黄瀬君はずるくてやらしいと同じ設定です。
ただ二人がバカップルして周囲の人々に呆れられてる話です。

第184Qの海常対誠凛を読んでると黄黒的にちょっとタイムリーなネタだったかな〜と思ったりします。(ネタバレということではなく。……というか、本誌読む前に書きましたから)
黒子は黄瀬に張り合ってるよ〜って話です。
「自分だけが好きだって思わないで下さい」(意訳)



ヤンデレに対抗してヤンデレになった黒子っちの話
サンプル



 黒子は届いたメールをどんどんゴミ箱に移動していく。
 黄瀬はメールをしてこないという事がない。
 常にしてくる。何通も何通も。さすがに苛立ったので黒子は返信を押して黄瀬が書いた文面が残った状態で送信した。
 自分は一文字も書かずに。
 自分の言葉を読み返せ、鏡を見てみろという気持ちだったのだがすぐに届いた新しいメールは「電話していい?」の一言。黒子が許可する前にすでに電話は掛かってきた。
 メールの意味がない。嫌がらせなのかもしれない。
「もしもし、切りますよ」
『それはないっスよ、黒子っち!』
「お昼休みじゃないんですからそんなに時間はありません」
 移動教室の最中だったらどうするんだと机から次の授業の教科書とノートを取り出す。きっと次の授業に集中できない。
「なんですか」
『黒子っちからメールが着て嬉しかったから何か言いたいことがあったのかなって……直接聞こうと思ったんスよ』
 それこそメールでするべき話ではないのだろうか。
 黄瀬の反応として「本文書き忘れっスか?」なんてことを言ってくるかと思ってた。
「別に言うことはありません」
 だから、何も書かなかったのだと伝えているつもりだったが黄瀬の感覚は黒子と大分違っていた。
『そっか、でもまあ元気な声聞けて良かった。ねえ、黒子っち、会いに行っちゃダメっスか?』
 甘ったるい声はどんな顔で口にしているのだろう。
 想像はできるが、だからこそ黒子には不満があった。
「黄瀬君、暇なんですか?」
『ちゃんと練習終わってから行くよ。あ、今すぐがよか』
「先生が来ました。授業始まっちゃいますので切ります」
 黄瀬が何か言う前に黒子は会話を終える。
 この関係はなんと名前がつくのだろうか。
 普通に考えて恋人同士に決まっている。
 黄瀬の告白にOKの返事を黒子は出した。
 その時点で二人の関係は恋人以外にないはずだ。
 黒子の中でしっくりと来ない。微妙に歪で落ち着かない。
「なんですか?」
「いや、……大変だな?」
 顔だけを少し横に向けて黒子を見てくる火神の真意はどんなところにあるのだろうか。大変だと断定ではなく疑問形になっている言葉に対して黒子は何も言えなかった。
「黄瀬君は何なんでしょうね」
 黒子と黄瀬との関係の一部始終を見ている火神でも分からないのだろう「オレに聞くな」と言われてしまって、もうお手上げだ。別に黄瀬のことを恋愛感情という意味において嫌いのカテゴリーに入れたりはしない。そんな相手と付き合おうとは思わない。そのぐらいの良識はある。
「ボクは結構ひどいことをしていると思います」
 その自覚はあった。
「あ? 気を持たせててってヤツか。黄瀬が別れる気がないから仕方ねえんじゃねえの」
 恋愛事など分かる訳がないので火神はこの話題に対して消極的だ。同性同士の恋愛に深くツッコミを入れるのも嫌なのかもしれない。興味本位に騒ぎ立てられても黒子としては困るのでこのぐらいの距離感が楽でいい。そういう気持ちを汲み取ってくれているのだろう。火神の前向きな優しさは黒子の心を軽くする。
「黄瀬君は後で思い返して色々と後悔すると思います」
「後から思わないのは後悔じゃねえからな」
「火神君、日本語が使えるようになったんですね」
 独り言に近いものだったので返事をされて黒子は驚いた。
「人を馬鹿にすんのも大概にしとけ」
「悔いは残さないことが一番じゃないですか?」
「言いたいこと言うってか? 言ってるのか、お前らって」
 そう聞かれると分からなくなってしまう。
 授業の開始のチャイムが鳴った。数学の担当の教師が扉を開いて入ってくる。前の受け持ちの教室が遠いらしくいつも水曜日の数学は教師はギリギリまで教室には来ない。
 黒子がしていた電話の内容を盗み聞いたつもりがなくても火神の耳には届いて不審がらせたかもしれない。別に黄瀬との電話を早く切りたくて嘘を吐いたわけではない。ただこれ以上会話を続けていれば言わなくていいことを言ってしまう気がした。聞かなくてもいいことを聞いてしまう気がした。そんな危機感から黒子は逃げたのだ。
 分かってしまえばきっと、酷く単純な話。
 黒子は黄瀬からの電話が嫌いだった。メールも嫌だった。正面切って伝えても黄瀬の対応は変わらない。そんな所も嫌だった。謝って下手に出ているようでいて三歩、歩けば忘れるようにメールも電話も収まらない。
「火神君にはどう見えますか?」
「仲良いと思うけどな。嫌ならそれこそ別れればいいだろ」
「そうですね。そうなんですけど……」
 後ろを向いていた火神が教師に注意されて会話は途切れることになった。何を黒子は言おうとしたのか、ふと考えて鞄に手を入れて携帯電話の電源を落とす。絶対にダメだと黒子が言ったので黄瀬が授業中にメールや電話をして来ないことは分かっている。それなのに黒子はわざわざ電源を切った。
 その自分の心の動きを把握していても認めるのは難しい。
 分かっているからこそ飲み下せないしこりのようなものがある。単純に言ってしまえば悔しさだ。
 こんな気持ちになってしまうのが、黄瀬にこんな気持ちにさせられるのが悔しくて堪らないのだ。好きなら、恋人なら、それならもっと対等な気持ちと立ち位置でいたい。
 甘ったるい顔で黄瀬に気を遣われるのは罪悪感のような薄暗い気持ちと嬉しいくすぐったさと悔しさから苛立つ気持ちがあった。胸の中で渦巻くものの伝え方を黒子は知らなかった。いま授業でやっているような数学みたいに方程式を当てはめて答えが出るのならそんなに楽なことはない。いや、全然、楽にはならないのだ。胸は苦しくなるばかり。
 黄瀬の態度の一つ一つが鼻につく。嫌っているわけじゃないと思っていたが、やっぱり嫌いなのだろうか。
 嫌いというには黄瀬のことを嫌えない。
 あんなに真っ直ぐに好意を向けられて邪険に出来るほど黒子は愛情に鈍感ではない。恋人としての付き合いが惰性のようなものだと思う原因がこの辺り。惰性ならいっそ取っ払ってしまった方が良い。新しい二人になった方がまだ実りがある。それは一種の逃避であり実際の所、黒子と黄瀬は別れていない。黄瀬は別れたくないと言うし黒子も黄瀬がそう言うなら仕方がないと話しは先延ばしにしていた。
(――メール嫌です)
 黒子は心の中で黄瀬に訴えた。
 けれど、実際に黄瀬が何の連絡も寄こさなかったら気になってしまうのではないだろうか。それは黄瀬の術中にハマってしまっている。引っかかっている。騙されている。そんなつもりが黄瀬にはなくても黒子が勝手に翻弄されてずるいと苦情を言いたくなるのだ。
 黒子に触れるその程度のことで黄瀬が幸せそうな顔をするのが何だかとても辛かった。
 その答えは数カ月先にやっと黒子の中で紐解けた。
 黒子は黄瀬のことが嫌いだったのだ。
 嫌いじゃないと、そんなことを理由に黄瀬と付き合いだしたと思っていた。惰性だったと思っていた。
 違ったのだ。黒子は黄瀬が嫌いだった。何もかもを持っているような嫌味な男に腹を立てていた。スゴイのは認めている。分かっている。愛されているのも大切にされているのだって黒子は実感していた。それが酷く気持ち悪く感じて嫌だった。黄瀬のことを嫌いじゃないと思おうとして無理だった。
 嫌いだった。嫌だった。
 黒子に対して急に他人行儀に口を閉ざしたりする黄瀬のことが嫌だった。気付いた時には両親の二人ともが黄瀬との交際を認めているのが嫌だった。黄瀬の両親も二人の交際に対して好意的だという。どんな魔法を使ったのか知らないが黄瀬なら不思議ではない。頭を使うボードゲーム以外なら大抵のことはルールを知らなくても黄瀬には問題にならない。
 それは人付き合いの上でもプラスだろう。
 処世術に長けているのか必要な人間に対しての第一印象は多分いい。黒子に対して喧嘩を売っているようなところがあったのは間違いなく「どうでもいい」と思っていたからだ。あるいはよく分からないものを蹴落としたい。一軍という位置にいるのが納得がいかないから正しい場所に戻したい。そんなことを思ったのだろう。黄瀬にではなく言われたことがある。どうして黒子がキセキの世代の五人と仲良く話など出来るのか、と。どんな意味を含んだ質問かはよく分かる。
 どうしてお前がそこにいるのだと、そんな疑問はずっとぶつけられ続けていたのだ。今更それで傷ついたりしない。
 だが黄瀬は過剰反応したりする。黒子の凄さを語りたがる。
 それは嬉しくもあり苦しくもあり色々とツッコミ所も多かった。自分だって黒子のことをあまり好きではなかった癖になんなのだろうか。今の黄瀬の気持ちを否定するわけではないが以前の黄瀬が偽者だったわけではない。黒子に対して行った挑発などを忘れたとは言わせない。意外にも黒子は根に持つタイプだった。中学の時は黄瀬の対応の変化に喜ぶよりは理解できない気持ちが大きかった。
 黄瀬が何を考えているのか分からなかったからだ。気持ちが悪かった。同性だとか愛情を向けられることへの拒否感などの、そういった気持ちの悪さではない。理解できない黄瀬に対して疑心暗鬼になっていたのだ。
 尊敬していると口にしながらどうして黄瀬は黒子のことを見くびったりするのだろうか。頼ってくれても構わない。そんなに簡単に壊れたりなどしない。そんな黒子は弱くない。
 二人の関係も砂上の楼閣のような儚いものではないのだ。
「黄瀬君にはもっと、ちょっと、ちゃんと、思い知ってもらわないといけませんね」
 黄瀬の携帯電話をゴミ箱に入れながら黒子は笑った。


発行:2012/10/07
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