昼休み、飲み物を買いに、学食やら購買じゃなくて割りと人気の少ない場所に設置された自販機に向けて歩いている途中、体育館裏なんてベタな場所で一人の女子を数人の女子が囲んでいるというベッタベタな場面に遭遇した。 囲んでいるのは黄瀬ファンの奴ら、ていうか別クラスの友達、そして囲まれているのはボブだった。 「何してんの?その子が好きなの笠松でしょ」 それに黄瀬ファンの奴らがこうして誰かをまるで苛めるようにしてることも珍しくて、不思議。 見た目も行動も派手だから、黄瀬に熱を上げてひっつく奴らに嫌がらせする、なんてイメージを持ってる奴らもいるみたいだけど、別に周りを下げることはしない。 今流行りの女子力をアップさせたり、自分磨きをすることに励むだけ。 まあ誰が何をしようと、どう捉えるかは黄瀬のものだけど。 「名字、さん」 ボブが私を見て、怯えた顔をする。 ボブ、そして私を見た友達は何か気づいたような反応をすると私に向けて口を開いた。 「名前、この子とどこで知り合ったの?」 「前に教室まで来て、笠松との関係について聞かれた」 「聞いてよ名前、最低なんだよこいつ。最近笠松君とか他の男バスレギュラーに取り入ってたのは、全部黄瀬君に近づくためだったんだって」 「…………は?」 自分よりも低い位置にあるボブのことを見れば、ボブは悔しそうな顔で歯軋りをする。 「だから名前のとこに笠松君との関係聞きに行ったのも、笠松君が好きだから気になったんじゃないんだよ。きっと、名前と笠松君が仲良いから……笠松君と仲良くしても名前に目付けられないかどうか、確認しに行ったんだよ」 「…なるほど、だから私が笠松のことを好きかどうかまで聞いてきたんだ」 それはないわ、といつかの教室でのように皆がハモる。 ボブはうつむき震えていたかと思えばキッと顔を上げ、頬を紅潮させながら笑い私以外の皆を順々に睨んでいく。 「アンタらバカなのよ!黄瀬君黄瀬君って、彼にだけ媚びて!愛想振りまいて!そんな女に黄瀬君が振り向いてくれるわけないでしょ!それに黄瀬君の周りにはアンタらみたいなチャラチャラした女ばっかりなんだから、同じような見た目で彼に気づいてもらえるわけないでしょ!」 ハァッ、ハアッと興奮し息を荒くする女、の襟元を掴んで引き寄せる。 身長の違いでボブの踵は浮いて、私の目を見たボブは息をのむ。 「勝手にしなよ、黒髪にするのも、お菓子作って渡すのも、私には関係無いからさ。ただ、笠松や他の奴らに近づく目的をこれからも変えないなら、私はアンタを許さない」 「っ……やっぱり、好きなんですね…名字さん」 「あの時も言ったけど関係無いよ、私が笠松のことを好きかどうかなんて。だけど、笠松達は私の、友達だから。大事な人が誰かの何かの踏み台にされて、黙ってなんていられないんだよ!」 ーー結局その後、近くでザワザワと人の声がするなと思っていたら指導担当の先生がやって来て、慣れたもので私の頭をボスボス叩きながら指導室に連れて行こうとした先生を友達と、ボブが止めた。 先生に捕まって反省文書かないで済んだのは初めてだったから拍子抜けしていたらボブに『見た目が真面目そうだとこうして得することも、あるんですよ。だから……』とそこまで言うと照れたような顔して言い逃げしていった。 とりあえず先生と森山が同じタイプだってことは分かった。 ーーそして放課後、掃除が始まる教室から出ると笠松に会った。 パッと顔を輝かせる私に対して笠松はホッと安心したように息をつく。 「笠松?」 「や、名字が喧嘩してたって、聞いたから……でも口喧嘩だったみてえで、その…」 「私は相手の襟元掴んじゃったけどね。まあほとんど口喧嘩」 「襟……」 呆れたように眉を下げる笠松にヘラヘラと笑いながらも内心で安堵する。 よかった、笠松、どうして喧嘩してたかまでは知らないみたい。 「名字、体張った喧嘩とかは、もう、やめろ」 「…確かに女としては無いけど、でもーー」 「お前が、…お前が喧嘩するのは、何か事情がある時だとか、周りの誰かのためにする時だけっていうのは、分かってる」 「…笠松」 「け、けどよ、怪我とか、危ねえだろ」 キューン、と私の中で音が響く。 「もし、傷でも残っちまったら…」 「うん、もう喧嘩、しない……」 「切り替えはやッ!」 140817 |