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土曜日、米花博物館でのパーティーの日。
用事があることを快斗に告げようとすると彼も予定があったらしく、私が言うよりも先に、今日は遅くなるから夕飯は大丈夫だという旨をいつもの笑顔で告げると家を出ていった。


そうして私も黒づくめの組織が用意してくれたドレスを着用し招待状を手に取り米花博物館へとやってきた。
会場予定時間の少し前に場所に着けば広い庭園には既に多くの人がいて、ざっと見たところ気品のある物腰の人達ばかり。


「あっ、名前お姉さーん!」


けれどそんな中、子供の無邪気な声で名前を呼ばれて振り返る。
歩美ちゃん、光彦くん、元太くんの三人がそれぞれにおめかしをした恰好で駆け寄ってきた。


「名前さんも来てたんですね!」
「うん、招待状をいただいてね。そういえばみんなも、あの噂の眠りの小五郎さん宛ての招待状で来る予定だったね」
「オウ!灰原と博士も来る予定だったけど、灰原の奴が風邪引いちまってよ」
「おやそう、残念だね…哀ちゃんと阿笠博士のめかしこんだ姿も、きっとみんなのように素敵だったろうに」
「はい、灰原さんはそりゃもう素敵なんですよ!」
「博士は腹出てっけどな」
「それは元太くんもですよ」
「名前お姉さんもとーっても綺麗よ!」


歩美ちゃんに微笑んでお礼を言う。
そうして三人がやってきた方からコナン君や蘭、園子の姿が見えて軽く手を上げる。

と、その後ろにいたちょび髭をたくわえた男性が私と目が合うと何やら興奮したように驚き声を上げると走ってきた。


「おい、お前ら!このお美しい女性はお前らの知り合いか!?」
「そうだよ、名前お姉さんっていうの」


彼は、若干呆気に取られている私の両手を手に取ると咳払いをして白い歯を輝かせる。


「麗しいお嬢さん、はじめまして、毛利小五郎と申します」
「おや…それじゃあ眠りの小五郎って」
「ご存知だったんですね。私があの、毛利小五郎です。ここでお会いしたのも何かの縁…どうです今日のこのパーティー、良かったらご一緒に」
「お父さん近い!」


グイッと顔を近づけてきた毛利さんを私から引き剥がしたのは娘である蘭。
恥ずかしそうに私に謝る蘭に気にしてないことを伝えながら、コナン君と園子の呆れたような表情を見て、日常茶飯事であることを理解する。

そうして探偵、それも有名らしい毛利さんからやんわりと距離を取ればそんな私の手をコナン君が掴んできた。
引かれるままに歩けば前に立つ、色黒の青年。


「はじめまして、安室透といいます」
「名前さん、安室さんは小五郎のおじさんのお弟子さんなんだよ」
「……つまり」
「探偵なんです。まだまだ毛利先生には敵いませんけどね」


ハハハ、と爽やかに笑う安室さんと一緒にカラカラと笑うコナン君。
二人に共通しているのはその理知的な雰囲気。


「名字名前だよ。どうぞ…よろしく」


会場された博物館に人の波が流れていく。
伴って私達一行も歩みを進めながら、ニコニコと楽しそうなコナン君に私は彼の名を小さく呼ぶ。


「そう私に秘密があることを言いふらしてもらっては困るよ。例の組織の中でさえ私のことは機密事項とされているんだから」
「大丈夫、詳しいことは誰にも何も話していないよ。まあ僕が名前さんのことが分からないから気になる、とは言ってるけど」


えへへ、と笑うコナン君は可愛らしいのだが……彼ほど頭の切れる探偵が暴けない人物となれば他の探偵が気になることは容易に予想がつく、そうした計算された行動に、私は人知れずため息をついたのだった。















ーー博物館に入る際に白い手袋を配布され、そうして案内された先は二階の広々とした大広間。
天井がとても高く開放的なその部屋の奥にはステージがあり、両横にはテラスがいくつか設置されている。
入口付近の左右には螺旋階段があり、そこを上ればギャラリーになっていて簡易の机や椅子が置かれていて大広間を一望出来る。


館長の挨拶が終わった後の広間は、展示物に触れ興味深そうに眺める人々や、ウェイターから飲み物をいただき談笑している人々で溢れている。

すると別のお客と話し終えたらしい館長が、毛利さんに気がつくと声を上げてやってきた。


「やあやあ毛利さん、来てくれたんですな」
「もちろんです館長、お招きいただきありがとうございます。こんなガキ共まで」


人の良さそうな館長はにっこりと目尻を下げ笑いながら少年探偵団を見る。


「どうだい君達、退屈じゃないかな」
「うん、博物館ってとっても綺麗!」
「歴史を感じます!」
「なあ、あっちにある刀も触っていいのか?」


元太くんの問いに館長含め一同がそちらを見やる。
部屋の端の方にある机の上には数本の日本刀が並べられている。


「構わないよ。まああれ自体はいつもは保管室で眠ってるレプリカなんだけれど、切れ味は抜群だから気をつけて触るようにね」


はーい!と歩美ちゃん、光彦くん、元太くんの三人は良い子の返事をすると場所が場所なので控えめに、けれど嬉しそうに駆けていった。


「ねえ館長さん。この博物館の中で、まだ解読されていない文書とかってあるの?」


するとコナン君が問うた言葉に、私はぴくりと肩を揺らすと彼を見やる。
コナン君の問いに館長さんは少しだけ考えるように長い顎髭を撫でると、思い返したように声を上げた。


「一つだけならあるよ。先程の刀と同じように、いつもは保管室に眠っているけれどね」
「それも展示されてる?」
「ああ、文字が滲んだり消えたりしている古書らと同じ場所にね。ただその文書だけ比較的新しくて文字も含めて状態は良いのに、解読出来ないんだよ。まったく知らない言語が使われているからね」


お礼を言うコナン君、一礼するとまた別の客の元へと向かっていく館長さん。
それらを視界にうつしながらも確信を得る。
おそらく黒づくめの組織が、私が欲しい知識が記された書物はそれだと。


私を見上げてきながらニコニコと笑うコナン君にため息を吐くように微笑むと、いくらか下にあるその頭を撫でようと手を伸ばした。


「ありがとうコナン君、手間が省けたよ」
「…やっぱり名前さんって、何かの言語の解読者なんだよね?」


その文書を私が読むことが出来るかどうかは確定していないので、コナン君の問いには微笑むだけで曖昧に受け流す。



知識を得ることが目的なこと。
けれど黒づくめの組織の誰かが来る必要はなく私だけで足りること。
等他にも色々な情報を私の言葉や状況から得て彼のその優れた脳内で組み合わせることで、私が解読者であるという可能性にたどり着いたのだろう。


「まあ開場されたばかりでどの展示物の前もお客でいっぱいだから、とりあえず私はブラブラと遠目に見て回ることにするよ」


それじゃあね、と手を上げると有無を言わさずに歩き出す。
大理石の床を自身の高いヒールが進むかたい音が一定の間隔で耳に届く。


ーーまったく……味方としては頼もしいけれど、敵には回したくない存在だね。




「お飲み物はいかがですか?」


すると後ろからウェイターにそう声をかけられて、私は穏やかな微笑みを浮かべると振り返る。


「ありがとう、いただくよ」
「えっ!?」


そうしてウェイターの彼が手にする盆からグラスを取ろうとした時、彼は驚いたように声を上げたのだ。


飲み物を勧めたくせに取ろうとすれば驚くという矛盾を通りこしたよく分からない行動に、思わずこちらも目を丸くしてしまう。
そうして完全に驚きの色に染まっている彼の瞳を見上げて、気づいた。


この彼、私の行動というよりは私という人物そのものに驚いている。
どこかで会ったことが……?
けれど見覚えはないし…記憶力云々以前に、こちらの世界での知り合いは少ないから、関わりを持ったならばきちんと覚えている筈なのだけれど…。


栗色のふわふわとした髪に、そばかすが見える白い肌。
脳内で検索をするも、記憶された人物の誰とも一致はしない。


けれど瞳をじいっと見つめれば、何故だか脳裏によぎる。



「快斗……?」



毎日顔を合わせる、私の恩人の姿が。


すると彼は盆を近くにあったテーブルに置くと私の手を掴み歩き始めた。
逆らうことなく手を引かれたまま、人の波を抜けてたどり着いた場所はテラス。
赤色を含み始めた空と少し肌寒い風が私と彼を迎え入れる。


「…名前さん」
「おや、やっぱり快斗か」


テラスに出て立ち止まった彼はそのまま私に背を向けているから顔は確認出来ないけれど、声が快斗のものに変わった。
すると快斗は掴んでいた手を離すと勢いよく振り返りそのまま私の肩を掴んでくる。


「どうしてここにいるんスか!?このパーティー、かなりの地位やら名声やら持ってないと招待されない筈ですけど」
「少しやることがあってね。それより快斗も、今日は遅くなるっていう用事、ここのパーティーに潜り込むためだったんだね」
「少しやることがありましてね」


疑問をさらりと受け流されたことに拗ねたらしい、快斗は唇を尖らせると私の言葉を真似する。


「ふふ、怪盗キッドに必要な仕事があるんだね」
「…ハァー、まあバレますよね。俺の正体を知ってて、こんな宝が眠ってる場所に潜入してるとなれば」
「そうと知っていたら手伝わせてもらいたかったんだけれどね」
「前にも言ったでしょ?危ないこともあるから名前さんに怪盗の手伝いをさせるわけにはいかないし、それに今日はただの下見ッスからね」


怪盗キッドのお手伝いをすることで少しでも快斗に恩を返したかったのだけれど…今日私がすることは、結果快斗への恩返しにも繋がる、からまあいいか。


微笑むと、手を伸ばして快斗の柔らかい髪を撫でた。


「お仕事頑張ってね、怪盗キッド」


快斗は嬉しそうに笑った。
今は顔は別人のそれだけれど、今見せてくれる笑い方はいつもと変わらず可愛いものだ。

けれど快斗は少し考え込むようにしたかと思えば、私の手を取り甲に口付ける。
若干目を丸くする私に、彼は慣れたようにウインクをした。


「名前さんもお気をつけて。華麗な貴女に見惚れている方達がこの会場にはもう何人もいますから」


相変わらずの気障な台詞回しに笑うと、快斗はブスッと頬を膨らませる。


「おや、お気に召さない態度だった?」
「まあ俺としては、いつもいつも子供扱いしてくる名前さんに一矢報いることがいつか出来ればな、とは思ってますけどね」
「ふふ、ならばその目標は達成されているよ。私の胸は今とても高鳴っているからね」
「…そうは見えないッスけど」
「それじゃあ確かめてみる?」


言うと私は、快斗に取られていた手を自分の胸にあてようと今度は自ら引く。
と、快斗は一瞬で顔を赤く染めると慌てた声をいくつか上げたのでパッと手を離して微笑んだ。


「嘘だよ」


そうして笑えば、快斗はグシャグシャと自分の髪をかき回すのだ。



けれどいつまでもウェイターが仕事を放棄し一人の客とばかり話していたのでは最悪つまみ出されてしまう。
快斗を大広間に戻らせ、一人近い高さにある木の葉が風によって撫で合う音にぼうっと耳を傾けていた、その時。




甲高い悲鳴が、響き渡った。




冷たい大理石の上を一瞬で滑った恐怖の声。
広がる混乱とざわめき。


私もテラスから大広間へと足を向ければ、緊張したような人々の視線は入り口に集中していて。
見やるとそこには武装した十人程の男がいた。


「ここにあるお宝は、全部いただく」


ニヤリと笑うリーダー格のその男。
周りの人が恐る恐るささやき合う言葉を聞くに、最近話題になっている国際的テロリスト、盗賊集団のようだ。

米花町の犯罪率についてが脳裏をよぎったけれど、何度目かのそれを追いやった。




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