指輪と手錠の違い | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
イルミは相変わらずの無表情で私の頬やらをペタペタ触っていたかと思えば、私を抱きしめてきた。


「よかった、やっと見つけた……」
「す、すまな…すまない」


もう駄目だこれ完全に逃げた報いを受けさせられる。
ど、どうしてイルミがこんな場所に……。


「勝手に家を飛び出したのは悪いけど、ナマエ、俺に会いたかったんだよね?何日も置いていっちゃったから、寂しくてたまらなくて、追いかけてきちゃったんだよね」


!?言葉が全部分かるわけじゃないけれど、何かが、違う気がする…!


「大変だったでしょ、文字もマトモに分からないのに…ナマエ置き手紙残してたけど、あれも文章間違ってたよ。金は必ず返す、探さないでくれって…あれじゃあもう家に戻ってこないみたいになっちゃうよ」


イルミは私を一旦離すと腕を掴んで歩き始めた。


「さ、帰るよ。ナマエは俺のものなんだから」


けれどその言葉に私は足を止める。
私の名前を呼びながら振り返ったイルミの変わらずの無表情はこわいけれど、たとえお菓子の家作戦を練られていたとしても、私は私のものでしかないから。


「ちがう」


それにゾルディック家には当たり前だけど帰りたくない。
加えて実は少しだけさっきの廃墟に戻りたい。
あそこには異世界の情報があるから。


「ッ……!?」
「だから外に出したくなかったんだよね」


腕を物凄い力で掴まれたまま引き寄せられる。
至近距離で見つめ合ったまま、イルミはナマエと低い声で呼んできた。


「お前は、俺のものなんだよ?外で誰に何を吹き込まれたのか知らないけど、それらはすべて間違い。大丈夫、俺が矯正してあげるから」
「わ、たしは…わたしのものだ」


すると込められていた力がピタリと無くなる。


「ああ、そういうこと?うーん、それなら確かに間違ってないね」


でもねナマエ、とイルミが私の頬を手で包む、懐かしい行為だ。


「ナマエは確かにナマエのものだけど、ナマエのものは、俺のものでもあるんだよ」
「ナマエはたしかにーー」


と当たり前のようにイルミの言葉を繰り返そうとしてはた、と止まる。

ガキ大将…!?


「そのまま君の家に連れ帰られちゃ困るな」


するとヒソカが、さっき消えていった方向からとてもニヤニヤしながら現れた。


「ーーああヒソカ、ナマエを見つけてくれてありがとう。感謝してるよ」
「お安いご用さ。まあ君からメールで、ナマエっていう女を探してるって連絡きた時もそれなりに驚いたけど…ここまで入れ込んでることの方が驚きだね」


口元に指を添えながらうっとりとしたようにイルミと私を見るヒソカ。
寒気を感じていると再び歩き出したイルミに手を引かれた。


「礼は今度振り込んでおくから」
「お金なんていらない」


けれどやっぱりまだ剥がされていなかったバンジーガムのせいで体が止まる。


「ナマエをくれよ。イ・ル・ミ」
「ーー殺すよ?ヒソカ」
「それってとっても楽しそう。だけどナマエを連れ帰られちゃ困る理由が他にもあってね…クロロにナマエを連れて帰ってくるよう言われてるんだ」
「クロロに?」


するとイルミはハァーと長いため息をつく。
なんでもいいけどイルミとヒソカ、どちらか私を離してほしい。
ヒソカのバンジーガムとイルミの腕に引かれたままで、このままじゃ関節が抜けそうだ。


「何がどうなってナマエとクロロが出会ったのかは知らないけど、最悪だな。クロロがナマエを気に入らないわけないんだよね」
「……団長とナマエの欲しいモノがかぶったのがきっかけだって、僕は聞いてるけど」
「欲しいもの?」


私を見下ろしたイルミは再度ため息をつくと頭をポンポンと撫でてきた。


「しょうがないな。ヒソカ、アジトまで案内してよ」















というわけで戻ってきました盗賊団のアジト。
さっきとは違い団長の個室らしき部屋で団長、イルミ、ヒソカの三人に囲まれている。


「や、久しぶりクロロ。突然なんだけどナマエは俺のものだから、家に連れて帰るよ。あとナマエの欲しいものがここにあるみたいなんだけど、お金払うからそれ頂戴」


恐怖の奇跡の共演だ。
私、何かしたかな…何をしたらこんな場に放り込まれることになったのかな。


「悪いが、どちらもやれないな」
「言うと思った。でも、クロロにとってナマエはお宝だけど、ナマエに必要なのは俺だから。悪いね」
「俺にとってそいつが宝だと、思うのか?」
「だってナマエは異世界人だから。当たり前でしょ」


目を見開く団長とヒソカ、漂う変な空気にイルミが口を開く。


「もしかして、ナマエが異世界人だってこと知らなかったの?」
「今知った。大体、ナマエと会ったのは昨日が初めてだ」
「…失敗したな」
「イルミって、ナマエのことになるといつもの冷静さは遙か彼方だね」


ヒソカの言葉にイルミが苛立たしそうに「うるさいな」と言う。
その空気に絶えられなく後ずさりしたところ視線を感じてそちらを見れば、笑顔のままジッと見つめてきている団長と目が合う。


「ナマエ、なら例の絵と書物は、異世界のものなのか?」


何か言おうとする前に反応したのはイルミで。
さっきよりも更に強い力で腕を掴まれて、思わず顔が歪む。


「ナマエが欲しがってたものってまさかそれ?今さら異世界のものなんていらないのに、ナマエ、理由は?」
「やめてあげなよイルミ、そのまま掴んでたらナマエ壊れちゃうよ。僕、ナマエとも戦いたくなっちゃったんだから」
「さっきから言ってるだろヒソカ。ナマエは家に連れて帰る」
「異世界人だと知って、帰すことは出来ないな。だがもし無理矢理にでも帰られたら、盗み先はゾルディック家か。少々骨が折れるな」


カルトに教えてもらった、類は友を呼ぶっていう言葉……こういうことかな。



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