微笑む嘘吐き | ナノ
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町に向かう、と皆と別れてから数分経った。
まだ町には着かなくて、林の中を歩いている。

がさり、と木が鳴った。


「…いい加減出てきたらどうかな」


足を止めて、静かに言う。

――何時から居たのかは分からない。
私は気配より、音で相手を認識するから、皆と話している時は聞こえなかった。
でも皆と別れた時、直ぐ傍で木が鳴った。


「気付いていたか…」


天人が一人、頭から血を流し服は所々破れた状態で草むらから姿を現した。


「…いつまで経ってもかかってこないのは、何故?」


嘘をついた私としては、あの時出てこられたらマズイから…まあ願ったり叶ったりだけど。


「こんな美味しい話…他のゲス共に聞かれては敵わんのでな!」
「美味しい話…?」
「惚けるなよ!貴様があやつの求めていた奴であろう!あやつは、セイは何処だ!」


――くすっ、


「帰ったよ」


欲に目が眩んだその瞳を嘲笑って一蹴する。


「それにしてもよく生きてたね。かなり酷い爆発のように見えたけど」
「…出口の方に居て、地に投げ飛ばされたからな。しかしこれで良い!邪魔な者は居なくなった!セイが居ないなら…お前を手に入れるまでだ。お前のその脳、思考…!」


じりじりと近づいてくる天人は目を血走らせている。

静かに刀に手をかける。


「なあ…貴様は理解出来たのであろう…?!いや、理解していたのか?!」
「………………」
「まあどちらでも良い。―教えろ!我に!教えるんだ!理解させろ!世界の」



『世界の真理を』



男の口がそう形作ったのは見えた。
――けど、無音声だった。
紡がれた言葉は空気を震わすことはなく、その言霊は何かによってもぎ取られた。

男の後ろにブラックホールのような漆黒の影が見えたかと思えば、男はそれに吸い込まれた。
影に喰われるように。
―――無音のままに。




「っ、ぁ……!」


自分の喉から、ひきつった声が漏れた。
意図していないのに、短く空気を吸い込んでしまう。


「っ、―――!」


これが…災い――!
真理を理解せぬ者が容易に口にすれば起こる、裁き…!


先程までの、日の差し込む穏やかな林はもう既にある。
たった数秒の出来事など、無かったように。
――ひとりの天人など、最初から居なかったかのように。




――――パキッ…




後方で、木の枝の、鳴る音がした。
踏まれて、折れたような、音がした。



どくん…どくん……!



心臓が鈍く、強く動き、体を震わせ、呼吸を止めた。


後ろに…居る…。
誰か、居る…!


震える手で刀から手を離す。
カチッと刀が鳴った音が耳を突き刺す。
力が入っている足の指をそのままに、歩き出す。
町の方へ。


誰だか分からないけど、話しかけてくれるなよ…!
今…いま上手く嘘をつける自信がない!
言葉を…紡げることすら出来ない!



「貴女が世界を越えたことは、誰にも言ってはいけませんよ」



――言えるわけない……!
死ぬまで、何があったって、嘘を貫き通してやる…!




110113.