微笑む嘘吐き | ナノ
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「#甘甘」のBL小説を読む
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「お母さんお母さん!わたあめ買ってね!」
「ふふ、分かってるわ」
「あとねあとねえ…!」


きんぎょも!と舌足らずに発せられた言葉を耳に留める。
子に手を引かれ小走りに走っていく親子の会話。


わたあめ…金魚…、祭り?
へえ…町では祭りか、行ってみよう。


祭りと言えば私の中で思い浮かぶのは、晋助。
鬼兵隊を率いてい、多数の者から畏怖と尊敬の念を抱かれているあの男だ。



ぴーひゃらぴーひゃら
どんどんどこどん



祭り特有の笛やら太鼓やらの音が聞こえてきた。
人通りが多くなってきた中を歩きながら、看板を見回す。


「………………」


するとわたあめと書かれた旗が靡く屋台の前に、わたあめみたいな髪の毛の奴が居た。


…甘い物あるところに銀時あり、…なんてね。


甘い物がそれほど好きじゃあない私は、銀時の足元に割り箸が何本も転がってるのを見て胸焼けしたような気分になった。

声をかけようかとも迷ったけれど、人の流れに身を任せて先に進んだ。
そうしてぶらぶらと歩いていると少し先のお面屋さんに綺麗な黒い長髪が見えた。


「………………」


人波から一旦抜けて、小太郎の後ろに自然なように立つ。
小太郎は店主と話していて気付かない。


「いやァお兄さん、似合ってるよ!そのお面!」
「む、そうか?」
「ああ!キャプテンみたいだ!」
「キャプテン…?!…キャプテン桂…キャプテンカツーラ…!」
「え?」
「ふははは!親父、買うぞこの面!」
「ま、まいど?!」


――私はまた人波に戻った。
冷めた目をしながらまた歩き始めると、たこ焼きと書かれた屋台を発見。


たこ焼き、食べたいな。


数人並んでいる後ろにつく。
隣の雑貨屋のような屋台で、聞き慣れた声がした。


「おー!まっこと凄かー!」
「ちょ、ちょっとお客さんそれまだ買ってないでしょ!」
「泡がふわふわ飛んでるぜよ!…ほー、しゃぼんだまと言うんか!」
「だから勝手に使うなー!」


――私は人波に以下略。


…もういいや、花火あるらしいし、それだ。


あまり人が居ない所を探して屋台の裏を歩く。

するとちらほらと人が見える中、少し先に晋助が居た。
まだ花火の上がっていない空を眺めていて、口元が微かに緩んでいる。

――私は人波に以下略。
声を出さずに呆れたように笑って、そして振り返り町を出る方向へと歩みを進め始めた。


さて、帰ってたこ焼きでも作ろうか。










「名前ー銀さんが帰ったよー、って何、お前たこ焼き食ってんの?」
「ああ、自分で作ったんだ」
「は、食べてェ。なァ、わたあめと交換」
「私わたあめあんまり好きじゃないんだ」
「は?!名前、お前人間じゃねェぞ。良いか、甘味っつうのはなァ…」
「ふふ、わたあめ食べてなさい」

「ただいま」
「ああ、小太郎、お帰り」
「名前、お前もこれを着けてみるか?」
「…、…何かな」
「キャプテンになれる面だ。…おお、似合ってるぞ名前!キャプテン名前だ!」
「いや何でキャプテン?!馬鹿だろテメー」
「馬鹿じゃない桂だ!」


小太郎が着けてきたキャプテンの面をそのままに、そして銀時と小太郎を放っといて、たこ焼きを食べる。


「お前ら起きとったか!見るぜよ、しゃぼんだま!」
「お帰り、辰馬」
「ただいまぜよ、名前、しゃぼんだま綺麗じゃきー?」
「坂本、部屋が汚れるであろう」
「大丈夫じゃき、心配性じゃなヅラは」
「ヅラじゃない桂だ!…ところでわたあめにしゃぼん玉とは…もしやお前らも祭りに行ってたのか?」


小太郎の言葉に銀時はうげと顔をしかめて辰馬は笑って、私はまた一つたこ焼きを頬張る。
すると微かに静かな足音が聞こえきて、私は軽く笑った。


「そういえば晋助も行っていたみたいだよ」


ぴたり。
銀時と小太郎と辰馬と、そして足音も止まった。


「晋助も夜ご飯の時とか居なかったし、晋助ってお祭り好きだから、多分ね」


まあ夜ご飯は私も居なかったけれど…この四人もその時母屋に居なかったのは分かってるし、嘘だってバレない。


至って普通に話ながらちょいちょいと廊下に見える晋助の着物を指差せば、三人はにやりと笑った。


「アイツ昔はスゲー目ェキラキラさせてたよな」
「そうなんか?わしも見てみたかったきー」
「じゃあ晋助が帰ってきたら目キラキラさせてもらおうよ」
「ぶっ!今の高杉が目をキラキラ…?ぎゃはははは!」
「高杉が目をキラキラか…確かに久しぶりに見てもいいかもしれないな」
「可愛いと思うよ?まあ笑えるけれど」
「じゃあ背景にしゃぼんだまを吹くぜよ!」

「―――…テメェら…」

「あ、高杉くんお帰り、ププッ」
「高杉ー目ぇキラキラさせてくんろー!」
「む、待て。キャメラは何処だったか…」


突然の高杉の登場に驚くでも青ざめるでもなく逆ににやにやと笑った私達を見て晋助は感付いたらしく、青筋を立てた。


「にしても早く居間入ってくれば良かったのによぉ、外に居て花火見てたから冷えたんじゃねェの?」
「銀時…!」


ガッとかみつく晋助、笑いながら対抗する銀時、背景にしゃぼん玉を吹かす辰馬、未だにカメラ(キャメラ?)を探している小太郎。

私は笑って、たこ焼きを食べた。





101107.