不幸と幸福は数珠繋ぎ | ナノ
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「不幸だ」


わたしはつぶやいた。

くらいくらいこの世界、ジメッとした空気がはだにまとわりつく中、あたまのてっぺんに何か冷たいものがふってきた。
上を見上げると、昨日の雨が屋根から落ちてきていて、ぼうっと見ていたら今度は目の中にピンポイントで落ちてきた。


「ぐわあああ」


さびついた色の屋根から落ちてきたそれは、地面の水たまりではどろ水になっている。
多分体にいいものではないけれど、あいにく今このばしょにキレイなものはない。

目をふこうにもわたしの手だって汚れている。


しかたない、わたしのまばたきの力と、目のがんじょうさを信じよう。
大体今のなんてプチ不幸にしかすぎない。
本当の不幸は、これだ…!


わたしは手の中にあるものを見て、ふたたびうなだれた。

手の中にあるのは半分に切られたオレンジ。

ーーこれがだん面図を下にして地面に落ちていたのを見つけたときはすごく嬉しかった。
けれどそんなわたしのよろこびも束の間、オレンジを手にしたしゅんかん気が付いた。

そう、このオレンジはすでにだれかが食べた後。
持ってみればオレンジはそうぞういじょうに軽く、皮だけがただ捨てられていただけだった。


きたいを持たせてからの落差、ああ、なんて不幸。


ためしにと皮だけでもかじってみた。
苦かった。


「…ちっ」


すると左のわき道から何か聞こえたかと思ったらわたしの左足に、コツン、何かがぶつかる。
ぎもんふを浮かべながら足下を見ると、そ、そこにはなんとリンゴがあった!


今日はツイてるかも!
幸せ、からの落差、からのまた幸せ!


かおをかがやかせながらリンゴを拾いかおを上げると、左のわき道に一人の男の子。
わたしと同じようにくすんだ色の布を頭からてきとうにかぶった男の子の手にはリンゴ。
かれが見るわたしの手元にあるのもリンゴ。


「ごめん、これ君のなんだね」


あわててあやまれば彼は少し目を見開く。
そのことに少し首をかしげながらも、リンゴを返そうと一歩足をふみ出せば、彼は体をゆらすとはじかれたように走っていってしまった。


…どうして持っていかずに行ったんだろう?
も、もしかしてこれもらってもいいのかな!
とにかく、あやまるならあやまる、お礼を言うならお礼を言うで、どっちにしてもちゃんとしなきゃ!


彼の後を追って走り出す。
そうしてわき道に入ったしゅんかん、今度はさっきよりも何個も多いリンゴが足下にころがってきた。


「えっ」


おどろきながらも、コロコロころがっていきそうになるリンゴを止めようとしゃがんで手でおさえる。

そうして見上げた道の先には、さっきの彼が、大人の男の人たちに好きかってにけ飛ばされてるすがた。

サアッ、血の気が引くのが分かった。
わたしはあわててリンゴを自分のポケットにとりあえず詰めると、そのげん場に走っていく。
そうしてわたしに気づいた男の人たちがこっちを向いたしゅんかん、そのいきおいのまま土下座した。


「ごめんなさい!わたしのせいなんです!その子をはなしてあげてください!かれは何もわるくないんです!わたしなんです、わたしを、けってください!なぐってください!」


また、不幸をでんせんさせてしまった…!
まさか、たったあの少しの間目が合っていただけで不幸をうつしてしまうなんて、わたしの不幸たいしつおそるべし…!
わたしは彼からリンゴと共に幸せまでうばってしまったんだ!


何も反応のない彼らをふしぎに思いかおを上げる。
すると土下座をしているわたしと同じ目線、座りこんでいるボロボロな男の子と目があって、わたしは申し訳なさから泣きそうになった。
立ち上がり走り出すと、かれの手をつかみ道を引き返す。


「ごめんなさい、かれをとりあえず安全なところまでつれていくんで!」


その後でもわたしをけりたいなら、と思ったし、多分わたしの不幸たいしつからいけばけられる、だけど別に口にすることでもないかと思って走りつづけた。

ーーそうしてだれもいない、少しかくれたばしょに着いたわたしは彼の手をはなし、みだれた息をととのえようとひっしにこきゅうする。
けれど彼は息ひとつみだしていなくてビックリした、男の子だからだろうか。


「…てめぇ、何してやがる」
「ハァ、は…え?」
「どうして、助けた」
「え?だって、君が不幸になることなんてないんだよ?」


目を見張った彼に、わたしはつづけて口を開く。


「ごめんね、君、わたしと目が合ったからあんな不幸に見まわれて…」
「…何、言ってやがる。ここはずっと前から、はきだめみてえなところだ」
「えっ、やっぱりわたしがいること自体がこの場所に不幸をもたらしてるのかな?でもそうかんたんに上には行けないし…」


わたしは、うーん、とうなって、そしてポケットの中にしまった存在を思い出して、かれにそれを差し出した。


「はいこれ、リンゴ。全部地面に落ちちゃったからふいた方がいいかも。あ、あとリンゴもそうだけど君も、出来れば手洗った方がいいよ!目が合っただけであの不幸でんせんだからね、さっき手つないじゃったし、にゅうねんによぼうしなきゃ!」


そうして彼の手にリンゴをにぎらせる。
少し汚れているものの真っ赤なそれはすごくみりょくてきで、自然とはらの虫がなった。
わたしはおなかをおさえると、まゆを下げて笑う。


「本当にごめんね。それじゃあわたしも今日のごはん探しに行くね」


それじゃあ、とふったわたしの手を彼がつかむ。
またリンゴが落ちた。


「食べ物ならここにある。食えばいい」
「えっ。…き、君ってもしかして天使?神様?」
「おもしれえじょうだんだな」



140220