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とある日のこと、テレビで特集されていた米花町の有名なケーキ屋さんを見て快斗が美味そうと興奮していたので散歩がてらに買いに来ていた。
するとバッジにコナン君から連絡が来て、どうやら私に会いたいと言っている人がいるらしい。
デジャヴを感じるそれに断るという答えが喉の奥まで出掛かった時、バッジの向こうから聞こえたのは蘭や園子、真純の声だった。


そう何人にも頼まれて断るわけにもいかず、指定された公園へと私は歩みを進めたーー警戒心を肌の外側皮一枚程度に纏わせながら。



着くと見えたお馴染み一行、に加えて眼鏡をかけた浅黒い肌の青年。
年は蘭達と同じくらいだろう。


私に気づいた一行は可愛らしく顔を輝かせて手を振ってくるが、唯一彼だけは息をのむと真剣な表情に緊張感を含ませながら歩いてくる。
そうして近づいたところでお互いに足を止め、対峙し合った。


「私は名字名前だよ。君かな?私に会いたいという人は」
「はい、京極真と申します。急な願いを聞いてくださり……それにしても、園子さん達の言っていたように本当にお強いんですね。無駄、隙の無い立ち振る舞い。一目見ただけで思わず構えを取ってしまいそうになる程の闘気…」
「初対面なのに不躾で悪いね。普段はこんな真似はしないのだけれど、理由があるんだ…………君は、探偵かな」
「は……えっと、探偵、でしょうか?いえ、自分は体を動かすことはともかくとして、頭を使うことはさっぱり…」


呆気に取られている彼の様子に、どうやら違うだろうということは分かったが、言葉にして否定してくれた彼に息を吐きながら微笑む。
頭を使うことはさておき、少なくとも嘘を吐けるタイプでは無さそうなので、真実だろう。



東西南北の残りの高校生探偵の一人じゃないかと、疑ってたんだよね……。



私は失礼にも纏わせていた警戒心を完全に取り払い、それどころか歓迎の心で彼に手を差し出した。


「失礼なことをして悪かったね。出逢いは素晴らしいものというけれど、最近はどうにも一癖やら二癖ある個性的な人達ばかりだったから……」


歩いてきたコナン君をちらりと見ながらそう言えば、彼は頬をかきながらアハハ…と乾いた笑い声を漏らす。
そうして手を重ねてくれた優しい青年に向き直ると、しっかりと握手を交わした。


「はじめまして、園子の彼氏さん」


にっこりと微笑みながら言えばボッとその浅黒い肌を赤く染めた彼にウブだな、と思わず笑い声を漏らす。


「ご、ご存知でしたか」
「まあね……そしてどうやら強いと聞いたから私に会いたいと言ったようだけれど……」


いいの?と私は園子を見る。
服部くんと和葉の一件があったからだ。


「元々真さんのことは、名前さんに紹介しようと思ってたんです。でも、服部くんのように夢中になられるのはちょっち困るから、名前さんは武術とは関わりの無い人だって言おうとしてたんですけど…」
「僕が言っちゃったんだよね」


特に悪びれていないようで、八重歯を見せながら笑い言ったのは真純。
そんな彼女に呆れたような視線を送っていた園子はそのまま蘭も見る。
蘭は申しわけなさそうに頬を少し赤く染めながら苦笑した。


「だって、名前さんと彼が戦うところ、見てみたかったんだよ。きっと下手な試合よりずっと見応えがあるぞ!」
「つ、ついつい私も世良さんに乗っかって、名前さんのすごさを言っちゃって…」
「まあ隠したところで、真さんは名前さんが強いっていうことを瞬時に見抜いちゃったわけだから、意味なかったと思うけどね」


コナン君から決定打を喰らわされ、園子はガックリと肩を落とした。

その様子を見て私は京極君に向き直る。


「君、園子とは遠距離恋愛で久しぶりに会えたんでしょう?ならば私のことは良いから二人の時間を大事にしてはどうかな。君に中々会えていないと嘆く園子はとても可愛らしかったよ、見られない君に同情するくらいにね」
「やだもぉ!名前お姉さまったら」


ポッと赤く染まった頬を両手で包む園子と、そんな彼女を同じく頬を赤らめながら嬉しそうに見る京極君。
二人を中心に広がるピンク色の空気や花が目に見えそうで微笑ましい。


「けど、駄目なのよ名前さん。真さんってばこうなったらもう止まんないんだから!なんせ強い相手を求めて留学するくらいですよ!?」
「へえ?なら日本にはもう彼の敵はいないんだ」
「日本どころか世界でも、京極さん、公式戦400戦無敗なんですよ!」


蘭の言葉にピクリと眉を寄せる。
と、真純が楽しそうな笑顔で肩を組んできた。


「あーっ、名前さん、今反応しただろ。蹴撃の貴公子と呼ばれるこの彼と戦いたくなった?」
「へえ、蹴撃…足技が特に多いんだ……まあ好戦的では決してないのだけれど、自分の立ち位置を知るためには絶好の相手だとは思ったよ」
「ならば是非、お相手を!…といっても、あなたが本来学んでいたのは剣道のようですし、竹刀が無いのが少し残念ですが」
「けど竹刀があったら名前さんが有利になりすぎちゃうんじゃないか?何人もの拳銃を斬り落としたって話だし」
「で、でもそれなら京極さんもライフル銃の弾丸を避けれるし…」


蘭の言葉に思わず目を丸くして彼をまじまじと見る。


ライフル銃の弾丸を避けた……?
彼、本当にこの世界の住人か……?


「それに京極さん、石柱折ってたしね」


大事なことなので二度言うけれど、彼、本当にこの世界の住人か……?


「園子が良いのなら、彼の蹴りを受けてみたいな」


と、半分冗談(半分本気)なことを考えながらも園子と京極君の二人を見ながら願いを言うと、園子は固く頷いてくれ京極君は構えを取った。




私と彼から距離を取る他の四人。


「名前さん、京極さんって、本当に強いですからね!」
「名前さんは竹刀無いんだし、まあ無くても強いけど、手加減しろよー!」


心配そうな蘭と楽しそうな真純の言葉を聞きながら私は彼に微笑む。


「お手柔らかに頼むよ」
「ご謙遜を……では軽めからいきますね」


丁寧な物腰の彼は眼鏡を外しシャツの胸ポケットに仕舞うとーー表情を変える。


来る。


瞬時に判断し顔の左横に手をやった瞬間、訪れる衝撃。
私の手によって防がれた、彼の蹴り。



「ーー成る程、良い速さだ。それに強さも……確かに君、強いね」


京極君を含め呆気に取られている五人を横目に私はプラプラと手を振りじんわりと広がる痒みを逃げさせる。


「も、もう一度手合わせをお願いしたいのですが」


構え直した彼に頷き、再度彼の蹴りを受ける準備をする。


地から離れた彼の足の速さ、そして強さが先ほどとは格段に違うことを察知した私は軽く地を蹴り宙でそれをまず右手で受ける。
けれど威力が強いため右手を流して衝撃を捨てると左手を添えるようにしていなした。



威力を無くされ足の行き場を無くしたまま再び呆気に取られている彼に微笑みながら、痺れている右手をさする。
と、蘭と真純が駆け寄ってきた。


「名前さん、今のどうやったんですか?」
「いなしたんだよ。男女の力の差は無視できないもので、それを埋めようとして編み出したものだから得意な方だよ」
「今度それ僕にも教えてよ!」
「ぜ、是非自分にも…!」


すると武術を学ぶ真剣さと、強くなれる嬉しさを合わせたような表情の京極君も参加してくる。


君には力をいなす必要は無いよね……という私の心の呟きは、この場にいる他の誰もと共感出来そうだった。















「名前さん、どうしたんスかこれ!?」


裏の世界が存在するにせよ、世界最強の実力を少しだけれど体感出来た私は、これ以上若い恋人達の邪魔という無粋な真似はするまいと、予定通りケーキを買って黒羽家に帰宅した。
すると数分後に帰ってきた家の主人を出迎えたところ、少し赤くなった右手を取られそう言われたのだった。


「大丈夫、赤くなってはいるけれど痛くもないし」
「何があったんスか?」
「…米花町で世界最強と手合わせしてきた…なんてところかな」
「せ、世界最強!?」


驚いた快斗は顎に手を当てて何やらブツブツと言っていたかと思えば次いでジトッとした目で私を見やる。
青子ちゃんと似たような、ころころと表情の変わるそれは見ていてとても可愛らしい。


「名前さんてば、もう米花町には行かないでって言ったじゃないですか」
「用事があったんだよ。手合わせは予定していなかった。…ふふ、子供のように膨れているね」
「子供じゃないですー」
「おやそう…子供ならばあやしてあげようと思ったのだけれど」


膨れっ面をしていた快斗は途端に顔を輝かせる。


「そ、それってどんな風にですか?」
「ふむ……高い高いなんてどうかな」
「いや無理ですし!…俺としては、優しく胸に抱いてもらいながら、これまた優しく頭を撫でてもらうのが希望なんですけれど」
「それも良いのだけれどね快斗、君がもっと喜ぶ物があるんだよ」


そうして冷蔵庫に入れていたケーキを見せればまるで飛び跳ねるかのように喜ぶ快斗に、私はまた微笑んだ。




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