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米花博物館、二階の大広間。
その出入り口を塞ぐように立ちはだかる十人程の武装したテロリスト。
この日本で一様に拳銃を持っていることからしても、国際的な犯罪集団だということは確かなようだ。


彼らは私達パーティーの参加人に指示を出した。
まずは、両端にある螺旋階段を上りギャラリーへと上がれ、ということ。
そうして列になり階段へと向かう私達に銃口を向けながら、ある者は白い布袋を持っている。
携帯電話を持つ者はそこに差し出せ、ということらしい。


その手口は手慣れたもので、私が先程までいたテラスも今はすべてテロリストが立っている。
ここは二階なのでテラスから飛び下りることは、まず大多数の人は無理だろうけれど念のため、ということか。


私も大人しく従い列に並びながら、広間の中を見渡した。


武器を持っている犯罪者が十人もいるので当たり前だが客は皆怯えている。
けれど不安からか恐る恐るささやく声は止まりはしない。

そうしてそんな中見つけた知り合い達は明らかに周りとは違っている者が何人かいた。
歩美ちゃん、光彦くん、元太くんや園子は流石に怯えているようだけれど、毛利親子は厳しい顔でテロリスト達を睨んでいるし、コナン君と安室さんは状況を見定めながら機をうかがっているように見える。

別の場所で快斗も、役に徹していて客を案内しながら何か落ち着かせようと声をかけている。



そうして客のほとんどがギャラリーへと上がらされた頃、私の順番が来たので怯えた表情を作り震えた声で携帯電話を持ってないことを告げた。
すると案外アッサリと顎で螺旋階段の方を示されたので、従い歩く。


階段を上れば同じ側のギャラリーのちょうど中頃辺りにコナン君らの姿が見えたので、そこまで向かう。
そうして先程同様怯えてはいるのだが何かを決意し闘志を燃やしているような少年探偵団の良い子三人に気がつき、膝を折った。


「君達、良いものを持ってるね」


三人が囲んでいたのは展示されていた日本刀。
私の声に気がついたコナン君が振り返り、そうして驚きと少しの怒りに顔を染める。


「おい、なんでお前らそんなの持ってんだよ!?」
「この日本刀を持って見ていた時にテロリストが現れたから、ついそのまま持って来ちゃったんです」
「俺の背中に隠してたら、あいつら気づかなくてよ!」
「この日本刀、ちょっと短いもんね」
「バーロー!使い慣れてない武器は怪我をするだけだ!大体、あいつらは全員銃を持ってる。刀だけで対応するのは無理だ!」
「そうだね、最初の方は私もコナン君に賛成だ」


そうして私は白の手袋をしたまま、刀を持つ元太くんの手からそれを優しく受け取った。


「安室さん、どうする?」
「そうですね…彼らテロリストを見過ごすわけにはいきません、ですが外部の警察に頼る手は、彼らを刺激する要因になりかねない。中にいる僕らだけでどうにかするのが得策かと」


息で話す二人の会話を耳にいれながらも、目はテロリスト達を捉える。

客を全員ギャラリーへと上げたため、テラスの前に立ちはだかっていた者達も一旦リーダー格の男性の元へ戻る。
そうして彼らは大きな鞄を取り出すと、展示物をその中へ突っ込んでいった。


毛利さんの隣にいる館長が悲痛な声を上げる。


客が大広間を見守る中、例の書物も盗まれるのを見た私は館長へと近づき手にしていた日本刀を見せる。 


「ねえ館長さん、この日本刀少し使ってもいいかな。もちろん、なるべく刃こぼれしないよう気をつけますよ」
「えっ!?あ、あなたは何を…」
「私が彼らテロリストを倒します。それにはこの日本刀があった方が断然捗るんです。そしてお願いが…彼らを倒して重要な財産を取り戻す代わりに、先ほど話していた解読出来ない書物を少しの間貸して欲しいんです」
「と、取り戻していただけるのならそれはお安いご用ですが、まさかそんなこと…」
「了承さえいただければ十分です」


するとそんな私の腕を毛利さんが掴んだ。
蘭も驚いた表情で私を見ている。


「何を言ってるんですか、あなたは!銃を持った男十人にあなた一人で敵うはずが無いでしょう」
「そうですよ、いくら名前さんが強いとはいえ…!」
「百聞は一見にしかず、とりあえず見ていてください、大丈夫ですから」
「いや、見ていてくださいって…!」


毛利親子と話しながらも私の意識が行っているのは下の大広間。
テロリスト達が展示物を盗み終えようとし逃亡の準備を図りだしたのを視界にとらえて、私は靴を脱いだ。


「名前さん、何してるの!?」


するとコナン君が驚いたように、小さい声で問うてきた。
そうして静かに近づいてきたコナン君と安室さんに微笑む。


「このギャラリーは結構高さがあるからね。降りた時、私自身には何も問題は無いのだけれど、この靴はヒールも高いし借り物だから、万が一の壊れるという可能性を排除しようと思って」
「まさかあなた、その日本刀ひとつで彼らに立ち向かう気ですか!?」
「そうだよ、盗まれては困るからね。…内部にいる者だけでどうにかするとなればこれが最善策だよ。君達は君達のなすべきことをするんだ」
「名前さんを止めることだよ!」
「いいや違う」


直ぐに否定しコナン君を制する。
右手に刀を持ち左手の指に靴を二つ引っかけて、私は左右にそれぞれ目をやった。


「少年探偵団の彼らや園子や館長さん等、怯えている人々を守るんだ。跳弾の恐れもあるかもしれないしね」


なんて、跳弾なんてあるわけないのだけれど。
彼らテロリストに、銃は使わせない。


毛利さんや安室さんも見たところ体術らの心得はあるみたいだけれど彼らも蘭も、流石にこのギャラリーから飛び降りることは出来ないはず。
今いる場所は螺旋階段から少し距離があるから、例え彼らが大広間に降りた私を止めようと向かってもいくらかの時間はかかる。

それだけあれば、十分だ。



お宝を詰め終えリーダー格の男のところへ集合しているテロリスト達。
私は床を軽く蹴るとギャラリーの手すりに足をかけ、そのまま宙へと体を投げだした。


部屋中の者の視線が集まるのを感じながら、大広間の床に音もなく着地する。


指に引っかけた靴を静かに床に置き足を通す。
肩にかけていた鞄を床に置く。

上のギャラリーで何人かの走り出す音が聞こえる。




私は刀の柄を掴み、鞘からその刃を抜いた。
刃と鞘が擦れる音、光を映す銀色、馴染み深い柄の感触。
懐かしいものだ。


何故だかギャラリーの走る音が止まって、場所には静寂が訪れる。


「おい…なんだお前?その刀ひとつで、俺達と戦うつもりか?」


馬鹿にしたように笑い合うテロリスト達に、私も唇で弧を描く。
鞘を床に置き刀を両手で構えると、足の先に力を入れていく。


「そうだね、そうして笑い、油断していてよ。その間にーー」


速さを意識して、床を蹴る。
一瞬で近づいた私に驚く彼らテロリストの目を見て微笑んだ。



「終わらせるから」



十人の間を縫いながら、彼らが手にする銃を斬る。

最後の一人の武器を斬り終え床を蹴り、少しの距離を取ったところでボトボトと落ちる銃だったもの。


私は刀を一振りすると、青ざめているテロリスト達を尻目に手を立て刃を見遣った。


「レプリカか…けれど、中々良い刀だね」


切れ味の良さに一人感嘆してから、視線をテロリスト達に戻す。


「さて…君達が手にしていた銃はすべて使い物にならなくなってしまったわけだけれど、他に隠し持っている武器は無いかな?もしあれば大人しく出した方が身のためだと今分かったとーー」


私はそこで言葉を途切れさせるとハッと振り返る。
再び走る足音が耳に届いたからだ。

声を上げながら毛利親子や安室さんが向かってきて、すっかり怖じ気づいているテロリスト達に拳やら足やらを繰り出し背負い投げる。
コナン君はどこから持ってきたのかサッカーボールを蹴り、それは凄まじい威力でテロリストに直撃し彼を吹っ飛ばす。
ウェイターも一人…快斗も下りてくるとテロリストを倒す。
そうして見事に制圧されたテロリスト達に、大広間には他の客からの喝采が沸き起こった。



一人残らず気絶したらしいテロリストは毛利さんに縛り上げられていく。
私は少し歩き置いていた鞘に刀を仕舞うと鞄を肩にかけ、駆けてくる彼らに苦笑しながら口を開いた。


「君達は、どれだけ誰かに愛されているかを自覚した方が良いと思うな」


え?と疑問符を浮かべる蘭。


「テロリストが他にも武器を隠し持っていたかもしれないんだ、それなのに近距離の戦闘に入ったら危ないよ。君達が傷つけば悲しむ人がたくさんいるでしょう?」
「一番危なかったのは名前さんです!」
「私は大丈夫。…それにしても、理由は分からないけれど君達が一度止まってくれて良かったよ。君達なら私が全員の武器を斬り終える前から突っ込んで来そうだからね」
「それは、あなたの姿がとても綺麗だったからですよ」


安室さんの言葉の意味が分からなくて彼を見つめる。
その瞳の奥に煌めく好奇心が見えて、思わず彼から距離を取りたくなった。


「刀を抜き、構えるあなたはとても綺麗だった。状況を忘れ、見惚れてしまうほどにね」
「…ありがとう」

紳士な彼が、けれど遠慮せず距離を縮めようとしてくる。
ので、にこりと微笑んで受け流す。
そしてギャラリーから下り走ってくる少年探偵団を見やり意識を反らさせた。


「ああほら、君達が心配であんなに泣いてしまってるじゃーー」


一様に目に涙を浮かべている三人を見ながら蘭やコナン君に言っていたところ、私の足に突進するように抱きついてきた三人に言葉が途切れる。


「名前さんのバカバカバカ!」


そうして歩美ちゃんから告げられた言葉に、思わずびっくりして目を丸くした。

抱きついてくる三人の手を優しくほどき、目を合わせるため膝を折る。


「名前さん、死んじゃうかと思ったんだから!」
「え……私?」
「そうですよ!銃を持ってる人達の前に飛び出すなんて危険すぎます!」


この子達は私の身を案じてくれたのか……。


手や腕で、頬を流れる涙を拭う子供達。
その優しさの先に私も含まれている、そのことに頭の奥で一瞬サイレンが鳴る。
けれど正義感から来るものだと考えて、私は彼らの頭を順に撫でた。


「君達が私に力をくれたんだよ」


目の縁に涙を乗せながら疑問符を浮かべる彼らに目を細めて微笑んで、手にしていた刀を見せる。


「君達が勇気を出して、この日本刀を彼らテロリスト達から隠して持っていてくれたでしょう?そして立ち向かう勇気を見せてくれた。…この刀が無かったら、被害を出さずにテロリストを倒すことは難しいことだった。…君達のおかげだよ」


にっこりと微笑むと、次第に顔を輝かせていく三人は万歳と手を挙げた。


「「「少年探偵団、大勝利!!」」」


可愛らしい彼らを、私も拍手で褒め称える。


するとコナン君が私の手を引いて。
三人から少し距離を取ったところで、コナン君が恐る恐るといった表情で私の耳に顔を寄せる。


「ねえ、嘘だよね…?黒づくめの組織が欲しがってるものが、名前さんの強さじゃないなんて…」
「おや、どうして?」
「だって……ねえ、本当に何者なの?名前さんって」


懲りずに私の謎を解き明かそうとしてくる小さな探偵さんに思わず息をつく。
そうして私は悪戯気に唇の端を吊り上げると、彼の脇の下に手を入れて抱き上げた。


「わっ!?な、何するの名前さん!」
「いつまで経っても約束を守ってくれない君に仕置きだよ。君は子供扱いされることを嫌うからね」
「コナン君、名前さんに抱っこしてもらってるー!」
「相変わらずの甘えん坊ですね」
「おいずりいぞコナン!」
「お、おろしてよー!」


子供らしくバタバタと暴れるコナン君を下ろし、優しくその足を床に着けさせる。
少年探偵団にからかわれ赤い顔をしながら不満そうに見上げてくるコナン君に、少しの仕返しが成功したと笑い片目を閉じた。



ーーすると外からサイレンの音が聞こえてきて、どうやら毛利さんが通報したらしい、何台ものパトカーが博物館の前に止まる音がする。

ギャラリーの上にいる客が再び歓声を上げた。


私は、ギャラリーから下りてきた館長の元へと歩き出す。


「館長さん、先ほどの話の通り、例の書物を少しの間お借りしても?」


テロリスト達の鞄の中身を確認してホッと安堵の息をついた館長は、大きく何度も頷きながら私の手を両手で握る。


「もちろんです、本当に助かりました!ーーこれが例の書物です」
「ありがとうございます」


日本刀と書物を交換する。
薄っぺらい本の形をしたそれの表紙には、禁書、と書かれていた。


禁書、ね…。
タイトルは読めたけれど、これは皆が皆読めるのかな。
中の文章が解読出来ない風になっているのだろうか…。


浮かんだ疑問を解こうと館長に問おうとして、けれど瞬間大広間の扉が勢いよく開かれた。


「警察です!もう大丈夫ですよ!」


警察手帳を掲げた大勢の人達に、ギャラリーから他の客がようやっと下に下りてくる。
館長も走って行ってしまった。


大混雑になっている出入口付近を見ながら、館長に問うことは諦めて書物を鞄の中に仕舞う。
そうして例の如く警察と関わらないよう踵を返した。


混雑しているとはいえ出入口をどうにか抜け出てもその先にいるだろう警察に止められる。
おそらく被害者といえど、私達一人ひとりにも軽い事情聴取はあるはず。
そうなっては少し厄介だ。


時節警察を気にしながらもざっと広間の中を見て、テラスから外に出ようと考える。
そうしてテラスに向けて足を向けた時、多くの人が行き交う中で誰かに手を取られた。

うつる背中は、ウェイターのもので。


「快斗」


彼の名を呼ぶも、色々な音が飛んでいるこの大広間の中では届かなかったのか、快斗は私の手を引きテラスへと進んでいく。
そうして先ほどと同じように快斗とテラスに二人きりになった時、先ほどとは違って快斗は変装のマスクを取った。

すると現れた快斗の顔は焦りに染まっていて。
ぺたぺたと私の髪やら顔やら腕やらを、何か確認するように触ってくる。


「大丈夫ですか名前さん、怪我してないですよね?」
「快斗……」


君も私のことを、心配してくれるのか…。


「大丈夫だよ快斗……ありがとう」


目を細めて微笑んで、彼を見る。
確認し終えたらしい、快斗は長くたまった息を吐くと今度は怒ったような顔で私を見てきた。
まるで悪さをした子供を叱るようだ。


「名前さん、無茶しすぎ」
「私にとっては無茶ではなかったよ。それに、言われるべきは君の方だ。…君も私がテロリストの武器を斬り終えた後直ぐに下りてきたね、危ないよ」
「名前さんだけには言われたくない言葉ッスよ」


快斗の言葉に笑いながら、手を伸ばして彼の両頬を手のひらで包む。
すると優しく細められる彼の目を見上げた。


「良かった、君も怪我は無いようだね」


頷く彼に、首を傾げる。


「そういえば君にも私の強さを確認してもらうことになったけれど……どうかな、怪盗の手伝いをさせてくれる気にはなったかな」
「名前さんの強さは分かったけど、駄目ッスよ」


手でバツを作り言った快斗に、残念だ、と変わらず笑みを浮かべたまま言う。
そして何気なく、書物を仕舞った鞄に触れた。


ならば快斗、君への恩返しはやはり、なるべく早く元の世界へ戻る方法を見つけ実践することで果たそう。
君の世話にならないことに繋がるからね。


けれど見やった博物館の外には何台ものパトカーと警察官。
おそらくは裏口も既に固められているはず。
…怪盗キッドや犯罪等のせいか、流石にこの辺りの警察はいい仕事をするね。
なんて、感心している場合じゃないけれど。


「名前さん、警察と鉢合わせたくないんですよね?」


テラスから外を眺めながら考えていると快斗にそう問われたので頷く。
すると快斗は得意気に笑って、どこから取り出したのかマントをはためかせた。
快斗のこの笑顔は、彼が私にマジックやら変装やらをしてくれる時に、よく見せる。



大広間の方では未だざわめきがおさまらない中、私の前に現れる真白な青年、怪盗キッド。


「俺が外にいる警察を引きつけますよ。名前さんはその隙に」
「君には、世話になってばかりだね…いつもありがとう、甘えさせていただくよ」
「彼らを撒くのに少し時間がかかります。昼に言った通り、今夜は遅くなりますね」
「それなら快斗、私も同じことを言いたかったんだ。今夜は少し、遅くなるね」


誰か他の人がいる場所で、この書物を読むつもりはないから。




頷いてくれた快斗はマントを掴み一礼すると、闇夜を見せつけるように飛んでいく。
気づいた警察官がパトカーに乗り込み彼を追っていき、そうして外には誰もいなくなった。


快斗の姿を見送ってから、私はテラスの手すりから下を見下ろす。
ここは二階にある大広間なので、地面まではそれなりの高さがある。
けれど先ほど降りたギャラリーから床までよりは近いので大丈夫だろう。


判断した私は、さっきと同じように靴を脱ごうとしてーー後ろから聞こえた足音に振り返った。


「靴を脱がなくても大丈夫ですよ」


立っていたのは安室さんだった。
テラスの中、割と近い距離まで接近していた彼に気づかなかったことが脳裏でひっかかりながらも、彼にいきなり横抱きにされてその考えは追い払われる。

目を丸くしながら彼の腕の中から見上げれば、にこりと笑う安室さん。
彼はテラスの手すりに足をかけると、そのまま宙へと身を投げ出した。


感じる浮遊感ーー夜の黒の中、月と同じような色の安室さんの髪が靡く。
次いで少しの振動、着地。


「先ほどとは違い、着地場所は地面です。靴を脱いでは危ないですよ」
「…それはわざわざ…ありがとう」


安室さんはにこりと笑い、いいえ、と言うと私を抱えたまま歩き始める。
そのことに脳裏で一瞬警鐘が鳴って、彼の腕の中から彼の名を呼んだ。


「ねえ安室さん」
「なんですか?」
「そろそろ下ろして欲しいな。自分で歩けるよ」
「駄目です」


安室さんは変わらずイイ笑顔で私を見た。


「だって離せばあなたはすぐにどこかに消えてしまうでしょう?」


…テロリスト達を倒したこと、失敗だったかな。
書物を奪われるのを阻止したくて、急いで、顔も隠さず大立ち回りをしたけれど……完全に興味を持たれてしまったようだ。


「すいません!事情聴取は受けられましたか?」


するとテラスから警官にそう声を上げられて、思わずつきそうになっていたため息を飲み込む。
そうして咄嗟に、顔を見られないようにと安室さんに胸に顔を寄せると、ピクリと反応した彼は私の耳に顔を寄せた。


「名前さん、あなたはどうやら警察を避けているようですが、どうでしょう、今あなたを警察から匿う代わりに、あなたの秘密を教えていただくという交換条件は」


見上げた彼の顔は変わらず笑顔で、けれど好奇心を煌めかせる双眸はどこか鋭くて。

私は諦めて、体の力を抜くと彼に体を預けた。
そうして呟く。
前に小さな探偵に伝えた、距離感を守るならば、ということを。


「ーーはい、終わりましたよ。彼女が具合が悪くなってしまったので、一番に終わらせていただいたんです」
「ああそうでしたか!失礼いたしました、お気をつけて!」
「どうも」


警察官を軽くいなすと上機嫌に駐車場へと向かい再び歩き出す安室さん。
そんな彼とは対照的に、今度こそ私はため息をついたのだった。



140609