微笑む嘘吐き | ナノ
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これで、四回目だ。
私の目の前で誰かがあの闇に消えて、そして私は何も出来ないでいるのは。
両親、松陽先生、天人、そして、ラク。


「俺は、名前さんが生きていることを、愛してます」


「どう、して。私が、消えると、…言っていたのに…!」
「名前、どういうことじゃ、お前が本当は、あの闇に包まれてたっちゅうことか?」
「私が、連れてく…!核を一緒に、連れていく筈だったのに…!」


銀時達が息をのんだのが分かった。
そして銀時達は、もう無い闇を見上げるように空を仰ぐ。


「私が、消えればよかったのに…!違う、私ははやく、死んでおけば良かった…!」
「――!…ンだ、と」
「私が居なければ、こんなことは起きなかった…!核だって、…違う、もっと、もっと昔から、全部…!」


私が居なければ、あの天人は闇に消えることはなかった。
あの日、私が母屋に行かなければ松陽先生は私を護る必要もなくて、生き延びることは出来たはずだ。
あの日…あの日私が、不思議に思ったことを聞かなければ両親は、闇にのまれなかったはずだ…!


「私は、馬鹿だ」


今まで何度、死のうと思ったのかは、分からない。
けれどその度に私は、こわくて、臆病で。
死へと届くあとほんの少しの距離を、跨げなくて。


「お願い、離して…死なせてよ…!」


けれど、本当に、馬鹿だ。
今ようやく私はやっと、死ねる、馬鹿だ、もっと早くに、死ななきゃならなかった。
本当に私は、馬鹿だ。


「私が死のうと生きようと、関係は無い…!違う、私は、死んだほうが良いの…!」
「テメェ、いい加減、黙りやがれ…!!」


すると銀時が拳を振り上げたから、私は反射的に目を閉じ身体をすくめた。
けれど、死ぬのに今さら何を恐がっているんだ、と自分を嘲笑いたくなる。
――そうして、いつまで経っても来ない衝撃に、私はゆっくりと目を開いた。

そこには歯を食い縛り、拳を握りしめ…けれど私に届く前に抑えている銀時の姿があって。


「何、して、」
「勘違い、すんじゃねえぞ、テメェを殴れねえ、わけじゃねえ。ただお前は、俺らを拳で変えたことは、無かったからだ」


銀時はその拳で地面を殴ると、真っ直ぐに私を見た。


「お前はいつも、言葉で俺らを変えたから!ただ、それに乗っかってやるだけだ」


その言葉に私は目を伏せる。


「私は、誰かを変えたことなんてない…いつも、言ってる…私は独りで、自分の為に、生きてきて…」
「そうだと言うならば、俺達だって今、自分の為に、お前が死んでしまおうとしているのを止める」


「彼らが死ぬことになるのは、私が、イヤなんだ」


「俺達はお前が死んでしまうことは、嫌だから」


小太郎の言葉が頭の中をゆっくりと回って、心臓の辺りを緩ませる。


「けれど…けれど、駄目だよ、私には、生きる資格なんて、無…」
「生きる資格?そんなもの、そこに在るだけでクリアしちゅうに」


ゆっくりと見上げると、辰馬は柔らかく笑った。


「そんなもの、名前がそこに在るだけで十分過ぎる程に、満たしてるぜよ」


その辰馬の瞳は、さっきのラクの瞳に、似ていた。
「俺は、名前さんが生きていることを、愛してます」
そしてやっぱり、松陽先生の、最期のときの瞳にも。


「テメェは今、ツレえだろうよ。いつもいつも、理解出来ねえほど綺麗に笑うお前が、泣いてるくらいだ」


晋助の親指が優しく私の頬を撫で、涙をすくい取る。


「けど、それが当たり前だ。生きるってのは、そんなに簡単なことじゃねえ」
「晋、助」
「それにテメェは今まで、何人もの、悩みっつう荷物を、こっちが気付かねえうちに取っていきやがったからな。もうそろそろ、重量オーバーなんだよ」


――けど、と銀時が言う。


「荷物っつうのは、どっちか一方だけが持てば良いモンじゃねえ。荷物っつうのは、持ちつ持たれつだ」
「……」
「顔を上げろ、名前」


銀時の言葉に、少し疑問符を飛ばしながらも、手元に落ちていた視線を上げる。
すると、血の赤から変わって空の青が、目に入った。


「いつもみてえに、背筋を伸ばせ。ちゃんと目ぇ開いて、周りを見ろ。そして肺の奥まで、息を吸いやがれ!」


――突然、目の前が開かれたかのように、視界がクリアになった。
様々な色が視界を彩って、肌には風を感じる。
こもっていた耳に、泣きそうな声で私の名前を呼ぶ声が鮮明に、届いた。

振り向くとそこには、泣いている神楽と新八。
私を真っ直ぐに見ている近藤さん、土方さん、沖田さん。
それに松平さんに、同僚のみんな。

違う方向に顔を回す。

エリザベスや陸奥さん、それに鬼兵隊の人たちが居る。


「お前が今まで取って、背負っていった重くなった荷物は、今度は俺らが、取って、背負ってやる。隣に並んで、一緒にだ」


そして私の一番近くには、銀時、小太郎、辰馬、晋助が、居る。


「だから、死にてえなんて絶対に、言うんじゃねえ!!」


――銀時の言葉に、昔、私が死にたいと…私が死ぬ、と言っていた時のことが、脳裏に浮かぶ。


「だってわたしは、今のあまんとだけじゃない…!父と、母を…消したんだ!」
「せんせいはダメだよ…!――死んじゃダメ…!!」
「死んでもいい人間なんて、居ないんですよ」


私は涙を流し、顔を歪めながらゆっくりとうつむく。


「生きなきゃいけませんよ、名前」


そうして、酷く掠れた、小さな声で、私は…と言う。


「人は生きるために、生まれてきたのですから」


「私は…、ゲホッ、ッぐ!」
「――!おい、名前!」


するといきなり咳き込んで、血を吐いて。

視界が、そして私の名を呼ぶ声を聞く聴覚が、一気に消えた。
まるで、テレビの電源を切るように。





120115