不幸と幸福は数珠繋ぎ | ナノ
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リヴァイは人気だ、それは少し考えれば容易に想像がつく。
だとすればリヴァイの傍に、不幸の体現者のような私がいることに不満を抱く人々が生まれるのも当然のこと。

宿舎の下を歩いていれば二階から水をかけられたり、
「アンタが近くにいるとリヴァイさんまで不幸になるでしょ!」
と今この時のように訓練場の隠れた場所で暴行を加えられたりする。

兵士として訓練を受けているだけあり表立っては見えないが痛みが大きいところに拳やら蹴りやらを喰らわせてくるのは上手だ。
だけど私は普段から様々な理由で怪我をしているためその点は特に気にしなくてもいいと思うが、あえては言わない。


「リヴァイは強いから大丈夫だよ。それに私もリヴァイに不幸がふりかからないように努力はしてるし、リヴァイは大元の私の不幸でさえ、蹴散らせちゃうんだから」


リヴァイのことを想えば自然と心が嬉しさやらで包まれるのでにっこりと笑えば、気に障ったらしい、腹に膝を入れられた。


「釣り合わないのよ!アンタじゃ!分かる!?」
「分かるよ!それは私が一番よく分かってる!幸せの頂点と不幸の頂点だからね、天秤に乗せたりなんてしたら私の重さでリヴァイ吹っ飛んでいくくらいだと思うんだ。…あ、でも最近は逆に、磁石のN極とS極というか、真逆すぎてある意味では釣り合ってるんじゃないかとも思うんだよね」
「ハ、ハァ!?もうやだ、わけ分かんない!」
「も、もう行こ行こ!」


彼女達はいつも最後には気持ち悪い何かに触れてしまったかのように顔を歪ませ手をパンパンと払い少しだけ動揺、混乱しながら去っていく。

そういう反応は少なくないし、同じ兵士とはいえ街で仕事をする彼女達の攻撃をいくら喰らおうが、ハッキリ言って長年ありとあらゆる不幸に遭ってきた私にとっては屁でもない。

けれど靴で蹴られたことによって服が少し汚れてしまったので、草の上に腰を下ろし手でそれを軽く払っていると、誰かが歩いてきたのが見えた。


「や、はじめましてだよね」
「うん、はじめましてだね。でもリヴァイから少し話を聞いたことがあるよ」
「私も、あれだけすごい能力を持つリヴァイのことが気になったから観察してみると、そこには大体いつも君がいるから、君のことを知ってるよ。ーー私はハンジ・ゾエ。よろしく」
「私はナマエだよ。よろしくね」


隣に座ると私と握手を交わすハンジに、この人は私に対して敵意や嫌悪が無いんだなあ、と思う。


「ちょっと聞きたいんだけどさ、どうしてナマエはやり返さないの?訓練とか壁外調査の時にナマエのことも観察してたんだけど、さっきの奴らの攻撃を、避けるどころか反撃するのは簡単なハズなのに」


ハンジいつから見てたんだろう、とか、見てたとしてもどうしてこの質問をしたんだろう、とか、不思議に思うけれどハンジの問いに意識は行って、私はウーンと唸る。


「釣り合ってないことは一番に実感してるからかなあ」
「リヴァイとナマエが?だから彼女達の憤りを享受してるの?」
「彼女達の憤り……っていうよりも不幸をかな。観察してたならハンジも知ってると思うけど、私はこの体質もあるから余計に、何の困難や障害も無く幸せを得られるとは思ってないんだ」
「アハハ!つまり彼女達はナマエにとって困難や障害か!…まあ確かに、人はあなたのことを不幸体質だと言うようだけれど、私からすればさっきのようなことをする彼女達こそ、不幸そのものだと思うけれどね」


ところで、とハンジは鼻息荒く顔を寄せてくる。
とても楽しそうな、興奮しているようなその様子に首を傾げた。


「ナマエのその体質って本物なのかい?最近ではどんな不幸に遭った?観察対象が多いから、実はナマエのことをそこまで詳しくは知れてなくてね。それにリヴァイが邪魔してくるんだよ!」
「それはきっと、ハンジに不幸をふりかからせないためだと思うな。最近だと落雷とか大きなものもあったし」
「落雷!?ちょっとナマエ、今度詳しく調べさせてよ!」
「ハンジが良いなら……」


私の両手を握りしめキラキラとした目で見つめてくるハンジに半ば呆気にとられながら言えば、もちろん!と嬉しそうな声音で答えが返ってくる。


「ならナマエにとって彼女達は、取るに足らない困難…と呼べるかどうかも怪しいところだね。まあリヴァイに熱を上げてる人なんてのも、数えれる程度しかいないしーー」
「えっ!?数えられる!?」


急に声を上げ驚愕に顔を染めた私にハンジはびっくりした様子で続けて口を開く。


「だってナマエに手を上げてたさっきの奴らも、毎回同じ面子じゃないのか?」
「ーー!言われてみれば…………リヴァイのことだから、人類全員かと思ってた」


ハンジは私のことをマジマジと見ていたかと思えばアッハハハハ!とたまらない、という風に笑い声を上げた。


「リヴァイとナマエはどっちもどっちだね。ーー確かにリヴァイは、人類の希望という面から見れば熱を上げている人はとても多いだろうけれど、それでも英雄というイメージと違う、なんて話も多々あるのさ。潔癖だとか、粗暴だとかってね」
「へえー、そうなんだ……私にはよく分からないな」
「君にもいるって話を聞いたことがあるよ。幸薄そうで儚いのがいい、守ってあげたくなるってね」
「アハハ、変わった人もいるんだね。だけど自分の不幸は自分で振り払えるようにって思ってるから、いいや」


ハンジが私を見る。
先ほどまでの純粋な好奇心や探求心は無く、明るくて、そして優しい瞳だった。


「それでも、リヴァイとは一緒にいるんだろ?」


うん、と私はにっこり笑う。


「キッカケは確かに、リヴァイが私の不幸すら蹴散らせるくらい強かったからだよ。だけど、たとえ私が自分の体質を完璧に手懐けられたとしても、一緒にいたいの。ーーリヴァイは私の、幸せだから。ーーだからリヴァイのそばにいられるためなら、どんな困難だって乗り越える」






「ーーだってさ。ナマエって真っ直ぐでいい子で可愛いね」


食堂でハンジからナマエとの話を聞いたリヴァイは立ち上がる。


「案内しろ」
「もしかして、ナマエをいじめてた子達のところ?」
「守りたいとか抜かした男のところにもだ。平和ボケした話をしてるところからして、内地に行く連中だろうがな」
「ご名答。私としては筋肉の動かし方だったりと色々観察出来て嬉しいけど、程々にね」




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