微笑む嘘吐き | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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「おお!名前ちゃん!」
「……もしかして、長谷川さんですか?」
「そうそう!いやぁ、久しぶりだなぁ」
「はい、お久しぶりです」


同僚との飲み会がお開きになって、帰り道。
茶色の甚平を着た男性に声をかけられて、数秒見つめて気がついた。
それは数ヶ月前に入国管理局をクビになってしまった、長谷川泰三さん。

頭を下げると、長谷川さんは徳利を傾ける仕草をした。


「どう?一杯やらない?」
「そうですね…じゃあ、お供させていただきます」
「そうこなくちゃ。大丈夫、タダ酒飲める場所、知ってるからさ」






「――そういえば名前ちゃん、俺が首切られる時に掛け合ってくれたんだってね。なんか悪いな、俺の為に」
「経緯を聞いたら、あの王子が絡んでいるとの話だったので、つい…」
「ああ、あのバカ王子な」
「まあ、憎めないような方なんですがねえ…」


顔を赤くした長谷川さんの徳利に、お酒を注ぐ。

――スナックお登勢。
長谷川さんに連れられて来たこの店は、万事屋銀ちゃんの下に位置していた。
きっと此処が万事屋銀ちゃんの家主なんだろう。

前に新八が、家賃の滞納について話していたことを思い出して、何の気なしに女将だと思われる女性を見た。
テーブル席で、酔っ払ったサラリーマン達の相手をしている。


「まあ幕府を辞めてからは、取り憑かれてんじゃねーかってくらいに仕事が見つからなくてね。たまに見つけたと思えば直ぐに首さ」


長谷川さんに視線を戻す。

ぐでんとカウンターに突っ伏した長谷川さんの背中に手をやり、ぽんぽんとあやすように一定のリズムで叩く。


「大丈夫ですよ」
「名前ちゃん……」
「大丈夫です、長谷川さん。知っていますか?人間というものは土地と深く関係があるのです。郷に入っては郷に従え。…まあこれは少し違いますが…」


「風土」という書物にも書かれているが、人は土地によって性格が違う。
土地、つまり自然。
自然がもたらすものは恵み、はたまた恐怖。
土地によって自然は違う。
自然のもたらすものが違う。
それを受けて、人間は変化する。
受容的になるのか、攻撃的になるのか。


まあ勿論、それが全てな訳ではないけれど。


「地球という青い惑星は、朝が来て、夜が来ます。そしてまた朝が来て、夜が来る。」


時に残酷で、時に優しいそのサイクル。
明日など来ないでと哀願しても、月は沈み太陽は昇る。
けれど辛い出来事があったとしても、太陽は傾き夕日で心を溶かし、月の光で優しく包む。


「傾いて沈んだ太陽も、夜を越えれば、必ず昇ります」



人間というものは土地と深く関係があるのです



「だから大丈夫ですよ、長谷川さん。ハツさんも何時かきっと、戻ってきてくれます」
「っ名前ちゃぁああん!」


するとドン!と音がして、その原因の、テーブルの上に置かれたお酒「鬼嫁」を見る。
そしてそれを置いた人物を見上げた。


「アンタ、いい魂(もん)持ってるじゃないのさ」
「……お登勢さん、ですか?あの、これは…」
「サービスだよ。あとアンタの心意気に免じて今日はタダにしとくよ」
「っ名前ちゃぁああん!」





110322.