微笑む嘘吐き | ナノ
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用意された船内には、松平さんを含め同僚の人達が大勢乗っていて、あいもかわらず忙しなく動き回っている。
――辰馬は、快臨丸で同じく湾の上空に向かうらしい。

そこまでしなくても、と思ったけれど…最後だから、特に止めはしなかった。

――そして、銀時達のことを船に乗り込む前に土方さんに聞いてみると、船内に突っ込んでおいた、らしく。

それじゃあ武器庫に寄ってから、銀時たちを探しに行こうかと武器庫の重たいドアを開けた瞬間、


「名前!」
「名前さん!」
「名前…!」


武器庫の中に、三人は居た。
鎖で後ろ手に縛られ、三人並んで座らされている。


「やあ、さっきぶりだね、銀時、新八、神楽…それにしても、閉じこめた場所は武器庫、か…鎖を千切られた場合を想定すると、中々大変なことになりそうだ」
「名前、どうしてそんなに笑っていられるアルか!」


神楽の言葉をちゃんと聞きながら、私は、壁に掛けられている銃を手に取り、品定めしていく。


「どうしてそう聞くの?」
「だって、だって名前、殺されちゃうかもしれないアルヨ?」


切羽詰まった神楽の声音と、そしてその言葉に、私は銃を持ったまま少し目を丸くして神楽を振り返る。


「神楽が、そう思うの?」
「私は分かんないヨ!けど、けどさっき、廊下からそう言ってるのが聞こえたアル!」
「…そう、そうか、ふふ、誰だろうねえ、嘘吐きがいる」


笑みを浮かべたまま、私はまた壁に向き直る。


「大丈夫、殺されに行く気は私には毛頭無いよ」


そうして弾が六発入った軽量型の拳銃を手に取り、着物と帯の間におさめた。
――刀は既に、差してある。


「それでも、嫌アルヨ!行かないでヨ、名前!」
「ごめんね神楽、その願いは聞いてあげられないんだ」
「嫌アル!名前に死ぬ気がなくても、危ないネ!」


正しくは死ぬ気がないんじゃなくて、殺される気がない、なんだけれどね…なんてことを思いながら、私は神楽の前に膝をつくとその白い肌に触れた。

すると途端に、神楽の目から流れた透明の、あたたかいものが私の手を濡らす。
指の間を縫う。


「泣かないで、神楽、私は神楽の笑顔が見たい」
「笑えるわけ、ない、アル…!名前は私の、憧れで、大事で、大好きな人ヨ…!」


――独りで生きていこうと決めたのは、いつだったか。
思い当たる出来事が多すぎて、もうよく、分からないな。
けれど、だから、ねえ神楽、私は君の、君の輪の中には入りたくないんだ。
私が居なくなっても、気にせずに、君の輪の中の、大切な人達と先を、歩いていって欲しい。


「泣かないで、神楽」


だから、ねえ、神楽。
私が君の大事な人で、だから私が居なくなることに泣いているのなら…


「泣かないで」


微笑んで神楽の頭を撫でた私は立ち上がり、今度は新八の前に膝をつく。


「名前さん…」
「新八、私は君にね、頼みたいことがあるんだよ」
「頼みたいこと…?」
「うん、――前に吉原で、月詠が私にクナイを投げてきたことがあったよね」


疑問符を浮かべながらも頷く新八の目を見つめる。


「あのとき月詠は、どうして私にクナイを投げたのか、覚えているかな」
「確か、吉原に侵入者がいて、それを名前さんだと勘違いしたから…ですよね?」
「そう、そのことなんだけれど、月詠の勘違いじゃないんだよ」


え?と驚く新八と、特に表情は変えない私。


「侵入者は本当に、私だったんだ、月詠は勘違いなんてしていなかったんだよ」
「え?ええ?」
「秘密裏で行わなければいけない仕事だったんだ…こんな最低な嘘吐きの頼みだけれど、聞いてほしい」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ名前さん」
「月詠に、ごめんね、と言伝てしといてくれないかな」


新八が目を見開いて、固まった。
一度何かを口にしようとして、けれど震えて歯が鳴った。


「なんで、僕なんですか」
「新八は律義だからねえ」
「そうじゃなくて…!どうして、自分で言わないんですか!名前さん!」


それはね新八、もう私は月詠には会えない。
ごめんねと謝ることは、出来ないからなんだよ――と暗に真実を伝えればいいのか。
それとも、気まずいんだ、頼むよ…なんて、いつものように嘘をつけばいいのか。

少し悩んでいるうちに新八は何を悟ったのか、また震えて歯を鳴らすと、少しうつむいて首を横に振る。


「イヤです、僕は、言伝てなんかしません!名前さんが自分で言ってください!」


歯を食いしばる新八の頬を、さきの神楽と同じように涙が伝う。

私は少し苦笑いのように微笑むと新八の頬を撫で――そうして銀時の前に膝をついた。
厳しい顔で睨んできているような銀時の両頬を引っ張る。


「何しやがんだテメッ」
「ふふ、最近銀時の…というか誰かかれかの険しい顔しか見ていないからね。笑った顔が見たくなったんだよ」


しかし頑固だ、と。
変わらない、というかむしろ更に険しくなってしまった銀時の顔からパッと私は手を離す。

銀時は変わらずに私を睨むように見ながら、後ろ手の鎖を鳴らしている。


「――ごめんね」


――けれどそれも、私が銀時の首に手を回し抱きつくと、ピタリと止まった。


「ありがとう」


私は微笑んで、そうして銀時から離れる。
少しとまりそうになる足を動かして、部屋を出ていった。





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