赤黒幼馴染パラレル。 バカップルの会話が周囲に及ぼす影響について。 男なのに女だと勘違いされ続ける黒子の話の続き。 荒れたあたりはまた今度。 中二病じゃないです。中二です いつになく深刻な顔をした赤司の姿に黄瀬は軽口を叩けず、青峰は黙り込み、紫原はお菓子を食べるのをやめ、緑間はラッキーアイテムを用意した。 持って回った仕草で部屋を見渡して赤司が口を開いた。 長々とした演説が始まっても不思議ではない空気。 ここがバスケットボール部の部室であるなど忘れてしまう。 「みんなに相談がある」 真面目な顔をする赤司に聞かないなどと誰も言えない。 図体のでかい男五人が顔を突き合わせてむさ苦しい絵面だったが誰も気にしない。 「事態は切迫している」 「黒子か?」 赤司の言葉に緑間は眼鏡を押し上げながら言った。 黄瀬、青峰、紫原、緑間、そして赤司がいるというのに黒子がいない。 つまりはそういうことだ。 場に緊張が走る。 「赤司、テツに何かあったのかよ」 「もしかして、アレっスか?」 「黄瀬ちん、知ってるの?」 「女子の間で黒子っちが男なのか女のなのかで揉めに揉めてるんスよ」 「この前のことがバスケ部以外にも漏れたのか、軽率だったのだよ」 「あぁ、オレが悪かった」 赤司があっさりと自分の非を認めるのが珍しかったのか誰もそれ以上何も言えなかった。 その異常さがそのまま今回の件に対する重みだ。 知らず知らずのうちにみんな唾を飲み込んだ。 「最初は男同士でちょっと盛り上がってる程度だったんすけど、女子は戦争っスね」 「けど、赤ちんと黒ちんの関係なんて知らない方がおかしいんじゃない? 当然でしょ」 「赤司やオレたちと一緒の小学校だった人間は総じて口をつぐんでいるようだが……」 「あ〜、そういや騒がねえ一派ってか達観してる奴らって金持ちだよな」 「青峰っち、そういう言い方はちょっと」 「心にゆとりでもあんのかと思ってたけど触らぬ神に祟りなしか」 「峰ちん、それ違うし。赤ちんは触らなくても祟るから」 「紫原、オレがなんだって?」 「ううん。なになに、相談って何? 赤ちんが自分でどうにか出来ないことなんてあるの?」 「それこそ黒子絡みだろ」 溜め息を吐く緑間に赤司はうなずく。 自分一人で処理するべきことなのかもしれないが赤司は仲間に頼ることを決めた。 その方が解決は早いと確信したからだ。自分一人の力ではすぐに事態は収まらない。 「黒子が誰かにいじめられているらしいんだ」 赤司以外の四人は絶句した。 考えてもみないことだ。 黒子テツヤは目立たない。 男であるのか女であるのか以前の話で存在として目に留まらない。 だからこそ、重大であるとも言えた。 誰も気づかないうちに大事になりえるのだ。 存在感がなさ過ぎて白昼に堂々と誘拐されても気づかれない。 誘拐する側も見つけるのは大変だろうが捕まえてしまえば後は簡単だ。 大声も出さない影の薄い子供など簡単に売り飛ばせる。 もちろん黒子が売り飛ばされたことはないが誘拐されたり拷問されかかったことは一度や二度ではない。 それは青峰と黄瀬は知らないことではあるが意外なほどに「いじめ」という単語は強烈だ。 そしてまた身近でもある。 「このところ黒子の生傷が絶えない」 「確かに黒子っち、包帯をつけていたり絆創膏をつけていることが多いっスね」 言われて思い出したのか青峰は「首とか腕とか足か〜」と口にする。 一昨日だかにいつものように肩を組んだ時に首元に絆創膏があった。 怪我をしたのかと訊ねれば掠り傷だと答えられた。 その時、青峰は何か違和感を覚えていた。その違和感が黒子がいじめられているということなのだろうか。 腑に落ちない気持ちで「テツがオレに嘘吐くなんて」と青峰が呟けば詳細を聞かれた。 思い出したことを告げれば五人とも考え込んで暗い顔をするしかない。 「傷自体はかすり傷なのかもしれないのだよ」 「ってか、ありえなくない? そりゃ黒ちんに傷つけたら相手は死ぬかもだけどそんなバカいる?」 「死ぬって、紫原っち何言ってんの」 「え? 息の根が止まんなくても社会的に殺すでしょ、赤ちんが」 紫原は平然と言ってのける。 緑間も頭を抱えながら頷く。 「物騒なことを言うな。黒子が黙っているということはお前たちがそういうことを言うから庇っているのだろう」 「物騒なのはお前なのだよ、赤司」 「なんスか? 前科あるんスか? 社会的制裁ってなんスか?」 「物理的に制裁がくだされたことはあるがオレがやったわけじゃない」 「黒子に手を出したというより赤司に逆らった人間が複雑骨折で相当エグイ見た目になって病院へ搬送されたのだよ」 「学校でね〜。黒ちんのスカート捲りしてからかった直後だった」 「スカートめくり罪重すぎるっスよ!!!」 「同い年か?」 「いや、教師だ」 「テツ……大変だな」 遠い目をする青峰に赤司も当時を思い出す。 いま思い出してもはらわたが煮えくり返る。 私立の小学校で自由な校風だった。 赤司は何をしても許されたし、赤司の言うことは絶対だった。 それは生徒も教師も関係ない。 新任の教師が自分たちの担任になったとしてもそれは変わらないと思っていた。 久しぶりに黒子が登校した時にたまたま持ち物検査が組まれていた。 赤司のリクエストでその日の黒子はフリルをふんだんにあしらったワンピースを着ていた。 オーダーメイドで作らせた白い服はよく似合っているので赤司の中でお気に入りだったのだが、黒子からは身動きがとりにくと不評だった。 白いせいで汚れそうなことが出来なくて困ると言われたが汚れるようなことを黒子がする必要はないのだ。 赤司がそう言ったところで黒子は自分の立場として赤司に代わって掃除当番などを引き受けようとする。 服を理由に断れるのでそういう意味でも白い服はかわいいものだった。 「あの頃の黒子は少し殺気立っていてスカートの中にスタンガンを入れておくのが癖だった」 「黒子っち何してんの!?」 「そして、悲劇は起こったのよ〜」 紫原の言葉を引き継ぐようにして緑間も当時を思い出す。 「持ち物検査の最中、黒子のスカートの中からスタンガンが落ちたのだよ。護身用にしてはゴツイものだった」 「教師は言った。『スカートの中身を見せろ』これは教育委員会に訴えていいね」 「それよぉ、スカートの中に入れてるものを見せろってことでスカートめくってなくねえ?」 「青峰は黒子のスカートの中が侵害されていいというのか? スカートの中は聖域だろ」 「そうっスよ! 赤司っちの言う通りっスよ」 「あっそ」 黒子がスタンガン以外にもスカートの中に麻酔針などを仕込んでいるのは赤司も知っている。 それをどう言い訳するのかと思えば「ほかに誰もいない場所で」と黒子は教師に言った。 「それは誘ってるんスか?」 「そんなわけがない。教師に強要されたんだろう。つまりセクハラだ。死ねばいい」 「場所を移動したいという黒子の願いは却下されて、今ここでという流れになったのだよ」 「教師という立場を利用した猥褻行為を許してはいけないと立ち上がった教室内の同志数十人によりその蛮行は阻止された」 「あれ? 偶然とかじゃなくて物理的に……祟りっスか? 怖ぇぇぇ。同志ってなに?」 「黒ちんのスカートに男が触れた瞬間にクラスのみんなが動いたんだよね〜。圧巻だった」 「子供でも人数が集まると大人一人を窓の外に運ぶぐらいたやすいのだよ」 「ちょっと待て! オレたち今、犯罪の自供聞いちゃってるんスか」 「バカっ。黄瀬ちげーよ。こいつらは何もやってねえけど他の奴らが教師を複雑骨折させてしらばっくれたって話だろ」 「なんで? なんでクラスが一丸になっちゃったんスか!?」 「そりゃ簡単でしょ。黒ちんのスカートの中を見たら赤ちんに残らず目をえぐられるし」 「同じクラスにいたせいか……みんな教育されすぎた結果なのだよ」 見たか見ていないかは分からないのならその時に教室内にいた全員が同罪。 そんな風に赤司が思うということをみんな理解していたのだろう。 「恐怖に突き動かされすぎっスよ」 「嘘か本当か教師の変態趣味が後々発覚したこともありオレたちが咎められることはなかったのだよ」 「黒ちん変なのに好かれやすいよね〜」 「紫原、問題発言なのだよ」 「なんで?」 「誰にも咎められずとも保身のために教師に怪我を負わせたのは事実だから一時期教室の中は暗くなったよ。それはオレも反省している」 「指先ひとつ動かさないで自分の意思を場に投影させる……それが赤司なのだよ」 「褒めてるんだか貶してるんだかよく分からないっスね」 「……今の聞いた限りだとテツに危害を加えている犯人ってのはお前らのことをよく知らない相手ってことだよな。容疑者絞れるじゃねえか」 「青峰っち、意外に頭使えるんスね」 失礼な黄瀬の発言にも青峰は食いつくことはなく赤司に心当たりをたずねる。 心当たりがないからこそ赤司は四人に相談しに来たのかもしれないが全くの手ぶらなわけではないはずだ。 「教師の天罰事件以外にもいろいろとあったから小学校が同じ人間は除外していい。あと、黒子が庇うとすれば規模が大きすぎるため……つまりは複数犯が考えられる」 「集団いじめということなのか? それならもっと早く事態は露見するはずなのだよ」 「ってか、ありえないし。人数が多かったらそれこそ黒ちんなら余裕で逃げれるから傷跡とかないでしょ」 「人が多いほどミスディレクションは使いやすい」 「そうなんスか。他人の存在が目くらましになるんスか??」 「赤司もだから犯人の特定に困っているのだろう?」 緑間の言葉に赤司は息を吐き出して先日聞いた言葉を口に出す。 今でもまだ自分の中で処理しきれない。 どういう意味なのか。 どういうことなのか。 自分とは何であるのだろうか。 自分が知らない自分が存在する恐怖。 「黒子にその怪我はどうしたんだと聞いたら『赤司君がやったんじゃないですか』と言われたんだ」 まるで身に覚えがなかった。 しばらく固まった赤司に黒子は気まずげに俯いた後、何も言わずに去って行った。 食事も喉を通らなかったが黒子に食べさせてもらって完食した。 夜も眠れなかったが黒子を抱き枕にして熟睡した。健康的だ。 「え? 犯人わかってんじゃん。お前さっきテツは黙ってるって」 「オレが黒子を傷つけるわけがないだろ」 「黒ちん、そういうところで嘘吐かないよね。赤ちん、心当たりないの〜」 「全くない。だから、お前たちに聞きたいのだが…………どういうことだと思う?」 どういうことだと聞かれても赤司以外に分かるはずがない。 「赤司っち……あのさ、黒子っちと一緒にいるときに記憶が途切れたり」 「なくもない」 つい夢中になりすぎると記憶は飛ぶ。 黒子がダメだといってもとまれない。 若さとは暴走することだ。 「赤ちんのもう一つの人格が」 「紫原やめろっ。それは封印しておくのだよ」 「マジで別人格とかあんの? 赤司の別人格がテツ殴ってんの?」 「青峰っち、まだ分からないっスよ」 「たとえ別人格があろうとオレは黒子を殴ったりはしない」 「そうとも限らねえんじゃねえの? もう一人のお前は残忍な奴かもしれねえじゃん。知らない間にうさぎとか猫とか犬を殺してハムスターを脱走させてるんだろ」 「もう一人のオレだと……」 「お前が一年でバスケ部の部長になった時のこと、オレは忘れてねえぜ。真夏の炎天下のグラウンドで先輩たちを土下座させてただろ。その後にあった赤司は別にそんなんでもなかったのにあの日のお前は恐ろしかったッ!」 「マジっスか!! 夏場のグラウンドとか鉄板みたいなもんじゃないっスか」 「あれは正しく焼き土下座だったのだよ」 「あれなんだっけ? 身体測定するから黒ちんに服脱げとか言ったんだっけ?」 「オレが部活に出るのがたまたま遅くなった日だ。一学期の内にとるべきデータを忘れたという名目で彼らは黒子を裸にしようとしていた。部活という名の閉鎖空間で平然と行われる目を覆いたくなるような歪んだ行為。マネージャーではなく当時の部長自らという点で悪意を感じる。いいや、あったのは悪意ではなく劣情だ。そんな事態、黒子の婚約者として捨て置けないだろう」 なにか言いたげな青峰と黄瀬に紫原は手を振る。 「赤ちんがそう断言したらそうなのよ」 「なんか元部長さんかわいそうっスね」 黄瀬に無表情で赤司は顔を近づけた。 思わず黄瀬は後ずさる。 「かわいそう? 衆人の前で肌をさらせと言われたテツヤがかわいそうではないとでも言うのか?」 「体力測定っスよね?」 「医者でも僕はテツヤの肌をさらしたくない」 「じゃあ、病気の時はどうしてるんスか」 「初老の医師にお願いしている。でもテツヤの魅力に干からびていたところが潤ってしまうかもしれないことを考えるとあまり会わせたくない。女医もよくない」 「もう少し人を信用するのだよ」 「頭か心臓に爆弾でも埋め込んだ医者じゃないとテツヤには触れさせられないね」 「命がけっスか!! 治療してあげんのに!?」 「赤ちん過保護」 それで済むのだろうかと黄瀬は首を傾げる。 黒子のいじめ問題から話はだいぶそれてしまっている。 「赤司に別人格がいるとしたら今とかか?」 「なんのことだ、青峰」 「いや、ちげーみたいだな」 「赤司の口調のスイッチのオンオフは人格の変換だったのか……そう考えればいろいろと納得ができるのだよ」 「やはりオレには別人格がいるのか?」 「テツに直接聞いてみんのが早いんじゃねえのか?」 「一度目以降、傷の話題になりかけると黒子は逃げるようになった。これは何かあるということだとみて間違いない」 「本人には言いにくいだろ、別人格の話とか。……大丈夫だ、赤司。オレたちが聞いとく」 青峰が力強く答えれば他の三人も頷いた。 「あぁ、黒子は着替え終わったらここに来るだろう。オレは少し席を外しておく。頼んだぞ」 そう言って離脱する赤司を見送って四人は円陣を組んだ。 頭を突き合わせてぼそぼそと相談する。 周りに自分たち以外の人がいないとはいえ大声で話せる内容ではなかった。 「なぁ、今の話はマジなのか?」 「赤司っちならありえなくもないっスよね」 青峰と黄瀬は揃って緑間と紫原を見る。 付き合いの長さで四人は二人ずつに別れる。 小学校どころか生まれたころぐらいの昔からの付き合いである緑間と紫原には赤司がどう見えているのか単純に気になるところもあった。 黒子が受けているいじめに関しては多少真面目な気持ちになるが犯人がわかっている分、どう事態が収束するのか予想が立たない。 青峰は疑ったが黄瀬はそういうこともあるかもしれないと受け止めていた。 付き合いの長い二人は先ほどの告白をどうとらえているのか。 「自分の記憶がなくなるほど赤司が前後不覚になることなど考えられないのだよ。あいつは理性的な人間なのだよ」 「黒ちんが赤ちんが犯人だって言ってるんだからそうなんじゃない」 緑間としては認めがたい。 紫原は黒子が口にしたという観点から二重人格かはともかくとして犯人は赤司だと思っている。 「だが、赤司は自分の許嫁に暴力をふるうような男ではないのだよ」 「……別人格っスか。赤司っち自身じゃないからつい殴ったんスかね?」 「抑圧されたどうたらこうたらを肩代わりするんだろ」 「青峰っち、漫画知識っスか?」 「気づいたら周りが血の海になっててそれを片付ける赤司か。そうか、あり得るな!」 「赤ちんはそんなピンチに陥らないけどね〜」 紫原のツッコミに青峰は肩をすくめる。 赤司ならトラブルが起こる前に片づけてしまいそうだと思ったのは青峰も同じだからだ。 「赤司の家は……五十年に一人ぐらいの頻度で狐つきが現れるらしい」 緑間は思い出したように語る。 狐つき。 まるで狐に憑かれたように人間らしさから外れた獣のような行動をする症状。 頭がおかしくなってしまった人間の蔑称とも言われる。 赤司の家では外に出すことはなく離れで隔離されて暮らすことになるらしい。 病院に連れていくことはない。 人を閉じ込めていた過去があるかはともかく赤司の家の地下に座敷牢や物置にしては立派な建物があることは事実だ。 緑間も紫原も実際に見て知っている。 学校でほとんど黒子の姿を見ることがなくなった時に緑間がたずねれば赤司は地下に幽閉中だと言った。 その時は冗談だと思いたかったが今は冗談ではないことが分かる。 黒子を強く束縛する赤司が通常とは別の人格であるのなら謎は解けるのではないのか。 「オレは常々おかしいと思っていたのだよ」 「何がだよ」 「赤司の黒子への態度だ。大切にしてやっているのかと思えば時にひどく投げやりだ」 「赤ちんは黒ちんに優しいよ?」 「1月に黒子に会うことが少ないのだよ」 「冬休みか?」 「正月の挨拶は交わすがそれ以降あいつの姿を見ることはない」 「黒ちんはいつも寝正月」 紫原の言葉に「そういうこっちゃないのだよ」と緑間は首を振る。 「そーいや、一年の時にテツは冬休み終わってもすぐに登校してこなかったな」 「赤司っちは1月が別人格になることが多いってことっスか。黒子っちが外に出られない状態になって……?」 「その可能性は高いのだよ。今まで気になりはしたが黒子に聞いてもはぐらかされた。今にして思えば」 「赤司を庇ってる……?」 「その可能性は高いのだよ」 「でも、黒ちんが困ってないなら別にいいんじゃない」 無責任な紫原につい緑間は怒鳴る。 密着していたせいで青峰と黄瀬はうるさいと顔を歪ませた。 「いいわけがないのだよ!」 「何がです?」 「赤司が黒子に無体を強いているのなら周りがとめるべきなのだよ」 「ご心配には及びません」 「黒子は名目上は男子として通しているが実際は」 「遺伝子的にも間違いなく男子なのでお気遣いなく」 聞こえてきた声の方を見て四人は身体を離す。 黒子が胡乱げに見つめてくる。 「君たち何してんですか」 「作戦会議だ」 「黒子っちを守るためっスよ」 「盛大な勘違いのもとに話が進んでいるような気がしてなりません」 「黒ちんも? オレもなのよ〜」 「紫原裏切るのか!」 「緑間君、落ち着いてください。何言ってんですか」 黒子のほうへ紫原が行くのを緑間は咎めるがそもそも何かがおかしい。 「その傷さ、赤ちんがつけたって本当?」 「……? 傷ですか?」 「今日のお前は見苦しいほどに包帯を巻いているのだよ」 「心配かけてしまいましたか、すみません、緑間君。平気ですよ」 「男でも痛々しいが嫁入り前の娘が」 「緑間君、黙っててください」 言葉を黒子に遮られながら緑間は「聞くのだよ」と口にする。 真面目な顔と空気だったが黒子にとっては意味不明だ。 「もし赤司が気づかないうちに道を踏み外しているというのなら友人として止めたいのだよ」 「はぁ。お疲れ様です」 「緑間っちの良い台詞を生返事!?」 「真面目に聞くのだよ」 「よく分からないのですが赤司君がまた何かをしましたか?」 「現在進行形でお前をいたぶっているんじゃないのかと赤司本人が心配していたのだよ」 寝耳に水。 黒子には意味が分からなかった。 「赤司君との仲は円満ですけれど?」 「そんなことは知っているのだよ。……お前は赤司に何か無理強いされていないのか?」 「黒ちんの格好?」 「いえ、むしろ、小学校の時よりこっちの方が願ったり叶ったりです」 「黒子っち、スカート嫌いだったんスか?」 「キミはスカート履きたいですか? スコットランドの民族衣装としてキルトを纏うならともかく男にスカートはないです」 「黒子、今はそんな主張はいい。みんなお前が男だと分かっている。活動的なお前はスカートではなくショートパンツ派だというのは分かっているのだよ」 「緑間君、そういうことじゃありません」 「冷えるからストッキングも履くといいのだよ」 「女物じゃないですか!!」 「女子が女子のものを履くことに違和感を持つものではないのだよ」 言い切られて黒子は「緑間君は……」とギリギリと歯を食いしばる。 「黒ちんの性別はいいとしてさぁ〜、結局、赤ちんのせいで黒ちんは怪我してんの? 違うなら犯人ちゃんと吊し上げないと困るんだけど」 「吊し上げるんスか!? なんか、怖っ」 「捻り潰すんじゃねえとこがヤベぇな」 「どうなのだよ、黒子」 緑間に迫られて黒子はおぼろげながら話の流れがわかった。 やはり包帯は目立つようだ。 当然かもしれない。 けれど、絆創膏では無理だったのだから仕方がない。 「真剣に心配してくれているところ悪いんですが、これは赤司君は赤司君でも言うなれば夜の別人格がやったことなので本人には内緒にしておいてください」 友人たちの前でこんな暴露をするのは恥ずかしいことだが流石に誤魔化しきれない。 赤司本人は気づいていないようなので触れないでおいて欲しい。 今後生温かいまなざしで見られることになったとしても誤解は解いておきたい。 「仕掛けてくるのは赤司君ですが、赤司君ばかりのせいにするのはよくないと思います。合意の上でのことです」 別に嫌ではない。 翌日に支障がある場合はさすがに赤司を恨んでしまうこともあるが、通常は黒子の体力を見て加減してくれる。 「この頃、酷くなったのはボクが変に注目を集めていることが気に入らないからだと思います。そのうち納まりますよ」 公衆の面前でのキス事件。 赤司が黒子にキスをしたことによって様々な噂や憶測が生徒の間で流れ出した。 女子扱いされる不名誉を黒子はどうにか払拭したいが赤司の方が一枚も二枚も上手だった。 自分の裸でも見せない限りは緑間は黒子の性別を勘違いしたままだろうし、 引きずられるように黄瀬も黒子を見る目が変わっている。 青峰はあまり変わらないのだが青峰と付き合っていれば赤司の機嫌は悪くなる。 友人関係に口を出すことはしないが伝わってくる苛立ちがそのまま包帯の量を増やすことになっていた。 絆創膏では隠れきらない。 「そこまでお前は耐えるというのか!?」 「そんなのおかしいっスよ!!」 「テツ、それはヤベーって」 血相は変えた三人に黒子は首を傾げる。 どうして三人がこんなに必死なのか分からず黒子は紫原を見る。 「黒ちんがいいならいいんじゃない?」 紫原の発言に黄瀬が「よくないっスよ」と食って掛かる。 どうしてだろうか。 「ヤバいっスよ、黒子っち。それ、DVされてる嫁の発言っス」 「なに言ってるんですか、失礼ですね。無理強いされることもありますけど、そんな赤司君も嫌いじゃないです」 「目を覚ますのだよ。落ち着けッ」 「落ち着くのはキミたちです。ボクと赤司君の問題じゃないですか。勘違いさせて心配かけたのは悪かったと思いますけど他人に口出しされる問題じゃありません」 「テツ、オレはテツの家のことはよく分かんねえけど、テツは赤司に逆らえねえんだろ」 言われて黒子はつい頭に血が上った。 赤司を受け入れているそのことは役目だからという理由ではない。 赤司が自分を欲しがっていることが負けず嫌いのような気持から来ている意地だとしても黒子には黒子の気持ちがある。 支えて力になりたいと思っている黒子の気持ちはそういう役目を負っているからではない。 その人柄に触れて黒子自身、赤司のそばにいたいと思っている。 最終的に赤司が黒子との関係を思い直して他の誰かと結婚することになったとしても別に全然かまわない。 悲しく思うし悔しいかもしれないが赤司の幸せが何よりも優先するべきものだ。 それが例えば「黒子」という家で生まれた自分の考えなのだとしても赤司に対する気持ちは誰に強制されたわけではない。 赤司は傍にいるように命令するが気持ちに対して無理強いすることは一切なかった。 だから、腹が立った。 「ボクが好きで赤司君にされてるんです!!!」 似合わない大声を出すほど赤司に対する不名誉は許せなかった。 プレイの一環として焦らされていじめられることも多いが脅されるようにして無理やり関係を持っているのだと誤解されるなんて論外だ。 「ボクと赤司君は婚約者なんだからいいじゃないですか」 プンっと黒子は横を向く。 それ以上この話題を続けたくはない。 自分が赤司をどれだけ好きなのか語ってしまえば万が一、二人の仲が終わった場合、みんなが気まずくなるだろう。 それは黒子の本意ではない。 「黒子、お前はそんなにも赤司のことを……」 「うわっ、緑間っちが泣いた」 「赤ちん良かったねぇ」 「紫原もかよ」 ボロボロと涙を流す緑間と紫原に黒子はギョッとする。 自分はそんなにおかしなことを言っただろうか。 いつもは赤司への感情を出さないようにしているが、それが立場上なのは二人とも知っているはずだ。 鼻水すら流す紫原に黒子はハンカチを渡した。 「泣くほどのことですか……?」 「お前が赤司に何をされてもいいと思っているとは知らなかったのだよ」 「赤司君はボクが本当に嫌がることはしませんよ。……確かに限度を超えることは多々ありますけどストレスが溜まっているんでしょうね」 「それで夜の人格っスか?」 「もうその話はいいじゃないですか」 自分で言っておきながら黒子は恥ずかしかった。 友人に暴露するべきことではない。 「お前は赤司のすべてを受け入れているのか」 「そんなことは今更ですよ」 出会った時から決められたようなものだ。 「このところの一番気になることはボクの性別を誤認させようとしているあたりですね」 「大丈夫だ。お前が女子であることはオレたちがちゃんと分かっている。立場上あえて男扱いすることもあるかもしれないが耐えるのだよ」 「違います! そっちじゃないです!! 男ですから」 「自分を偽るのは辛いかもしれないが耐えるのだよ。赤司はお前の花嫁姿を楽しみにしている」 「着ませんから」 「でも、赤ちんが頼んだら?」 「……っ、ズルいです」 赤司が言うなら仕方がない。赤司のタキシード姿や袴姿は格好いいに決まっている。 それは見たい。 「ちゃんとした女性と式を挙げてくれるのが一番なんですけどね」 見られるだけで黒子は満足だ。 隣に自分がいないくてもいい。 いいや、居ることは性別を考えれば普通はあり得ないことだ。 赤司ならば宣言通りにするかもしれないが反発は避けられないだろう。 それを思うと黒子は今から気が重い。今後のことを考えて赤司を地道に説得していくしかない。 「お前がちゃんとしていなくて誰がちゃんとしているのだよ」 「黒ちんはもう諦めなってば。赤ちんは黒ちんしか興味ないよ」 そう言われるたびに嬉しくなる気持ちと落ち込む気持ちがある。 最初にもっと赤司に対して上手く返事をしていたら良かった。 「テツの気持ちは分かったけどよ、ずっと包帯はマズいだろ」 青峰に肩を組まれながら黒子もそれは思っていた。 鼻をひくつかせる青峰がポツリと「なんか変だと思ったら消毒液の匂いとかしねえのか」と言った。 なるほど、だから、バレてしまったのか。黒子は納得して青峰を見上げる。 「赤司君とちゃんと話し合ってみます」 「別人格に言葉は通じるんスか?」 「そのネタはもういいです」 「もういいとはなんだ、黒子」 「赤司君もいつもいつもケダモノなわかじゃありません」 「狐つきの系譜は断ち切れていなかったのか!!」 「緑間君、なに言ってんです」 訳が分からない。 「いいのだよ。お前がどんな赤司も受け入れているという姿はとくと見させてもらった」 「はぁ、そうですか」 「黒ちん、中学卒業したら結婚?」 「赤司っちが十八過ぎないと」 「いえ、男同士は」 言うのもそろそろ疲れてきた。 だが、黒子が「もういいです」と言った瞬間に黄瀬は「やっぱ黒子っち」と胸を凝視してくる。 「テツ、胸は大きいほうがいい」 「黒ちんはさらし巻いてるんだよ」 「巻いてません」 「潰してると形悪くなるらしいっスよ」 「悪くなっても気にしません」 「赤司はそういうところを気にしない男なのだよ」 そこは気にして欲しいと花嫁選びをしていた黒子は思った。 「それにしても別人格マジかー」 「もう、青峰君っ! その話は」 「赤ちんの別人格を抑えられるのは黒ちんだけ」 「からかわないで下さい」 「赤司っちの別人格ってどんな感じっスか?」 「黄瀬君、セクハラです」 「なんで!?」 和気藹々と話す五人はもちろん会話がズレていることなど知らないままだ。 「だが、黒子。一人で犠牲になろうとなど思うんじゃない。手に負えなかったら人を頼るのだよ」 「さすがにボクもプライドがありますので、このぐらい一人でこなしてみせます」 「テツのいじめ問題は解決だな」 「ボクのいじめ?」 「赤司っちが黒子っちにキスしてから周りが結構うるさかったでしょ」 「あぁ、ボクに抱き付いて性別当てようという企画がされたりしましたね」 「初耳なのだよ。大丈夫なのか?」 「廊下で当たってっていう話で盛り上がっていたので申し訳ないですが、黄瀬君を盾にしてやり過ごしました」 言われて黄瀬は首を傾げる。 「そんなことあったっスか?」 「キミの周りは女性が来たらファンの方々がガードして、男性はそもそも立ち入り禁止区域でした」 「なるほど。男子禁制の空間なら黒子がいても不思議ではないということだな」 「ボクは影が薄いので女性には気にされていないだけです」 「よく分かんないっスけど、オレ、黒子っちの役に立ってた?」 「黄瀬君と黄瀬君の周りの方に感謝ですね」 「テツ、今は平気なのか?」 「大丈夫です。昨日にそういう動きはピタッと止まりました。飽きたんでしょうかね」 黒子の言葉に紫原は「たぶん、赤ちんじゃない?」と口にする。 それは正解かもしれない。 ノックの音に全員が扉のほうを向けば赤司がいた。 視線は黒子の肩を抱いている青峰を捉えていた。 気づいた紫原は青峰の腕を持ち上げ、黒子は赤司の元へと歩いて行った。 「テツヤ、帰るぞ」 怒ってるようにもとれる少しキツイ口調は経験則から拗ねているのだと黒子はわかる。 廊下を歩きながら周りを見て誰もいないと確認してから黒子は赤司の手に触れる。 自主的に手を繋ぐのは赤司相手に不遜な気もするのだがこんな簡単なことで赤司の機嫌は戻ってしまう。 「帰りにバニラシェイクでも買っていこうか」 優しい赤司に黒子は不満などない。 隠れるようにしてジッと赤司と黒子の後姿を見つめる四人。 「仲よさそうっスね」 「実際いいのだよ」 「さっきの別人格っスか?」 「そうじゃない? 黒ちん、明日はげっそりかも〜」 「それは良くないのだよ」 「なんで? ラブラブじゃん」 「殴られることによって愛を感じる……そういう関係って歪んでないっスか?」 「オレたちには早ぇな」 「っスよね」 頷き合う青峰と黄瀬に紫原は「なに言ってんの?」とまいう棒を食べながら言った。 三人が「だから」と説明しだすが今、黒子から聞いた限り赤司との間に問題はまったく感じなかった。 いじめなんかないし、きっと誰も困ってない。 現実の認識に開きがあることをなんとなく分かりながら紫原は面倒なので放置することにした。 家について黒子は首や手に巻いた包帯をとる。 鏡で確認するのは恥ずかしすぎるのだがそのままでは外に行けない。 「テツヤ、夕飯まで少しかかる」 「宿題でもしましょう」 と、そんな誘導に赤司が乗るわけがない。 目つきがギラギラとしている。 赤司から熱が伝染するように黒子も熱くなっていく。 「あまり他人と密着するな」 「そうは言っても」 言い訳など聞く気がないと唇は封じられた。 赤司が自分に抱いているものが所有欲であるならばどうするのが一番なのか。 赤司以外の誰とも口をきかなければ赤司は満足なのだろうか。 そんなわけがないことは知っている。 誰としゃべってもいい。何をしていてもいい。ただ赤司は最後には自分の隣にいろと言う。 言われなくても黒子は影としてそういった立ち振る舞いをするように出来ている。 「妬けるからちょっとぐらい激しくしてもいいだろう?」 構うと言いたいところだがストップをかけたところで赤司は聞きはしないと思った。 そういう人だ。 首筋にかかる赤司の息に未だに慣れずに身体はこわばる。 そんな黒子の様子に笑いながら触れてくる指先は優しくて緊張をほぐす効果がある。 皮膚が吸われて痛みとも快楽ともつかないものに思わず声が出る。 赤司がそれを気に入っているのは知っている。 何度も何度も黒子の首筋に鬱血痕を残していく。 最初は絆創膏で隠せる程度のものだったのに今では包帯で隠してしまったほうがいいぐらいに広範囲。 跡が残るからダメだと言えば言うほど赤司は嬉しそうに跡をつける。 満足げに黒子の首筋を撫で上げながら今度は手首を甘噛みする。 赤司に似つかわしくないような暴力的にも見える愛撫。 それに翻弄されることが嫌ではない。 (本当、夜の別人格は厄介ですよ) 紳士的に見えて夜は好き放題なところがある赤司のそのギャップを知っているのは自分だけでいい。 誰かと黒子が近い距離にいたところを見た赤司が意地が悪く情熱的なやり方をするのはこの頃やっと分かった。 この前は人を避けるためとはいえずっと黄瀬の近くにいたのが気に入らなかったのだろう。 今日は青峰だ。 自分への赤司の執着が見えるのは嬉しくて照れくさくて同時にこれでいいのかと疑問に思う。 赤司は普通に女性と結婚して欲しいと黒子はまだ思っているのだ。 「こういう時は僕のことだけを考えるんだよ」 「考えてますよ」 「本当?」 「夕食は一緒に食べますから、最後まではダメですよ」 「褥に持ってきてもらえばいい」 「病人じゃないんですから、ダメです」 一度退廃的な生活をしてしまったらずるずると落ちていくだけだ。 楽を覚えていいことはない。 本当は赤司征十郎は指一本動かさなくてもいいぐらいの人間だ。 学校へ行く必要もない。 普通の人間とは立場も考えも違っていて構わない。 人の気持ちなど理解する必要もない。 「テツヤがそう言うならお預けを楽しもうかな」 黒子の意思など聞くこともなく決定だけを告げればいい。 けれど、赤司はそうしない。自分で選べと言ってくる。 それは赤司が自分で敷いたルールのせいなのだろうか。 (ボクはキミのこと、好きですけど、それを口にする気はサラサラありません) 赤司の好きと自分の好きはきっと違うものだからだ。 黒子はそう思いながら目を閉じて身体の力を抜いた。 翌日、やはり鏡の前で黒子は羞恥心に身悶える。 隠さないわけにはいかないが包帯で隠せばまた騒ぎになってしまうかもしれない。 「これでいきますか」 息を吐き出して桃井にもらった秘密道具を使うことにした。 「アララ〜、黒ちん包帯なし?」 意外そうな顔の紫原に緑間はホッとしたような顔をする。 今更、気が付いたように赤司が黒子の首元を見つめた。 「赤司君は悪い癖を直してください」 「別人格!」 「別人格!!?」 「なんなんですか、青峰君と黄瀬君はッ」 横から急に真顔で言われて黒子は驚いた。 「別人格になると目の色が変わったり髪の毛が逆立ったりしねえのか」 「猫とか蛇とかの目になったりするんスか?」 「何を言ってるんですか」 「今後現れる巨大な敵をバスケで倒していくんだろ、赤司ッ!!」 「なんで、バスケ!?」 「キセキ戦隊帝光レンジャー? 赤司隊長」 「青峰っち、それだと赤司っちは司令塔ポジっスよ。紫とか後から仲間になるキャラじゃないっスか。かわいそうっスよ」 「別にいいのよ? 黄瀬ちんたちが勝手に赤ちんの盾になってれば」 「いきなりどうして戦隊ものになったんですか。日曜の朝にはまだ早いですよ」 「謎の力が目覚めたりとかすると世界と戦うだろ?」 青峰が何を言ってるのか分からない。 緑間に吹き込まれたのだろうか。 「なんだ、どうしてオレを見るのだよ」 「大体、今までこういう時は緑間君のせいでした」 「失礼な。事情を知るものとして少し話はしたが――」 「ミドチン語るに落ちてる」 「戦隊ものだと黒子はブラックなのか?」 「お助けキャラっスよね。裏事情知ってて助けてくれるものの完全な仲間じゃない感じ」 「テツをハブにすんなよ。喫茶店のマスターとかでいいんじゃねえの」 「それはわき役っスよ」 「ボクは構いません。紫原君と一緒にキミたちの戦いが終わるのを待ってますよ。誰と戦うんですか?」 「だから、巨大な敵っスよ」 「具体的には?」 「……そうだな。全人類か?」 いきなり世界征服でも始めそうな赤司に黒子は疲れた。 青峰はなぜか乗り気だ。 黄瀬も楽しげだ。 「チーム男子のノリについていけないのも仕方がない。黒子、そう気にするものではない」 「ボクも男子ですが、キミたちとチームは違うらしいですね」 何がどうしてこうなったのか不明すぎる。 「赤司、ほら、目薬やるよ」 「どうしたんだ、青峰」 「いや、気にすんな」 「そうっスよ、赤司っち、水臭いっスよ」 慈愛に満ちた二人に赤司も訳が分からなくなりながら礼を言って目薬を受け取った。 一方黒子は真顔だった。なんだこの空間は。 「んっとね、ミドチンが赤ちんは定期的に目薬をしてないと苛立ってくるって話してたら」 「目薬が封印に必要なものなのかと」 「封印って何の話ですか。……目がかすむと周囲に対しての認識力が低下するので眉間に力が入るみたいですけど苛立ってはないですよ」 「ある時、赤司しかいないはずの部屋からうめき声が聞こえてきたらしい。赤司にたずねても知らないという」 「はあ?」 「お前も認めていただろう、黒子。赤司の内に潜むもう一つの人格の話だ」 「ちょっと待ってください」 青峰と黄瀬と赤司はなぜかバスケで世界征服をする話を繰り広げていた。 緑間もその話に加わりだす。 「なんだって、そんなことになったんですか」 確かにこのメンバーとならば世界が取れるかもしれないが、そういうことなのだろうか。 いいや、違う。 「赤司君は別に」 二重人格でもなんでもなく「夜の別人格」なんていうのは言葉の綾だ。 訂正しようと盛り上がり続ける四人に声をかけようとすると紫原に止められた。 「いいんじゃない? 赤ちん楽しそうだし」 「紫原君、分かってますよね」 「赤ちんと黒ちんがラブラブだって? 知ってっけど、面倒だからこのままでよくない?」 「赤司君に不名誉な……」 「ちょっとは峰ちんも黄瀬ちんも黒ちんとの距離を考え直すいい機会じゃない」 そう言ってトマトとチーズとバジル味のまいう棒を食べる紫原。 何がいい機会なのかと言いかけて黒子は青峰に肩を組まれてタイミングを失う。 「テツも苦労してんな」 別に言うほどの苦労などないと答えようと思ったが先ほどの和気藹々とした空気が真顔で青峰と黒子を見つめている赤司によって壊れている。 そんなに黒子が青峰に肩を抱かれるのが嫌なのだろうか。 普通の友人関係だと思うのだが赤司の目は「いいから早くこっちへ来い」だ。 「なんか、テツ、女の匂いがする?」 爆弾を落とされた。 聞き耳でも立てていたのか普通に近くを歩いていた生徒たちがざわつき始める。 「バカ者、青峰!! 何を言っているのだよ」 「やっぱ、なんスか!? やっぱ、黒子っちって」 「やっぱりも何もありません」 「だって!?」 青峰の腕から抜け出て黒子は溜め息を吐く。 赤司に抱き寄せられて「わかってると思いますけど」小さく告げる。 「浮気とかそういうことでは」 「まったく、テツヤには負けるよ」 そう言ってキスされた。 バスケ部でのことではない。 周りには普通の生徒ばかりだ。 どうやって誤魔化すつもりなのかと頭を抱えたくなる。 包帯を巻く代わりにファンデーションやコンシーラーで黒子は赤司がつけた鬱血痕を隠した。 桃井がくれた化粧品は黒子の肌色とよく馴染んでいたためパッと目に塗っているのも分からないはずだ。 それが青峰が感じた女の匂いだろうが、赤司はどこまで分かっているのか微笑んでもう一度口づけた。 本当は全部わかった上で仕掛けているような気がする。 「見せつけただけだ」 以前にも聞いた台詞。 黒子が隠そうとしていたことが赤司は気に入らなかったのだろうか。 頭を抱えたくなった。 発行:2013/2/17 |