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米花町、というらしいこの町の図書館で、この世界について朝から調べていた。
そうして出した結論は、この世界も前の世界と同じように、世界の真理とやらを理解する人はいないこと。
仮にいたとしても図書館にある程度の文献には載っていないということ。

ーー私が前に一度世界をこえた時、渡る先の世界の者と共に世界をこえた。
異世界に渡ることは一人でも出来るけれど、自分の世界に戻る為にはその時存在している世界の者と一緒でなければならない。
そうしてそれは、世界の真理を理解する者であることを必要とする。

つまり私が自分の世界に戻る為には、この世界の真理とやらを理解する者がいない、またはいたとしても限りなく少ない、この世界でその者を見つけ手伝ってもらう必要がある。


分厚い世界の歴史書に目を通し終えた私はそれを閉じる。
すると香った本独特の香りを吸い込み、重たい息を吐いた。


ーーこの世界は比較的穏やかな世界だ。
この図書館までの道すがらでもそれは感じた。
整備された道、近代的な交通手段、科学と自然が立ち並び、図書館への道筋を尋ねれば警戒心は無いに等しく親切。
常時乱闘のようなところに飛ばされ考える時間さえ与えられない、なんて世界よりはずっとマシ、だけれど打つ手も無し。

けれど私をこの世界に送った者の目的は、異世界の技術、知識の持ち帰りだろう。
だとすれば私を好き勝手世界旅行させられるよう世界の真理を理解する者達が多くいる世界に送るはず。
あの巻物がどういったものなのか確かめる術は無いけれど、不完全なものなんだろう。
無数にある世界を自由自在に操れ把握出来る者がいたとすればそれは所謂神に等しいから、当たり前なんだけれど。


開けられた窓から吹いてくる春の陽気を存分に含んだ風に背中を押されるように、椅子から立ち上がり本を戻そうと歩き出す。


世界の真理を理解する者を探す…それにはまずこの世界で生きていかなければならない。
お金については、紙幣は異なりなんと硬貨は同じだった。
どうせなら紙幣が同じ方が良かった…。
それに携帯電話も、前の世界の人達の連絡先は変わらずあるものの繋がらない。
というかそもそも当たり前だけれどこの携帯に対応する電波が無いのでオモチャの携帯と変わらない。
ただ写真は撮れるけれど。
別に嬉しくない。


すると本棚に向かう途中、並ぶいくつもの長机の中の一つに広げられた手製の地図に目が止まり、思わず足も止まった。

長机いっぱいに広がる用紙の右上には「米花町」と色鉛筆で子供の字で書かれていて、その下には帝丹小学校、そしてクラスと何名かの名前が続いている。
ところどころ主要な建物は模型が作られていて見やすく、字の子供らしさとはうって変わって縮尺やらはとても正確さがうかがえた。


ふうん、やっぱりこの米花町ってところ、生活必需とされる大体のものは揃えられているんだな。
整備された住みやすい町。
けれど今の私のような立場の者には、もう少し荒廃していた方が気づかれずに馴染みやすかったな。


「どうしたの?お姉さん」


すると向こうからパタパタと歩いてきたカチューシャをつけた女の子に笑顔で声をかけられた。
後ろからそばかすの男の子や少し太めの男の子、赤みがかったウェーブ状の茶髪の女の子が続いてくる。


「いや…とても見やすい地図だなと思ってね」
「本当ですか?それ、僕達が作ってるんです!」
「おや、そうだったんだ。すまないね勝手に」
「ううん、褒めてもらえてとっても嬉しい!ね、みんな!」
「オウ!姉ちゃん、米花町のこと知らねえのか?」
「つい最近来たばかりでね。だから今日もこうして図書館に来て調べていたんだよ」
「それじゃあ歩美たちがお姉さんに米花町のこと教えてあげる!」


にこりと言った、歩美ちゃん、に首を傾げる。


「いいの?」
「もちろんです!困ってる人を助けるのもまた少年探偵団の役目ですから!」
「それはいいけど、場所を変えなきゃ周りに迷惑よ」
「それじゃあ外行こうぜ!今日は晴れてて気持ちいいし!」















「私、吉田歩美!」
「僕は円谷光彦です!」
「俺は小嶋元太!」
「灰原哀」


図書館の外にある広場、大きな木の下で木漏れ日を浴びながら次々と自己紹介をしてくれる四人に微笑む。


「私は名字名前。歩美ちゃん、光彦くん、元太くん、哀ちゃん。四人はとても優しいね、ありがとう」


お礼をすると哀ちゃん以外の三人が、えへへ、と頬を緩ませる。

その愛らしさに微笑みながらも少しの不安が頭をよぎり、眉を下げ首を傾げた。


「けれどみんな、小学生ってことは子供だよね?恩を仇で返す悪い大人はここらへんにはいないのかな」
「確かに、知らない人に名前を教えたり、着いていったりしたらいけません、って先生に言われてますけど…だからといって、困ってる人を見捨てるわけにはいきませんよ!」
「それに名前さんは悪い人には見えないよ!ね、哀ちゃん」
「まあ人は見た目によらないとも言うけれど…」


そうして哀ちゃんは私をじっと見る。


「そうね、ま、いいんじゃない」


どうやら認めてもらえたらしい私は、歩美ちゃんや光彦くんや元太くんが説明していってくれる米花町のことを、時節頷きながら頭に入れる。


「そしてここが、俺達が通ってる帝丹小学校だぜ!」
「ふむ…君達はこの帝丹小学校の、少年探偵団、というわけだね」
「オウ!本当はもう一人いるんだぜ。作業も進むはずだったのに、今日も他に用があるとかでサボりやがって、コーー」
「仕方ないでしょ、彼には家の用事があったんだから」


元太くんの言葉を遮るようにした哀ちゃんに少しの違和感を覚えながらも、元太くんを見る。


「まあ確かに作業人数が増えれば、仕事量に差はあれどそれだけ仕事も進むからね。ーーけれど君達は時間を支配しているみたいだ。本当に仲が良いんだね」
「時間を支配……」
「時と人の関係は大体、人が時を支配するか、時に人が支配されるかだからね。それに過去はもはや関係がなく未来はまだ来ぬ、だよ」
「??つまり、どういうことだ?」
「つまり僕達は時間を忘れるくらい集中してやっていて、今という時間をめいいっぱい楽しんでる!ってことじゃないですか?」
「ふふ、そうだね」


ふわふわと光彦くんの頭を撫でれば、彼は頬を赤く染め照れたように頭をかく。


「そういえば、そろそろ博士との約束の時間よ」


すると哀ちゃんが言った言葉に、他の三人も続き立ち上がる。


「ごめんね名前さん、私達これから少し用事があって」
「いや、むしろ初対面の私にここまでよくしてくれてありがとう。おかげで米花町のことを勉強出来たよ」
「そう言っていただけると僕達も嬉しいです!」
「また会おうな!今度は何か美味いもんでも食おうぜ!」


元太くんの言葉に微笑みながら、去っていく四人に手を振った。



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