「リヴァイッ…!!」
「待って、やだリヴァイ!死なないで!!嫌だ、リヴァイ、リヴァイ…!」
「ナマエ、やめろ!何をしている!」
「離してエルヴィン!私が死ねば、不幸が無くなる…!そしたらリヴァイもきっと、生き返るから…!!」
ーーハッと、水中からようやく顔を出したときのように息をして、夢から覚める。
上体を起こし、吐き気がするので口元にあてたその手は、夢の中の自分よりもずっと小さい。
最近小学校に入学したばかりの私がもう何度も見ているこの夢は、大人になった自分を想像しているのでも夢特有の自分の頭の中だけで広がるのでもなく、前世の自分の人生だ。
視界が一瞬暗くなったかと思えば、次の瞬間には私の新しい生が始まっていた。
小さな自分、健在している両親、平和な世界に、私は一度死に、そして生まれたことを知った。
名前も同じ、容姿も同じ、そして恨むべき体質もそのままに。
前世の記憶を覚えていることは不思議だったけれど、これはきっとチャンスなんだ。
もう誰にも不幸をふりかからせないために。
もう二度と、あんな思いをしないために。
・
・
・
ある日の夕方、家のチャイムが鳴った。
居間のソファーに座りぼーっとテレビを見ていた私の視界を、インターホンで何やらやり取りしていた母が玄関へと向かい小走りで横切っていく。
高層マンションのとある一室、父と母と娘である私の三人家族。
貧富の差はあれど人口も多く便利な物で溢れた平和な社会を世界は迎えたんだな、なんて今でもたまに思う。
すると玄関の方が何やら騒がしいので目を向けると、廊下を走ってくる音が近づいてきて、居間のドアが勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、リヴァイだった。
前世、地下街で初めてリヴァイと会った時と年はお互い同じ頃なのに、服装も肌も髪も、あの時よりずっとキレイだ。
また、リヴァイと会えた嬉しさーーを超えて恐怖が体を支配する。
目を微かに見開くと走ってくるリヴァイに、逃げようとソファーから下りるも足がうまく動かない。
「名前はなんだ」
リヴァイに肩を掴まれ問われるも、ひきつったように息をする私は答えられない。
「……リヴァイだ」
そんな私にリヴァイは焦れったそうに自分の名前を告げ私の名前を言えと急かす。
相手に名前を聞くときはまず自分からって、リヴァイ前世より礼儀正しくなってる…!
「ナマエよ、リヴァイ君」
すると玄関から戻ってきた母が私の名前をリヴァイに教えた。
人と深く関わるのを避けるため私のことを人見知りだと思っている母は少し困ったような笑顔で「きちんとご挨拶してね」と言ってくる。
だけど私の名前を呟くと抱きしめてきたリヴァイに、母はあらあらと目を丸くすると両手を口元にあてた。
「すいません、いつもはこんなことをする子では……」
すると廊下からまた誰かが居間に入ってきた。
その姿を視界に捉えた瞬間、私はリヴァイを押して離れると走り出す。
前世よりいくつも若い姿の彼に駆け寄ると、抱き上げられた。
「エルヴィン…!!」
縋るように首に手を回す。
涙を流せばエルヴィンの大きな手が私の頭を撫で、そして耳元に顔が寄せられる。
「ナマエ、君はーー覚えているのか?」
小さな声で、問われたその言葉に目を見開く。
胸がいっぱいになって唇を噛みしめながら頷くと「そうか」とまた小さな声で返ってきて、ぎゅっと抱きしめられる。
「??エルヴィンさんって、ナマエとどこかで会ったことが?」
「いえ…おそらく玄関での挨拶が聞こえてたんでしょう。だから名前を。それよりリヴァイがナマエをこわがらせたようで…泣かせてしまった」
「いいえ、大丈夫です。この子は人見知りなところがあって…きっと、少し驚いちゃったんでしょう。私はリヴァイ君がナマエを気に入ってくれたみたいで、とても嬉しいわ」
膝を折って目線を合わせる母にリヴァイは口を開く。
「ナマエがほしい。もらう」
「あらまあリヴァイ君!もしかしてうちのナマエに一目惚」
「いやだ!!」
突然大声を上げた私に母は驚いたように、リヴァイはショックを受けたような顔をしてエルヴィンに抱き上げられたままの私を見上げてくる。
「リヴァイのそばにはいない!私のそばにいたら、リヴァイが……死んじゃう……!」
だからイヤ!と言うと私はエルヴィンの手の力が増したのを感じながらその首に顔をぎゅうぎゅうと押しつけた。
「すいませんエルヴィンさん、失礼なことを……この子、時たまにこういうことを言って…」
「いえ、かまいません」
「ならどうしてエルヴィンにはひっついている」
「エルヴィンだって強いもん!エルヴィンは死なないもん!」
「……」
「リヴァイ、私の足を蹴るな」
ーーエルヴィンには私と同じように前世の記憶があった。
リヴァイの他にもミケやナイルなど前世で関わりのあった人達と再会したらしいけど、記憶を継いでいた人は私の他にいなかったみたい。
リヴァイのことは、前世のように子供ながらに路地裏で一人で生活していたところを見つけて保護したらしい。
そんなエルヴィンは大学に通うため新しく部屋を借りた、それが私が住んでいる部屋の隣。
ちなみに母からリヴァイの話を聞いた父がショックを受け慌てていたけれど、毎日家に来るリヴァイと腕相撲で対決し「ここを通りたくば僕を倒してからじゃないと」なんて悪役、しかも中ボスキャラのような台詞を言い子供に勝って喜んでいた。
三日後には下克上されていたけど。
「ナマエ、これでいいか」
「お父さんに勝ったくらいじゃ全然ダメだもん!」
という私の言葉にも父は落ち込んでいた。
140730