ラブラブ恋人同士黄黒。
ご注意☆自慰/フェラ/足コキ/素股/ハメ撮り/コスプレ(女装含む)
ライトSM/擬似痴漢プレイ/大人の玩具/野外/そんなイチャラブ黄黒☆ご注意



主食は恋人
サンプル



 黒子と付き合うことになって黄瀬は天にも昇るような気持ちだった。バスケやモデルの合間に黒子に会うというよりはバスケやモデルが黒子に会うための繋ぎになっていた。
 それでも手を抜いたことはない。
 もし適当なことをすれば黒子から冷たい視線が来ることは分かり切っていたからだ。黒子は人の努力を尊ぶがそれは裏を返せば頑張ることを知らない人間が嫌いだとも言えた。黒子自身は言葉にはしていないが態度には出ていたと端から見ていた黄瀬は思う。帝光中学時代、練習に出なくなった青峰と桃井が言い合いになった時、黒子の悲しそうな顔を黄瀬は覚えている。あの時、どんな言葉をかけていただろうか。思い出そうとして黄瀬の頭の中からはすっぽりと消えていた。
 きっと何も言えずにただ見ていただけかもしれない。
 青峰の言っていることは尤もだと思ったからだ。練習の必要がないぐらいに強いなら別にいいじゃないかとそんな気持ちは高校になった黄瀬にもあった。黒子に負けてそんな性根も叩き直されてしまったけれど基本は同類だったのだ。
 黒子の言葉、黒子の気持ち。そういったものを拾い集めて理解しようとして、でもやっぱり違う人間同士だから分からなくって、手探りでゆっくりと黄瀬は黒子に触れて行った。
 告白の仕方としてはあまり良いものではなかったかもしれない。情けなさは自覚済みだった。それでも自分の精一杯の真心だった。真剣に想いを伝えれば黒子も真面目に考えてくれる。それは分かっていた。努力して頑張っている人間に好感を持つように誠実な態度というのは黒子にとって間違いなくプラスだ。
 けれど、冬を前にした告白はあざとかったかもしれない。
 夏の痛みを引きずっていたのをどこかでお互いに感じていた。だからこそ言わずにはいられなかったのかもしれない。

 残暑のキツイある日のこと。

「黒子っち、結婚してください」
「無理です。黄瀬君は日本の法律を知らないんですか?」
「外国籍とろうよ」
「十八歳未満は結婚できません」
「あ、そっち? 十八になったら結婚してくれる?」
「海外に行きたいんですか?」
「違うっスよ。黒子っちと結婚したいんスよぉ」
「日本だと一般的なのは養子縁組ですよ」
「黒子っちがオレの息子に……?」
「いえ、弟ですね。ボクが黄瀬君のご両親の子供になるんじゃなかったですか? 年齢にもよるんでしょうか? 詳しくは知りません。自分で調べてください」
「え、え、ぇ、養子縁組ならいいんスか?」
「まあ、無理だと思います」
「なんでっスか!!」
「黄瀬君、ご両親になんて言うつもりですか」
「好きな子と一緒に居たいって言って反対する親なんていないっスよ。親は子供の幸せを願うもんだよ!?」
「甘やかされていますね」
「あ、黒子っちの親御さんって厳しいっスか?」
「普通です」
「ヘンケンそういうのムズカシイ?」
「黄瀬君、片言になってます」
「でもでも、なんとかするっスよ!」
「そうですか」
 難しい顔をしながらも黒子が無理だと口にしても嫌だと言わないことに気付いて黄瀬は黒子の手を握りしめる。
「恋人になるのは良いんスね? 結婚、じゃなくって、えっと、養子縁組を前提に!」
「……ボクは構いませんが黄瀬君の人生にはだいぶ支障が来たしそうですが構わないんですか?」
 逆に尋ね返されてしまった。
「良いに決まってるっスよ。黒子っちと一緒にいられるのがオレの一番の幸せなんだからさ。誰にも邪魔させねえっスよ」
「そうですか。……先に言っておきますが――」
 それから黒子が視線を下に反らして小さな声で言ったことの意味が黄瀬には未だによく分からない。聞き間違えかと思って黄瀬は聞き返した。それは同じ言葉だった。黄瀬の中で意味が通らない。黒子は苦笑しながらあの時、繰り返したのだ。
『――ボクは多分、愛が重いタイプですよ』
 小さく、本当に小さな声で黒子は「黄瀬君が嫌いな」と付け足してきたが黄瀬はあり得ないと笑い飛ばした。それは黒子の愛情を笑ったのではない。黄瀬が黒子を嫌いになることなどあり得ないとそんな当たり前の話だ。重いと感じるほどに黒子が愛してくれるなら、それはきっと黄瀬にはご褒美なぐらいに嬉しいことだ。好きな人に愛されることが嫌なはずがない。黒子からの愛を軽んじることなどあり得ないが重いと思うシチュエーションが想像できない。
 それは暑い日々を引きずっていたあの日から変わらない。
『黒子っちの愛情がないと生きていけないぐらいがオレにはちょうどいいっスよ』
 笑ってそう答えた気持ちに嘘はない。
 黒子が居ない日々など黄瀬には考えれないのだから。






 付き合っているのだからそういう空気に当然なる。
「黄瀬君」
 小さく呟く黒子の声が耳に心地よく響く。
 二人してシャワーを浴びて夕飯も食べ終わって親も居ない。
 絶好の、これ以上考えられないほどのシチュエーション。
「黒子っち」
 名前を呼びあうだけで幸福感で胸は満たされる。
 そんなにがっつかなくても良い気がしたが黒子の乾ききっていない髪の毛が堪らなく艶っぽく見える。触れて口付けて自分のモノだと実感したい。欲望はとめようがなかった。
 今日は幸運が続いた。
 明日には黄瀬は死ぬのかもしれない。流石にそんなことはないと信じたかったが思い出せば不安になるほど調子よく進み過ぎた。たまたま雨が降っていて、たまたま傘を忘れた黒子と出会って、たまたま黄瀬の両親は揃って家を空けていた。この偶然を逃す手などあるのだろうか。
 雨が降っていたのは偶然だったが、黒子にあったのは偶然ではない。今日の予報は突然の雨に注意。黒子がいつも練習している公園のコートに屋根はない。
 濡れたりしていないかと心配になって見に行ったのは偶然などと言えるのだろうか。
 降り出した雨に鞄とボールを持って黒子は立ち尽くしていた。もし雨宿りをするために黒子が木の下にでも避難していたら黄瀬は気付かなかったかもしれない。
 何をしているのかと聞けばすぐに帰ろうか空模様を見て練習を続けようか悩んでいると言い出されて困った。どう見ても練習など出来る気候ではない。無理をして倒れたらどうするのだろう。黒子の考えていたポイントは黄瀬には予想外過ぎた。雷が落ちたら木の傍では危ないので雨宿りは出来ない。
 それならいっそ雨の中で練習を続けた方がいいのではないのかと斜め上の展開になってしまったらしい。
 触れた手はまだ冷え切ってはいなかったが十分に冷たかったので黄瀬はそのまま黒子を自分の家までタクシーで連れて行ってしまった。よく考えれば黒子の家の方が近かったのだが瞬間的に頭がカッとなっていた。
 誰も黒子を見ておらず黒子自身も自分を大切にしていないような姿に思わず苛立ったのだ。黄瀬の持っていた折り畳み傘では二人で傘に入ったら濡れてしまう。そう思った時、すぐにでも家に帰って熱いシャワーでも浴びて欲しくなった。
 無理やりすぎて呆れられても仕方がない黄瀬の行動だったが意外にも黒子には受け入れられた。肩は落としていたが嫌がることはなく「ありがとうございます」と言われたのだ。
 家について「一緒に」と風呂に誘われすらしたのだから怒っているはずがない。
 もちろん黒子の風呂への申し出に一も二もなく頷きたかったが、ダメだ。黄瀬は色々と自分の至らなさを深く悔やむ。
 濡れてしまった制服を乾かしたいと口にする黒子に邪な思いしか懐けなかった。雨に濡れて透けた白いシャツが黒子の肌に貼りついている姿は艶めかしくて劣情を刺激する。黒子を抱いた日の記憶は黄瀬の中で今でも鮮やかで身体はすぐに反応してしまう。黒子にやましい気持ちなどないのに黒子の白いうなじや喉元に反応せずにはいられない。
 好きだという気持ちが溢れだして、理性はガリガリと着実に削り取られる。元来、自分に正直に生きているタイプだったので気持ちをセーブするのは苦手だった。だからと言って家に入った瞬間に口付けて押し倒したら確実に嫌われる。そのぐらい分かる。
 黄瀬の反応に黒子は引くかもしれないし、怯えるかもしれない。そう思うと魅力的過ぎる誘いが地獄への招待状に感じてしまう。黒子のことなので案外「そういうこともあるでしょう」と勃起したことなど全く気にせずに受け流して一緒にシャワーを浴びてくれるかもしれないがそれはそれで淋しい。
 結果として黄瀬は黒子からの誘いを断り黒子に先にシャワーを浴びてもらった。わざわざ黒子からの好感度をマイナスにする意味はない。上げるのは大変だが落ちるのは一瞬だ。黄瀬は経験的にそれを悟っていた。石橋は叩いて渡るぐらいがちょうどいいのだ。
 黒子がシャワーを浴びている間、黄瀬は簡単な料理を作ってみる。別に料理は好きでも嫌いでもなかったが、こんな時に宅配で食事を頼んだり何処かに食べに行くなどありえない。
 折角の密室が台無しである。
 良い雰囲気になったところで「お腹空いたのでコンビニに買い出しに行ってきます」なんてことになったらぶち壊しだ。
 そして風呂上りの黒子は想像以上に愛らしくて黄瀬の心臓を打ち抜き、黒子が居るにもかかわらず風呂場で一人、自分を慰めることになった。そんなことを知らない黒子が夕飯が美味しそうだと風呂上りの黄瀬に言ってくる姿にどうしようもなく罪悪感は刺激された。黒子を家に呼んだのは初めてではないのに黄瀬は全く慣れない。ドキドキとときめいているのを隠しながらの食事は味を分からなくさせた。
 抱く前段階としてのキスもまたぎこちなくて恥ずかしくなる。黒子以外の誰かならたとえ犬猫だったとしても表情を崩すことなくサラッと口付けできるはずだ。
 身長差のせいで上目遣いになる黒子に心の中で両親への感謝を送る。このアングルの素晴らしさと来たらない。
(オレが年下で黒子っちより背が低くても押し倒して見上げて貰ったりしたかな)
 少し開いた唇が誘っているようにしか見えなくて触れるだけのキスでは物足りなくなってくる。
「黒子っち、いい?」
 目元を赤く染めながら黒子は静かに頷いた。
 初めての時も黒子はそんな感じで不安そうではあるものの黄瀬を拒むことはしなかった。黒子のシャツに手を掛ける前に黄瀬はさり気なくベッド横のサイドテーブルを見る。
「黄瀬君? どうかしましたか?」
 固まってしまった黄瀬に対して黒子がたずねてくる。何でもないと言った方が良いのだが、取り繕えない切迫した事態に陥っていた。これ以上になく替えの利かないものがない。
 これほど自分を罵倒する日もない。黒子が来るならちゃんと一番初めにチェックするべきだった。気遣いの欠片もない。
 もうダメだと黄瀬は半泣きになる。おかしいことに気付いたのだろう黒子が頭を撫でてくれた。優しすぎて情けなさに埋まりたくなった。
「ないんスよ」
「何がですか?」
「コンドーム」
「はあ、そうですか」
「昨日全部使っちゃったんスよ」
「……そう、ですか」
 黒子が凍りついた表情をするので黄瀬は一瞬首を傾げて普通コンドームを使って何をするのか思い当り、慌てて「浮気とかじゃなくって」と叫ぶ。潔白だと言うのに誤解されては堪らない。黒子の表情は冷めたもので黄瀬の言葉を信じてくれているのかまでは読み取れない。
「オレ、オナニーはコンドーム着ける派なんスよ。本当に!」
 面倒なのもあって部屋で行う場合は性器にティッシュを巻きつけてするのが黄瀬の中での主流なのだが、黒子を抱いた以降はその時と同じシチュエーションにするのが黄瀬のやり方になっていた。つまりゴムをつけた状態で目の前に黒子が居ることを想定しての自慰。少し病みつきになったのは否めない。新品だった箱が今や空。ツッコミどころがありすぎる。
「財布とかに入れていないんですか」
「そうするといつの間にか穴開いちゃうらしいっスよ。意外に摩擦が多いっすから。って、なんで……黒子っち、そんな」
「いえ、格好いい男はそうしているんだって聞きました」
「誰にッ?! あ、格好いい! 黒子っちが褒めてくれた〜」
「はい、褒めますけど調子に乗らないで下さい」
「……で、言いにくいっスけど今から買って来ていいっスか?」
「ボクは男なので妊娠はしませんよ? 尿道炎とかを考えると黄瀬君側はちゃんとつけた方が良いかもしれませんけれど」
「オレの方は多分平気っスよ! 経験者に聞いた限りだと風とかで免疫力が低下してない限りは八割平気らしいよ。具合悪くてもナマの方が気持ちいいし、妊娠しないからっていつも通りにゴムつけまくりでヤッてあちゃーみたいな? あとは乱交しちゃうらしいから性病系は一気に広まるって近所の兄さんが言って――」
 黒子がジッと黄瀬を見ているので何か失言をしたのかと焦る。窺うように「黒子っち?」と呼びかければ黒子は「黄瀬君、セクハラ受けてるんですか?」とかなり真剣な顔で聞かれた。悩みがあるなら相談に乗ると優しく言ってくれる先生のような顔だ。この瞬間に浮かべるべき表情ではない。
「違うっスよ。何の知識もなしにヤッて黒子っちに嫌な思いさせたくないし。近所の兄さんは普通に優しいっスよ」
「黄瀬君がそこまで男女共にモテる人だとは知りませんでした。モデルとかってそういうものなんですか……そうですね」
 勝手に一人で頷いてしまう黒子に黄瀬は「違うっスよ」と言うものの確かに他の職種よりも男色は多いかもしれない。
 オカマやゲイは隠していても空気で分かる。
 そして、あまりそれが嫌がられない雰囲気があった。
 実力社会だからか、個人主義だからか、それはそれ、これはこれと割り切れるからだろうか。それとも一般社会にもそれなりの人数がいてカミングアウトしたりするタイプに業界人が多いのかもしれない。
「リスクも知らないで後から反省するのは格好悪いっスよ」
「意外に堅実ですね。耳年増ですか」
「黒子っちのためっスよ〜」
 最初から上手くいく方法なんてものはないかもしれない。
 けれど黄瀬は失敗したくなかった。黒子に絶対に嫌われたくないと持っていたのだ。だから、先人の知恵を拝借するために頭を下げて情報収集をしたりした。ネットの体験談ではないホンモノの言葉は重みがあったし、実際に見てコツのようなものは掴めた。黄瀬にとって模倣することが出来るのはなにもバスケの技だけではない。
「ありがとうございます? でも、今はまだ雨が降ってます」
「なきゃ出来ないっスよ。オレは今日は何もなしって訳には……気分的にちょっと無理っス」
 欲望を押さえて悶々とし続けるにも限界がある。
 だが、何より一番黒子から嫌われたり避けられたりしないことが前提だ。
「黄瀬君が平気ならボクは構いませんけれど……。ない方が普通は気持ちがいいんですよね?」
「ダメっすよ。体調によるらしいっスけどお腹痛くなるかもしれないっス。中に出さないようにしても暴発しちゃったりするかもしれないんでゴムなしでなんか出来ないっスよ」
「あぁ、場所が場所ですからね」
「デリケートっスよ」
 本来は排泄器官として出すためだけの場所。
 入れる場所ではないのだから優しく接するべきだ。
 黄瀬がコンビニに行っている間に黒子がエッチをする気がなくなってしまうのが一番怖い事ではあったがゴムなしで黒子を抱くような事は黄瀬には出来ない。黒子が平気だと許してくれているのに甘えてしまったら黄瀬はきっと歯止めが利かなくなってしまう。好き勝手振る舞って結局は損をすることになる。自分のことは自分が一番分かっている。
「黄瀬君、エッチするのやめませんか」
 そんなことを言われてしまうかもしれない。
「――え? 黒子っち?」
 実際に想像していた言葉を聞くと人の思考は停止する。
 結構、呆気なく。何も考えられなくなるものだ。
「今回というか今後、ずっと」
 頭をトンカチどころか拳銃で撃たれたような衝撃が襲う。
 これが現実というものだ。どれだけ対策を講じても無理なものは無理。黒子の気持ちひとつで終わる。
 撃たれたことなどないが死ぬだろう。拳銃だ。人を殺す武器だ。間違いなく死ぬ。もう死んだ。黄瀬は頭を抱えて自分の死を悼むことも出来ずにただ泣いた。青峰に負けた時より涙の量は多いかもしれない。もう立ち直れない。いっそ首でもくくればいいのだろうか。絶望的だ。
「黄瀬君、あの……泣かないで下さい」
 ティッシュを差し出されて黄瀬は思いっきり鼻をかむ。
「黄瀬君、すみません」
「黒子っちが謝る、こと……なんか、何もないっスよ」
 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら言っても説得力はないかもしれない。同情されるならそれはそれで良い。今の発言を全部取り消してくれればいい。冗談が苦手な黒子に難しいことを頼んでいるかもしれなかったが笑って嘘だと言って欲しい。
「黄瀬君……エッチなことするのは良いんですが」
 もし動物の耳でも尻尾でも黄瀬についていたのならピンッと立った後にそわそわと落ち着きなく揺れ動いたことだろう。
 思わずガッツポーズや勝利の雄たけびをしたくなるが前言を撤回されては困るのでグッと堪える。
「その……今後一切、挿入はしない方向でいきませんか?」
 思いもかけない提案に黄瀬は泣くのをやめて黒子を見つめる。居心地が悪いのか「嫌ですか?」と黄瀬の視線から逃げるような黒子はかわい過ぎたが問題はそこではない。
「なんでっスか!! なんで?」
 抱きつくな近づくなと言われたわけではないが徐々にそんな方向になっても困る。黄瀬は確実に立ち直れない。これを境に黒子との溝が広がってしまったりするのだと思えば自然と語調は厳しくなってしまう。
 本当は全面禁止にならずに良かったと思うべきなのだが黄瀬も黄瀬でいっぱいいっぱいだった。
「黒子っち、オレのこと嫌いっスか?」
 口に出すと本当のことになるようで胸が痛んで苦しくなってきた。止まっていた涙がぼろぼろ零れて来た。それを見て黒子が困ったような顔になる。黒子は基本的に優しいので誠心誠意ぶつかれば大抵のことには折れるか妥協してくれる。頑固ではあるが、それはものによるだろう。絶対に嫌で黄瀬との触れ合いを拒否したいのなら黒子の性格なら黄瀬が傷ついたとしても率直に告げてくるはずだ。そうはせずこんな言い方をしてくるのだから何か真意があるはずだ。黄瀬にはすぐに分からないものだとしても、何もないわけがない。
「別に黄瀬君のことを嫌いになったわけじゃありません。泣かないで下さい。入れる以外なら何でもしますよ」
「な、なんで、も? なんでも? なんでもって、なにを?」
「えっと……触ったり、舐めたり、蹴り上げたり?」
「黒子っち、最後おかしかったよ」
「そういうの黄瀬君好きなのかと思ったんですけど違います?」
「違うっスよ。そんな上級者プレイ、今までやったことないっス。あ、でも黒子っちが女王様な恰好してくれんならオレは」
 ボンテージを来た黒子に鞭で叩かれたりするのはいい。
 罵られたりするのすら黒子の声なら興奮してしまうかもしれない。想像してゾクゾクと背筋を駆け上がる快感を覚えた。
 黒子に不審に思われたが「女王様ってなんですか?」と問いかけられて悪いことをしている気分に身体中がざわざわと落ち着かなくなる。聞いて来るということはしてくれるということだろうか。いいのだろうか。やってくれるのか。
「チャイナとかナースとかそういうお約束もいいっスか?」
「女装ですか……。まあ、黄瀬君が問題ないならいいですよ」
「オレ? オレは関係ないんじゃないっスか?」
「ボクの女装を見せられて楽しいですか?」
「楽しいっス。死んでもいいっスよ」
「命を簡単に捨て過ぎですよ。それなら構いません」
「しゃ、写真とか撮ってもいいっスか? 動画とか」
 こんな機会は滅多にないどころか永遠に訪れたりはしない。
 記念に残しておきたい。網膜に焼きつけたとしてもそれ以上をしたいと思うのもまた仕方がないことだ。家宝にするしかない。引き延ばして額縁に飾ったり壁一面を黒子で彩ったりと夢は広がり続ける。
「いいですけど……似合わないことは分かり切っているんですから苦情は受け付けませんよ。あと、ボクだけじゃなくて黄瀬君も何かして下さい」
「オレの女装はそれこそ似合わないと思うんスけど……了解しました。で、黒子っちはオレに何を着て欲しいっスか?」
「以前バイトでチラシ配りをしたんですけれど――」
 黒子に携帯を見せられる。画面に映っているのはウサギとカメとトラ。どういう繋がりなのか不明だった。
「黒子っち、バイトとかするんだ。部活は?」
「これも部活動でした。一日だけです。ウサギがボクです」
「道理でかわいいわけっスね。ウサギの愛らしさに他が翳んでるっスよ。でも、チラシ配りとかよくやったね」
 どちらかといえばピンクで目立つはずのウサギの方が影が薄く滲んだように映っていた。黒子だと思えば怪奇現象のような状態も理解できて黄瀬は慈しめる。
「色々と大変でした。――それはいいです。黄瀬君はこれ、着てください。別にバイトはしなくていいですけれど、これ」
 黄瀬としては部活動でバイトというのが気になったが黒子は話す気がなさそうなので深くは聞かない。
「これで外歩くんスか? ちょっと恥ずかしいっスね」
「じゃあ、ボクも恥ずかしいこと聞きます。何がいいですか」
「…………じ、じゃあ……さ……オナニー見せてくれるとか」
 口にしてから幻滅されたりしただろうかと黄瀬は後悔した。
「いいですよ。分かりました。……これも撮影するんですか?」
 事もなげに言ってくる黒子に黄瀬は爆発しそうになる。どうやって言ったことを冗談にするか考えていたものだから黒子の反応は意外どころではない。
 本当の本当に本当なのだろうか。
 これが夢で全部が黄瀬自身の考えた妄想だとしても納得できる。黒子がこんなに優しいわけがない。
(黒子っちは優しいっスけど……でも)
 異常なことを頼んだというのに平然としている黒子。
 実は慣れているのだろうか。
 そんな嫌な考えが黄瀬の中で浮かぶが首を振る。
「黒子っち、嫌なことは嫌だってちゃんと言ってね」
「黄瀬君は見たいんですよね?」
「見たいっス! スゲー見たいっスよ。映像もらえたら家宝にするっスよ。神棚に飾らないと!」
「家宝にはしないで欲しいですけど……黄瀬君が見たいなら……その、見ててください」
 下半身に手を伸ばす黒子に黄瀬は止める。
「黒子っち、本当に、無理しないでいいっスからね」
「無理じゃありません! 黄瀬君こそ見たくないんじゃないですか。別に楽しくありませんよね」
「なに言ってるんスか。天国っスよ」
「口に出したことを訂正できなかっただけですよね。分かります。黄瀬君にとって別に見たくもないけどボクを驚かせたかったって、それだけですよね」
「違うっスよ! 本気っスよ!!」
 黄瀬はツンとなっている黒子に対して慌てて言った。
「じゃあ、証拠を見せてください」
 証拠ってなんだ。
 きっと口にした黒子も分かっていない。
 売り言葉に買い言葉。
「分かったっスよ」
 それなのに二人ともが何故か坂道を転がり落ちていく感覚を味わった。



 ビデオカメラを構えた黄瀬の前に黒子が服を着た状態で恥ずかしそうにベッドの上で座り込んでいた。照れ臭いのか枕を弄ったりしている。
「黒子っち、こっち向いて」
「む、向いてます」
 明らかに下を向いている黒子は耳まで赤くなっている。
 売り言葉に買い言葉のような問答の後、結論として実際にやることこそがお互いの言い分の証明だった。
 止めさせたい気持ちもあったが見てみたい気持ちも強い。
 同時に相反する二つの思いにせっつかれるようにして黄瀬はカメラを構えた。黒子が涙を滲ませながらジッと黄瀬の方を見る。思わずごめんなさいと土下座したくなったが「服はこのままですか?」と聞いてくるので黒子も黒子で引くことはないのだと悟った。とめたとしても火に油を注ぐだけで絶対に黒子はやめない。性格上いやだったらきっぱりと断る。この場合はやめることこそをきっぱりと断られそうだ。
「黄瀬……くん?」
「黒子っち、オナニーって全裸派?」
「…………ズボンとか下げる程度です」
「どんな風に?」
 黒子がズボンと一緒に下着を膝にかかる程度に下げた。露わになる性器は小ぶりながら存在を主張するように震える。
「黒子っち、勃ってる」
 指摘すれば隠すためか自分がいつもやっている通りなのか黒子は性器をぎゅっと握りしめた。そのまま黄瀬の目を気にしながらも黒子は上下に扱きだす。
 その様子全部を黄瀬はカメラに収めていた。
 これは現実なのかと改めて頭の中で問いかける。
 答えは音が、匂いが、空間が、教えてくれている。
 汗を流しながら薄く目を閉じるような黒子に黄瀬は近づいていく。上がった息が整わない。黒子と同じように黄瀬もまた興奮の度合いがおかしくなっている。
「きせくん」
 切ない声で呼ばれて反応しないわけにはいかない。
 構えていたカメラを置き去りにして黄瀬は黒子に触れる。
 ビクビクと身体を痙攣させるような黒子の後ろに回り込んで背中にも垂れるように告げる。
「黒子っち、あんまり自分で触らない?」
「機会がありません」
「機会があったのいつっスか」
「……中学のときに」
「それ以来ないんスか?」
「気分的に……その、ある時はありますけど……放って置けば気にならないから……」
「じゃあ、初心者なんだ」
 先程から感じる黒子の様子から想像すれば答えは一つ。
「やり方、よく分からないんスね?」
 黄瀬に対してやると言った手前、引けなくなったんだろう。
 黒子のそんな負けず嫌いなところに付け込むのは最悪かもしれないがこれほど興奮するシチュエーションもない。
「擦れば出ます!」
「そうっスけどただ擦るだけだと摩擦で痛いっスよ」
「そうなんですか?」
「オレが使ってたゴムとかローション入りでぬるぬるだから気持ちいいっスよ」
「…………だから、一人でも使うんですか」
「黒子っちさ……微妙に疑ってるよね?」
「大丈夫です。黄瀬君ならありそうなことだと思ってます」
「え、それ? 浮気が? え?」
「断れなくて一回だけとか……思い出作りとかですか? とっかえひっかえ後腐れなくですか? 刺されたりしないように気を付けてください」
「黒子っち、黒子っち、分かってないよ、黒子っち!!」
「冗談です。黄瀬君のこと……そっちの方面では信じてないだけです」
「冗談じゃないっスよ!! 冗談にならないっスよ。信じてよ」
「無理です」
「なんでっスか?」
「……黄瀬君、エッチな本持ってないからです」
 アダルトなDVDおよび雑誌類は残らず別の部屋に隔離している。そもそも黄瀬は必要ないのだが貰い物は増えていくし時々、海常のセンパイたちに渡したりもする。
「モテる人間は本は要らない。人間本体で憂さを晴らすからという話を聞いてボクはなるほどと思いました。黄瀬君そんな感じです。バスケにモデルやってて無駄に元気に誠凛にまで来る黄瀬君がどんな欲望の処理の仕方をしているのかと言えば……一夜限りの――」
「黒子っち」
 自信満々な黒子の額にキスをする。
 不思議そうな顔をする黒子に「大好きっスよ」と告げる。
「オカズは何かって聞かれた黒子っちしかいないんスけど。もうオカズどころか主食っスけど」
「何の話ですか」
「何でもないっス」
 下品なことを言ってしまったと黄瀬は反省する。
 自慰も殆どしていない黒子に下の話題を振っても仕方ない。
 だが、どこから仕入れたのか分からない半端な知識で疑ってかかられても困る。
「大好きっスよ」
 ぎゅっと後ろから抱きしめていたら黒子から頭突きされた。
 何故なのかさっぱり分からない。
「証明してください」
「はい? え? なにがっスか? 黒子っちを好きなことを?」
「――そうです! そうしましょう。先にイッた方が勝ちってことでお互いにするのはどうですか?」
「するって、オナニーを?」
「でも……黄瀬君の方がベテランですからちょっとハンデが欲しいです」
 展開についていけない。
「今回の一回だけでいいです。感覚を掴んだら次から一人で頑張りますから……今日は黄瀬君がボクのことを手伝ってください。そして、黄瀬君はボク以外触っちゃダメです」
 元々そのつもりだったのだが黒子の名案を思い付いたといった顔に黄瀬は何も言えないくなった。
「さすがに条件厳しかったですか?」
「オレは自分に一切触らなくて想像上の黒子っちだけでフィニッシュ余裕っスよ」
「どうしたらそんな事ができるんですか? 百戦錬磨ですか?」
 馬鹿にしているような感じだが黒子は純粋に黄瀬を見ていた。こんなことでそんな反応をしないで欲しい。
(今まで黒子っちとこんな話したことないな……)
 青峰とは下世話なそういう話にもなるが黒子のことは知りたくても知れない、聞きたいからこそ聞けないところだ。
「黒子っちはさ、エッチな気持ちになるのはどういう時?」
 黄瀬の方を見上げていた黒子が首まで赤くして俯いた。
 地雷を押したというよりも普通に照れている。
 密着しているので黒子の温度が上がっているのが分かる。
「ねえ、黒子っち、言って」
 ちょっと意地悪かもしれないが昔から知りたかったことだ。
「…………っ」
 黄瀬が黒子の下半身に手を伸ばせば首を左右に振られた。
「手伝って欲しいんじゃなかったんスか?」
 黒子の耳を軽く噛んでみる。そういうつもりじゃなかったと黒子自身は思っているかもしれないがさっきからずっと誘い文句しか言われていない。自覚のない小悪魔は困る。
「黒子っち、ねえ」
「……っ、…………いま、です」
 消え入りそうな小さな声は黄瀬には意味が伝わり難い。
「いま……が、エッチな気持ちになってます」
 黒子の下半身の状態を見ればその通りなのだが黄瀬が聞いていたのは「いつも」のことだ。黒子の内太腿を撫でながら少しだけ黄瀬は考える。
「……オレに触られるの気持ちいいっスか?」
「おかしいです。さっきはジンジンするぐらいだったのに今は熱くって……もう出ちゃいそう、です」
 顔を両手で隠す黒子に黄瀬は色々なものを堪えるのに必死だ。押し倒して抱いてしまいたいのだが黒子から挿入禁止令が出ているのでそれは出来ない。つまりは自分の手で悶えている黒子を見つめるだけしかしてはいけないという生殺し。
(黒子っちの羞恥プレイはご馳走っスけど、それだけで満足できるほど大人じぇねーよ)
 すこし許してもらったからわがままになっている。
 黒子を抱いていなかった時期の方が長いと言うのにいつの間にか黒子を抱かないでいることの方が難しい。
 何をしてもいいと破格の扱いを受けたのにもかかわらずやはり黄瀬は黒子を抱きたいと思った。
(どうして黒子っちがそんなことを言い出したのかとか……ちゃんと考えないとっスよね? 本当、なんでだろ)
 原因があり結果が生まれる。
 黒子がそう言った考えに至るまでの何かがあったのだろう。
 黄瀬の知らないところでか、黄瀬が分からないだけで目の前で起こっていたかはともかくとして。
「黒子っち、ちょっと我慢できるっスか?」
「は、い?」
 汗ばんだおでこに髪の毛がくっついているのが堪らなく愛らしかったが「待って……耐えてて」と黄瀬は言葉を重ねる。
「先にイッた方が勝ちですよ」
「……そうっスけど、オレは今回は助手っスから勝ちは黒子っちに譲るっスよ。だから、オレの言うこと聞いて」
 何を言っているのか黄瀬自身よく分からなかったが黒子は考えた後、頷いた。身体が熱いせいで深く思考することが難しいのかもしれない。
「黒子っち、かわいい」
「かわいくないです」
 プンっと横を向くものの黄瀬の手を嫌がることなく受け入れて身悶える黒子はかわいすぎて何と言えばいいのか分からなくなる。
「黒子っち、あのね……すぐにイッちゃうより溜めてた方が気持ちいいんだよ。だから、待ってね」
「……ぁ、……っ、……いつ、まで……ですか?」
 素直に待ってくれるらしい黒子に黄瀬は背筋がざわついた。
 途切れ途切れに弾む息。力を完全に抜いて黄瀬に身を任せている黒子の姿に頭の芯が痺れる。
「黒子っち……かわいいっス」
 黒子を自分の膝の上に乗せて身体を丸めてキスをする。
 体勢的に辛いものがあったが痛みも気にならない。
 長く続けば足が痺れるかもしれないが雰囲気を壊したくなかった。いっぱいいっぱいな状態になっている黒子などそう見れるものではない。
(やっぱ……オレ、無理させてたんスかね?)
 黒子の舌先を吸い出しながら黄瀬は冷静に振り返る。
 慣れていないだろう黒子を怖がらせないために黄瀬はだいぶ頑張った。細心の注意を払って黒子の快楽だけを追求させたがそれは逆に体力を削ることになったかもしれない。
 息も絶え絶えな状態の黒子は本当に愛らしくて歯止めなど掛けられないと思っていたが黄瀬も黒子に触れることに緊張していた。結果として二人の初めては三時間ほどかかった。
 しつこく感じるほどに長ったらしい愛撫で丹念に慣らして痛みなど覚えないように快楽だけしかない繋がり。そんな理想的な初めてをやりとげたがそれはそれで黒子には不満だったのなら解消するのは難しい。
(時間がかかってもアレがベストっスよ)
 女性と違ってすぐに濡れて入れられるわけではない。
 それを面倒だとは思わない。ただ大変だとは思う。
(黒子っちと約束したから抑えるっスよ)
 黒子とキスをしながら黄瀬は眉間に皺が寄った。
「……ッ!! ったぁ」
 黒子に頭突きをされて舌を噛んでしまった。
 睨みつけられて気がそぞろだったのを責められている気がした。全面的に悪いのは黄瀬だったが黒子のことを考えていたのだと言い訳が口を突いて出る。不審げな顔を見ると絶対に信じていない。たぶん、コンドームの件も黒子に不信感を懐かせているままなのだ。
(なんもしてねえのに浮気男扱いっスか!)
 嫉妬されるのは嬉しいがこれは違う。
『――ボクは多分、愛が重いタイプですよ』
 別に黒子の愛は重くない。けれど、黒子はきっと気にするのだろう。気にして最終的に別れ話などに発展してしまう。
 そんな気がする。
「やっぱり、ボクだけっていうのは不公平ですから」
 黒子が黄瀬の下半身に手を伸ばす。
 ズボンの中に手を入れられた時点でもうダメだった。黒子の指先が少し黄瀬の性器に触れただけで達した。黒子には耐えるように言っておきながら呆気ない。
「…………あ、黄瀬君の勝ち、ですね」
 ズボンから出した黒子の手は黄瀬の精液で汚れていた。
 気まずい沈黙の中で黒子はその汚れた手を握っては開ける。
 白い糸のような粘つきを見せる精液に気まずさはどんどん増していった。
 何を思ったのか黒子は汚れた手を顔に近づけて、そして舐めた。薄く小さな舌がゆっくりと黄瀬の精液 に触れる。
「何をしてるんスか!」
「ちょっとボクのと違うような気がしたので……試しに」
「だ、ダメっスよ」
「そうなんですか?」
「黒子っち、エロ過ぎっスよ!!」
「いいんじゃないですか? エッチなことしてるんですから」
「オレの心臓が持たないっス」
「そんなドキドキしてますか?」
 黒子が黄瀬の胸に耳を当ててくる。
「スゴイです」
 嬉しそうに笑いながら黒子は再度黄瀬のズボンの中に手を入れた。


続きは本編で。
両思い黄黒。
もちろんずっとラブラブえろえろです。


発行:2012/10/21
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