「あ…バイオリンを演奏し終えて皆さんの所へ向かっていたら、名前さんが離れて何処かへ行くのが見えたので…着いてきちゃいました」
「………」
「……名前、さん」
どくどくと心臓が速く脈打つのを無視して、私は大袈裟にため息をついた。
「あーあ…見られちゃった」
「…名前さん」
「上手く気づかれないで離れられたと思ったのに…失敗かぁ。…まぁ、そういう事だから。私、もう麦わら海賊団抜けるね。ついでだから、他の皆にも言っておいてくれないかな…『新しい仲間が出来た』…って」
――私は『自分から』麦わら海賊団を抜けるんだよ、ブルック。
だから…だから今すぐ此処から居なくなって、皆の所に行って…。
私は『仲間』を簡単に捨てる、最低な奴だから…追いかけてこないで。
下手に突っかかってこないで。
――この男も、能力者だから。
「何言ってるんですか名前さん。ヨホホホホ!」
「……ブルック、私もう行くから…」
「――行かせませんよ」
パシッと腕を掴まれて、どくりと心臓が嫌に響く。
「………離して」
「嫌です。名前さんは私達の仲間なんですよ!他の海賊には行かせませんよ!」
「…私が自分で決めたことだよ、ブルック。連れてかれるんじゃない。…着いていくの」
「何かわけがあるんでしょう?」
「っ…わけなんか…」
「―――面倒臭ェな!」
今まで黙って見ていた男が私とブルックの間に入ってきた。
掴まれていた手が離れる。
「オイ、」
すると男が私を見てにやりと口元を上げた。
そしてブルックを見やる。
「お前はもう俺様のモンだ。だから俺の能力に作用しろ。今からお前の元お仲間サンをブッ飛ばすからよ!」
「…!…ちょっと待って。こんな所で騒ぎを起こしたら麦わらの一味が来る。早く逃げられない」
「その前にこの骸骨をどうにかしねえと船にも戻れねえんだよ!―…いくぞ」
ブルックに向けて手を翳す男はカウントを紡ぎだす。
…ここで私が能力を使わなければ、男の能力を止めれば、ブルックに怪我はなくて済む。
…っ…駄目だ…、目先の事だけ考えれば良い話じゃない。
ここでブルックが傷付かなくて、それで終わりじゃない。
今傷付かなくても、きっとまた直ぐに私を狙う人達が来て皆は…。
――…私が皆から離れれば、それは終わるんだ。
お願い…ブルック…。
「逃げて………!」
「――――…名前…?」
ルフィは振り返った。
ざわざわと人々が活気立ち穏やかな休日の昼間の街で。
後ろに居たナミ、ロビン、フランキー、サンジ、チョッパー、ウソップが、ルフィの雰囲気に眉を寄せて「ルフィ…?なに?」と聞き返した。
「…名前、何処だ」
「え?…っ名前?!」
「アイツ、何処行きやがった!」
ぞわり。
ルフィの体を何かが駆け巡る。
そして次の瞬間
どぉおおおん!!!
街を爆音が轟かせた。
麦わら海賊団が居る場所から少し離れた位置にある建物が次いで崩れ落ちるのが見える。
「なにっ?!あ、ルフィ!」
ナミの声にも止まらずに、ルフィは走った。
爆発に恐れ逃げ惑う人達の真中を突き進んでいく。
場所に着けば、立ち込める砂煙の中建物の瓦礫から誰かがよろりと出てきた。
「ブルック!」
「…ル、フィ…さん?」
「大丈夫か!しっかりしろ!」
「!ブルック!」
「どうしたんだ?!」
他の麦わら海賊団も追いついた。
自分を支えるルフィの腕を、ブルックは震える手で掴んだ。
「みな…さ、名前さんが…」
「まさかまた海賊に…?!」
「うっ…げほ!ふ、ね…急がないと、逃げられて…しまいます…!」
「フランキー!ブルックを頼む!急ぐぞみんな!」
「「「おうっ!」」」
101216.