そっそうだよね、こんな警備員いないよね、この集団は警備員か盗賊かどちらでしょうって聞かれたら百人が百人盗賊だと答えるよね。
ーー駄目だ、危険度や恐怖度が格段に増した。
するとヒューッと口笛が聞こえて、ジャージ姿の眉がない男が近くに降り立つ。
「こいつがウヴォーを吹っ飛ばしたっていう女か。どんなゴリラ女が来るかと思えば、もろタイプだ」
「フィンクスって、そういう人が好みなの?」
「ああ、ドストライクだ」
眼鏡をかけた女との会話に出てきたストライクっていう言葉…確か、叩くとか打つっていう意味だったような…。
「あんまりイメージないけどな。こういう人は団長の隣にいそうだけど」
盗賊に叩かれたり打たれたりする覚えはないぞ!?
盗賊なら、獲物を狙う者が他にいたからと怒っているのかもしれないけれど、私は何も盗ってはいないし……。
「どうしてわたしを、ここへ?」
「聞きたいことがある。ーーこの絵と、書物。何故お前は、この二つに興味を持っている?」
団長、と呼ばれている男が示したのは例の絵と書物。
ところどころ理解出来る単語を繋げて予測するにきっと彼は、どうして私がこれらに興味があるのか、を聞いている。
その答えとしては、自分の持っていた世界移動機械を壊されてしまったので異世界の情報が隠され示されているそれらに世界移動者として惹かれているから、だけど……。
「いえない」
そんなに多くの言葉はまだ知らないんだ。
すると私のことをジッと見ていた団長は私の答えに間髪入れずに「パク」と言う。
どうやら名前らしい、金髪の際どい恰好をした女が横に来ると優しく肩を組んできた。
「私からも聞かせてもらうわね。あなたがこの二つに興味を持っている理由は?」
「……あの、すまないが、いえない」
二度も聞かれたということはよほど気になる、大事なことなんだろう。
答えなければ、こっころさっ殺されるかな……だけど言葉が分からないし…。
不穏な空気になれば何でも良いから言葉を発しよう、そう思っていたけれど漂ったのはパクという女のとても動揺している様子。
「どうした、パク」
「団長……この子の記憶、読めないわ」
場に衝撃が走ったのが分かった。
「どういうことだ?」
「分からない……何かが邪魔してるみたいに靄がかかって、何も見えないわ」
口元に手を当てながら何か考えているような団長は私を見て口角を上げるーーなんで笑ったんだ…?
「団長、他にも気になることがあるんだけど」
「なんだ、シャル」
「昨日もそうだったし今日も、技を発動する時に念を練っていなかったんだ。パクが記憶を読めないなんて初めてだし、何かあるよ」
「ああ…………興味深いな」
するとさっき自分達を盗賊だと紹介してきた黒づくめの男が私の前に降り立つ。
「記憶が読めないなら拷問して吐かせるだけよ。何も難しいこと無いね」
「ごうもん……」
「ハッ、ピクリとも表情変わらないね。こういう奴ほどいたぶりがいがあるよ」
知らない言葉を反復すれば何故か喜ばれた、拷問ってなんだ。
「おい先に俺からだ。傷だらけの体っていうのもまたそそるけどな」
「フィンクスってマニアックなんだね」
「シズク、ほっときな」
「オイオイ一番は俺だぞ!昨日吹っ飛ばされた時から、コイツの相手は俺がするって決めてんだよ…!」
オーラやガタイがすごい人達にニヤニヤとした愉しそうな笑みで囲まれて、理解した。
私が絵と書物を欲してる理由を話そう話さなければ大変なことになる、と。
言葉を教えてもらおうと、盗賊だけれどなるべく優しそうな、それでいて物知りそうな人物ーーシャル!君に決めた!ーーといつだかの世界での友達のよく言っていた言葉を心の中で言う。
声にして出せば次の瞬間には塵となっている自信があるもの。
「シャル」
「ん?なんだい」
「シャル、しかいない」
なんとか助けてくれないだろうかと見上げるとシャルは目を丸くし周りは水を打ったように静かになった。
頼んだだけなのに何故だ、と動揺しているとシャルがにっこりと笑う。
「そういう風には見えなかったけど、いいよ、君なら。きちんと情報もくれるなら一石二鳥だ」
「清純そうに見えて案外…かよ。最高じゃねえか」
「フィンクスって、変」
「シズク、ほっときな」
「フィンクス、そういうわけで俺がいいみたいだから、もらうよ」
すると腰あたりに手を回してきたシャルに私は息をのむと、瞬時に地を蹴って距離を取った。
再び水を打ったように静まる場。
「え?何この告白されたと思ったらフラれた感じ」
「ハッハッハ!おい格好つかねえなシャル」
「うるさいよノブナガ」
ふてくされたように口を尖らすシャルを見ながら私は震えた。
危なかった、あんなに好青年に見えても彼も盗賊、普段からギブアンドテイクなど無く物を盗む彼らに頼みごとなんてしたら要求以上に何か求められるのは当たり前…!
腰に手を回してきてたけど、数秒後には腰から下や臓器がいくつか無くなってたかもしれない……。
「ちょっと僕、野暮用が出来たから行ってくるね。かまわないだろう?」
すると携帯で何やらしていたヒソカが立ち上がりそう言った。
団長の許可を得たヒソカはくるりと踵を返すとここから出て行こうとしーー
「そういえば君の名前、聞いてなかったよね」
と私に聞いてきたので、言葉が理解出来た私は自分の名を名乗ったーーナマエ、と。
すると何故だかヒソカは目を微かに見張ったまま笑顔で私を見つめてきた。
笑顔だけで恐怖を感じさせられる人っているんだ……と思った瞬間、バンジーガムで引き寄せられた。
「団長、ナマエのこと、少し連れて行ってもいいかい?」
「ーー必ず連れて、帰ってくるならな」
「了解」
と語尾にハートマークでもついてそうにご機嫌なヒソカに引っ張られ、私は廃墟を出たのだった。
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ひょ、ひょっとしてヒソカは私を逃がしてくれたんだろうか?
一人残された路地裏で考える。
廃墟を出て少ししてから人気のまったくない路地裏に連れてこられたかと思えばヒソカは「ここでいい子にして待ってるんだよ」と変わらずご機嫌な様子で言うと携帯を操作しながら去っていった。
上機嫌な様子に加えて、気持ち悪い、と本能的に感じるオーラを纏っていたのが、不思議だったけれど。
待ってて……イルミに教えてもらったから意味は知ってる。
ヒソカは「逃げていいよ」と言った時は逃がさないタイプだと思うので「待っててね」と言った時は逃げてもいいんじゃないかな…や、やっぱり希望的観測かな…。
するとその時後ろから人の気配を感じて、やっぱり希望的観測だったと思い知った。
けれど振り向く前にその人に肩を掴まれ引かれると、勢いよく背後の建物の壁に押しつけられたのでその衝撃とあまりの予想外の出来事に息をのんだ。
「イ、イル、ミ……」
そこにいたのはーーイルミ=ゾルディックだった。
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