微笑む嘘吐き | ナノ
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「今、遠隔操作で努力してくれている科学班の人達には申しわけないけれど核を起動させるさせないなんて問題は、私にとって、どうでもいいんだ。私がここに来た理由はひとつ」


「核は消します、絶対に」


「私はここに、核を、消しにきた」
「貴女の、能力でですか…私を、媒体にして」


仮面の者の声が震えている。


――例の闇について知っている人達がどこまで詳しいのかは、私には分からない。

けれど今の様子だと、「世界の真理」を理解したものはあの闇にのみ込まれず、聞かされた者などだけが闇にのみ込まれることは、知っているみたいだ。
そして、今の声の震えからして、見たことがあるのか。
一度見ただけで、絶望さえもを吸いとってしまうような、あの闇を。


「大丈夫、心配しないでも君を媒体にはしないよ」
「ならば、どうやって…」
「貴方達の狙いを分かっていて、何も用意してこないわけにもいかないからね…自分を媒体に出来るように、してきたさ」


――数日前、湾で、晋助と会った日のこと。
私は自分を媒体にしてあの闇を出現させることに、一日を費やしていた。
――私が闇にのみ込まれないのは、「世界の真理」を理解する者だから。
それならば頭を空っぽにし…と、まあ理屈は簡単なのだけれど、なかなか上手くいかない。


実際、今日、今も、自分を媒体にして闇を出現させ、核ごと消せるのかどうかは、少し、まだ疑いがある。
けれどまあ、よくあるアレだ…出来るか出来ないか、なんて問題じゃない。
やるしかないんだ。
そしてその為の覚悟なら、もうとっくに、出来ている。


「自分を…媒体に…?」


そこで私は少し眉を寄せた。


君は巻き込まないよ、大丈夫、君はあの闇の中には連れていかない。
ということを伝えたのに、この男、また声が震えた。


少し様子をうかがいながら、私は続ける。


「核のことは、今言った通りに私が消す。そして、私の周りの人達を傷つける云々に関しては、ふふ、これももう大丈夫だ。だって私が消えたならば、もう傷つける必要もない」


貴方達にとって私の周りの人達は、脅しの材料でしかないと、さっき自ら、そう言っていたものね。


「自分を、媒体に…」


するとまた男が、同じ言葉を震える声で言ったから、私は眉を寄せる。


「――吉田松陽の、最期の時のように?」






――仮面の者の言葉に思考が停止し、咀嚼し理解し、けれど納得出来なくて。
何かを言葉にしようとしても、何を口にすればいいのか分からなくて唇が震えるだけ。

これらそれぞれに、いったいどのくらい時間がかかっていたのかは分からない。


「吉田松陽は、今の貴女の言うように消えましたよね?自らを媒体にし、自らを求め狙いに来た天人達を、道連れにして」
「ど、」


渇いた喉に、息が言霊になる前に張りつく。


「ど、うして、貴方が」


無理矢理に伝いさせた声は、酷く傷だらけだった。


「申し遅れました…私は今は天導衆の一角、そして昔は、貴女と同じく、同じ場所で、攘夷の中に身を置いていた者にございます」
「…同じ、場所?」
「ええけれど、その時のことは覚えていてなくても、別にかまいません。攘夷時代の私は、」


そうして仮面を取った男の顔は、確かに私の脳裏で記憶と合致した。
「お、俺その時に医務室に居たんです!名前さんが部屋に入った音はしなかったです!」
彼は確かに、同じ地域で攘夷活動をしていた人だ。


「攘夷時代の俺は、名も、親がつけた忌々しい名…俺の名前は、名前さん…貴女がつけてくれた名前、一つだけです」


攘夷時代、そこまで親しくなかった彼の言葉に心臓が強くなり呼吸を揺らす。


「…昔ね、ある男の子が居たの」
「…男の、子?」
「そう…、万事屋のみんなと最初に会った時の晴太みたいに、つっぱってた…。変に大人びてたのかな…」
「オイラと似てるの?名前は?何て言うの?」


脳内検索をかけるも、私が誰かに名前をつけたことなんて、今の今までで一度しか、ないんだ。


「名前はね、知らないの」
「?どういうこと?」
「その子は自分の名前を嫌っていたから、教えてくれなくてね…。でも、私が勝手に呼んでたのは…――ラク」
「ラク…?」
「そう。いつも無表情だったから、少しは楽しくってことでラク」


「ラク…?」





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