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火影室からの帰り道、日が沈み店や家に明かりが灯る夜、私はサスケに手を繋がれ引かれ、何故だかグルグルと里の中、それも人通りが多いところを歩き回りながら私の家へと送ってもらっている。

サスケと手を繋いでいることに、火影室を出て直ぐの時は、速く動く心臓を感じていた。
けれど現在進行形で興味津々といったふうに注がれる周りの人達からの視線にそれも消え去った。


血の気が引いたせいか酷く冷静な頭で考える。




待てよ私ーー殺されるんじゃないか?




注がれる視線に殺気が含まれているような気になってくる。
あちらこちらでざわざわと交わされている会話が、私の暗殺計画について話しているような気になってくる。


いや、だって……私はなんてことをしてしまったんだ?
さっきは頭もよく働かなくて、う、嬉しさが勝っていたからそう深く考えていなかった。
けれどやはり、おこがましいことだ…!
フラグメーカーのサスケと私が、なんて…。


考えると胸のあたりに現れる、嬉しいという感情。
そんな場合かと一人首を横に振った。


サスケはフラグメーカー、つまりサスケは多くの人と恋愛のフラグを立てる。
つまりその多くの人からすると私はーー抹殺対象。



待てよ私ーー殺されるんじゃないか?



溜まった息を苦しくなって吐く。


いや、少し早計すぎる。
恋愛のもつれで殺人なんて、まあそう頻繁にあるわけじゃないしなにより勝手にそういうことをする人だと考えるなんて失礼だ。
それだけサスケが魅力的だということもあるけれど、同じ木の葉の忍なんだ、まさかそんなことーー。


はた、と私は止まる。


サスケに惹かれる忍はなにも木の葉の人達だけじゃない。
他里の人達…五大国は同盟を結んでいるからまだしも、任務先での女性などにとって私は抹殺対象。



待てよ私ーー以下省略。



「ね、ねえ、サスケ」


首だけで振り向いたサスケに、私はひきつったような笑顔で眉を下げる。


「どうして今日は町の中をたくさん回って帰ってるの?いつもはなるべく人通りの少ない道を使ってるのに」


私の問いにサスケは息をこぼすように、そしてどこか愉しそうに笑った。


「虫除けだ」


そして一言言うとまた前を向いて私の家への帰路を
歩き始める。
私も変わらず手を繋がれ引かれながら首を傾げた。


虫除け?
ということはサスケ、数ある自分のフラグを折るためにわざと見せつけて…?
…本当に、いいのかな…多くのフラグの中からじゃあなくて、私がサスケと…。


だけどーー好きなんだ、嬉しい、幸せなんだ。


少しうつむき唇を噛んでいた私は、サスケと繋いでいない方の手でグッと握り拳を作る。


少しでも相応しくなるために、今まで以上に任務にも精を出さなきゃ…!
明日からは、体調不良の原因が分からず対処に悩んでいた最近までとは違う。
原因が自分の感情だと分かった今、きちんとコントロールして明日からの任務に臨む…!


と決意新たにしていたところ、家に着いた。
私はサスケににっこりと笑う。


「いつもありがとう、サスケ」
「…いや」
「それじゃあーーサスケ?」


礼を言い家に入ろうとした時、サスケに腕を掴まれて首を傾げる。
もしかして、送ってもらってそのまま帰すのは申し訳ないからといつも誘っていた夜ご飯を今夜ついに受けてくれる気に…!?


「…とりあえず、今日は帰る」
「えっ…う、うん、分かったよ」


サスケ、思わせぶりなんていうテクニックも身につけていたのか…!


今日も断られたことに申し訳なさから眉を下げると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。


「ウスラトンカチ、そんな顔するな。今日は冷静になりたい、じゃないと名前、お前をーー」


口を閉じ言葉を途切れさせたサスケに首を傾げるとサスケは、いや、とだけ告げる。
そうして私を抱きしめた。
耳元で、嬉しそうに笑った息がこぼれる。


「じゃあな」


鼓膜を声が震わせた次の瞬間には、サスケの姿は無くなっていた。















ーー次の日、四人での里外の任務を無事終えて木の葉へと戻る帰路の中、私は一人危機感に苛まれていた。



自分の感情なのに、コントロール出来ない……!



今朝からずっとサスケの顔を見れないし、だけどサスケがこっちを見ていないときは目で追ってしまう。
一瞬視線が交わった時があったけど、心臓がそれはもう祭の時の太鼓のように鳴り始めたので瞬時に逸らした。


私の体はいったいどうしたというんだ…!?
脳の勘違いが激しく困る、祭なんて開催されてないぞ…!?
というか、自分の感情ならばコントロール出来ると思っていたけれど…考えてみれば私、みんなの物語を見ている時もコントロール出来ていない…!
脳内は言わずもがな、感動やら興奮がにやけることで現れてしまっている…!
咳で隠してはいるけれど。


駄目だ駄目だ、と私は一人首を横に振る。


完全なるポーカーフェイスを目指せ…!
いや、この際悟りを開くんだ!
この世のものすべてに対する一切の執着を無くーーせない!
無理だ、無くせない!
というかもし出来たとしても、みんなの物語を見ることは私の生きがいなんだ、そんな人生嫌だ!


ハァーとため息をつくと里へ帰る歩みを止めないままに少しだけ後ろを見る。
そこにはリクを見ながらサスケにくっついているソラと、どこか不機嫌そうなサスケがいて。

私は視線を前に戻すと不快感を感じた胸あたりの服を握りしめた。



一番良くないのはこの、嫉妬心だ。
もちろん、嫉妬が悪いわけじゃない。
ナルトがサスケに嫉妬していたの然り嫉妬はとても素晴らしくそしてたぎるものだ。

ただ、私が嫉妬をしていいのか!?
答えは否!
フラグメーカーのサスケに独占欲のようなものを覚えていいのか!?
答えは否だ!


私はサスケが好きで、サスケも私のことを…すっ、好きだと言ってくれた。
お互い抱いている想いが同じものだった。


けれど、それとこれとは別問題。
相応しくなれるよう頑張ることは決めたけど、これ以上線をこえたら問答無用で抹殺される。



パンパン、と頬を叩いて気合いを入れ直す。
と後ろからリクが驚きを含んだ不思議そうな顔で私をのぞき込んできた。


「名前さん何してるんですか?」
「あはは、もっと強くならなきゃなと思って」
「えっ!もっとですか?」
「うん、どんな時でも表情に出さない冷静さを鍛えたいんだ」
「拷問とか、ですか?」
「拷問…確かに、情報を割らないため何をされてもポーカーフェイスを貫くことは通じるところがあるね。うん、そういうこと!」
「拷問なら、俺の同期がいますよ。訓練次第でどうにでもなるものだって言ってましたけど、本当かなあ」
「訓練、か……」


すると後ろから手を引かれた。
え…と振り向いていく視界の中で、頬を膨らませながらリクの腕を引っ張るソラの姿が見えて、私がデイダラさんなら心拍数やら体温の上昇で本当に爆発していた。


けれどそれよりも、私の手を引いたのがサスケだと分かった瞬間心臓が跳ねた。
顔に一気に熱が集まりのを感じる。


「ーーっ」


そしてそんな私を見て驚いたサスケの顔も次第に赤くなっていく。


「き、昨日の夜サスケさんと名前さんが手を繋いでたって噂がすごい早さで回ってましたけど、まさか、そういことですか?」
「えっ」


ソラの言葉にリクが反応する。


「それなら俺も、昨日の夜お前たち二人が抱き合ってたといのから聞いた」
「えっ」


サスケの言葉に私が反応する。
木の葉の里のもう近くまで来たので微かに人々の声が聞こえる中、様々な表情の私達四人の上をカラスが馬鹿にしたように鳴きながら飛んでいった。







結局リクがソラの腕をつかみ返すと「任務報告は俺達が」と告げ瞬身で消えた。
ようやく生で見れたその強引さに思わず刮目したけれど、サスケと二人きりという状況に私の脳が閃いた。


「名前、本当にこれが修行になるのか…?」


困惑しているサスケの問いにまず謝罪をしてから頷く。
修行につき合ってくれないかとサスケを誘い演習場へと来た私達は大きな木の下で腰を落ち着けていて、加えてサスケには目を閉じてもらっている。


リクの言葉、訓練次第でどうにでもなる!
というわけで、サスケと目が合うと心臓が大変なことになるので目をつぶってもらった。
こうして距離が近くても、目が合わなければ鼓動の速さはさっきの半分ほどになる。


ホッと息をつきながら、サスケの手に自分のそれを重ねると途端に高鳴る心臓に頭を抱えたくなる。


前までサスケに手を引かれたり、慰めるため抱きしめられたりすることは平気だったのに……。


「サ、サスケ」


するとサスケがいつの間にか目を開いていて、そうして後頭部に手をやるとそのまま引き寄せてくるので私は意味もなく口を開閉した。
サスケの訓練、スパルタすぎる…!


「名前」


至近距離でサスケは止まって、私の名を呼んだ息が唇にかかる。


「……キス、したい」


そうして小さく、掠れた声でつむがれたその言葉に、私は半ば反射的に口を開いた。


「む、無理……!」
「ハァ!?」
「出来ない、だって心臓がドキドキして……!」


するとピクリと目を見開いたサスケが顔を寄せようとしてきたので、サスケの口を両手で覆う。


「待ってサスケ、死にそう…!」


けれどサスケは少しだけ笑うと「知るかよ」と言い、もう片方の手で私の両手をまとめると真っ赤な顔で呟いた。


「こっちだって、死にそうなんだよ」




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