らなかった。そんな素振りは何処にもなかった。仲は良かったのかもしれないが黄瀬は見えてはいなかったのだ。黒子しか見てはいなかった。黒子すら見えていなかった。日々の生活に追われていた。新しいものを知ることが楽しかった。
 充実していると見落とすことがある。
「黒子っち、赤司っちのこと好きなんスか?」
 自分の口から出る声が低く静かで意外だった。震えもしない。頭の中は冷え切っていた。
「当然だ。見て分からないのか?」
 分かっている。分かりきっている。それでも、心が否定を欲しがっていた。血を見ることは明らかなのにもっと傷つけようとする。深く尖った言葉のナイフを受け入れるためだけに黄瀬は黒子を見つめて待った。
「嫌いならエッチは出来ませんよ」
 そう口にする黒子に黄瀬は絶望しながら同時にどこかおかしいと思った。それは直感だったが気付けたのは偶然ではなく必然だ。黄瀬は出会ってからずっと黒子の一挙一動を見つめていた。だから、おかしいと思ったのだ。
「好きだから、じゃないんスか?」
 聞き返せば黒子は首を傾げて赤司を見た。
「どうなんです?」
「黒子はオレのこと好きだよ」
「ボクは赤司君のこと好きですよ」
 なんだこのやりとりは。違和感が増大する。
「黄瀬君、分かったら早くこの部屋から出てってください」
「緑間にはオレと黒子が遅くなると伝えてくれ」
 赤司は黒子の首筋にキスをする。黄瀬など眼中にないかのような赤司に歯を食いしばる。これが勝者の余裕なら引きずりおろしてやりたい。
「ちょ、ダメですよ。もう、赤司君っ」
 くすぐったがっている黒子に拒絶の色はない。
 だとしても黄瀬は納得がいかなかった。
「嘘だ! 黒子っちは別に赤司っちのことなんか好きじゃないっスよ!! こんなの違うッ」
「親のセックスを見てショックを受けるような繊細さがあったのか? 黄瀬、泣くな」
 指摘されて黄瀬は乱暴に袖口で目元をぬぐう。
「誰が親っスか……」
 赤司に対して親などと思ったことはない。黒子に対してだってそうだ。親じゃない。教育係として世話になったが湧き上がってくる気持ちは家族に向けたものとは違う。
「黄瀬君の赤司君への気持ちは分かりました。……誤解しないでください。ボク達は別に付き合ってません」
「え?」
「はい?」
 赤司と黄瀬は同時に驚きの声を上げる。
「あ、赤司っち?」
 目を見開いている赤司に黄瀬は思わず呼びかける。体がぶるぶると震えている。怒りか悲しみか。その両方か。
「大丈夫です! 赤司君は誰のものでもありません」
 赤司の状態が大丈夫ではなさそうだった。黒子は表情をキリっと引き締めて力強く言い放つ。
「赤司君とボクは友達です」
 これは致命傷なのではないのかと赤司を見るが活路を見つけた黄瀬にとってそこを突かない手はない。
「友達同士で何してんスか! 黒子っちはオレともエッチ出来るって言うんスかッ!! じゃあ、やろうよ!!」
 思わずベッドを殴る黄瀬に黒子は困った顔で赤司を見た。
 呼びかければ赤司は黒子に抱き着いた。それに対して黒子は慣れた様子だったが黄瀬としては冷や汗が流れる。赤司がこんな拗ねた子供みたいな態度に出るなど天変地異の前触れのようで恐ろしい。俯いたまま赤司は首を横に振る。
「黄瀬君とは出来ません」
「なんでっスか!!」
「赤司君がいやだって……」
「付き合ってないなら赤司っちの言うことなんかどうでもいいじゃないっスか」
「キミも友達甲斐のない人ですね。どうでもいいなんて酷いです。もっと友情を大切にした方がいいです」
「友情ってなんスか! 赤司っちとのことは友情って言うんスか!? 好きだからエッチしてるんじゃないんスか!!」
 頭が煮える。何がどうなっているのか分からない。
 ただ一つ確かなことと言えばこの二人は間違っているということだけだ。それを指摘する人間はここに黄瀬しかいない。なら自分が言わないといけない。使命感に突き動かされて黄瀬は黒子の手を掴む。赤司に払われてしまったが、三人の今の力関係というのはジャンケンのようになっていると瞬間的に黄瀬は理解する。赤司は黄瀬に発言して欲しくないはずだ。自分が隠している本当のことを暴いているのだから気まずい。だから、勢いがない。いつもの貫録は見る影もなく甘えるように黒子にへばりついている。
「友達とはこんなことしないっスよ」
 赤司が黒子の耳元で何かを囁く。頷いた黒子は輝く瞳で黄瀬に向かって自信満々に言った。
「ボクと赤司君は友達以上恋人未満なので大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないっスよ! なんで、そうなったんスか!! 黒子っち、騙されてるよ、絶対ッ」
「失礼なことを言うな」
 ギロッと擬音がつきそうな赤司の視線の強さに黄瀬はたじろぐ。だが、ここで引くわけにはいかない。こんなわけの分からない状態を見過ごせない。
「一週間前ぐらいですか? 赤司君からエッチしたいって言われたので、しました。ボクも興味ありましたからいい機会です。別にそんなに嫌じゃなかったので定期開催です」
「二人で気持ちよくなっていたのにこんな風に水を差されるとはね……黄瀬の空気の読めなさにはガッカリだ」
「悪いのオレっスか? 違うよね!! そんなの、そんなの愛じゃないっスよ。認めねーから、絶対二人が間違ってる」
「愛だよ。二人で一緒にいて気持ちがいいんだからそれの何が悪いって言うんだ。オレは無理強いしている訳じゃない。黒子の方がこういうシチュエーションが好きなんだよ」
 鼻を鳴らす赤司に黒子はムッとしたようだ。
「違います! ボクは鍵をかけてって言いましたッ」
「鍵をかけたら学校でやっていいと思ってるんスか!!」
「だって、今まで誰にも見つかりませんでしたよ」
 そういうことじゃないと誰かに常識を説いて欲しいここには黄瀬しかいない。そして黄瀬が気にしている場所は常識なんかではなかった。
「アンタら一週間前から始まってどんだけヤッてんスか!」
 今まで誰にも見つかっていないと言ってしまうぐらいの過去が二人にあることが黄瀬には何よりも一番気になる。頭の中が焼き切れそうだった。腹の底が焼ける。
「かれこれ十回ぐらいか?」
「一日一回以上ッ!!」
 あっさりと口にする赤司が羨ましくて仕方がない。
 頭を抱えて悶える黄瀬に黒子と赤司は顔を見合わせて溜め息を吐く。二人して服装を整えて立ち上がった。
「ちょっと、どこに行く気っスか」
「黄瀬のせいで興が削がれた」
「ボクは別に露出趣味はないので……失礼します」
「待って、待って欲しいっス!」
 二人を引き留めて黄瀬は言葉を探す。何を言うべきなのか。何を言いたかったのか。二人の情事を垣間見て思ったのは一つだけ。それは今まで感じたことがない気持ちだった。憧れは青峰のバスケのプレイを見て感じた。肉体的なものが劣っていても諦めない黒子の姿にも尊敬を覚えた。
 今知った感情はそういったものとは違う。赤司のことは羨ましい。それは取って代わりたいということだ。その立ち位置に自分が居たい。体を重ねているのが友達だからと言うのなら自分にもその権利があるはずだ。
「……黒子っち、オレ」
 赤司の手によって今まで見たことのないほどに乱れていた黒子の姿が忘れられない。ずっとこんな黒子を見てみたかったのだ。知りたかった。触れたかった。欲しかった。
「オレも黒子っち抱きたいっスよ」
 こんな風に黒子を手に入れるのは間違っているに決まっていたが、見過ごすことなど出来ない。二人が付き合っていたと分かったとしても諦められるか分からないようなそんな精神状態だというのに付き合ってないと知ったなら尚更諦められない。付け入る隙を見せられて退けるはずがなかった。もう一度黒子に向かって手を伸ばす。
「黄瀬、勘違いしているようだが――」
 赤司に払われることなく黄瀬の手は黒子に触れる。
 黒子は別に黄瀬を拒絶しているわけではない。今の三人の関係はジャンケンだ。赤司が黒子に何かを言わなければ黒子はこのまま黄瀬を受け入れてくれる。逆に言えば赤司がアクションをとれば黄瀬は拒絶される。同時に黄瀬の言葉によって赤司は追いつめられている。だとしても、黄瀬もまた黒子の言動に翻弄されていたのだ。つまり黒子を説得するのに必要なのは赤司を丸め込んでしまうことだった。黒子本人にいくら言っても暖簾に腕押し、意味がない。
 説き伏せるのは赤司のほうだ。
「赤司っち、オレはこう見えて恋愛事に強いっスよ」
「見るからに強そうですね」
「――そうか、部活後に二人とも残れ」
 少し考えた後に赤司は黒子と黄瀬を見ていった。慣れているのか黒子は軽く頷く。そして、当然のように二人はキスをした。触れるだけのものとはいえ羞恥心など一切ない色めいたところのない触れ合いに黄瀬は「間違ってるっスよ」と唇を尖らせる。
「そんな義務みたいなキス、違うっス!」
 二人とも黄瀬の駄目出しが癇に障ったのか無言で見上げてくる。それでも、黄瀬は引くことをしない。ここまで来たら引くに引けない。
「ドキドキするのが恋っスよ」
「オレはドキドキしている」
「ボクはわくわくしています」
 赤司も気付いているはずだ。これだけあからさまで自分と黒子が抱えている思いの違いに気付かないはずがない。
「黒子っちは気持ち良かったら誰とでもいいんスか?」
「何を言ってるんです。キミも大概失礼な人ですね。赤司君とじゃないとイヤに決まってるじゃないですか」
 その答えに赤司が肩から力を抜くを黄瀬は見逃さない。
 二人の関係は出来上がってなどいない。
「他の人は怖いです。こんなこと赤司君としか出来ません」
「赤司っちが好きだからじゃないんだ?」
「――だから、好きです」
「違うっスよ。そうじゃない。赤司っちとずっと一緒にいたいと思う? 赤司っちが居ないと眠れないとか、赤司っちに嫌われたら死んじゃうとか、赤司っちが他の誰かを抱いていることを考えて苛立ったりしないんスか?」
「――――黄瀬君が赤司君のことを好きなのは分かりました。そんな情熱的な気持ちを持ち合わせていないボクは赤司君のそばに寄るなということですね? 分かりました」
「黒子ッ」
「赤司君、黄瀬君と仲良くなれるように頑張ってください」
「オレはこんな性格の悪い人間に興味はないよ」
「言ってくれるっスね」
「人がゆっくり育ててる愛情に切り込みを入れ出すとはどういう了見だ、黄瀬涼太」
「そりゃあ、アンタよりもオレが黒子っちのこと好きだからに決まってんじゃないっスか」
「黄瀬君は赤司君が好きなんじゃないんですか?」
「黄瀬はオレが好きなわけじゃなく人がセックスしているところを見るのが好きな変態なんだ。困ったものだよ」
「そうですか。だから、退室しないんですね。この変態」
「学校の中で盛っている方がおかしいっしょ!」
「お前は黒子と学校の中でやりたいと思わないのか? いつも普通に授業を受けている教室で、誰が来るかもわからない屋上の死角で、練習が終わった後の体育館で、ありとあらゆるところで黒子を抱きたいと思わないのか!?」
「ドキドキが止まりませんね」
「それは恋じゃないっスよ!」
 抗議の声を上げる黄瀬の言葉は誰にも届きはしない。二人して不服そうで黄瀬が悪いみたいだ。
「もっと甘酸っぱくて胸が締め付けられるようなのが!」
「だから、その内にそうなる」
 赤司が抱き寄せて言うが黄瀬は首を横に振る。
「ならないっスよ。絶対にならない!」
「そうならないで欲しいと願っているだけだろ」
「違うよ。赤司っちは分かってない。こんなの空しいだけじゃないっスか。心は絶対に手に入らないっスよ」
「そうでもない。オレはちゃんと黒子の心を動かしている」
「でも、違うっスよ。こんなの違う!」
「黄瀬君は分からず屋ですね。駄々っ子ですか?」
「そんなに言うなら、戦争だ」
 赤司が医務室においてある電話を使ってどこかに話しかけた。漏れ聞こえるものからすれば相手は緑間だ。
「赤司君が負けず嫌いなのを知っていて煽りましたね」
「オレは絶対に諦めないっスよ」
「赤司君は手強いですよ?」
「黒子っちにオレは本当の愛を教えたいんスよ」
「伝わってますよ」
 優しい瞳で黒子が黄瀬を見た。
「本当っスか! 黒子っち、オレのこと――」
「キミの赤司君への情熱は受け取りました。誰かに見られるのは嫌ですが気にしないことにします」
「違うっスよ。黒子っち、そうじゃなくって」
「でも、見たいんですよね? 赤司君のいやらしい姿を見てて黄瀬君は股間を膨らませてるんですよね? いいですよ。赤司君自身が許可しているんですから好きに見ていけばいいです。でも、静かにしててくださいね?」
「そうじゃないっスよ」
 泣きながら否定する黄瀬の肩を赤司が叩く。
 電話は終わったらしい。
「話はついた。オレたち三人、今日は部活は欠席だ」
「エッチ三昧ですね」
 黒子が握り拳を固める。意外なほどの不真面目さに思わず黄瀬は「何してんスか、レギュラー!!」 と叫ぶ。こんなの自分の役割ではない。緑間がちゃんと怒ってくれないと困る。ちゃんと赤司に話を聞いて二人の行動を改めさせることぐらい緑間ならきっと出来るはずだ。彼はそういう役割を率先して請け負ってくれる人だと黄瀬は内線の先にいた緑間にテレパシーで助けを求める。そもそも赤司が医務室の内線を使い私物化しているところを何故、ツッコミを入れなかったのか。赤司征十郎だからそういうこともあるだろうと思うのは毒されすぎだ。
「これはこれで体力と精神力が鍛えられますよ」
 黒子は赤司に洗脳されるすぎだ。黄瀬はいろいろと絶望する。こんな現実はない。違う。理想とか持っていたイメージとか瓦解し続けて黄瀬の精神は崩壊した。大袈裟ではない。価値観の違いに対応するために今までの自分を捨て去らないといけないのだからこれは一度死んで生まれ直すような決意の中にいる。見なかったことにも知らなかったことにもできない。目をそらして耳をふさいで苦し紛れに黄瀬が愛を喚き散らしても二人には伝わりはしない。
 愛の形が違うのではない。分かっていない。赤司は分かっているのかもしれないが黒子は全然分かっていない。自分の間違いにも気付かない子供を狡猾なケダモノが手を引いて導いている。それは言うなれば赤ずきんの物語。黒子は狼に騙されて花を摘んでいる赤ずきんの姿だ。何が悪いのか理解していない。狼の思案に無警戒過ぎる。自分が食い物にされている自覚がない。
「アンタらいつもギリギリの場所でチャレンジしすぎっスよ。そりゃ、鋼の精神が鍛えられるかもしれないっスね」
「黄瀬君はちょっと涙腺脆かったり煩いので隠密技能を鍛えた方がいいです。セックスも一つのスポーツということでこれも訓練です。頑張って覗き見してください」
「そうだな。お荷物がいた方が難易度が上がって楽しいな」
 笑い合う黒子と赤司という和やかな風景を他所に黄瀬は泣く。人として止めたいと思う気持ちとそれ以上に赤司のことが羨ましくて妬ましくて腹が立った。二人が普通に付き合っていたとしてもすぐには認められないがこれはもっと許せない。二人の仲がいいと見せつけられることよりも精神的にキツイ。
「周りに人がいるのに隠れてシャワールームであれこれとか、とてもスリリングです」
「それは恋じゃないっスよぉぉぉ!」
 爽やかにセックスを楽しんでいる二人はそれはそれで合意の下なのだからいいのかもしれないが黄瀬は納得がいかない。赤司のしていることは絶対に許せなかった。
「知ってましたか? 精子って水で流れないんです」
「セックスしているのはオレたちぐらいかもしれないがオナニーぐらいはみんなシャワールームでしているらしいな」
「精子で排水管が詰まるんですよ。お風呂場で射精したらシャワーで流して終わりじゃなくてちゃんと排水溝や排水管まで掃除しないとバレてしまうんです」
「なんなの!? 詰まらせたのッ!!」
「少し調子に乗ったね。……まあ、オレ達だけじゃない」
「全部をちゃんと点検がてらに洗いました。自費で詰まり用の薬剤を買って。あれ、結構高いです。後で、部費から出してくれることになって良かったです。みんな欲求不満ですね。過酷な練習でエッチなどする暇はない。それももっともな意見です。でも、反応した身体を、下半身の高ぶりをそのままにしますか!? しませんね? つまり、シャワールームでちょっと出してスッキリです」
「部員数が多いと一人一人の把握も困難だ。同じ立場に立ったおかげで部員たちの知らない一面を知ることができた」
「なんかこの前、二人が監督やコーチとかに褒められてたのとかってシャワールームの掃除なんスか!?」
「レギュラーでありながら皆ことを考えて誰もしない場所の掃除をする赤司君格好いいという話です」
「詰まらせた犯人がッ!」
「いや、オレのものは黒子が飲んだりすることが多いから排水管が詰まったりするほどの量じゃない」
「ボクは案外、量が多いタイプみたいです」
「黒子っち、……え?」
「精子はタンパク質だから特に風呂場などお湯で詰まるらしいね。黄瀬は精液をフライパンで焼いたことはあるか?」
「何してんスか!! 本当、何してんの!? マジでッ??」
 赤司の見方が変わる。
「髪の毛とかも排水溝が詰まる原因ですけど男子用のシャワールームの匂いの元は間違いなく精液です。そして、ボク達は考えました。シャワールームがこの状態ならトイレはどうなのか――」
「結果はなかなか面白いことになったよ」
 赤司が腕を組んで笑う。もう黄瀬は聞きたくなかった。
「男子トイレに個室は少ないだろ?」
「基本、二つか三つぐらいしかありませんよね?」
「比較的生徒が入りやすい場所、使用頻度が高い場所は四つから六つまで配置している。六つのトイレは常に一つが詰まっているという統計が出た。理由は分かるな?」
「二つの個室のうち、一つを占領してしまうと誰かがもう一つを使ってしまった場合、タイミングによっては人に待たれてしまうかもしれない。学校でオナニーする人間にとってそれは恐怖です。バレてしまうリスクが格段に高い」
「学校でしちゃダメっしょ」
「使う人間が多いということは入れ替わりが激しいということでもある、つまり」
「一人が長時間トイレに籠っていても気付かれない、です!」
 力いっぱい大発見を伝えてくる黒子に黄瀬は茫然とした。
 どこをどう言えばいいのか分からない。
 何も間違えていないと微笑みあう二人に距離を感じる。
 ついていけないが挫けるわけにはいけなかった。
「みんな思春期です」
 結局、トイレを詰まらせているなら個室が使えなくなって自分の首を絞めていることには変わらないのではないのかと黄瀬は首を傾げたくなった。
「精液が原因というよりも排水管の構造が問題だったり、違うものが詰まっていることも多々あるよ、もちろん」
「でも、実際にボク達は詰まらせました」
「何やってんスか!! トイレでも!?」
「人の探求心に上限はないよ」
「そこは節度がないっていうんじゃないっスか」
「ちゃんと綺麗にすることを前提で汚したわけです。美化委員会の方々はさすが赤司君と褒めたたえてました」
「なんかよく分からない眼鏡の人たちが赤司っちに直角でお辞儀したりするのはそういうことなんスか?」
「普通なら手の届かない場所、人が触れたいと思わない場所、そこを切り込んでいくことにオレは躊躇しない」
「もっと躊躇って欲しいっスよ」
「いいじゃないですか、みんなに感謝されているんです」
 悪いことをしている意識が二人にはない。
 後ろ暗さを感じていない。あっけらかんと卑猥な話をしている二人に黄瀬は首を横に振る。激しく拒絶するような黄瀬に黒子は溜め息を吐いた。
「理解する必要はないです。こういう話が嫌いなら聞かなければいいじゃないですか」
「そんな、オレが潔癖で受け入れられないみたいな言い方やめて欲しいっスよ」
 おかしいのは自分ではない。
「さっきも言ったけど、一軍レギュラーがこんなことしていいと思ってるんスか? てか、黒子っち、よく体力あるよね」
「バニラシェイクは別腹ということです」
「それはカルピス的な隠語っスか?」
 空気に流されて軽口を叩けば物凄い顔で黒子に睨みつけられた。バニラシェイクは聖域だとその瞳は告げていた。
「馬鹿なのことを言っている時間はあまりない」
「バカなことをやってる自覚はあったんスか?」
「黄瀬君、口の利き方がなってません」
「二人が悪いっスよ。なんで、こんな事になってるんスか!」
 混ぜ返せば黒子が棒読みで「赤司君が好きだからです」とのたまう。そんな言葉は聞き飽きた。重さなどない。思いなどない。興味と興奮と快楽で色付けされて伴ってない形だけのものなどいらないのだ。
「一軍レギュラー以前に緑間に怒られるからそうそう頻繁にこんなことは出来ない。今日は特別だ。黄瀬涼太先生が何やらレクチャーしてくれるらしいからね」
「黄瀬先生よろしくお願いします?」
 ちょこんと首を横に倒す黒子は殺人的にかわいらしい。
 抱きしめる前に赤司が黒子を引き寄せた。
「好きなだけ見て、それで諦めればいい。勝利を宣言して知らしめるのも勝者の務めだ」
 得意げな赤司の横っ面を叩きのめしたくなった。
 単純に赤司の行動は黒子を騙しているとは言えないかもしれないが黄瀬には性質の悪い洗脳風景に見える。何も知らない子供を堕落させていく外道。恋の苦さを知っていればこんな邪道な手段がとれるはずがない。
「赤司っち、裸の王様じゃないっスか?」
 睨み合う二人を放って黒子は医務室に不在の看板を出して鍵を閉める。ここの養護教諭がいないのはいつもことだ。帝光は運動部が多いので生徒たちの怪我が絶えない。付き添って病院に連れていくことは日常茶飯事だった。教師がいない場合は医務室は完全に封鎖するはずだが二人がなぜ中にいるの考えて黒子の足に巻かれた包帯を見る。今日はどちらにしても部活に参加できなかったのかもしれない。
「このままだと雰囲気が出ないね」
 そう言って赤司は黒子を引き寄せて何事か囁いた。指示を出しているのは分かったがベッドに上がった黒子が素直にズボンと下着をずらすのを見て頭が痛くなる。こんな手段に出なくても愛は育めるはずだ。必要なのは心と心の触れ合いだと黄瀬は信じていた。
 それは黒子達を前にして言えば何も知らない子供の言い分かもしれない。身体の関係から始まっている赤司と黒子は大人なのかもしれないが黄瀬は違うと感じた。本当のところは赤司も納得いっていない。だから、黄瀬の介入を許しているのだ。黄瀬という変化をもたらすことによって二人の関係を進めようとしている。そうはさせるものかと黄瀬は固く拳を握りこんだ。自分が感じた劣情だとかそういうものを黒子に当然のようにぶつけている赤司が憎らしい。
 そんな権利などないくせにと叫びたくなる。誰ならその権利があるのか。簡単だ。愛されている人間こそが黒子に触れる権利を得る。赤司はそれが自分だと信じて疑わない。
 黄瀬は自分がそうなれるように努力を惜しむ気がない。
 そう、赤司と黒子の二人の関係の中に割り込んでしまえるとしたら、今この時しかない。放っておいたら赤司の願い通りに黒子の気持ちは固まってしまうかもしれない。何も知らないうちに狼に食べられてしまう。実際、すでに狼の腹の中にいるのかもしれないがまだ未消化。狼の腹を引き裂けば黒子は救出できるはずだ。



赤黒+黄黒で赤司と黄瀬はちょっとツンツンでも仲良し空気。


発行:2013/3/24
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