7/15無配
※ジャンプ本誌ネタバレ気味の小ネタです。単行本派の方はご注意ください。


まさか!!


 福田総合と海常の試合が終わった日の夕飯の席。
 赤司の呼び出しにキセキの世代の四人と黒子とその連れそいで火神は来ていた。
「テツ、お守りつきか」
「赤司が今度はナイフを振り回すのだよ」
「火神君は空気椅子とかしてたら赤司君も爆笑しながら気に行ったりすると思います」
「なんで空気椅子しないといけねえんだよ!」
「爆笑する赤司っちが怖いっスよ」
 和洋折衷取り揃えたオーダーバイキングの個室で赤司以外が集まっていた。
「ってか、また遅刻っスか」
「赤司も忙しいんじゃねえの。まだ試合あるしな」
「オレだって黒子だって試合はあるのだよ」
「緑間っち、オレもっスよ!! どうしてオレを入れなかったんっスか! オレの祝勝会じゃないっスか?!」
「え? 黄瀬君、灰崎君に負けたじゃないですか」
「まさかッ!!」
「勝ったつもりだったのか? やれやれ」
 青峰に溜め息を吐かれて黄瀬は頭を抱える。
「いや、いやいやいや!」
「情けなく跪いていたのだよ」
「それ途中じゃないっスか! しかも緑間っちも見てたんスか? ヒロインの声援で立ち上がったオレはヒーローじゃん。ね、黒子っち?」
「黄瀬君が何を言っているのか分かりません」
 黒子は首を傾げて一人で先に食べ続ける紫原におしぼりを渡す。気まずげにおしぼりを貰った紫原が顔と手を拭く。
 元々が騒がしいタイプではなかったがいつも以上に紫原は無口だ。
「お前らの間ではこのやりとりは普通なのか?」
 黒子っち、黒子っちとオロオロしている黄瀬を無視して注文をしていく黒子と緑間。火神の疑問に答えてくれたのは青峰だった。
「あ? どのやりとりだ。食事か? 赤司持ちだ。ハサミの慰謝料代わりに食えば?」
「……そーなんか。いや、黄瀬のことだ」
 支払いが赤司に行くことも火神には微妙な気分だ。
「テツは大声出したことを照れてんじゃねえの」
「そうなのか?」
「緑間は単純に気が立ってんだろ。次の試合があるからな」
 赤司との試合があるというのにその赤司主催の食事会は確かに微妙なものだと火神は納得した。
「火神が目の前で食べていると食欲が失せるのだよ」
「そうですね。火神君は床で食べてください」
「最低だよ、お前ら」
「良いじゃないっスか。オレは一軍になったすぐの時は黒子っちの椅子をやってたりしたっスよ」
「ちょっと待て、そりゃあイジメだろ。何してんだよ」
「ありゃ、赤司が悪い」
「そうです。赤司君が悪かったんです」
「食べてる時も訓練しようってことで空気椅子で食事しようとしたらテツが食べ終わらなくなった」
「黒子よわっ」
「だからオレの膝の上に黒子っちが乗って」
「椅子って四つん這いとかじゃねえのか。いや、どっちにしても……空気椅子の上に黒子乗せるとか難易度たけえな」
「バスケは才能だけでやっていけるものじゃないのだよ」
「黒子っちのへの情熱がないとやってらんないっス!」
 どこから突っ込めばいいのか分からなくなって火神はとりあえず椅子から降りて中腰、空気椅子をする。
「結構しんどいぞ」
 ぷるぷると震える火神。
「あの時、食事中は食事に集中して、練習の時に身体を動かすべきだと赤司はすぐに訂正したのだよ」
「あ? そうだったか」
「青峰っちが『楽しそうだからやろうぜ』って」
「主謀者は犯行を忘れるものなのだよ」
「赤ちんは悪くないよ」
「赤司君がボクの皿にミートボール定食のミートボールを追加してきたのを今でも忘れていません」
「そこは忘れろよ! ってか、黒子はなんで根に持ってんの? 感謝してもいいところだろ」
 火神の叫びに緑間が思い出したように言う。
「あぁ、青峰が半分近く食べたから赤司がもう一食追加したのだよ。帝光は食べ終わるまで教室に帰れないのだよ」
「赤ちんは優しい」
「全部、青峰が悪いんじゃねえかよ」
「ちげーよ。なあ、テツ?」
「お腹が空いている人の元に行くのがミートボールの幸せです。ボクは半分ぐらいでいっぱいいっぱい」
「そうだったんスか。オレはてっきり黒子っちはミートボール自体が嫌いなのかと思ってた」
「ミートボールなら黄瀬も食ってたしな」
「後でバレて赤司君に怒られました。黄瀬君はまったく」
「黒子はせこい手を使うのはやめるのだよ。人に押しつけるのではなくちゃんと食べるのだよ」
 火神には赤司の人物像が分からなくなった。
 キセキの世代のキャプテンであり急にハサミで威嚇してきた人間。常識人なのか優しいのか頭がおかしいのか。
 緑間に責められて黒子は拗ねたような顔をする。
「料理の大体は火神くんなんですから早く食べてください」
「お、おぅ。悪い」
 自分が本当にここに居ていいのかと思いながら火神はステーキを食べる。紫原の箸使いが帰国子女の自分よりも下手なことに疑問に思ったがツッコミを入れたら負けだと触れないでおく。食べていると緑間の視線が痛い。やはり床で食べろと言いたいのだろうか。
「ミートボールと言えば灰崎君です」
「テツはよく取られてたな」
「灰崎君はスゴイ人です。お腹空いてないのに食べたいなんて言って人のモノを取っていきます」
「やな奴っス。黒子っちのご飯を奪うなんて!」
「黄瀬は青峰を敵に回したのだよ」
「黄瀬ちん、人にケンカ売るの好きだよね〜」
「ちょ、ちょっと、オレ? オレが悪いんスか? 青峰っちも黒子っちのご飯とるのはダメじゃないっスか?!」
 声がひっくり返っている黄瀬。
「そんなんだから灰崎に負けるんだろ」
「負けてねえー!! みんなして酷いっスよ」
「試合に勝って勝負に負けたのだよ」
 緑間の言葉にイタリアンオムレツを切り分けていた黄瀬の手が止まる。
「え、勝負に……え?」
「特に報告することでもありませんが灰崎君と付き合うことになりました」
「は? はぁぁ? なんで……ありえねぇ!」
「おぅ、テツおめでと」
「黒ちんお幸せに〜」
「せえぜえ頑張るのだよ」
 ぱちぱちと拍手が上がる。
「ありがとうございます」
「あぐぃぃだぞッ!!」
 食事を喉に詰まらせる火神。
 黒子は背中を撫でてやった。
「火神君は驚くかと思って伏せていました」
「オレの方が驚いたっスよ。嘘でしょ?」
「まさか」
「嘘だって言って! ねぇ、黒子っち! 黒子っち!!」
 泣きながら黄瀬は黒子に縋りつく。
「赤司君、黄瀬君が泣いたのでいいですか?」
 黒子は入口に顔を向ける。
「あれ、赤ちんもう来てた?」
「来ていたのなら早く座ればいいのだよ。火神と青峰の間に椅子があるのだよ」
「入りずらいなら椅子は黄瀬君とボクの間に置いていいですから立ってないで来てください」
 入り口で立っている赤司を黒子は手招いた。
 驚きながらも招待されている側だからか火神は空気椅子のまま黒子に椅子を渡す。
「なんでオレと黒子っちの間に入るんスか!」
「赤ちんが黒ちんの隣がいいから〜?」
「火神っちの隣でいいじゃないっスか」
「うるさいのだよ、黄瀬」
 赤司は溜め息を吐きながら座る。
「待っていろとは言わなかったが始めすぎだ」
「赤司君、何食べますか? 湯豆腐ありますよ」
「だからここにしたのだろ。すでに頼んでいるのだよ」
「真太郎、一つぐらい食べてもいいよ」
「赤ちん嬉しそう」
 一人「からかわれてるんスか?」と泣き崩れながら悩んでいる黄瀬を見ながら火神は青峰に問いかける。
「どういうことだ?」
「あぁ? オレたちが話してたから赤司が入り難かったんだろ。この前も部外者がいて反応に困ってたじゃねえか。そーゆー奴だ」
「アイツは反応に困ったらハサミで攻撃すんのかよ」
「やってみたかったんだろ」
 そんな軽く済まされていいのか。
「前髪切ってたのもか?」
「切りたかったんだろ」
 ハサミで切りかかられた時に黒子以外が特に反応しなかったところを見ると赤司の行動として有り触れているのかもしれない。
「当てない前提でもオレのラッキーアイテムを凶器にしたのは許しがたいのだよ」
「真太郎は少しケチだよね」
「緑間君は自分で頼んだものを人の分け与えるの嫌がりますよね。青峰君がからあげを食べたら怒ってました」
「食べるのなら最初から人数分頼めばいいのだよ。要らないと言っておいて人のものを取るのは許せないのだよ」
「見てたら食いたくなったんだって」
「どっかの人と一緒じゃないっスか!」
 黄瀬の絶叫を無視して黒子は赤司に問いかける。
「それで赤司君、みんなを集めたのはどんな理由ですか?」
「今回のWCの優勝校の人間にテツヤを渡す」
「渡すってなんだ、それ。物扱いか!」
 口を挟んだ後に火神は箸でも突き立てられるか身構えたが特に何もなかった。
「分かりました」
「って、黒子! お前」
「火神君は誠凛が負けると思ってるんですか?」
「いや、……けどよ」
「そういうことなのだよ。赤司に文句があるなら勝てばいい」
「僕が勝ってテツヤは京都で一緒に暮らすんだけどね」
「させねえっス! 黒子っち、さっきのは冗談っスよね?」
「灰崎君と実際に何かして来てもいいですよ」
「そんなの望んでないっスよ!!」
 涙を拭く黄瀬に赤司は「涼太は変わらないな」と少し憐みの視線を向ける。
「いつも今一歩で届かない」
「このタイミングでそういう予言は冗談にならなーよ」
 赤司を睨みつける黄瀬。
「いいじゃねえか、オレと紫原はこの会話に参加すんの無意味なんだぞ。飯食ってるだけだ」
「どうせ赤ちんが勝つからいいけど〜」
 食べ続けていた紫原が手を止める。
 デザートを全制覇し終えたらしい。満足そうだ。
「テツは緑間と赤司、どっちが勝つと思う?」
「隕石が降ってきて地球の支配権を掛けてバスケすることになるんじゃないですか?」
「WCの勝敗無視っスか!」
「さすがにそれはないのだよ」
「それは面白いね。ゴールが壊れたせいで誰かが挟まれて大怪我したりとかあってもいいね」
「よくねー」
 火神のツッコミを総スルーする周囲。
「ゴールと言えば、敦はよく頑張ったね」
「赤ちんに褒められちゃった」
「良かったですね」
 嬉しそうな紫原に黒子も微笑む。
「準決勝前になんでこんなにほのぼのしてんだ」
「ずっとピリピリしてても仕方ねぇだろ」
「そういえば灰崎はどうした? 大輝」
「あー、あ……忘れてた。凍死すっかも?」
「青峰っち、何したんスか!」
「ちょっと沈めた。パンチ一発」
「お前、暴力沙汰はまずいだろ」
 常識的なことを言う火神に赤司も頷く。
「桐皇に迷惑がかかることをするのはよくないね」
「あんたが言うなよ」
 ボソッと口にする火神に黒子は「最悪、誠凛が負けた時は火神君が赤司君を訴えれば勝てます」と親指を立てる。
「待つのだよ。それはオレとの戦いで赤司が勝つと言うことなのだよ。聞き逃せないぞ、黒子」
「この帰り道に赤司っちが交通事故にあったりする可能性だってなくはないっスよ」
「涼太は僕に怪我して欲しいのかい?」
「そういう訳じゃないっス……よ」
「目が泳いでいるのだよ」
「黄瀬ちん最低〜」
「バスケットマンがバスケ以外のことで勝負がついて楽しいのかよ?」
「交通事故なんかはむしろ黒子の方が起こりそうなのだよ」
「よく幽霊扱いされて轢かれそうになります」
「黒子、大丈夫なのかよ!」
「運転手が人影を把握していると思って信号を渡ろうとしたら急に速度を上げて轢きに来てビックリします」
「迷惑な話だね。テツヤのことだから轢いても轢いた感触があまりなさそうで尚更幽霊扱いされそうだ」
「誠凛の制服も黒いから危ないっスよね」
「火神が隣に居れば轢かれはしねぇだろ」
「あ、帰りの護衛用なんスか」
 黄瀬が火神を見るのでやっとなんとなく分かった。
「…………オレがここ居る理由か?」
「送り狼になれそうにないタイプは安心してテツヤを任せられる」
「狼にはならないっスよ。準決に響くし。そんな風に勝って嬉しくないからちゃんと耐えるよ」
「黄瀬君、そんな風に真っ先に否定するのは何かをしようと考えていた証拠みたいで見苦しいですよ」
「ヤれるものならそりゃあ」
「食事の席でやめるのだよ」
「お前らはいつもこんなんなのか?」
「何か問題ありますか?」
「誠凛では違うのかい?」
 黒子と赤司に見つめられて火神は言葉を失う。
「なんつーか、疲れる」
「ん、そろそろ時間だな」
「赤司、湯豆腐しか食ってねぇ」
「偏食なのだよ」
「昔からみんながいるとことだとちゃんと食べるのに個室だと食べたいものしか食べないですよね」
「テツヤが僕があげた胡麻豆腐を隣に渡していたのはちゃんと見ているからね」
「スミマセン」
「わりー、食っちまって」
「もうお腹いっぱいだったんです」
「ちゃんと食べろと言っているのだよ」
「黒ちんはいつまでも大きくならないね〜」
「黒子っちはこのサイズがちょうどいいっスよ。ミスディレクションするにもデカすぎるのはよくないっしょ」
「その庇われ方は腹が立ちますね」
「なんでっスか」
 ショックを受けている黄瀬を残して一同は立ち上がる。
 火神だけは空気椅子のせいかヨロヨロしていた。
「赤ちん、ご馳走様」
「ごっそうさん」
「これで次の試合に手を抜くことなどありえないのだよ」
「素直に礼言えよ」
「……その、ご馳走様」
 場違いな感じに気後れしつつ赤司に頭を下げる火神。
「テツヤに手を出したら死ね」
「赤司君、すでに手遅れです」
「マジっすか!! まさかの、まさかの展開っスよ!!」
「チームメイトなんだから殴ったり蹴ったりよくあるよな」
 ないと言いたかったが笠松を思い出して黄瀬は黙る。
 紫原も「あ〜」と言って気まずそうに髪をかきあげた。
「火神は死ぬしかないのだよ」
「帰りに轢かれそうになる黒子っちを庇う流れっスね」
「縁起でもねぇ」
 震える火神に黒子は「火神君抜きで勝てるほど海常は甘くないんですよ。しっかりしてください」と檄を飛ばす。
「黄瀬君に負けたらボク達の八カ月近くが無駄になります」
「無駄じゃないっスよ」
「ここはもうキセキの世代を全員倒して日本一ですよ」
「テツヤ、来年のIHがあるよ」
「ダメなんです! 今年じゃないとダメなんです」
 木吉のことを思い出して火神は顔を伏せる。
「屋上で裸になって告白しないといけなくなります」
「そっちかよ!! 先輩のことじゃねえのか!」
 シリアスな顔を崩して火神はツッコミを入れる。
「それは困るね〜。黒ちん風邪ひいちゃう」
「なんなのだよ。どうして黒子はそういう無茶な話に乗るんだ。肺炎で死んでしまうぞ」
「死なねえよ!」
「テツヤ、それは先に引越しや転校の手続きをとっていれば有耶無耶になったりしないのか」
「黒子っちが全裸でオレに告白してくるなんて! これは次の試合なおさら負けられねぇッ!!」
「涼太は無理だ」
「そういう断言やめッ! 赤司っち真顔、怖い」
「屋上にカーテン着ければいいんじゃね?」
「青峰、冴えてるな」
「そんなわけないじゃないですか。火神君って意外に天然ですね」
「お前には言われたくないッ」
「全裸での告白はベッドに限るね」
「屋上はいいよな、テツ」
「何言ってんスか、何言ってんスか!」
「青峰君は野外プレイの楽しさを力説しているだけですよ」
「だけじゃねぇ!! 黒子っち酷い! 色んな意味でッ!!」
「昔も今も青峰は屋上が好きなのだよ」
「へぇ、そんな感じはすんなぁ」
 緑間の捕捉に火神は頷く。
「明日、隕石降ってきますかね」
「だから、ねぇよ! 黙れ、黒子」
「真太郎が優勢になったらあるかもね」
「それはあり得ないという意味か?」
「星が降る程度に」
「赤司君が勝ち抜いてきても、こちらに火神君がいる限り誠凛に負けはありません」
「黒子……」
 嬉しそうにしている火神に「ハサミの件、いつでも出るところに出て処理させてもらいます」黒子は微笑む。
「黒子ぉぉぉ!」
「バスケットマンはバスケで勝負しろって」
「黒子っちがすでにオレに勝った気でいるのは、ちょっと甘いんじゃないっスか」
「赤司君、緑間君と黄瀬君はどっちが強いんですか?」
「個々の技術よりもチームの総合力も大切だから、言わなくても分かるだろ?」
「意味深なのだよ!!」
「海常の選手はキャラ立ちしてますからね」
「不戦勝だと思うけどな」
 どちらのとは言わずに青峰は呟く。
 明日のことは分からない。
 本当に隕石が降ってくるかもしれないのだから。



2012/07/15
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