青い空、白い雲、眩しい太陽、だなんて穏やかな晴れの昼下がりなのに、この壁の上から見下ろせる壁外の遥か下にいる巨人達でそう易々とのんびりできないのがこの世界だ。
私の少し前で何やら難しい話をしているリヴァイとそしてエルヴィン。
離れているけれど同じく壁の上には固定砲整備やら壁の修理をしている兵士の人達も見える。
私はふと何の気なしに足を止め、巨人達を見下ろした。
この高い高い壁からだといくら巨人でも小さく見える、けれど下にいる一人の巨人と目が合ったような気がすれば、その巨人は嬉しそうに口を開けた。
こんなに離れていても人類を喰らおうとする貪欲性にある意味感心したその時、ガラッと足元で音がして、次いで浮遊感。
「えっ」
なんと私の足元の壁だけが崩れた。
相変わらずの不幸加減に泣きたくなっている間に、バランスを崩して傾いていく私の体。
「ナマエ!!」
危うくそのまま下にいる巨人の口にドボンかと思いきや、少し距離があったのにリヴァイが手を取ってくれた。
そして直ぐに引き上げてくれてぎゅうっと抱きしめられる。
「リヴァイありがとうでも離れて、いや直ぐに壁の上から下りて、今私のそばにいたら絶対にここ壁崩れる」
「お前から離れはしない」
「ナマエ、無事で良かった。すまない、どうやらそこの部分だけ修繕が間に合っていなかったようだ」
「チッ、駐屯兵団の奴らは何をしてる」
「違うよエルヴィン、リヴァイ。今のは私が悪いの。…ごめんねエルヴィン、ここの壁は私が直すから」
「いや、ナマエには他にやってもらうことがあるからね。壁の修理は駐屯兵団の者に任せよう」
しかし、とエルヴィンが私とリヴァイを見た。
「落ちそうになったナマエはともかくリヴァイまで、君達立体機動装置の存在を忘れるほど焦ったのか」
「「……」」
・
・
・
ーー壁外に落ちそうになった日の昼休み、昼食を食べ終えた私は午後の業務まで時間が空いたので中庭の大きな木の下へと来ていた。
そしてこの快適な、けれど憎き場所を見る。
「ナマエ」
すると後ろから声がかかって振り返る。
「リヴァイ」
「姿が見えないと思ったらここにいたのか」
「うん、特訓しようと思って?」
「特訓?」
腕を組み疑問符を飛ばすリヴァイに、大きく頷き拳を握る。
「いくら私が不幸体質とはいえ、巨人との戦いや立体機動はとりあえず日々の訓練のおかげでカバー出来てるでしょ?だから日常の不幸も気をつければ無くなるんじゃないかと思ったの」
「ほう…それでここで何をする」
「ここでの不幸は、これ」
そう言って私は地面を指さす。
そこにあるのは、木の根っこ、だ。
そう、この場所は緑があって、風は心地よく、木漏れ日が揺れる、なんてとても快適なところ。
だけど大きな木だからこそ根も太くて長くて、地面に脈々と広がるそれに私は何度足を取られたことか。
「それじゃあリヴァイ、行ってくる」
グッと親指を立てて笑えば、何かフラグが立ったのが見えたのかリヴァイは組んでいた腕を解き、いつでも私を助けられるようにかスタンバイした。
大丈夫だよリヴァイ…!
古今東西ありとあらゆる不幸を経験した私でも、訓練のおかげで立体機動で怪我をすることなんてない(立体機動装置が原因不明で壊れることはあるけれど)。
だから日常の不幸だって、いや日常の不幸だからこそ、乗り越えてみせる…!
ガッタガタの木の根の上に、足をゆっくりと垂直に下ろす。
また一歩踏み出し、下ろす。
踏み出し、下ろす。
ーーそれを何度か続けたところで魔の根っこゾーンを私はついに、ついに一度も転ばず抜けることが出来た。
「リヴァイ…!」
感動を分かち合いたくてリヴァイを振り返る。
心なしかリヴァイも少し驚いたような表情をしていた。
私は駆け出す、リヴァイに向かって。
「リヴァ、」
そして木の根に足を取られた。
「ーー不覚、油断していた…不幸」
結局、いつもみたいにリヴァイが助けてくれた。
宙に浮いた私の体をリヴァイが引っ張って、二人で草の上に落ちる。
けれど落ち込む私とは裏腹に、リヴァイは顔を片方の手で覆い肩を震わせている。
「リヴァイ、笑ってるの?」
答えは言葉では返ってこずに、頭を撫でられた。
私は少しポカンとしていたけれど、直ぐに笑ってリヴァイに抱きついた。
「不幸だけど、幸せ。リヴァイが助けてくれたし、リヴァイが笑ってる」
するとリヴァイも私を抱きしめた、すごい力で。
「ぐああああリヴァイ少し強い少し強い、背中の骨がああ」
140223