微笑む嘘吐き | ナノ
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「げほっ、げほっ」


川の強い流れから必死で手を伸ばして岸を掴んだ。
震える手で体を持ち上げ陸に転がり込む。


「はあっ、は…っ」


――今までで一番と言って良い程に激しかった戦い。

天人の数が異常に多くて、全ての数をいなしきれなく多く斬られた。
天人側が放った大砲の砲弾により私が居た場所一帯の地面が弾け飛ぶのを見た次の瞬間、飛ばされた私の体は川に落ちた。

そして流されて流されて此処まで来たけど、水によって血が余計に流れて頭がクラクラする。


夜か…少し、寝よう…――。


倒れたままの体はどこにも力が入らなくて、瞼は重い。
外界の暗闇から、瞼の裏の暗闇に視界は変わった。






――そして目覚めた次の日から私は川に沿って上流に向かって歩き始めた。


…もう、何日経ったかな。
三回夜が来たところまでは覚えているけど…。


もう足の感覚が無い。
1日目くらいは痛かった記憶がある。
もう体の感覚が無い。
3日…4日…?覚えてないけど何日も水しか口にしていないのにお腹が空かない。


「無事かな…」


銀時、小太郎、晋助。
死んでいたら…嫌だな。
嫌だな、なんて軽いなあ。


――私が戦っていた場所が母屋から離れていたから余計かもしれないけど、数日経ってやっと見慣れた戦地が見えてきた。


「…、……?」


ぞくり、と。
何か嫌な予感がした。

荒れ果てた戦地には天人しか倒れていなかった。
攘夷志士がひとりも居ない。



どくん、どくん



早歩きになる。
夕方の冷たい風が喉に突き刺さる。




「――――……え…」


見えたのは、潰れた母屋。
門は壊され母屋自体は屋根が落ちている。
人の姿は、見えない。



どくん、どくん



「っ、」


壊れた門を越えようと焦げた木片の上を歩くと感覚の無い足が取られて倒れ込んだ。
じんじんと刺激を受けて痛みが襲ってくる。


「ちょっとアンタ、大丈夫かい?!」


すると井戸の方から桶を持ったおばさんが走り寄ってきた。


「傷だらけじゃないか!もう戦争は終わったのに何だってこんな…」



―――――どくん、



「戦争が…終わっ、た…?」
「!知らなかったのかい…。丁度一週間前、江戸城は開城した。…戦争は終わったんだ」


………戦争が…終わった。
いや、違う、私はそんなことどうでもいい。
国なんてどうでもいい。
戦争なんて、どうでもいい。
私は―――


「アンタのお仲間さん達もみぃんな出てっちまったよ。死んだ人達を埋めて、国を変えるだ壊すだ言ってね」




―――出てっ…た。


酷く自分の中の何かが冷めるのが分かった。
さあっと血の気が引いて、頭が異常に冷静になる。


気付いてた筈だ。
分かってた筈だ。
戦争が終わったら、仲間なんて終わる。
分かってる、分かってる…!


「鬼兵隊とか色んな一派に分かれて消えちまったしねえ。長髪の兄ちゃんとかもそうだし…私の店によく来てた白髪の兄ちゃんも一人で消えちまったよ」


でも…一週間、か。
たった一週間で誰も居なくなる。

分かっていた。
分かっていたから、覚悟していた。



「星が綺麗じゃきー!」
「坂本暴れるな、落ちるぞ」
「…あ、お化け!」
「どどどど何処だァア!」
「あはは、嘘だよ」
「ククッ、だらしねえ」
「べべ別に怖がったわけじゃねえよ?ああ、怖いわけあるか!」




覚悟していたんだ。






100114.