「ナルト」
「なんだってばよ?」
「私ね、もう一つナルトに言うことがあったんだ」
「ああ」
「あのね、私サスケに会うと、逃げたくなるの」
「奇遇だってばよ名前、今だけは俺もーー」
誰が見ても怒っているサスケが一歩踏み出したのを確認した瞬間、私は足に力を入れその場を蹴った。
向かい合っていた私とナルトはお互いがそれぞれに床を蹴ると火影室の机を回り込み、そうしてーー
「同じ気持ちだってばよ!」
窓枠を蹴り、外へと飛び出した。
近くの建物の屋根に着地すると、少し揺れながら電線の上に着地したナルトを見る。
どうしてナルトまで、そう問おうとしたその瞬間、上から音が聞こえ見上げると、私達と同じように火影室を飛び出してきたサスケの姿を捉えて、再び慌てて走り出した。
「名前!」
「何?ナルト」
「大人しく捕まってくれってばよ!」
「えっ、サ、サスケに?」
ナルトは必死な顔で屋根の上やらを駆け抜けながら大きく頷いた。
「俺が捕まったら、そりゃもう悪夢の始まりだけど、名前なら大丈夫だってばよ!」
「わ、私の方がきっと地獄絵図のようになると思うよ…!昨日から理由も言わずに避け続けちゃっているし…!」
「あぁーなるほど、だからサスケってば溜まりに溜まってあんな鬼の形相に。ま、でも名前が理由言えば万事解決だってばよ!」
「け、けれどあなたといると病気になるんです、なんて言われて不快にならない人なんて…!」
「理由をちゃんと説明すれば大丈夫だってばよ!」
ニッと、相変わらずの素敵な笑顔を見せたナルトは、何故だか方向転換をすると私の前に着地した。
サスケから逃げるため屋根やらを伝い走っていた私の足が止められる。
「後は頼むってばよ、名前」
えっと声を上げた私に笑い、ナルトが白煙を立てながら消える。
次いで、誰かが私の肩を後ろから掴んだ。
「チッ、ナルトは逃がしたか…!」
妙に引きつった笑顔のまま、錆びたブリキのようにガタガタと私は振り向いた。
「まあ、アイツは後回しだ。今はとりあえずお前だ、名前」
・
・
・
「ーー経緯を説明しろ」
明らかに苛々としているサスケに見下ろされながら、私は目を泳がせる。
サスケに瞬身で連れられてきた太い木の上で正座をしている私は、あたたかい空気、そして日差しが木漏れ日から降り注ぐ中、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
ちらり、サスケを見上げる。
「あの…サスケ…」
「あの状況になった、経緯を、説明しろ、名前」
「はっ、はひ」
どうにか今の状況を変えられないものかという浅はかな考えは、眉を寄せ私を射抜くように見るサスケによって彼方へ飛んでいった。
可笑しな返事と共に。
経緯、そう言われて脳裏に浮かぶのは、先ほどまでの精神錯乱のナルト。
私はサスケにバッと頭を下げた。
「ごめんサスケ、私、ナルトに病気をうつしてしまったみたいなんだ…!」
「病気って、お前、何か患ってるのか?」
私の肩を掴み体を起こさせるサスケの瞳に染まるのは心配の色。
ああ、本当、なんてサスケは優しいんだろう。
こんなサスケといると体調不良を起こす私、許すまじ…!
「ナルトに相談したら、サスケに、ありのままを話せば良いって…」
「当たり前だ。むしろ、どうしてもっと早く俺に言わなかった」
顔が歪む、サスケを見ていられなくて、目を落とした。
「言えなかったの…」
「…名前?」
「ごめんサスケ、もう私、サスケとは一緒にいられない…!」
「は…そんなに、悪いのかよ…?」
うん、と私は頷きそのまま下を向くと、目をぎゅっとつぶったままかたい口をこじ開けた。
「サスケといると、心臓が、ドキドキするの…!」
「ーー……」
返ってこない返事、反応、当たり前だ。
あなたといると任務に集中出来ないほど心拍数が上昇するのだ、なんて言われて唖然呆然からの怒りに発展しない人なんて…。
けれどもう仕方がない、本当は理由は隠してサスケとの小隊を解散したかったけれど、小隊を解散せず病状が続いてサスケに迷惑かけてしまうことより、今の状況の方がよっぽど良い。
意を決してサスケを見上げる。
「……っ」
「サ、サス、ケ…?」
すると予想に反して、サスケは唖然呆然怒りなどの表情はしておらず、むしろ何故だか頬を赤く染めて口元を手で覆っていた。
落雷のような衝撃が私に走る。
そして私の顔はサスケとは反対にきっと青ざめた。
あ、あああああしまった私のこの症状は、言霊にして相手に伝えることで相手にも感染させてしまう、といものだったんだ…!
いや、そんな病気があるのは初めて知ったけれど…。
「俺の名前は、可愛いってばよ!」
けれどさっきのナルト然り、今のサスケ然り、この病気がうつってしまったことは間違いない!
ナルトは精神錯乱だったけれど、サスケは発熱か…!
「…っ、名前」
「な、に?サスケ」
「それはつまり、その…ど、ういうことだ」
サスケ、話すのも苦しそう…!
病気をうつしてしまったこと、けれどその具体的治療法が分かってないことに、申し訳なさから唇を噛みしめた。
「ごめんサスケ、私にも分からないの…」
「…は?おい今なんて言った」
「ひい!ご、ごめん!私も治療法を見つけようと病院に行ったんだけど、先生からは特に体に異常はないからとりあえずは様子見だって言われて…!」
「ちょっと待て。病院に行ったのか…?」
「う、うん…?」
「っの…ウスラトンカチ」
言うとサスケは、木に背を預けていた私の顔のすぐ横に片手をつきグッと距離を縮めてきた。
「分かってないなら、教えてやる」
サスケが近くて、また症状が起こる。
心臓が、苦しい。
「気づいてないなら、気づかせてやる」
自分も苦しそうなサスケの目が、けれど優しく細められている。
そんなサスケの表情を見ると、また胸が高鳴った。
「名前、お前は」
俺が、と言ったサスケが下を向く。
固唾をのんで様子を見守れば、サスケは私の背中に手をやり引き寄せて、私を抱きしめた。
「好きだ」
140225