微笑む嘘吐き | ナノ
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「……っ、…」


クナイが突き刺さった右腕から生ぬるい血が音も無く腕を走って、肘まで伝うと、地面にぽた、ぽたと落ち始めた。

わざと身を縮こまらせて、反射的かのように腕を顔の前に出した。

首元辺りを狙っていたクナイは、そうして右腕へと突き刺さった。

震える呼吸をしながら腕を少し下ろすと、動転しているらしい月詠が見える。


「名前!大丈夫アルか?!ツッキー何やってるネ!」
「あ、いやわっちは…ついさっき吉原に怪しい奴が居て…同じ所に傷があったから…」


…月詠、かなり動転させてしまったな…。
クナイを避けたら同一人物だと思われるから、わざとらしく振る舞ったなだけれど…やり過ぎたかな、何だか可哀想だ。
ごめんよ、月詠。


私は、まだ焦っているフリをしながら、けれど眉を下げて慌てて右手を触った。


「え、あ、もしかしてこの手の甲の傷?こ、これはさっき猫に引っ掻かれちゃって…」
「…猫…」
「ホ、ホントですよ月詠さん!あ、いや僕がその場に居た訳じゃないんですけど、名前さん、動物によく引っ掻かれるというか…ね?銀さん!」
「…まあ確かにコイツは昔から動物に好かれねーな」


サァーッと。
みるみる内に月詠の顔が青ざめた。


「ほ、本当に申し訳ない!何という勘違いを…!」
「気にしないで下さい。大したことじゃありませんよ」
「いや、クナイまで投げて、傷まで負わせてしまった…!何か詫びを入れさせてくれ!」


というか、自分で仕組んでおいて、更に詫びも入れさせるなんて、それは無い。

クナイを抜いてくれた月詠に、困ったように笑いながら手を横にひらひらと振っていると、銀時にその手を掴まれた。

びくり、肩が少し揺れる。
実は先程から、銀時の様子や視線が気になっていたんだ。


「………………」
「…銀時、何かな」
「………………」


何も言わずに私の右手を眺めてくる銀時に、何か嫌な予感がする。
少し細められたその目を見て、そして、銀時の隣に居る月詠が目に入った。

月詠は完全に落ち込んでしまっていて(私のせいだけれども。悪い事をした)、私の腕を眉を下げながら見ている。
けれど、たまに。
ちらりと、その不安そうな目は銀時に行くのだ。


――…へえ…?


にやっ、と。
思わず上がってしまいそうになる口角を引き締めて、銀時から腕を解いた。
月詠を見る。


「本当に大丈夫だよ、月詠。じゃあ私はもう行くね」
「ま、待ちなんし!何か詫びを…!」
「お気になさらず」


ふらりと笑って、背中を向けて歩き出す。
薄く笑った。


「銀の月、時を詠む、か…」
「銀の月?何アルか?」
「うわっ。か、神楽」
「もう行っちゃうんですか?名前さん。久しぶりに会えたのに…」
「新八も…」


そのまま出口へと向かっていたら、神楽と新八が着いてきていたようで、私はギクリと後ろを向く。


二人と話していたら…、ああほらやっぱり。
月詠も追いかけてくるよ。


「あ!名前姉!」
「――……せ、晴太…」


すると前から声がして、目を輝かせた晴太の姿を見つけた時、私は諦めて「久しぶり…」と眉を下げて笑ったのだった。






110601.