ここ最近の不幸は二つ。
まず一つ目はハンジと一緒に、特別作戦班が専用施設兼兵舎として使うようになった古城に訪れた時のこと。
「エレンに会えるんだ、待ちきれないよ!」
「ハンジそんなに急いでると転んじゃうよ、ただでさえ今は私の近くにいるんだから」
「大丈夫だよナマエ、ほらもう着いたんだか、らっ…!」
「は、ハンジ!ごめん私の不幸のせいで…!」
リヴァイ班の人達がいる部屋の扉が重かったのかかたかったのか、勢いよく開けようとしたハンジはそのまま手と顔をゴン!と木のそれにぶつけると、うめき声を上げながらしゃがみ込む。
私はハンジに不幸感染させてしまったことにショックを受けながらも、キッと目前の大きな扉を見やって、それに両手をあてる。
「自分の不幸の後始末は自分で付けるよ、ハンジ…!」
「いたた…違うよナマエ、今のはナマエのせいじゃなくてーー」
「えっ?」
そうして重いのかかたいのか、まあ敵である扉を開けようと力を込めた瞬間、あっさりと中から扉が開かれた。
驚いた表情のペトラが視界から消えていく。
バランスを失った私はベシャッと間抜けに床に倒れ込んだ。
「ナマエさん、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫だよペトラが気にすることじゃないから、私の不幸のせいだから」
机を囲みお茶していたリヴァイ班の人達から視線を向けられて、恥ずかしくて笑う。
するとリヴァイが私の前で膝を折ると片手を取った。
「怪我はしてないか」
「うん、大丈夫だよリヴァイ」
ーーそして二つ目の不幸は、これまたリヴァイ班の人達と一緒にいる時。
外でお昼ご飯を食べていたり、お茶を飲んだり、話をしているリヴァイ班の人達。
私がリヴァイのところに行こうと、エルドやグンタやエレンが座る机の横を通った時、エレンがスプーンを落とした。
だから私はそれを拾ってエレンに渡した。
「はい、エレン」
「すいません、ありがとうございます!」
ただそれだけのことだった。
なのにーーエレンが顔を歪めたかと思えば爆風が起こって。
事態を把握できないまま飛ばされた私の視界にうつるのは、巨人化したエレンの腕。
その瞬間、血の気が引くのを感じた。
飛ばされた場所からエレンの元まで走っていくと、エレンがわざと巨人化としたと思ったんだろうオルオ、ペトラ、エルド、グンタが刀を抜きエレンを睨みつけているのが見えた。
そしてそんな四人を制止するリヴァイ。
私はやっと場所へと戻ると涙目になりながら、巨人化した腕を抜こうとしているエレンを背中から抱きしめた。
「ごめんねエレン抜けないんだね、ごめんね私の不幸のせいで…!」
「えっ、ナマエさん!?」
「私も後ろから引っ張るから、ごめんねエレンも協力して…!」
「は、はい!」
「兵長、ナマエさんも危険です!離れてください!」
私はエレンの体を引っ張りながら、そう声を上げたペトラを首だけで振り向く。
「違うんだよペトラエレンはわざとじゃないの、私がスプーンを渡したから、私の不幸のせいなの…!」
「離れるべきはお前らの方だ、がナマエ」
するとリヴァイに名前を呼ばれたので疑問符を飛ばす。
「お前は引っ付きすぎだ、離れろ」
「あ、そうか私が近くにいると不幸の連鎖で…それじゃあエレン、私前から引っ張るよ!それならエレンから少しは離れるから不幸も…」
そう言って巨人化したエレンの大きな腕を回り込んで触れてーー声にならない叫び声を上げた。
「うわあああああついいいいい」
「ナマエ!」
あまりの熱さにゴロゴロと地面を転がると、リヴァイが私の名前を呼び駆け寄ってこようとした。
けれどその瞬間、遠くの方から声が聞こえて。
「エェレェエエエエン!!」
「この声、まさかハンジの…!」
予想通り、走ってきたのは巨人への好奇心が人類一なんじゃないかと思うハンジで。
ハンジと、巨人化したエレンの腕。
そこから求められる結果に私は慌てて口を開こうとしたけれど、時既に遅かった。
「あッッッつい!!」
「ハンジごめん!私がもう少し早く伝えていれば…!」
・
・
・
ーーというわけで不幸が溜まりに溜まった気分になった私は、リヴァイの部屋の扉をノックした。
「リヴァイ、今少し時間ある?」
「ナマエか、どうした」
部屋に入るとリヴァイが机の奥の椅子から立ち上がって私の元へ歩いてくる。
私はそんなリヴァイを見つめた。
「リヴァイ、抱きしめても、いい?」
「ああ」
問うとリヴァイは少し驚いた表情をしながらも、直ぐに抱きしめてくれる。
私もそれに甘えてリヴァイの背中に手を回し、大きく息をする。
すると自然と笑顔になった。
「どうした」
「最近不幸が溜まってた気がしたから、幸せを補給してるの」
言うと力が強くなって、リヴァイは私の髪に顔をうずめる。
「…うん、補給完了」
「待て、俺がまだだ」
140305