蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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医務室から出ると、ルフィを囲むようにして皆が居た。
私に気付いた皆が此方を見て、そしてルフィも私を見る。


「名前!」
「ん…?」
「おれ、…おれさ、」


ふぅと深く息をつくルフィと、息をのむロビン以外の皆に小さく首を傾げる。
ぐっ、と拳を握ったルフィと真っ直ぐに視線が交わった。



「おれ 名前が好きだ!!!」



真っ直ぐに言われて、一瞬びっくりしたけど直ぐに思わず笑顔になった。



ふにゃり
「うん。私も、ルフィ大好き」



なんだか、本当の仲間になったみたいだな…嬉しい。


するとルフィが震え出したかと思えばぐるりと背を向けてガクッと膝をついた。
そして何やら言いながら胸を抑えたり床をバシバシ叩いているけど…良く聞こえない。


「苦しい!けど嬉しいぞ!…やべェ、死にそうだ!」
「あー…ルフィ」
「ナミ!やべェぞこれ!」
「良いから聞け。クソゴムが」
「ぐげ!」


…あ、サンジの蹴りが入った。


「あのねルフィ、言いにくいんだけど…」
「ん?なんだナミ」
「名前の好きは、ルフィの好きとは違うわ。…多分」
「なっ?!」
「ええ。名前の言う『好き』は仲間に対する『好き』よ」
「そっ、そんなの嫌だ!どうすりゃ良い?!」
「ははは、まあこのウソップ様に任せなさい!」


なんだか騒ぎ出した皆。
私はその様子を数秒眺めて、そして左足を少し引きながら皆の方へと歩みを進めた。


「名前、だ、大丈夫か?」
「ん、大丈夫。ありがとチョッパー」
「!れ、礼なんて言われても全然嬉しくねえぞ!えへへぇ!」


隣で同じように皆の様子をポカンと見ていたチョッパーからの言葉に、帽子をぽんぽんと撫でた。


「あ、名前さん!動いたら傷が開きますよ!」
「ったくおめェは…医務室で休んでりゃ良いじゃねェか」


すると私に皆が気付いた。
騒いでいたのをピタリと止めて慌てて私の元まで皆来てくれた。

そんな皆に、フランキーの言葉に、私は小さく微笑んだ。



ふにゃり
「皆の傍に居たいから」



ガクッ!
と、ロビン以外の皆がさっきのルフィみたいに床に膝をついた。


「…どうしたの」
「良いのよ名前。ほら、図書館でも行きましょう」


そうして柔らかく背中に手をやってきたロビンを見上げると綺麗に微笑まれる。

――数分後、図書館の扉が勢い良く開かれて皆が飛び込んできた。
















――…星がひとつ、ふたつ、ちらほらと群青色の空に浮かび始めている頃に、船首甲板に立ち静かに海を眺めていた。
麦わら海賊団を抜けようと決めた一昨日の夜に見ていた引き込まれそうな海と今の海は同じなのに、全然違って見える。


――…きっと、私を狙う海軍も海賊も、私の能力が消えない限り…まぁ私が死なない限り居なくならない。
襲われることもきっとまだまだあって、皆が傷を負うことだってきっとある。

けど、私はそれでも、…皆と居る。
皆と居たくて、皆の仲間でいたくて、それを皆が許してくれるから。

皆と居る為に私に出来ることなら何でもする。
能力だってもっと上手く使えるようにする。
使える時間を長くしたり、広い範囲でも、大人数でも長く作用出来るようにする。

…もし、それでも私の能力が切れちゃった時に皆が危なくなっても、私は皆を……信じてる。
私の能力で作用しなくても皆は強いしね。


すると波に白色が丸く浮かび上がり波打つ度にきらきらと反射し始めた。
見上げれば、そこには雲から姿を現した大きな月。

小さく微笑んだ。


皆が今までしてきた冒険は凄く大切なもので、きらきら輝く素敵なものだと思う。
皆はきっと冒険の先々で色んな素敵なことをしてきたんだよね。


――でも、もっと早く出逢ってたかったなんて、言わないよ。




「名前ー!メシだってよ!」
「お、すげェ月だな。月見で一杯やりてェな」
「あらホント!サンジくん、今日は甲板でご飯にしましょう!」
「はーっいナミすわぁーん!」
「おれは昔月に火炎星を命中させてな!」
「ウソップすげーっ!!」
「ふふっ、今日は満月なのね」
「こんな夜はコーラが上手いぜ!」
「眩しいですねえ。って私骨だけなんですけど。ヨホホホホ!」






今の私には、こんなに素敵できらきらした大事な仲間が居るから。







(これから始まるんだ)
101223.